二十四話 「また私は死ねなかったのか」
「君、面白いね」
前の席に座る男子が俺の方に振り帰りながらヒソヒソ言ってくる。
「なんだお前、俺達を笑い者としてみるつもりか」
ボサボサの黒髪を揺らす男子を半目で見ながら言う。
口調はおちゃらけているが、制服の第一ボタンまでしっかり締めて綺麗にネクタイを結んでいる真面目そうな男子。
だが、男子にしては長い髪から覗く目は俺の深い所を見てきているようだった。
「いやいや、違うよ。ただ、あの登場の仕方は大物だよね」
入学式の事を言われている。
遅れて会場に侵入した俺とラフティリは、どうするか悩んでいた。
そしたら、親父とフィドロクア兄さんが現れ、力技で俺達を席まで届けてくれた。
「それは否定出来ないな……」
あまりにも力技過ぎて、しっかりバレておりさっきまで先生に怒られていた所だ。
保育園の時の先生は、一発ぶん殴られたらそれで終わりだった。
だが今年の俺の担任こと、アスミ先生は暴力こそ振るってこないものの、正座させてひたすら正論を吐いて来る。
正直、一発殴られたら終わる保育園の頃の説教よりも、精神的にも肉体的にも辛い。
「ねえねえ、君とラフティリちゃんって竜王様の血統だよね。誰が親なの? 式中に魚が居たからどっちかはフィドロクアさんだよね?」
「お前竜王のお家事情に詳しいな。まあ合っているが。ラフティーがフィドロクア兄さんの娘」
「やっぱり。あと今兄さんって言ったよね? という事は君って竜王様が親なの?」
ペラペラ答えてしまったが、喋って良い事だっただろうか。
いや、どうせいずれバレる事か。
現に俺とラフティリの説教が終わった十五組は今、自己紹介に入っていた。
右前に座っている子から順に名前と趣味や、この学校でしたい事やその他喋りたい事を自由にという形式で各々自己紹介していた。。
ちょうどラフティリがオーバーな身振り手振りを交えながら、自分の父であるフィドロクア兄さんが如何に最強の存在なのか熱弁している所だ。
「そうだけど……。そういうお前は誰だよ」
「それはね……。あ、ちょうど僕の番が来たから聞いていてよ」
ラフティリのフィドロクア兄さんの説明はまだ続きそうだったが、アスミ先生に止められてラフティリは口を膨らませながら席に座った。
「初めまして。僕の名前はブラリ・スイザウロ。この国の魔王の息子で、新入生代表挨拶をしていたダフティの兄です。将来の夢は世界征服です。よろしくお願いします」
こいつサラリと、とんでもない事を言うな……。
「というわけだよ」
拍手されながら着席したブラリが、俺に振り返りそう言う。
「分かったけど。なんか凄い奴だなお前」
魔王の息子で将来の夢が世界征服。
物騒にも程があるだろ。
この世界に勇者が居たら真っ先に倒されるやつだぞ。
「ほら、次は君の番だよ。君で自己紹介は最後だからしっかり締めないとね」
「ハードル上げるなっての……」
そうなのだ。
俺は窓側の後ろの席。
最初間違えて教室に入った時は、ラフティリに「あたしの席なんだけど!」と威嚇されたが、ちゃんと俺の席だった。
二人共ネスティマスという文字だけで判断して、この席が自分の席だと主張していたから俺の席になったのは結果論でしか無いし何も言わなかったが。
ちなみにラフティリは俺の隣の席に座っている。
「あー、俺の名前はアズモ・ネスティマス。さっきそこで自己紹介していたラフティーの親戚だ。好きな事は喋る事で、嫌いな事は勉強。それから……」
これは俺も何かデカイ夢を語らなきゃいけないのか。
何も思いつかないけど、強いて言うなら。
「俺の夢は、二人になる事です。……よ、よろしく!」
やっちまった!!
もっと簡単な事言えば良かった!
自己紹介が終わったのに、拍手が起こる事もなく静かな時間が続く。
第一印象が大事だってよく言うのに。
俺の小学校デビューは失敗か……保育園の時と変わらないじゃないか。
「プッ! アハハハハ! 君って面白いね! 分身でもするの?」
静寂を破ったのはブラリの笑い声だった。
俺はブラリの笑い声で少しほっとする。
ブラリが笑った事により動き出した皆が俺に拍手をする。
俺はその音を聞いて、少し慌てて座る。
「そういうわけじゃないんだが、言うのが難しいな……」
「よく分かんないけど、君とは楽しくやれそうだよ」
「俺は色々もう駄目な気がする」
勿論だが、分身したいわけじゃない。
ただ、もう一つ身体が欲しい。
それが俺の今の夢だったりする。
そしたら、自己紹介という事でさっきから無言になっているアズモをどうにか出来る気がするんだけどな。
「大丈夫だよ、全部上手くいく」
ブラリは俺の目を見ながら言う。
根拠なんて全く無いのに、その言葉はやけに俺に刺さった。
「ふう。じゃあ、今日はもうやる事をやったし、僕はもう帰るかな。じゃあまたね、アズモ君……いや、アズモちゃんか。まあどっちでも変わらないね」
「あ、ブラリ君! まだ明日の連絡が終わっていませんよ!」
「じゃあね、先生ー!」
先生の言葉を無視してブラリは急に教室を出ていく。
変なやつだったな……。
真面目そうな形なのに、やる事は不良だ。
見た目とやる事がチグハグ。
一言で表すならそんな奴だった。
あいつが魔王の息子って事はこの国の次期王になったりするのだろうか。
この国の未来は大丈夫か?
この国の事なんてよく知らないが、そんな事を考えた。
—————
あの人が言ったように、面白いやつがきた。
他にもあの場所には俺が思う逸材を集めた。
退屈する事はないだろう。
ただ、話を聞いた感じ俺と同じ性別だと思っていたが……まあいいか。
もう過ぎた事よりも未来の事だ。
これから起こるだろう楽しい事を考えながら歩いていると、目の前の空間が急に曇った。
空ではなく、地上に出来る雲。
こんな事をする奴に一人だけ心当たりがある。
「お帰り、エクセレ。今回は長かったな」
「……ああ、お前か。そうか、また私は死ねなかったのか」
「そんな簡単に死ぬかよ。まだ何一つも為せていないんだ」
「ああ、そうだな。先ずは人間を滅ぼさなきゃいけない……じゃなきゃ死ねない」
「……そうだね。じゃあ今日も連れていってよ」
魔物化で灰色の龍になったエクセレに乗り飛び立つ。
明日は、どんな楽しい事が起きるだろうか。
「……まさか、こんな場所でこんな現場を見るとはなぁ。何か手を打っとかなきゃいけねえ。くそ、俺一人じゃどうにも出来ないのが歯痒い」
アズモが静かな時はなんか条件がありそうですね。
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今日はまだ何話か投稿するのでよろしくお願いします~




