二十二話 初対面で殺害予告は正気の沙汰じゃ無い!
「そこあたしの席なんだけど、早く退いてよー!」
ピリピリした雰囲気を醸し出す水色の髪の毛の女の子。
ツリ目でショートヘアの勝気そうな子。
そしてまさかの俺の姪ことラフティリ・ネスティマス。
正確には俺じゃなくてアズモの姪なんだけどな。
「ごめん。字が読めなくてさ」
姪とのファーストコンタクトでいきなり怒鳴られて、字が読めない事を告白する叔母。
情けねえな俺……。
「はあ? よくこの学校に入れたわね」
ずけずけと痛い所をつくな……。
色々と思う所はあるけど、これから長い付き合いになるんだ。
目くじらを立てずに穏便に。
第一印象は失敗したが、そこからの印象も大事だ。
ここからちゃんと取り返すぞ。
じゃなきゃあのフィドロクア兄さんになんか小言を言われそうだ。
『本音がダサいな』
アズモうるさいぞ。
「あはは、おっしゃる通りで。それで、自分の席が何処か分からなくてさ、俺の席が何処か教えてもらっていい?」
笑顔になるように気を付けて、精一杯取り繕う。
全く笑わないアズモのせいでこの身体で笑顔を作るのはとても難しい。
「無理よ」
嫌じゃなくて無理と来たか。
そんなに俺に何かを教えるのは嫌なのか?
俺ってもう既にどうしようも無いくらい嫌われているのか。
泣くぞ? 叔父さん……じゃない、叔母さん泣くぞ?
「頼むって。席を教えてくれるくらい良いじゃん」
「だってあたしも字が読めないもん」
……なんか今、聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするな。
いや、流石に気のせいだろう。
俺がちょっと特殊なだけでこの世界の識字率はまあまあ高いはずだ。
だって、科学レベルが地球に勝るとも劣らない世界なんだ。
そんな発展している世界で一クラスに二人も字が読めない奴がいるなんて。
「ごめん、よく聞こえなかった。もう一度言ってもらっていい?」
「だから、字が読めないんだって」
嘘だろ。
というか、何でこいつは字が俺と同じで字が読めないのにそんなに強気に出られるんだよ。
俺もう叔母モード終わりにしていいよね?
『いいぞ。私の経験だとこういう奴は砕けた喋り方で全然問題ない。そもそも自分に使われている言葉遣いにまで気が回らないだろう』
どうせアズモの言う経験なんて、俺が日本で読んだ漫画受け売りの物だろ。
現実じゃ全く使えないからなそれ。
良いかアズモ。
漫画でやっているからって現実でもやっていいと思ったら大間違いだからな。
「はあ? よくそれで俺の事馬鹿に出来たな。お前こそよくこの学校に入れたわねってやつじゃねーか。入試どう突破したんだよ? 入試だけじゃない、面接もどうやって通ったんだよ?」
俺はやるけど。
『よく言ったコウジ』
よせやい。
俺もこの小娘には思う所があったって、それだけだ。
「あたしはパパのコネで入ったし」
「俺とほぼ同じじゃねーか……」
うん、これ以上は俺からはもう何も言えないな。
俺だって、試験で自分の名前すら書けなかった異世界言語弱者なんだ。
親父のネームバリューで入った俺が何か言えるわけがなかったな。
フィドロクア兄さん、コネで学校に入学させちゃ駄目だろって言葉は胸の中にしまっておくよ。
『見損なったコウジ』
うるせえ。
「……ん? でもさっき、座席表を持ってきて『ネスティマスって書いてある』って言っていたよな?」
「ネスティマスって字だけ読めるのよ。パパの名前だから」
「アズモと同じじゃねーか……」
ほら、アズモ。
お前と同じパパ大好きな女の子だぞ。
『軽く精神攻撃を受けている』
字が読めない仲間だぞ。
手放しで喜ぼうぜ?
「アズモって名前なの? もしかしたら読めるかもしれないし、教えなさい」
「アズモ・ネスティマスだ」
「ネスティマス……!? じゃあお前がパパの言っていた私の叔母ちゃんなの!?」
う、なんかグサリと来たぞ。
自分で自分の事をオバサンって言うのと、人からオバサンって言われるのとでこんなにも違うものなのか。
「そうだが……いや、叔母はやめろ。この歳で叔母って言われるのは違和感しかないからアズモって呼んでくれ」
「しょうがないわね。じゃああたしの事もラフティーって呼んでいいわよ」
「なんで俺だけ愛称で呼ばなきゃいけないんだよ。俺達初対面なのになんだこの差は」
「パパがラフティー、ラフティーって呼んでくるから、ラフティリって言われるのは違和感があるの」
フィドロクア兄さんって娘の事をラフティーって呼んでいるんだ。
……これって聞いて良い情報だよな?
よくも俺の秘密を知ったなコロスってやって来ないか?
『フィドロクア兄上なら、普通に口封じして来そうだ』
墓場まで持っていくしかないじゃないか。
「違和感って文字を出されたらラフティーって呼ぶしか無いな……」
「そんなに、自分だけニックネームで呼ばれないのが嫌なの? 仕方ないから、お前にもニックネームを付けてあげるわ」
ラフティリは「ムムム……」と言いながら数分考える。
別にあだ名を付けて欲しいわけでは無いが、面白そうだから何も言わずに待った。
「ズモズモってニックネームはどうかしら」
「ころすぞ——ゴヒッ! ゴホッ! ああ、なんか喉の調子がおかしいなあ!?」
落ち着けアズモ!
初対面で砕けた言葉遣いは確かに許されているかもしれないが、初対面で殺害予告は正気の沙汰じゃ無い!
「父上から貰った名前をそのような——あーっと! 普通にアズモで頼む!」
「えー。強そうじゃないズモズモ」
「アズモで頼む」
俺は真顔で目に力を込めてラフティリに言う。
この身体で笑顔を作るのは難しいが、真顔になるのは簡単だったりする。
「しょうがないわね。というかさっき、一瞬声が——」
ラフティリが俺達の秘密に初対面で気付きそうになったが、「ガラガラ」とドアを開ける音が掻き消す。
俺達が開かれたドアの方を見ると、こっちを驚いた顔で見る人が居た。
眼鏡をかけて青色の帽子を被った賢そうな男の人だ。
「あれ君達どうしてもう教室に居るのですか? 入学式はどうしました?」
いきなり現れた男の人の言葉に、俺とラフティリは顔を合わせる。
その後二人でもう一度男の方を向き同じ言葉を漏らす。
「「え?」」
「クラスに案内するのは入学式をやってからです。ほら、他のクラスには誰も居なかったですよね?」
「言われてみれば……」
「確かに……」
俺とラフティリは再び顔を合わせ、同じように思案顔をする。
「今日は保護者の人も来ています。もしかしたら、暫く会えなくなるかもしれないですし、もう入学式も終わりに入っていますが、行っておいた方がいいですよ」
「父上が……!」
「パパが……!」
直後、入学式会場にダッシュで向かう二人の女の子の姿が見られたのは言うまでも無い。
ネスティマス家に産まれる女の子は全員ファザコンになるという噂があります。
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