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三十話 私達の強さを見せてやろう


『コウジ、もう動けそうか』


 ああ、さっき一発良いのを貰ったからな。

 助かったよ。


『それなら状況を整理しよう』


 敵はエクセレ姉さん、ただ一人。

 場所は教室、俺が嘗て通っていた中学や高校の頃と特段変わらない普通の大きさ。


『ラフティリが雲の檻に囚われているのと、逃げ遅れたクラスメイトが三人いるのも忘れるなよ』


 勿論だ。

 だが、それを無しにして万全の状態で動ける状況だとしても、勝てるのか?

 俺達でエクセレ姉さんに。


『フィドロクア兄上が言っていたな。暴走したエクセレを止めるために父上、長兄、次兄の三人の内誰かは動くと』


 その時にフィドロクア兄さんに「兄さんじゃ敵わないの?」って追加で聞いた事も覚えているか。


『俺じゃ確実に勝てねえなあ。と言っていたな』


 ……フィドロクア兄さんでも勝てない相手に俺達で本当に勝てるのか?

 あの時、あの山でスフロアを助けた時に居た化け花。

 山を水で包んで、俺達が瞬時に死を覚悟したあの化け花を一瞬で倒したフィドロクア兄さんを持ってしても勝てない相手だぞ。


『あれから四年も経ったのだぞ。今の私達ならあの花にも勝てる。それに入学試験で大人を……試験監督を倒す事も出来たのだ。それに私達の勝利条件はあいつに勝つ事ではない』


 それはどういう事だ。


『ラフティリ、あいつもスフロアと同じように魚をフィドロクア兄上から貰っている』


 なるほど。

 フィドロクア兄さんならサカナタロウを通じてこの状況を把握するが出来る。


 フィドロクア兄さんお手製の謎の宙を泳ぐ小魚。

 サカナシリーズの一番目、サカナタロウ。

 普段はラフティリの髪に隠れている魚は、ある程度の魔物ならビームを発して倒す事が出来る上に、フィドロクア兄さんと視界を共有して何が起こっているかを見る事が出来る。


『つまり私達がやる事は時間稼ぎ。なんとか耐えて生き延びて、フィドロクア兄上にこの状況が伝わっているのを信じ父上や兄上が来る時間を稼ぐ』


 だいぶお祈りゲーだな……。


『戦ってみて倒せそうなら倒すのも良い。さっきも言ったが、私達はあの頃に比べ強くなった。それに切り札もある』


 そうだな。やれるだけやってみるか。

 あのフィドロクア兄さんなら、娘のラフティリが心配でサカナタロウを通じてこまめにこちらの様子を見ているに違いない。


 死ぬような思いはするだろうが、誰かが絶対来てくれるはずだ。


『ついでに言いたいように言ってくれたエクセレに私達の強さを見せてやろう』


 ああ、俺達のコンビネーションを見せてやるか!

 久しぶりにやるぞ、アズモ!


「『魔物化!』」


 魔物化。

 人型をしている俺達が魔物化をすると、魔物としての本来の姿になれる。

 竜王の娘であるアズモの魔物化した姿は無論、竜だ。

 だが、姿をそのまま変えるのは教室では大きさから無理だ。


 そこで、爪や鱗だけと部分的に魔物化をする事で、人型のまま強化する事が出来る。


 今回は場所が場所だから翼は要らない。

 相手の動きがよく見られるように目、動けるように腕、足。

 胴体を守れるよう鱗で覆って、武器に出来るように口も。


「これは中々……。混ざり者の割には綺麗な魔物の眼をしている」


 ……どうやって攻める、アズモ。

 相手の力量が分からないから、こっちから攻めるのは危険だ。


『魔法を使って遠距離から様子見をしたい所だが、私達は父上の作ってくれた翻訳機を使っている影響で調整が難しい。だからここは——』


 ブレスか、分かった。


「————!!!」


 皆を巻き込まないように範囲を狭くして、威力を高めた炎。


 この世界には魔法があった。

 慣れれば無詠唱で使えるらしいが、詠唱無しで使える程俺達は魔法に精通していない。

 翻訳機を使って過ごしている俺達には、読解も発音も難しく出来たものでは無かった。


 その点、ブレスは竜の身体に初めから備わっており、練習をしたらすぐに使えるようになった。


 食べた物を燃料に物理的に燃やして発する炎。

 魔力を口に込めて魔法的に生成して発する炎、水。

 魔力は応用の効くもので、使い方を工夫すれば変わり種も発する事が出来た。


 一番初めに覚えたのは炎だった。

 これを覚えてからは、保育園でスフロアに絡んで来る悪ガキ達を相手に無双出来るようになり重宝した。


 そこから磨きに磨き、調整が出来るようになった。

 この炎ならエクセレにも或いは。


「くっ……」


 細く断続的に発した炎は見事に何発か命中し、エクセレは短く声を漏らす。

 煙が晴れると、当たった箇所は黒く焦げていた。


 しっかり効いている。

 これならどうにかなりそうか?


「良い火力だ。私が貴様くらいの頃の、平和ではなく混沌を極めた時代でもその歳でそれ程のブレスを使えた者はそこまで居なかった」


「——まあ最も、それは竜以外の魔物での話だが」


 そう言い、エクセレも炎を一発吐く。

 俺達のよりも細く、速い炎。


「ぐ……」


 目を強化したので見る事が出来た。

 だが、エクセレの炎が速すぎて少し脇腹を掠めた。


 とても熱い一撃だった。

 脇腹を掠めた程度で良かった。

 あれが胸や腹に当たっていたら、もうそれだけで終わっていたかもしれない。


「人間には分からないだろうが、炎はこうやって吐くものだ。どうせだからレクチャーしてやろう。水ならこう、切れ味のある風みたいに吐く事も出来る。土を岩みたいに固めて吐く事も出来る、光線ならこうだ」


 エクセレは色とりどりのブレスを放ってくる。

 俺達は強化した目と、足を使い全て間一髪で避けていく。


 ブレスが命中した床や壁、机などは凍ったり、燃えたり、貫かれたりと散々だった。


 ギリギリだが、対応出来ていた。

 アズモと協力してブレスと、逃げ遅れた生徒と倒れたアスミ先生の位置を確認しながら、教室を縦横無尽に走る。


 吹き飛んだ机や、生成された岩。

 障害物が散ったり増えたりしているが、俺達には関係ない。

 最初はハイハイも満足にする事も出来なかったが、アズモとめげずに特訓に特訓を重ねた結果、今は曲芸師みたいな動きも出来る。

 寧ろ足場が増えて、動きやすくなった。


 やがて、ブレスは止み俺達はエクセレに向き直る。


「そんなもんか、意外と長女でも大したことないな」

「ふむ、ではブレスのレクチャーはここで終わりにしよう。魔法を使っていたら本物の魔物の魔法も見せてやりたい所だが」

「あいにく魔法はここでは使えないんでね、許してくれ」

「では、体術だな」


 そう言いエクセレは重心を低く保つ。


「私の妹って事を加味して殴るタイミングを教えてやろう」


 俺達は岩の上から床におり、エクセレの攻撃に備える。

 アスミ先生を一撃で下したエクセレの攻撃。

 あの時は見えなかったが、今は目を強化した。


「ご丁寧にどうも! 出来ればそのまま帰って欲しいんだけどさ!」

「それは無理だ。妹のために一刻でも早く病魔を殺す。私はそのために来た」

「そうかい! それなら生き延びるまでだ!」

「……では行くぞ。3、2、1」


「0」


 来る……!



 エクセレが一瞬揺らぐ。

 俺達は目を凝らし、エクセレを見下ろした(・・・・・)


「えっ……!?」


 凄い勢いでエクセレが下に落ちていき、頭上に凄まじい衝撃。

 そのままの勢いで床に身体を打ち、数回弾んだ。


「いっ、くぁ……」


 全身が痛い。

 頭は割れてないだろうか、骨は数本折れた気がする。


 満足に息が吸えない。

 吸おうと思っても出ていく。


 痛い。痛いが、痛みにのたうち回っている場合では無い。


 アズモ、意識はあるか?


『……………………』


 アズモは落ちたか。

 俺一人でどうにかしないと……。


「ぐ……」


 身体を起こそうと腕に力を込める。

 だが、腕が変な方向に曲がっていて失敗した。


「まだ動けるのか、人間はしぶといな。どうやったらお前は死ぬのだ」


 エクセレが近づいて来る。

 俺はせめてもの抵抗としてエクセレを睨んだ。


 エクセレの眼から光が消えていく。

 剣呑なオーラを再び纏いながら。


「汚い目で私を見るな」


 憎悪が混ざった低い声。

 痛みからか、アズモが落ちたからか、魔物化が解けていたらしい。


「スライムみたいに身体のどこかに核があるのだろうか、全身を貫いたら分かるか」


 これは……死んだな。

 ごめん、アズモ……。


 死を覚悟し、目を閉じる。

 暗くなる視界の端に泡が浮かんだ気がした。



大変。物語がちょっとシリアスに。


戦闘描写苦手なので、ブレス戦書くの時間掛かりました。

ちゃんと伝わっているか自信ないですけど、大丈夫ですかね…?



次話は20時にあげます。

余裕あったら16時くらいにあげて二話投稿にします。

ブックマークや評価で書く速度が上がります。


では夕方か夜にまたよろしくお願いします。

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