二十一話「そこあたしの席なんだけど!」
「なんであんた最低クラスにいるのよー!!!」
魔王立スイザウロ学園。
初等部棟の校舎の前で俺はスフロアに襟元を掴まれて揺すられていた。
周りにはスイザウロ学園に入学出来て明るい顔をした子供達が居る。
初日から校舎の前で揉めている俺達に好奇の目を向けていた。
「だって、しょうがないじゃん。字が読めないんだから」
スフロアと目が合わないように目線を斜め下に向けながら言った。
「竜王様の作ってくれた機械に頼り過ぎなのよー!! 普通の六歳児ならもう簡単な文なら難なく読めるわよ!」
「会話さえ出来れば大丈夫かなって……」
「駄目に決まっているでしょうが! どうやって教科書読むのよ!」
「それは……」
「こんな物があるからいけないのよ! 壊してやるわ!」
スフロアは俺の耳元にも手を伸ばし、親父から貰った機械をひったくろうとする。
だが、それは咄嗟に動いた俺達の腕によって阻止される。
俺はスフロアの正論がその通り過ぎて、反応が出来ていなかった。
だから今手を動かしたのは。
「父上から貰った宝物を私から奪い取れるとでも?」
俺の憑依先の女の子。
竜王の娘で、ファザコン気質のあるアズモだった。
「もう!」
スフロアは諦めて手を離すが、やり切れない様子だった。
「私はあんた達と同じクラスで勉強したかったのに……」
やり切れない様子の後、今度は萎れてボソボソと言葉を呟く。
スフロアの心から漏れた声に俺の心が揺さぶられる。
出来れば俺も、スフロアと、俺達の揉め事をどうすればいいか分からず涙目であわあわしているルクダと同じクラスで学びたかった。
「……行くわよ、ルクダ。お馬鹿さんの相手をしていたって意味が無いわ」
「で、でも……」
スフロアは、ルクダに有無を言わせず手を引いて校舎の中に消えていった。
残されたのは、俺と野次馬と、騒ぎを聞きつけてやって来た先生のみ。
「どうすっかなあ」
誰に聞かせるわけでもなく、独りごちる。
—————
魔王立スイザウロ学園。
ここは、初等部・中等部・高等部からなるエスカレーター式の学園だ。
名前の通り、魔王国にあるこの学園は、歴史に名を残す人材を多数輩出した。
この世界屈指の高名な学校ってやつだ。
竜王の娘であるアズモもこの学校を受験する事を親父に勧められた。
親父の言った事だったので、俺が何か考える前に二つ返事でアズモが了承した。
ちなみに、直後親父が言った「この学校は全寮制だ。順調に行ったら、卒業するまで会えるのは長期休みの時だけになる」と言う言葉にアズモがこの世の終わりのように喚いた。
それから本当に色々あったが、親父の強い勧めで結局ここを受ける事になった。
しかし、大変なのはそこからだった。
スイザウロ学園の入試科目は、日本風に言ったら算数と国語。
それと面接。
中身が二十二歳の人生二週目男と、六歳と言うには大人び過ぎているアズモで構成されているので、面接は正直余裕だった。
だが、算数と国語の試験が駄目だった。
何しろ字が読めないし書けない。
これは、入試の過去問を一回でもやれば判明する問題だった。
だが、俺達は。
「小学校入試かー。まさか俺がやる事になるとはな」
『まあ、小学生程度の入試なら余裕だろう』
「それもそうだな。一応、過去問だけでもやっておくか?」
『要らん。そんな事よりも、父上に自宅から通えないからもう一度掛け合ってみよう』
「へいへい」
と、完璧に舐めていた。
その結果、試験で惨敗する事となった。
正直、自分の名前すらちゃんと書けた自信が無いので、受かったのは奇跡だと思う。
ぶっちゃけると、竜王の一族を象徴するネスティマスというネームバリューだけで受かった気がする。
なんとか受かってほっとしたものの、入試結果を元に上位者からクラス分けされる仕組みだったので、スフロアとルクダとは離れ離れになった。
クラスは一組から十五組まである。
まだ文理選択などの専門科目に分かれる必要の無い初等部なので、優秀な子から順に一組、二組といった順に進み、最後にあまりよろしく無い子達が十五組に入れられる。
勿論俺は十五組になったのだが、なんとスフロアとルクダは一組に入っていた。
スフロアはなんとなく分かるのだが、まさかルクダまで一組だとは……。
そうこう考えていると十五組の前まで来る。
教室札の文字と数字が読めないので十五組だという確信は無いが、一番隅にあったという事とこの教室だけ少し錆びているという事で、恐らく十五組だと思う。
……だとは思うのだが、違かったら嫌だな。
アズモさんや、数字って読めたりしないですかね?
『私に読めるわけが無いだろう。コウジと同じ時間を過ごしているのだから、コウジが読めない物は私にも読めない』
だよなあ。
突撃してみるしかないか。
『待て、ドアに何か紙が貼ってある。図の感じから座席表だろう。これに私の名前が書いてあったらここで確定する』
ほんとだ。
絶望と朝のあれが効き過ぎて、視野が狭くなっていたな。
『ここにネスティマス……と書いてあるな。アズモという字は知らないが、父上にも使われているネスティマスという字なら読める』
流石アズモ!
……いや、でも自分の名前くらいは覚えなきゃ駄目だろ。
『コウジだって、私の名前を書けないだろう』
そうだけどさ……。
ドアを恐る恐る開けて教室を覗く。
席は八席しか無かった。
少なすぎると思ったが、最低クラスともなるとこんなものなのだろうか。
『あった。あの席だな』
窓側から一列目で、前から二番目の席をアズモは指さす。
席は縦二列横四列で置かれているので、俺達の席はいわゆるラノベ席というやつではないだろうか。
『ふ、良い席だな』
机に荷物を置き、腰を落ち着かせる。
色々あったが、俺達の学園生活はこの場所から始まるんだ。
「ちょっと、そこあたしの席なんだけど!」
決意を新たに新生活に意気込んでいると急に女の子に声を掛けられた。
「いや、ここは俺の席だが」
俺達はちゃんと座席表を確認してからここに座った。
だから間違っているはずがない。
「はあ!?」
女の子はズカズカと廊下に向かっていき、座席表を剥がすと、ズカズカとこちらに向かってくる。
「ほら、ここに書いてあるでしょ! ネスティマスって!」
その瞬間、背中に嫌な汗が流れる。
俺と同じ歳のネスティマスに一人心当たりがあった。
「だからここはあたしの席よ! ラフティリ・ネスティマスのね!」
フィドロクア兄さん自慢のじゃじゃ馬娘。
ラフティリ・ネスティマス。
続柄的にはアズモの姪に当たる。
お前も俺と同じ十五組だったのか……。
というわけで始まりました、新章です。
既存キャラに加え、新規キャラが増えるので、ちゃんと書けるか少し不安ですが頑張ります。
章タイトルの続きはある程度まで進んだら付けたいと思います。
一日十話投稿というイカれた事をしてみたいです。
明日は休みなのでちょっと頑張ってみようと思います。
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