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背反の魔物~異世界に転生したと思ったら竜王の娘に憑依していた~  作者: おでん食いたい
2章 学園生活と正反対の双子—新生活開始—
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二十三話 「ううー……」


「新入生代表の言葉。一年一組、ダフティ・スイザウロ」

「はい」


 粛々とした雰囲気の中、今年の新入生代表が凛々しい声で返事をして立ち上がる。

 新入生、参列者共に、身を正しステージに上がっていく生徒に注目する。


「やっべ、入学式もう始まってら……」


 入学式会場の建物をよじ登り、ひっそりと二階の窓を開けギャラリーに忍び込んだ俺は、とても遅れてやって来て許される雰囲気じゃない式を見て絶望していた。


「あそこの小さいのがいっぱい居る所の端っこの方の空いている席があたし達の席じゃない?」


 俺と一緒によじ登って来たラフティリは、俺とは対象的にこの空気に当てられてもケロッとしていた。


「そうだろうけど、流石に今のこの空気であの席に突撃するのはどう足掻いたって無理だろうな」


 ラフティリの言う通りに、会場の前面には制服を着た新入生が集まっている。

 中央は通路のために空いており、その左右に席がズラッと並べられている。

 そして、一番後ろの列の右端には二人分の空席があった。


「あたしに良い考えがあるわ!」


 ラフティリが、俺をキラキラした目で見ながら言う。

 まだ出会って一時間も経っていないが、嫌な予感しかしないのは何故だろうか。


「……ほんとか?」

「ふふん、まあ聞いていなさい」

「分かったよ」


「まずアズモが普通にあの席に座りに行く。周りがアズモに注目する。その隙にあたしが座りに行く。完璧よ」


「嫌だわ。どこが完璧なんだよ」


 予感が的中していた。

 その作戦だと俺の負担がデカすぎし、恥ずかしいから絶対嫌だ。


「もうこの状態であそこに混ざるのはハードルが高いし、保護者席の後ろの方に座ろうぜ?」

「はあ? 馬鹿なの? そんなの論外よ?」

「いや、だからって俺の事を身代わりにしようとするなよ。それにそんな事をしなくたってあの二人なら……」


 タイミングを見計らったかのように、俺達の前の空間が歪み黒い扉が出来る。

 黒い扉の隣には、何処からともなく現れた無数の魚が集まり、人型を形成していっていた。


「——アズモ。ここで何をしている」

「——ラフティーもいるじゃねえか。お前らもう友達になったのかよ」


 黒い空間からは俺の親父が、魚で出来た人型からはフィドロクア兄さんが現れた。


「ほら、親父達なら俺達に会いに来てくれ——父上!」


 言葉を全部言えないままアズモに舌の操作を取られ、身体が親父に飛び込む。


「パパー!」


 隣では、ラフティリがフィドロクア兄さんに飛び込んでいた。


「おいおいどうした、ラフティー。そんなに俺に会いたかったのか?」

「だって、全寮制の学校なんてやだよぉ……」

「我慢してくれ、これもラフティーの成長を願ってのものなんだ」

「パパと一緒にいたってあたしは成長出来るもん!」

「やれやれ……」


 行動と言葉でラフティリはフィドロクア兄さんに猛烈に抗議する。

 一方、アズモは無言で親父に力強く抱き着く。


「アズモ、落ち着け。この場ではしゃぐのは得策ではない」

「ううー……」


 アズモはまだくっついていたいようだったが、親父の言う事は絶対に聞く。

 渋々離れていった。


「……親父、フィドロクア兄さん。俺達をあそこの十五組の席に飛ばして欲しい」


 俺は、静かになったのを見計らってからそう頼んだ。


「うむ。先ずアズモとラフティリはあの場に行くのが正解だ。我の転移魔法であの場に一瞬で届ける事が出来る。だが、周囲は急に現れた存在に驚くだろうな」

「しゃーねーなー。俺も一肌脱いでやるぜ」


 竜王と、ネスティマス家最強の水龍の助力はかなり心強い。

 この状況も二人にかかれば簡単に打破出来る気がしてきた。



—————



「なので先生方、私達のご指導お願いしま——」

「わー! お魚が泳いでる!」

「空を泳ぐ魚だ! すげえ!」

「すごーい!!」


「あの魚ギョサブロウに似ているわね……」


 スピーチをしている新入生代表生の前を通過する一匹の魚。

 注目していた子供達からは、驚きと楽しそうな声が上がる。

 一部から妙に冷静な声も聞こえた。


「な、なんだこれは?」

「これは一体……? 空中を泳ぐ魚……?」


 先生席と後ろの参列者席からは困惑した声が上がる。


「……あれ、消えた?」

「さっきまでいたよな?」

「気のせいか?」


 だが、それも一瞬。

 すぐに消えた魚に幻でも見たのか? という反応に変わった。


「なんとか上手くいったわね」


 目的の席に座れたラフティリが左で呟く。

 ラフティリの左に座っている子は、急に現れた俺達を見てぎょっとしていた。


「……これは上手くいったと言えるのか?」


 親父達の事だから、誰にも気づかれずに俺達が最初からそこに居たかのように摩訶不思議な事をすると勝手に思っていた。

 だが、現実はただのパワープレイ。


 フィドロクア兄さんが壇上で挨拶をする新入生代表の前に魚を泳がせ、親父がその隙に俺達を席に転移魔法で飛ばした。


 結果として、会場は代表生が挨拶をしているのにザワザワした様子になり、近くに座っている子にも俺達が急に現れた事がバレている。


 アズモは脳内で、ひたすら「流石、父上!」とはしゃいでいる。

 だが俺としては、現在進行形で生きた心地がしないし、肝が冷え切っている。


「皆様落ち着いてくださーい。式を再開しますー」


 司会が、何も無かったかのように会場に声を響かせる。

 その声を皮切りに会場全体は事が起こる前の厳かなものに戻っていった。


 凄い事が起こったはずなのに鎮まるのはとても早かった。


 ……これでいいのか、魔物学校。

 不測の事態に慣れすぎだろ。


 まさか、よくある事なのか?


「では、続いて担任紹介。一組から順に先生を紹介していきます。そのまま各クラスへ案内となるので、新入生の皆さんは担任の先生に付いていって自分のクラスまで行ってください」


 式はその後順調に進み、もう魚事件は無かったかのようだ。

 式が終わりに近づき、十五人の先生が前に並ぶ。


「新入生の案内が終わったら、保護者説明会に入ります。保護者の方々はそのまま着席してお待ちください」


「ここからは各クラスの担任の先生の軽い自己紹介に入ります。では、一組の先生お願いします」


「はい、私が一組を持たせて頂くオミムリ・タラサです。一年間よろしくお願いします」


 まず、一番右側にいる、七三分けで眼鏡をかけた真面目そうに見える先生が挨拶をする。

 そして、前の席に座っていた生徒達が起立させられ、先生を先頭に会場を出ていく。


 中央を歩くスフロアと目が合うと、スフロアは口をパクパク動かす。

 字は読めないが、あの口の動き方には見覚えがあった。


 馬鹿。

 スフロアの口はそう動いていた。


 ルクダとも目が合う。

 ルクダはニコニコしながら手を振って来るだけで罵倒は無かった。


 その後も順に先生が前で挨拶をし、生徒を連れたって会場から出ていく。


「最後、十五組の先生の紹介に入る前に一つ連絡事項があります。参列者のギニス・ネスティマス様とフィドロクア・ネスティマス様、両名はこの場では無く別室にてお話しがありますのでこの後私に付いて来ていただきますようお願いいたしますー。では、十五組の先生お願いします」


 親父……、フィドロクア兄さん……。

 しっかりバレてる……。

 ごめん、俺達が入学式に遅刻したばかりに。


 俺は心の中で、犠牲になった親父達に懺悔を捧げる。


「私が十五組を預かるアスミ・オリクトです。一年間よろしくお願いします。あと、アズモさんとラフティリさん、教室に着いたらお話しがありますので覚悟しておきますように」


 許さねえ親父達め……!




十五組が去ると、ギニスもフィドロクアも満足して何処かに消えました。


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今日は何話か投稿するのでよろしくお願いします~

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