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二十九話 俺のせいだ……

 エクセレ・ネスティマス。

 竜王ギニス・ネスティマスの第一息女であり、アズモ達の姉に当たる。


 竜王66人の子供達の長女である彼女は、

 天災として人間(・・)の脅威になっている。


 この世界には強い魔物に備えられた三つの能力がある。


 魔物化、異形化、解放。

 中でも異形化という能力は異質である。

 自らの身体を歪なものにし、理性を失くして暴れ回る。


 手負いの魔物が追い詰められた時に最終手段として使う能力。

 この力は望んで発現出来ない魔物がほとんどだ。

 命が散る、大事な者が逝ってしまう……そういった危機を迎えた時に、自らの意思と関係なく異形化する。


 しかし、一部の魔物は追い詰められていなくとも、引金を引かれると発現する事が可能である。


 エクセレ・ネスティマスもその一人だ。

 天災としてこの世界の脅威に数えられている彼女が暴走する条件は、この世界を生きる者の間に広く知れ渡っている。


 人間が竜を食べる。

 それが彼女のトリガーになっている。


 その条件から狙われる者は人間のみ。


「……あ、アズモさんを殺すって何を言っているの!? 貴方の妹ではないのですか! そ、それにアズモさんは魔物よ!!」


 教壇の上で立ち上がれなくなっているアスミ先生が声を荒げる。

 エクセレはそんなアスミ先生に再び鋭い眼光を向けた。


「先生の言う通り、アズモは……この身体は魔物だろう。だが、この身体は病魔に巣食われている」


 身体を抱きしめて震えながらエクセレは言った。

 歯はカタカタと音を鳴らしており、顔からは生気がなくなっていた。


「忌々しい! また私から兄妹を奪うというのかお前達人間は!! なんて強欲で、傲慢な生き物なのだ……!」


「やはりこんな種族は滅ぼさなければ……」


 エクセレは光の灯っていない目で、俺達を見下ろす。

 初めて殺意だけの籠った目を向けられた。


 あの日、洞穴で戦った熊も、その後に待ち構えていた花もこんな目はしていなかった。

 獲物を見る目や、興味の籠った目ではない。

 純粋な殺意。


 俺は、そんな目を向けられ、震えが止まらなくなった。

 エクセレが一歩一歩と近づいて来る度に汗も流れる。


 明確な死を予感した。

 そんな俺の前に影が二つ飛び出た。


「せ、生徒には指一本触れさせません!」

「アズモは殺させないわよ!」


 アスミ先生とラフティリだった。

 さっきまで尻餅をついて震えていたアスミ先生は、今も身体を震わせながら俺の前に立っていた。

 ……はずだった。


 一瞬視界が揺らぎ、直後黒板の方から轟音。

 アスミ先生は黒板を背にし、動かなくなっていた。


「教職者として素晴らしい行動だ。だが、魔物が人間如きを守るなよ」

「……せ、先生?」


 ラフティリは震えた声を出して、その場でぺたんと座り込んでしまう。


 何が起こったのか分からない。

 何故アスミ先生は血を流しながら倒れている。

 あれは生きているのか……?


 エクセレ姉さんは殺しに来たと言っていた。

 人間を滅ぼさなければとも言っていた。


 殺されるのは……俺だ。

 アズモじゃなくて、俺を殺しに来たんだ。


『考えるな、コウジ』


 この状況を作り出したのは俺だ。

 俺がいるからアスミ先生が死んでしまう……?


『コウジ!』


 アズモが必死に語り掛けてくるが、何も聞こえない。

 悪い予感だけが流れていく。


「君はつい最近、私の事をつけていた弟に在り方が似ているな。もしかして、あの子の娘か?」


 エクセレが座り込んでしまっていたラフティリを持ち上げる。


「……あ」


 ラフティリに伸ばした手は宙を切った。

 声も満足に出なかった。

 次はラフティーがエクセレに殺されてしまうかもしれない。


 俺のせいだ……。

 俺がこの学校に入学したから、俺がこの世界に来てしまったから、俺がアズモの身体に居ついてしまったから。

 俺のせいでラフティリが死ぬ。


 頬に衝撃が走った。

 遅れて、パチンという音が聞こえる。


「ラフティリは死なない。私達が殺させない」


 俺の……アズモの声だった。

 アズモが頬を叩いて、喋った。


「ほう……その声がアズモの、私の妹の声か。さっき一瞬出た腑抜けた声が人間の声だな」

「ラフティリを放せ、私達でお前を倒してやる」

私達(・・)だと……」


 再びエクセレは剣吞なオーラを醸し出す。


「病魔が進行してまともな思考を出来なくなっていたようだな。……今、お姉ちゃんが助けてやる」

「人間が嫌い過ぎてまともな思考が出来なくなっている奴がよく言うな。お前こそ頭を侵されているのではないか」

「手荒にはしたく無かったが、そこまで重症だと少しは制裁する必要があるな。もう少し姪を抱きしめていたかったが、まあ仕方ないか」


 エクセレは雲の檻を作り、そこにラフティリを収監した。

 俺達如き、ラフティリを抱えながらでも余裕で相手出来るはずだ。

 それなのにそれをやるという事は、本気だ。


「人間は弱いが卑劣な手を使う。万が一、姪に何かがあったらあの子に嫌われてしまうからな」

「もう遅いな。あの娘大好き兄上が、ラフティリを怖がらせた奴を許すわけがない」

「私は姉だ。弟から嫌われるわけがない。下の子達は上の子を慕うものだからな」


「バーーカ! 私はお前が嫌いだ!! コウジの事をここまで言っといて妹から好かれると思うなアホが!!!」



レスバはアズモがキレちゃったのでエクセレの勝ちですね。



アズモは人見知りが激しい上に、コミュ障なので普段の生活では

コウジに頼り切りなのですが、特定のタイミングで饒舌になります。



次話は明日の8時に出ます。

ブックマークや評価で書く速度が上がります。


よろしくお願いします。

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