三十五話 何か悪い事したっけ?
「い、一体何が起こったのでしょう!? 巨大なキノコが生えたかと思えば、その後すぐ決着! 私には理解が出来ないです!!!」
「落ち着いて、クラーマーファちゃん! 最初からカメラ映像を確認して確かめようか!」
「あ、はい! 映像部の方ー、最初からのリプレイお願いします!」
修練場の中央、フィールドの真上にある四方全てをカバーするメインモニター、そこに映し出される試合映像。
十五組と十四組が団子になっている所が二画面で出て来る。
「ストップ! その瞬間で、十五組だけを映そうか! ブラリくんに寄せてリプレイだ!」
パーフェクトが言った通りに十五組だけが映され、ブラリがアップで出る。
「ブラリくんにイカした角が生えているだろう」
「ほ、ほんとですね! よく見ると、閉じる前に一瞬だけ見えた目が赤くなっています!」
「魔物化して何かしらの能力を使っているのだろうね。マニタリちゃんに指示を出して、直後に十四組の足元からキノコが生えて来たのを見るに、感知能力だろうか」
「か、感知能力……。授業で対象の位置を知る魔法を三年生の頃に習いましたが、精度と速さが尋常じゃないですね……。それを一年生のこの時期でやるとは、流石魔王様の息子」
「うんうん、次は空中戦の所を映そうか。今度は十四組の皆を映そう」
映像が切り替わり、十四組が突如生えたキノコにより持ち上げられる所が映される。
「何度見ても大きなキノコですね! これは、マニタリさんの魔法でしょうか!?」
「恐らく。まだ授業で教えていないのに、立派な魔法だ」
「十五組、魔王の娘と竜王の系譜の子達だけかと思ったら、思わぬ逸材ですね……」
「十五組の子達は皆優秀さ!」
「そう言えば、パーフェクト先生の担当は十五組でしたねー!」
「その通り、十五組に一番詳しいから解説に呼ばれたのさ」
「まだ赴任してから休日を含めても、六日ですよね!?」
「時間など関係ないさ。お、ほら、ここでアズモちゃんとラフティーちゃんが飛び始めたね」
「あ、本当ですね! 学園最新のカメラを使っているのにブレているのですが、速すぎませんか!? 竜王の子達ってやっぱり凄いですね!」
「ふふ、あれはあの子達だからだよ。血の滲むような努力をしてきたのだろう。私の頃は……っと、空中戦は本当に一瞬だからスローにした方が良いだろうね」
「あ、ですね! 映像部の方お願いします!」
スローで映し出される映像劇。
打ち上げられた十四組を待ち構えるように迎えたアズモとラフティリ。
「ここからだ。まずは、アズモちゃんが奥の子に飛んでいく」
「この時何故アズモさんは、近くの子ではなく奥の子の所に飛んでいるのでしょうかね」
「かち上げられて動揺している子の中で、この子だけ口で何かを紡いでいるからね。それに気付いて奥の子を最初に狙った」
「なるほど! そこに向かっている途中で近くにいた他の子を巻き込んで脱落させているのは流石としか言えませんね」
「最高速で飛んでいるだろうに、腕の振りで一人落としているのは凄いとしか言いようがない。二つの事を最大のパフォーマンスで同時にやっている。素晴らしいよ、アズモちゃんは」
「あ、ここでラフティリさんが二人固まっている所を魔物化した腕をクロスさせて纏めて薙ぎ払っていますね」
「残念ながら、威力が足りなくて一人討ち漏らしちゃっているけどね。それでも十分な働きさ」
「そしてアズモさんが、キックで一人貫いて、振り向き様にブレスでラフティリさんが倒しきれなかった最後の一人を撃ち抜いて試合終了! いやー、お見事ですね!」
「実況解説もここで幕を閉じますが、パーフェクト先生! 最後に総評をお願いします!」
「とりあえず、両クラスともお疲れ様です。試合内容は、十五組の圧倒でしたね。十四組もやりたい事や作戦があったかもしれませんが、今回は十五組が全て抑えて完封。ただ、打ち上げられた後に諦めなかった子は個人的に評価したいです」
「十五組ですが、索敵をしたブラリ君、度肝を抜く魔法を使ったマニタリちゃん、空中戦を制したアズモちゃんにラフティーちゃん。皆十分活躍していましたが、敢えてMVPをあげるとすると、ブラリ君ですね」
「それは何故でしょうか?」
「今回の十五組の行動、その全てを指示したのがブラリ君ですからね。各々の活躍はありましたが、一番は今回の作戦を組んだブラリ君ですね」
「なるほど、流石時期魔王候補! さて、ここでクラス対抗戦は終わりになります! ありがとうございました!」
—————
「ブラリがニヤニヤしていて気持ち悪いわ」
討ち漏らしじゃない。と、抗議していたラフティリが、パーフェクト先生のまとめを聞いてずっとニヤニヤしているブラリの事を俺に言って来る。
「まあまあ、全部ブラリの言った通りになったわけだし」
「あたしなんて、全生徒にやらかしている所を見られたっていうのに……」
「でも、ラフティーちゃんの一撃すっごいかっこよかったよ!」
「ふふん、まあね!」
ちょろ。
ちょっと項垂れたラフティリだったが、マニタリの励ましで直ぐに機嫌が直った。
「酷いなあラフティーちゃんは。次の対抗戦も僕の華麗な作戦で勝たせてあげるから許してよ」
「いーや! 次はあたしが作戦を考えるわ!」
「ラフティーちゃんに出来るのかなあ」
「むぃぃぃぃー! 出来るわよ!!」
「はいはーい、試合も終わったしさっさと帰った帰った!」
ラフティリがブラリに絡み出したが、控室に入ってきた先生に帰宅を促され渋々帰る。
「あー、そうだ。アズモさんは新任の誰だっけな……そうだ、ディスティア先生が呼んでいたからこの後、指導室に向かってね」
「……? 悪い、呼ばれちゃったから先に皆は帰っていてくれ」
皆と「じゃあねー」と言い別れる。
指導室か……俺、何か悪い事したっけ?
『授業中にブラリと喋り過ぎだ』
それは俺悪くないから。
話しかけてくるあいつの方が悪い……はずだ。
『ブラリと喋るなら私と喋っていた方が怒られずに済む』
授業ちゃんと受けるのが怒られずに済む、一番良い方法だけどな。
指導室に向かいながら、アズモと何で呼ばれたのか予想をする。
話していると直ぐに、指導室に着いた。
ドアをノックすると「入れ」と聞こえたので入室する。
「失礼します。一年十五組のアズモです」
長方形のテーブルの向こう側に座っていた先生が椅子を回転させこちらを見る。
上下黒のスーツに身を包んだ先生は、足を大きく広げ煙草みたいな物をふかしながら構えていた。
大きな丸眼鏡をかけ、黒に青が混ざった髪を無造作に背中まで伸ばし、眼鏡の奥の細い切れ長な目で睨んでくる少し怖い雰囲気のある女の先生だった。
「来たか。私の名前はディスティア・ネスティマス。お前の……アズモの姉だ」
「単刀直入にいく、エクセレの事でお前達に聞きたい事がある。嘘を吐いたら殺す」
ブラリ「パーフェクト先生、公の場だと大人しくなるんだなー」
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次話は夕方に、次次話は夜にあがります。
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