エイプリルフール外伝 「いつものデート」 1
話数整理のため、二部から引越し
2025年4月5日土曜日午後9時。
明日の日曜日が終われば月曜日がやって来る。
それもただの月曜日ではない。
新学年としての初日、玄関前に張り出されたクラス分け用紙を見て一喜一憂する特別な月曜日。
高校二年生、最初の登校日。
21:00
明日春休み最終日だけど最後に何かしない?
スマホを操作してチャットアプリのグループでメッセージを飛ばす。
仲の良い友達で構成されたグループでは直ぐにメッセージが帰って来た。
21:01
明日は宿題を終わらせる予定だわ
21:01
なんでまだ終わっていないのよ
しかも「予定」って何なの? それはちゃんと終わるの?
21:02
徹夜すれば終わる予定だわ
でも99割の確率で無理な気がするわ
そうだわ。良い事思いついたわ
どうせ終わらないのなら遊ぶわ
21:03
宿題をちゃんとやりなさい
遊びに来たら怒るわ
学生の本分が勉強などとは全く思わないが、ぎりぎり進級出来る程度の成績だった友達の事を憂いてそう返した。
スマホを置いて部屋を出る。
お風呂が空いた気がしたから誰かに入られる前にさっさと入る。
お風呂から戻ったら通知が溜まっていた。
21:03
むえ~…
21:16
じゃ、明後日を楽しみにしていてね
明日起こる楽しい事は感想文にしてまとめておくよ
…と言いたいところなんだけどね、先約があるからごめんね
21:16
<`~´><`~´>
21:16
スマホいじっていないでさっさと宿題をやるべきだと思うよ?
21:17
<`~´><`~´>
<`~´><`~´>
<`~´><`~´>
21:17
(^ ^)
21:17
<`~´><`~´>
<`~´><`~´>
<`~´><`~´>
21:18
(^ ^;)
21:18
<`~´><`~´><`~´>
<`~´><`~´><`~´>
<`~´><`~´><`~´>
21:19
兄様がすみません。私がきつく言っておきます。
21:19
<^~^>
21:20
ですが、それはそれとして宿題はしっかりやってください。
遠い目をしたスタルギ先生から「ちょっとあいつの学習面で面倒をみてやってくれないか? あいつ……このままだとちょっと……いや、だいぶ不味いなあ…」って言われる私の身にもなってください。
21:21
むえ~…
21:21
え、そうなの…?
クラス委員長なのに僕は何も聞いてないよ?
21:22
信用の差……というやつでしょうね。
毎日奔放に過ごしているクラス委員長と、陰からクラス委員長を支える人とではこうなるのは当然の事だと思います。
ちなみに私も先生から同じ事を頼まれました。
21:23
妹と従者に信用で負けた……ってこと?
21:24
<^~^>
21:25
あの…非常に言いにくいのですが、笑っていないで宿題を消化してもらってもいいですか?
21:26
<;~;>
21:26
それは卑怯だと思います。
まるで私が悪者みたいです。
21:27
あーあ、泣かせた
21:27
<;~;>
<;~;>
21:28
うっ…兄様まで…。
これは私が責任を取らなければなりませんね。
21:29
いえ、責任を取る必要はないと思います。
自分で自分の首を絞めているだけの自業自得なので。
21:30
いえ、私は決めました。明日は付きっきりで面倒を見ます。
いいえ、見させてください。
21:31
私もお供します。
21:31
心強いです。
21:32
朝9時以降だったら来ていいわ!
21:33
@スフロア
そういう訳なので明日はすみません。
明後日また会いましょう。
21:34
@スフロア
すみません。上に同じくです。
21:35
う~ん
先に断った僕が言うのもアレだけど、連続で断られていて可哀想
@スフロア
@ラフティリ をしめる時は僕も仲間になるよ
21:36
@スフロア @ブラリ 返り討ちにしてやるわ
@ダフティ @スフィラ 迎え撃つわよ
21:37
その書き方だとまるでスフロアさんも迎え撃つつもりのように見えます。
21:37
たぶんですが、実際そう考えていると思います。
21:38
数的不利だから僕が勝負のルールを決めるね。
次のテストの平均点で勝負するのはどう?
21:39
相手になってやるわ!
21:40
兄様、それは良くないと思います。
21:40
相手になるというか、相手にならないというか……。
21:41
私は明日に備えてそろそろ寝ます。
ラフティーさんも夜更かししてゲームなんてせずに早く寝てください。
おやすみです。
21:41
私も寝ます。おやすみなさい。
21:41
おやすみ!!!!!
あたしもおやすみ!!!!!
21:45
いま家族旅行中!
明日夜帰るよ! 月曜にお土産持っていくから楽しみにしててね!
今日はここ行ったよ!
21:47
箱根にある美術館だね
21:47
よく分かったね!
21:48
忘れられがちだけど実は僕、良い所のボンボンだからね
47都道府県の観光名所はほぼ全て回っているよ
21:49
すご~い! いつかみんなで旅行行く時、ブラリ君がいたら心強いね!
21:50
控え目に行って大船に乗ったつもりでいても大丈夫だと思うよ
旅行楽しんでね
土産話を楽しみにしているよ
21:51
任せて!!
21:52
しっかし、これじゃあいよいよ明日空いている人が…
…いや、あと二人いたね
21:55
すまん、アズモの春休みの宿題の面倒見てたら反応が遅れた
@スフロア 俺は明日空いているから出掛けようぜ
21:56
アズモも宿題が終わっていなかったんだね…
さすがラフティーちゃんと同じ血を引いていると言うか、なんと言うか…
21:57
貴様、月曜日覚えていろbyアズモ
21:57
ええもしかして、アズモとラフティーちゃんってまた喧嘩したの?
というかなんで自分のスマホじゃなくてコウジのスマホからメッセージ送っているの?
21:58
親父が、「スマホを持っていたら宿題が進まないだろ」って言ってゲーム機と一緒に没収した
アズモは今泣きながら俺のやった宿題を写してる
21:59
コウジとアズモのお父さんって普段めちゃくちゃ甘いのに、時々怖くなるよね
22:00
割と正当な理由で怒られるから怖いとは思わないな
今回に関しても普通にアズモが悪いし
22:01
それはそう
ところで、アズモちゃんは明日どうするの?
コウジと一緒に行けるの?
22:02
いや、流石に無理だな
こいつずっと遊んでいて宿題に全く手を付けていなかったんだよ
今日の昼頃にそれが判明してやっと始めたところなんだが…
宿題に対する集中力も持ち合わせていないから進みがめちゃくちゃ遅い
22:03
ふーん
ってことは行くのはコウジだけ?
22:04
そうなるな
22:04
へ~~~~~
22:05
なんだその含みのありそうな「へー」は
22:06
なんでもないよ
22:06
なんでもないことはなさそうだが…まあそういうことにしといてやるよ
アズモの宿題を見なきゃならんから俺はここら辺で
@スフロア 二人だけっぽいし続きは個チャの方で送るわ
22:07
(たぶん今頃アズモは必死になって宿題を進めているんだろうね…)
22:10
明日どこに行く?
候補がないならいつもみたいに映画でも行くか?
グループトークに溜まっていた通知を見てから、コウジとの個人トークを開いた。
「これじゃ結局いつものデートと変わらないじゃない……」
なんて呟きながら返事をする。
22:22
そうしましょうか
いつもの場所に11時集合で良いかしら?
22:25
OK
―――――
「ほら、やっぱり居るじゃない……」
駅のホームに着いたら、「どうせ来る」と思っていた奴が予想を裏切っていなかった。
上下紫色の芋っぽいジャージ、日光を受けて紫色に光るぼさぼさ髪。
目の下に深い隈を作ったそいつは、ストローでエナジードリンクを飲んで口を開く。
「お前の、思い通りには、させない……」
何故か息切れをしながら、びしっと指してそう言ってきた。
顔もスタイルも良いのに、恰好と所作で全部台無し。
コウジの妹のアズモだ。
「なんでそんな瀕死なの?」
溜息を吐きながらコウジにそう聞く。
こんな事もあろうかと持って来た櫛をコウジに渡した。
「宿題が終わって寝ていたんだけどな、なんか俺が家を出る音で目を覚ましたらしくて慌てて追いかけてきた」
コウジはアズモの寝癖を直しながら答える。
本当はコウジを挟まずに私がアズモの寝癖を直してやりたいのだけれど、アズモに嫌がられるので大人しくしている。
「コウジと、同じ電車に乗るために、一駅分飛んで来た」
「言ってくれたら一旦電車を降りてアズモが来るのを駅で待つんだけどな」
「私の、せいで、待ってもらうのは、申し訳ないから……」
「でも普通の人は電車と併走出来ないから、電車と併走するアズモを見るとびっくりしちゃうんだよな。だから電車とは併走しない方が良いと思う」
アズモがここに来るまでの説明を呆れながら聞く。
ブラリとダフティみたいに、コウジとアズモは双子。
そしてブラリとダフティみたいに、コウジとアズモの距離は近い。
それはもう、とても近い。
付き合ってとコウジに告白した私が言うのもなんだけど、まさかそれをアズモが許すとは思っていなかった。
でも、こうして二人で会おうとしたら邪魔してくるし、もしかしたら普通に許してはいないのかもしれない。
いや、でも……ダフティは、兄のブラリが許嫁の子と仲良くしている所を見る時は血涙を流しながらハンカチを噛んでいるけど、アズモは殺気の籠った目で睨んでくるだけ。
私の家族だって常に殺気を放ってきている。
アズモはダフティと違って普通の事しかしてきていない。
ならば、やっぱり私は許されている。
「……? 何故貴様は私を見ながらニコニコしている?」
「なんでもないわよ」
「……気色の悪い奴だ」
「それよりコンシーラー持っているけど要る?」
「要らない」
なんて会話をしながら、私を迎えるために一旦電車から降りて来てくれたアズモとコウジを伴い電車に乗る。
コウジもアズモも空を飛べるから、電車なんて乗らなくても目的地には直ぐに行けけど、二人は空を飛べない私に合わせてくれている。
いつかそれを二人に話した時、コウジは「気にするなよ。それに、空を飛んでいたら目線が痛いからな」と言っていて、アズモは「貴様のためではない。飛ぶと疲れるし、服に穴が空く」なんて言っていた。
コウジはストレートで、アズモはツンデレ。
正反対の二人を見ていたら、「本当はこいつら双子というか兄妹でも無いんじゃないかしら?」なんて思うものの、同じ双子のブラリとダフティも正反対なので「双子は正反対になるものなのね」と結論付けた。
突き詰めていったら何か違和感に気付けそうな気もしたけど、それに気付いてしまったら終わってしまうような気もしたので無視をする。
「そういえばアズモってお化粧しないわよね?」
「顔が良いから必要ない」
「あら、顔が良いなら尚更お化粧をするべきじゃない? 最強になれるわよ?」
「……一理ある。コウジ」
「俺を見るなよ。俺は絶対にやってやらないからな。スフロアもアズモの心を揺らすようなワードを使うなよ。どうせやる事になるのは俺なんだから。もう既に髪を担当しているんだから、これ以上負担が増えたら大変なんだって」
「そう言えばそうだったわね。アズモは全部コウジにやってもらっているんだったわ」
「む、朝起きるのは自分でやっている」
「パジャマから制服への着替えは? 顔を洗ったり髪をやったりするのは? 朝ご飯を食べた後の食器の片付けは? 歯磨きは?」
「それはコウジが『やらせてくれ』って言ったからやらせている。不本意」
「おい、嘘吐くなよ」
「うーん……聞いている感じ何もやらないアズモが悪いのもそうなんだけど、なんでもやっちゃうコウジにも問題があると思うわ?」
「そうだぞ、コウジが悪い」
「どの立場から悪いとか言っているんだ……。だが、一理ある。アズモ」
「やだやだ。まだまだおんぶにだっこされていたい」
「アズモって本当にブラコンよねえ……」
私は姉妹仲がうんざりする程悪いので少し憧れる。
アズモは私に対して少し口が悪いけども、姉達に比べたら断然マシ。
寧ろ可愛いくらい。
このままコウジと仲良くしていたらこんな風に軽口を言い合える妹もついでにゲット出来るからお得でしかない。
勢いに任せて素っ気無いふりをしながら告白をした自分を褒めたい。
――ね、ねえ、コウジ。
――どうした? そんなソワソワして?
――ちょっと私と付き合ってくれない?
――良いけど、どこに行くんだ?
――や、その付き合ってじゃなくて、お付き合いをして欲しいの付き合ってなのだけれどね? や、違うのよ。ほら、私って毎日色んな子達から告白されて大変なのよ? 知っているでしょ? だから魔除けみたいな? ほら、彼氏が居たら告白してくる人も減るし、断るのも楽になるじゃない? だからちょっと付き合って欲しいなって……思って……。
――ああ……。なんか分不相応な感じもするが、俺で良いなら。
電車では、この春休み中に各々何をしていたかの話をした。
私は時間があったからモデルのバイトをしていた。
「服を沢山もらったから今度アズモにも似合いそうな服あげるわよ」って言ったら要らないと断られた。
アズモの扱い方を心得ている私は「私じゃ着こなせないような服がいくつかあるから試してみない?」と言い直した。
そしたらアズモは「ふん、そこまで言うなら……」と簡単にデレた。
ふん、私を舐めるんじゃないわよ。
コウジも私と同じようにバイトをしていたらしい。
コウジの職場には何度か顔を出したことがあるから、どんな事を知っている。
コウジは手先が器用じゃないし、人と喋るのが得意だから、花に触れているよりかはレジや接客を時間の方が長い。
何故か固定客がいるからその人達の相手をコウジは任されている。
コウジのバイト先の店長はそんな様子を見て「ビジネスチャンスだ」とか思ったのか、店を増築してカフェスペースを設けていた。
「あれ、おかしいな……俺のバイト内容っていつから剪定からホールになったんだっけ?」なんて言っていたのを覚えている。
それと、店によくやって来る白猫と、常連客がまた喧嘩しだしたから咎めるのが大変だとぼやいていた。
店によくやってくるマスコットみたいな白猫は、コウジを含めた従業員と、お客さんにとてもよく懐いているが、一部の常連客に対しては何故か牙をむく。
アズモはずっとゲームをやっていたらしい。
なんか色々言っていたけど私はよく分からないから、とりあえずゲームやっていたのねというくらいの認識しかない。
よく分からないけどツメアト? ダブハン? 5シーズン連続プレデター? とかっていうなんか凄い事をしたらしくてコウジが「すげーなー……」って引いていた。
話をしていたら、あっという間に目的の駅に着いた。
春休み最終日の日曜だと言うのにいつものように人が多い。
「とりあえずご飯でも行きましょうか」
そう提案したらアズモが「なるべく人が少なさそうなところが良い」と駄々を捏ねたので少し歩いた先にある穴場のカフェに行く事にした。
―――――
「この後見る映画予約するけど何か見たい物ある?」
テーブル席に腰を落ち着かせ、注文をし終えた後にそう聞いた。
向かいの席に座るコウジとアズモは「うーん」と言い考える素振りを見せる。
「いや、やっぱりちょっと待って。スルーしたけど、なんで二人共そっち側に座っているの? 普通はコウジが彼女の隣に来るか、アズモが彼女に気を利かせてこっち側に座るべきじゃない?」
席に案内された時の事を思い出す。
まず前を歩いていたコウジが私に先に座るように促し、私がこちら側に着席したのを確認した後に私の前の席に座り、その後アズモがコウジの隣に座った。
「いや、あんたこっち来なさいよ?」
考えてみたら常識から逸脱していたのはアズモだった。
「おにーちゃん、あの女だれー? アズモを睨んでてこわーい」
アズモはあろうことか無垢な妹キャラを演じて私の言っている事を受け流そうとしているようだ。
「あの人はだな、おにーちゃんの彼女だ」
「えー、ウソだよー。おにーちゃんの彼女はアズモだもん」
「アズモにとっては残酷な真実かもしれないけどな、実は兄妹って結婚が出来ないんだ。だから付き合うっていうのもおかしい話なんだ」
「大丈夫だよ、おにーちゃん。アズモが社会常識をぶっ壊すから」
「壊すってどう壊すつもりなんだ?」
「物理的にだ。まずは首相官邸をぶっ壊す。法をぶっ壊すというのはつまり、国を作り替えるという事だ。だから私がこの国の常識になる。内政チートなんて生温い。暴力の前では無力だ。純粋な暴力でこの国の支配者になる」
物騒。
アズモあるあるなのだけど、冗談だろうが、本気で言っていようが表情が変わらないからどっちの意味で言っているのか分からないのよね。
ずっと無。
何を考えているんだろうっていう感じの顔。
ただこれ意識してやっているポーカーフェイスって訳ではないのよね。
本人の表情筋が死んでいるからずっと無表情なだけなのよね。
……まあいいわ。
こういう時はコウジに委ねるに限る。
「アズモがトップの国か……。なんか色々と終わっていそうな国だな」
コウジはアズモの表情が何故か読める。
私からは無にしか見えないのに、コウジはアズモの感情を読み取る。
「外交とか絶対出来ないだろうし、変な法律がいくつも作られそう。うん、それはやめようか、アズモ。アズモは自分の部屋でふんぞり返っているくらいがちょうど良いよ。世界征服なんてせずに家でゴロゴロしている方がアズモらしい」
「やだあー! 世界征服するのー!」
うん、本気で言っていたんじゃなくて、冗談で言っていたみたいだわ。
流石に今のは私にも分かった。
顔は不動なのに、ノリは意味分からないくらい良いのよね……。
ほんとなんでなんだろう。
ただ、それはそうと……。
「恥ずかしいからあまり騒がないでよ、アズモ」
「やだ」
「あんたは反抗期かっての。とりあえず否定から入るのをやめなさい」
「違う。ただの逆張りだ」
「尚更タチが悪いじゃない」
「まあいいわ。そこまでしてコウジの隣を死守したいならそっちに座っていると良いわ。私はこっちで一人寂しく食べているから」
「む」
少し不貞腐れながらそう言ったら、アズモが不服そうな声を漏らした。
コウジも何故か私の方を見てニヤッとする。
「アズモはスフロアの隣に行くのが嫌なのか?」
「別に嫌なんて言っていないが」
ははーん。
コウジがニヤッと笑った理由を察した。
「あーあ、私はアズモが隣に来てほしかったんだけどなー。まあでも、そんなに私の隣が嫌なら仕方ないかー」
「むっ」
自分で答えを言っていたわ。
こいつは逆張りしいからとりあえず否定から入るんだ。
アズモはコウジの隣から立ち上がり、ツカツカと歩いて私の隣にやって来た。
「嫌じゃないが?」
「やればできるじゃない」
「ふん」
隣に来たアズモをめちゃくちゃ撫でてやった。
アズモは嫌がる事なく、腕を組みながら撫でを受け入れた。
コウジと一緒に居るからか、だんだんとアズモの扱い方が分かってくる。
アズモは反抗期だから、要求を通したいのなら反抗心を煽るような言い方をすれば良い。
おまけにアズモは甘えん坊だから、出来た時はよく甘やかしたら大人しくなる。
うーん……こいつって本当に私と同い年なのかしら?
なんか大きな子供の面倒をみている気分だわ。
まあ、アズモの事は好きだから苦でもなんでもないけど。
なんなら私にめいっぱい甘えてほしいわ。
心を許してくれている気がしてとても嬉しいもの。
ちょっと嬉しくなった私は、運ばれて来た料理を少しアズモに分けてあげた。
アズモはなんだかんだラフティー並みに食い意地が張っているから餌付けが出来る。
私のフォークから受け取った物をもぐもぐ食べている姿ははっきり言って可愛い。
そんな私達を「仲良いなー」なんて思いながら見て来たコウジには少しムカついたけど。
あんたとアズモの方が断然仲が良いわよって。
「で、なんか話が脱線してしまったけれど、あんた達は何か見たい映画ってある?」
元々の話を思い出し、そう聞いたらアズモが隣でゴソゴソしだした。
「これ見たい」
アズモはそう言って、ジャージの内側から一冊の漫画を取り出した。
「なにそれ?」
「あんたどこにその漫画隠し持っていたの?」と言いたい気持ちを押し隠してそう聞く。
表紙に描かれているタイトルと絵柄は見た事のない物だった。
「背反の……? なにこれ?」
「む、これは私が趣味で描いたエッセイ漫画だった。こっちだった」
アズモは光速で漫画をしまい、ジャージの内側から別の漫画を取り出した。
「ねえ、エッセイ漫画って何? なんかコソコソ描いているなとは思っていたけど、何描いているの? あと、どっからその漫画取り出したの? ジャージの内側にいっぱいポケットが付いていたりするの?」
今度は堪え切れずにそう聞いてしまった。
「これは今流行りの漫画だ。VRMMOという種類のゲームに取り込まれてしまった主人公達が現実世界に戻るためにゲームクリアを目指す話だ。そしてこの作品のエピソード0が今、劇場で視聴できる。この意味が分かるか?」
ガン無視された。
そんなに触れてほしくない話だったのかしら。
「よく分からないけど、その映画が観たいってことね? 聞いている感じ、ゲーム要素が強そうだけど、ゲームをあんまりやらない私でも面白さが分かるかしら?」
「分かる。レベルアップや、ステータス上げなどのゲームの基本的な概念も説明してくれる作品だから」
ふーん。
ま、あまり期待せずに見てみようかしら。




