三十七話 「なんだこいつら怖」
「うわ、何その馬鹿デカイ種」
「球根だよ」
「どちらにしてもデカくない!?」
アズモと二人で考えたが、キンディノスフラワーの球根はディスティアの授業に持っていく事にした。
俺達よりも圧倒的に強いキンディノスフラワー。
あの化け花の姿で召喚なんて出来たら制御出来る自信はない、だが確実に戦力になる。
ディスティアは、内通者も何も気にせずに学園生活を楽しめと言っていた。
もう、内通者が誰で、誰に気を付けて命を守れば良いのか考えるのは極力止める。
止めるし、ディスティアやパーフェクト先生の事も信用している。
信用しているが、俺を元に巻き起こっている事に変わりは無い。
せめて俺達は強くなりたい。
内通者は俺達と同じ学年にいるだろうと親父が言っていた。
俺達がこの学年で一番強くなれば、エクセレはともかく内通者にやられる事は無い。
この球根から、鬼が出るか蛇が出るか……。
何が出ても、使いこなしてみせる。
「でも、どうして持ってきたの?」
ブラリが引き続き話しかけてくる。
毎朝の恒例だ。
ブラリは先生が来るまでずっとペラペラ喋り続ける。
「それパパが持っていたやつよね?」
話していると、ラフティリが混ざって来る。
これもいつものだ。
「よく分からないけど、良い素材になりそうだねえ」
「良いキノコが生えてきそう!」
最近はそこにムニミィメムリと、マニタリも混ざって来るようになった。
二人共目がガチで怖かった。
「やめてくれよ……? これは今日の召喚術の授業で使うんだから」
「えっ、まだ初回だし下級精霊の召喚って聞いていたのに、そんな面白そうな事を! 僕も寮から何か持ってこよ!」
「あたしも何か持って来る!」
ブラリが凄い勢いでベランダから出て行き、ラフティリも飛んで行く。
あいつ等は一限に間に合う気があるのだろうか。
「やはりここはゴーレムね……。ゴーレムを召喚するために必要そうな材料は……。あれとこれどちらがより良いの? 混ぜればいける……?」
「良かった菌糸をいつも持ち歩いていてー、さーてどの子にしようかな」
ブツブツ喋りながら考えに没頭するムニミィメムリと、机の中を漁るマニタリ。
ムニミーはまだしも、どうしてマニタリは机の中を漁っているんだ。
—————
「なんだこいつら。揃いも揃って目をキラキラさせながら、手になんか持ってやがる怖」
ディスティアはドン引きしていた。
「ディスティア先生ずるいよ!」
「何がずるい」
「アズモちゃんから聞きましたよ、何か面白い事するんだよね?」
「つー……まぁ、そんなデカイのを持っていたらバレるか。しょうがないけど、他のクラスには秘密な」
ブラリの発言に同調して「ずるーい」と言っていた一同だったが、ディスティアが折れると口々に「やったー!」とはしゃぎ出した。
「まぁ、とは言え。あのジジイに厳しく言われたから普通に授業をする必要があるし、その後な。取り敢えず今日中に全員下級精霊を召喚出来るようになってもらうぞ」
下級精霊。
授業で習った情報によると、名前からも分かるが精霊の一種だ。
精霊は下級、中級、上級、神話級といった具合に分類分けされる。
ほとんどが中級以下で、上級は少ししかおらず、神話級に至っては現在分かっている限りでは両手で数えられる程度しか居ない。
上級までは分かるが、そこからかなりぶっ飛んだ神話級はちょっと名前が強すぎると思う。
だが授業の一環で、有名な神話を読んだ事があるが、明らかに「これ親父だよな……」と感じる竜があった。
神話は案外近くに転がっているのかもしれない。
「そうだな。このクラスで一番魔法が上手そうなの……マニタリ、ちょっと前に来い」
「ふぉー、僕か! やっぱり分かっちゃうよね! いやー、照れますね!」
「早く行けキノコ」
「うるさーい! いいじゃんちょっとくらい、アズモちゃんのアホー!」
勿論さっき野次を飛ばしたのは俺の意思ではない。
俺の憑依先こと、アズモだ。
こいつ、コミュニケーションを俺に任せっ切りの癖に、多方面に喧嘩をよく売るんだよな。
ニヤニヤしながらこっちを見るディスティアに手招きされ、
マニタリが前に出て行った。
「じゃあ、私が言うのを真似して詠唱しろ。火の下級精霊を呼ぶ呪文だ」
「ほいな」
「ノおヨホフロガ、サしびゆトヒディクティス、るえペルノ、ンがうぼエフヒエル」
召喚術ってこんなに意味の分からない言葉を羅列するのか……。
これは使うのが難しそうだ。
いくら魔法が上手いからってマニタリもこれは一発で言えなくないか?
「ノおヨホフロガ、サしびゆトヒディクティス、るえペルノ、ンがうぼエフヒエル」
言えるのかよ。
マニタリの指辺りに赤くユラユラした物が現れる。
「なんか出たー! ちょっとあったかい! ディスティア先生これって!」
「あぁ、それが炎の下級精霊だ。下級精霊は馬鹿だから出来る事が少ないが、ちょっとした事なら聞いてくれる。試しに炎を飛ばせって言ってみな」
「えーっと、炎を出してくださーい!」
マニタリがそう言うと赤くユラユラした物から火球が発される。
下級は20m程飛ぶと、消滅する。
「ほう。初めてでこの距離は才能だな」
「ありがとうございます! いやー、精霊にも分かっちゃうんだよね、僕の他の人とは違うって感じがね!」
「ほうほう、そうかもしれんな。もう戻っていいぞ」
「はーい」
俺達の元に戻ってきたマニタリはこれでもかと、ドヤ顔をする。
マニタリは俺の隣に座り膝を小突く、「どんなもんだい」と言ってきた。
『なんだこいつ、生意気なやつだな』
お前だよ。
申し訳なさそうな顔で「ごめんね」と言うと、マニタリは「むふー」と機嫌を直した。
「見ていて分かっただろうが、下級精霊程度なら簡単に呼べる。呪文も意味のある言葉の組み合わせで使いやすそうだったろ」
あれが、意味のある言葉だったのか!?
最初から最後まで何を言っているのか分からなかったが?
「ただ、精霊は生意気にも感情を持っていてな、嫌われてしまうと呼んでも出てこなくなる。私とかは中級以下の精霊は呼べん。扱いには注意だな。まぁ、やり方も分かっただろうし、全員やってみろ」
なんでこの人、召喚術の授業を任せられているんだろうか。
そりゃ明らかに馬鹿にした言葉連発していたもんな、嫌われて当たり前な気がする。
周りの子達は皆立ち上がり、さっきの呪文を唱える。
成功した子達の指には赤い物が漂っていた。
失敗した子も何度か唱えると苦も無く成功させていた。
『コウジ、私の勘が正しかったら嫌な予感がする』
奇遇だな……俺もだ。
『召喚術なら魔法の時とは違くなると思っていたが』
いや、待て決めつけるのはまだ早い。
「マニタリ先生、ちょっと呪文をゆっくり唱えて見せてください!」
マニタリに頼み込んだ。
さっきアズモが煽っていたが、そんなのを気にしている場合では無い。
「しょうがないねえー。じゃあ僕の言葉に続いてね」
「はい!」
「ノおヨホフロガ」
「ノおヨホフロガ」
「違うよ、ノおヨホフロガ」
「の、ノおヨホフロガ!」
「だから違うってー!」
勘は当たってしまったようだ。
未だに親父の作ってくれた翻訳機に甘えて生きて来た弊害。
どういう原理なのかは分からないが、呪文は翻訳が難しいらしく、聞こえる言葉も発する言葉もトチ狂った翻訳に直されて出力される。
魔法を習っていた時と全く同じ現象だった。
こうなった時の対処法は一つしかない。
ひたすら祈りながらパワープレイだ。
「炎! 炎! 炎! 指! 指! お願いします!」
祈りが通じたのか指元にユラユラした物が現れる。
しかし、皆の精霊と比べて大きく色も緑色で違う。
「ほー、これは見事だな。風の中級精霊じゃないか」
「負けたぁー!」
面白がって近づいて来ていたディスティアがそう評価する。
マニタリは悔しそうに地団駄を踏み出した。
「……いや、なんでだよ!」
風の中級精霊には命令を与えるのにも失敗し、
ディスティアの元に飛んで行った。
ディスティア「中級如きが調子に乗るなよ!」
と、グーパンで散らされたらしい。
すみません、大遅刻しました…。
ここから頑張って夜遅い時間には次話を投稿します。
ブックマークや評価で書く速度が上がります。
よろしくお願いします。




