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三十二話 「大型トラクターに追突された」


「アズモちゃんその傷どうしたの!?」

「大型トラクターに追突された」

「何言ってんだい!? あと見てよ、机豪華な物になっているし、教室がかなり綺麗になっているんだよね! それに、鼻息荒くして「あの女は絶対に殺す……」って呪詛のように繰り返しているラフティーちゃん! あの日僕達が帰った後何があったの!?」


 何故か豪華になっていた教室のドアを開けると、ブラリに捕まって捲し立てられる。


あの日、親父に翌日から学校に行けるとは言われたものの、

身体が痛くて登校出来なかった。

 そのまま週末に入り二日休み、俺の居た世界でいう月曜日になった。


 三日間ずっと考えていた。

 エクセレがまた現れたらどうなるのかを。


 今回は奇跡的に生きている。

 しかし、怪我は酷く、あと少しで殺されていた事は間違いない。

 それに、代わりに戦ってくれたフィドロクア兄さんが未だに目を覚まさない。


 次はもう無いものだと考えて良いだろう。

 エクセレは俺がこの身体に憑依している事をひたすら憎悪していた。


 ならば次、そのような事態が起きないためにはどうするべきか。

 それは、俺がこのアズモの身体から出ていく事だ。


『だから、それは違うと言っただろ!』


 アズモは暫く気付かなかったが、二日目の夜に目を覚ました。

 その時からずっと俺の考えを否定してくる。


『コウジが出ていく必要は無い。それに、出ていくと言っているが、何か術はあるのか?』


 それは、無いけども……。


『無いなら、強くなるしかないだろう。あの女がまた来てもやられないくらい強くなれば良い』


 それは、どうやってだよ。

 フィドロクア兄さんですら敵わない相手にどうやって立ち向かえば良いんだ。


『解放とか異形化が出来るようになれば……』


 解放を使えるフィドロクア兄さんはやられた。

 異形化はアズモが前に嫌って言っていたじゃないか。


『それは、そうだが……。でも嫌とは言っていられない。早急に強くなる必要がある』


 エクセレに勝てるくらい強くなるのは不可能だろ……。

それなら、俺がこの身体から出る方法を模索した方が早い。


『だからそれは……』


「あともう一つやばいんだよね! というかこれが一番凄いよ!」


 アズモと口論していると、ブラリがまた何かを語り出した。

 アズモとの会話から逃げるように俺はブラリと喋り出す。


「やばいって何がだよ?」

「このクラスに副担任が付いたんだけどね、その教師がもうやばい」

「……?」

「まあ見た方が早いよ。というか僕の語彙力じゃ説明出来る気がしないんだ」


 そう言いながらも、尚語るブラリの話を聞き流しながら席に着く。

 隣の席ではラフティリが呪詛を垂れ流していた。


 ブラリの話に相槌を打つ事数分。

 教室の扉が勢いよくガラリと開かれた。


「——やあ、みんなおはよう! 今日もいい天気だねえ! 今日も引き続き、急病で来られないアスミ先生の代わりに私が教鞭を執るよ!」


 その言葉と共に現れたのは全身真っ白で身を包んだ、長身の男だった。

 上下白のタキシードで、白い蝶ネクタイ、どこで売っているのか思わず聞きたくなる白い奇抜な眼鏡、綺麗な白色のマッシュヘア。


 一言で表すなら……。


「不審者……?」


 思わず漏れ出た俺の言葉が聞こえたのか、ブラリは後ろに振り返って良い笑顔をしながらサムズアップした。


「おや! おやおや! 今日はアズモ……くんちゃん!? 君は女の子だと思っていたけど男の子だったのかい!? スカートでなく私と同じパンツスタイルなんて! って、パンツスタイルなだけか! 今時、恰好で人を判断するなんてナンセンスだ!」

「お、あ、はい……」


 俺達は「スカートを履きたくない」って俺の意見が少し通り、パンツとスカートを交互に履いて登校していた。

 悪い人ではないんだろうなあ……。


「そして自己紹介がまだだったな! 私の名前はパーフェクト、パーフェクト・カンペキさ! 気軽にパーフェクトと呼んでくれたまえ!」

「……すみません、よく聞き取れなかったので、もう一度お願いします」


 耳から親父お手製の翻訳機を取る。


「——パーフェクト、パーフェクト・カンペキ! ——パーフェクト、呼ぶ——」


 これ、日本語だな……。

 いや、厳密には日本語では無いけれども。



 見た目も言動もかなり怪しいが、教師としての腕は確かだった。

 授業がとても分かりやすい。


 まだ俺達は一年生の最初という事もあり、公用語の勉強をしている。

 他には、簡単な四則演算に、この国の歴史、体育や、生活していく上で必要な知識、人間との関わり方。

 それと魔法の基礎。


 様々な事をこの学園で勉強している。

 そしてこの男は教えるのがかなり上手い。


 どうしてそんなふざけたキャラなのに、上手いんだろうか。

 アスミ先生の時は「つまんなーい」とか言って頻繁に授業を抜け出したり、授業中だというのに俺と会話をしてきたりしていたブラリが目を輝かせながら真面目に授業を受けていた。


 しかし、それは一旦置いといて、俺はパーフェクト先生に聞きたい事がある。

 勿論名前の事だ。


 パーフェクト・カンペキ。

 この世界の生徒達は疑問に思わなかったかもしれないが、俺は違う。

 その名前を聞いて「えっ?」ってならない日本人は居ないだろう。


 まず確実に、偽名だろう。

 本当の名前を隠している理由は一体なんだろうか。


 親父が「俺達の兄が来る」と言っていた。

 竜王家だとバレたら不味いからその名前にした?

 それとも、親父の言っていた内通者の一人で、こちらを挑発するためにあからさまな行動を取っているのか?


 分からない。

 とりあえず、聞いてみない事には。


「パーフェク——」

「——パーフェクト先生! この後少しお時間ありますか!」

「あるともさ!」


 意を決して話しかけるが、ことごとくブラリに取られる。

 

「アズモ、あたしとチームを組むわよ!」


 そして、ラフティリが何度も話しかけてくる。


「だから組まないって」


 ブラリに懐かれたパーフェクト先生と、ラフティリに何度も勧誘される俺。

 パーフェクト先生と話す時間が取れずにいた。


「ううん、アズモはあたしと組むの。明後日から始まるクラス対抗戦、あたしとアズモで無双するの」

「なんでだよ」

「あたしはあの日、何も出来なくて悔しかった。アズモは違うの?」

「俺は……悔しさなんて微塵も抱かなかったよ。ただ圧倒的な絶望だけ」

「じゃああたしが悔しかったから、それに付き合ってよ!」


 俺は頭を抱える。

 クラス対抗戦、面白そうではある。

 だが、俺には遊んでいられる時間が無い。


 早くこの身体から出る術を見つけなければ、今度こそ殺されてしまう。

 誰かを巻き込むかもしれない、アズモが無事でいられる保証もない。

 俺には時間が無い。


『私は出るべきだと思う。クラス対抗戦、相手はみな入試成績が私達より高いエリートしか居ない。強者と戦うのは良い研鑽になる』


 アズモもクラス対抗戦に乗り気だった。


 そんなに出たいのなら、俺の代わりに発言するんだな。


『むぅ……』


「ラフティー……何度も言うが俺は出ないぞ」

「出るったら出るのー!!」


 ラフティリは癇癪を起こす。

 このまま床でブレイクダンスをしだしても違和感はない。


「お困りのようだね、お二人さん」


 そこに、さっきまでパーフェクト先生と楽しそうに話していたブラリが来た。


「無駄な言い争いはやめなよ、お二人さん」

「無駄って何よ!」

「無駄さ。だってさっきパーフェクト先生に、クラス対抗戦出場者名簿に、僕とラフティー、アズモの名前を書いて提出したからね」

「「……!?」」


「やるじゃない、ブラリ!」

「な、何してんだお前ー!」


 俺は掴みかかる勢いでブラリに飛び込むが、ブラリはそれをひょいと躱す。


「あっはっは。僕がただパーフェクト先生と雑談をしていると思ったら大間違いだよ。さ、じゃあこれから作戦でも練ろうか」


 クラス対抗戦に出場する事が決まった。



パーフェクト先生の発音は、ネイティブもびっくりするレベルに上手い。



そして次回からクラス対抗戦編ですね。

かなり面白くなるので期待してください。


ブックマークや評価で書く速度が上がります。

次話は明日の8時にあげます。


よろしくお願いします。

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