三十一話 「内通者がいる」
「っ……!」
目を開けると白い清潔な天井だった。
寝ていた?
俺は生きているのか、死んだのか?
身体を動かそうとする。
全身に痛みが走った気がした。
「ここは保健室だ。まだ安静にしていろ」
この声は親父か……?
声のした方向を見たら親父が居た。
ギニス・ネスティマス。
俺達の父親で、顔が厳つくて竜王の親父。
「すまなかった……」
「……?」
親父は珍しく覇気の無い言葉を発した。
親父が何故謝るのか分からなかった。
「今こうして俺達が生きているっていう事は、親父が助けてくれたって事だろ」
「どこから話したものか……アズモはもう気付いたか」
「確認してみる」
アズモ、親父が来た。
起きろ。
『…………』
「……駄目みたいだ」
「そうか。なら、アズモが起きたらこれから我が話す事を共有してくれ」
「分かった」
親父はぽつりぽつりと話し出した。
俺は相槌を打ちながら聞く。
「まず、あの後何が起こったのかを話そう……」
あの後、俺が死を覚悟して目を瞑った後、フィドロクア兄さんが来た。
フィドロクア兄さんは、アズモの言ったようにエクセレが襲来したのに気付いていたらしい。
自分が行っても、勝てるどころか死ぬ事を理解しているフィドロクア兄さんは親父や長男達に連絡をして待機。
ラフティリが檻に囚われたり、俺達がボコボコにされたりするのを歯痒い思いをしながら見ていた。
ひたすら親父達が早く来ることを祈って。
だが、俺達がいよいよ不味いというのを見てしまい、我慢出来なくなり突入。
俺達の間に入り、エクセレに応戦した。
エクセレは、俺達を……俺を守る行動を取るフィドロクア兄さんに大激怒。
フィドロクア兄さんは健闘空しく、一方的にエクセレにやられた。
親父が到着した時には地獄絵図のようだった。
黒板を背にして倒れるアスミ先生、血だらけで動かない俺達、ボロ雑巾のようにされ転がるフィドロクア兄さん、ひたすら檻の中で泣き叫ぶラフティリ、教室の隅で固まって震える逃げ遅れた生徒達。
エクセレは親父が来たのに気付くと、少し喋った後に帰ったようだが教室は酷い有様だった。
「フィドロクア兄さんは無事なの……?」
目を閉じる一瞬、確かに映った泡。
あれはフィドロクア兄さんだったんだ。
フィドロクア兄さんのお陰で俺達は死なずに済んだ。
早く礼を言いたい。が、親父は首を横に振った。
「生きてはいる。あいつの身体はもうほぼ水で構成されているからな。上質な水に浸けておけばその内治る」
「じゃあ……」
「だが、フィドロクアは身体を損傷し過ぎた……。暫くは目を覚まさないだろう」
「そんな……。俺のせいだ……」
「コウジのせいではない」
低く身体に響く声だった。
さっきまで消沈した感じでぽつぽつ喋っていた親父が、俺の事をジッと見つめそう言った。
「入学式の日、フィドロクアから連絡があった。エクセレを学園で見たというものだった」
「……っ!」
俺は息を呑む。
「ずっと暴走を繰り返し、消息の分からなかったエクセレが異形化もせずにこの学園に現れたと聞き、何かこの学園に目的があるのだと分かった」
「聞いた日から、どうにかエクセレを捉えようと我達は早急に対策を練った。だが間に合わなかった」
「だから、お前は悪くない。間に合わなかった我に非がある。だから、自分を責めるな、コウジ」
親父は事のあらましを教えてくれた。
人間の俺が悪くないと、そう言ってくれているのだろう。
「重要な事を言う。起きたらアズモにも言え」
親父は俺に反論する時間も与えずにまくしたてる。
衝撃の事実を。
「この学園に、エクセレと通じている者。内通者が少なくとも一人はいる」
口が空き、塞がらなかった。
「フィドロクアから聞いた背丈や時期を見るに、内通者はお前達と同じ新入生だ」
俺達の学年に内通者が……?
そいつが悪意を持って俺達を危険に晒した?
事実が重すぎて、考えが纏まらない。
「幸い、事態が起こった時、フィドロクアが手を回し、周辺の教室から生徒はみな避難していた。事件を知っているのは教師、十五組の数人の生徒のみとなる」
「教室はもう直してある。明日からも普通に学校に行ける。内通者には注意しろ」
「事態が重すぎて、頭が追い付かないよ……」
「すまない。我はこれから会議に赴く必要がある」
「安心してくれ。明日からはお前たちの兄が来る。そいつがこの学園にいればまずお前たちに危害は及ばない」
「……」
「自暴自棄になるなよ。我達が付いている」
そう言い、親父は俺を抱きしめた。
やがて抱擁を解き、少しして保健室から出て行く。
俺には親父の言葉はちっとも響かなかった。
ただ頭の中で同じフレーズがループする。
俺はこの世界に居てはいけない。
いけない、物語がますますシリアスに。
もう少しでシリアスブレイカーが出て来るので、
どうにか耐性が無い方も着いてきてください…。
次はこっから頑張って書いて夜に上げます。
ブックマークや評価で書く速度が上がります。
では、また夜にあいましょう。




