二十五話 『私は二人ならどうにかなると思っている』
スイザウロ学園、初等部女子寮。
そう、女子寮である。
なんて言ったって、今の俺は女子であるアズモに憑依している。
全寮制の学校に通っていたらそんな俺は女子寮にぶち込まれる。
当然の話だ。
異世界に来るという事よりも、小学校に通うような女子達と同じ寮で寝泊まりするって事の方が凄い体験だと思う。
どうしたら良いか全く分からない。
『狼狽えるな、22歳児。コウジは22歳、この寮にいる奴らなんて六歳から十二歳しかいない。十も歳が離れているのだぞ』
歳がいくら離れていようが、自分と違う性別の集団に放り込まれるって中々に辛いからな。
『私は女だ。そんな私の身体に入ってコウジはもう五年も経っているのだ。まだ、自分が男だという気持ちの方が強いのか?』
たぶん俺が、憑依じゃなくて転生だったら五年で慣れていたかもな。
だけど、俺にはアズモがいる。
アズモがいるから、気持ちが身体に定着していない。
アズモが女、俺は男という気持ちがずっと強く残っている。
この気持ちはずっと消えないと思う。
俺は、アズモの身体にお邪魔しているという感覚しかないんだ。
『そういうものなのか。私には分からない考えだが、それなら確かにこの状況は辛いかもしれないな』
そういうアズモこそどうなんだよ。
アズモは集団生活が得意そうには思えないが。
『無論、帰りたいという気持ちで一杯だ』
二人して駄目じゃねえか……。
『私は二人ならどうにかなると思っている。私はコウジの苦手に耐えられるし、コウジは私の苦手に耐えられる』
……俺達って案外、上手い具合に足りない物を補えているのかもな。
俺のやつに関しては性別から来る問題だがな。
『さ、じゃあ……』
ああ、扉を開けるぞ。
この扉の先、もうそこは俺達の新しい拠点だ。
準備は出来ているか?
『駄目だ。コウジが開けてくれ』
嫌だな。
もう一回会話タイムを挟まなさいか?
『そうしよう。じゃあルームメイトがどう決まっているかだ』
新入生二人に、立候補した六年生一人。
この立候補者は、寮長からお墨付きをもらった人だ。
この人なら一年生二人の面倒を見られるというお墨付きを。
『じゃあ次に、お風呂についてだ』
部屋に風呂無し、大浴場のみ。
部屋番号毎に決まった時間に入浴。
正直、これがとても不安なんだが。
『これはもう慣れてもらうしかない。私に憑依してしまったのが運の尽きだったな。じゃあ、次だ——』
その時、ドアが不意に開く。
開いたドアに向こう側には、俺よりも身長が三十センチ以上は高い女の子が居た。
「君、何時までドアの前で固まっているんだい。早く入って来なよ」
『じゃ、コウジ。適材適所だ。後は任せた』
この野郎!
女の子の空間に入るのには私がどうにかしてやるよ、みたいな事を恰好よく言っていたのに!
『言ったか? ちなみに私は野郎じゃないし、野郎はコウジだ』
なんてやつだ。
だが、アズモと口論していても仕方が無いのも事実。
俺はコミュニケーションを放棄しているアズモに変わって会話をするしかない。
「初めましてアズモ・ネスティマスです。よろしくお願いします」
「おや、ご丁寧にどうも。私はイエラ・オリゾン。気軽にイエラとでも呼んでくれよ」
イエラの第一印象はとにかく大きいだった。
今アズモの身長は百三十センチで、六歳にしては大きめだ。
そんなアズモよりもかなり大きく見えるから、百六十くらいあるんじゃないだろうか。
これは魔物の特徴なのか、それともただイエラの発育が良いだけなのか。
赤みがかった茶髪を肩に届きそうなところまで伸ばしたボブっ子。
髪の毛からは紫色の細い触覚を生やしている。
動物じゃなくて、虫がモチーフの魔物だろうか。
四角い眼鏡から覗く目は少し垂れていて、柔和な表情と合わさって優しそうに見えた。
ただ、大きい身体が視界を邪魔するので、限界まで見上げなきゃ顔が本当に見えない。
「ほらおいで。君の荷物はもう届いているよ」
「お、お邪魔します」
「今日からここは君の家になるんだから、ただいまだよ」
部屋は広めだった。
三人も入るとなれば当たり前かもしれないが、ベッドが三つ、机が三つ、衣装棚が三つ、軽くキッチン設備があり、壁には何か大きい黒い機械も置いてあってまだ余裕があるのはかなり広いと思う。
親父にこの学校に入れられた時は微塵も思っていなかったが、やはりこの学校は貴族のボンボンやお嬢様が来るような学園なのかもしれない。
小中高一貫校というのもよくよく考えたら、その要素に含まれる。
「ごめんね。君が最後に入って来たからもうベッドの場所は選べないけど、壁際が良かったら交換するよ」
イエラが言うように、俺じゃない新入生がもうベッドに腰を落ち着けて固まっていた。
「新しい子が来たから各々自己紹介をしよう」
「分かりました」
イエラが呼び掛けに返事をした声は聞き覚えがあった。
今日あの場所でずっと聞いていた声。
黒髪を背中まで伸ばした、俺よりも少し小さい女の子。
清楚な雰囲気で、知的に見える。
目には光が灯っていないが、それはこの子のご愛嬌か。
今日、入学式で新入生代表の挨拶をしていたダフティ・スイザウロだ。
俺はその子を見ると、自然と身体が動く。
「本当に、すみませんでした!!!」
流れるように土下座をした。
それは見事なスライディング土下座だったという。
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今日はどうにか上手くいったらあと一話投稿します




