十七話 コミュニケーション弱者がああああ!
フィドロクア兄さんから生み出された水で周囲を満たされた。
この水には俺達の足元を泳ぎ浮かばせてくる小魚の他に、イルカやサメなどの中型の水棲生物。
奥の方にはクジラやダイオウイカ等の大型の生物までいる。
俺達を包む水から、水を泳ぐ生物まで全部フィドロクア兄さんの手によって出現した。
ここは完全にフィドロクア兄さんの手中だ。
そもそもフィドロクア兄さんは、あの花の化け物を軽く捻った相手だ。
化け花に劣る俺達がどうこう出来る相手では無い。
圧倒的に格上の強者が嘘を言うなよと言っているし、下手な事は言わない方がいいな……。
元よりアズモの兄に嘘を吐くつもりなんか無いが、唾を飲み込み質問に備える。
「まあ、殺す気なんてないんだけどな。兄貴の可愛い冗談よ」
「……は?」
「君ら、俺の可愛い妹と友達だぜ? 邪険に扱うわけがないっての。それに俺の言う話っていうのは、ほとんど頼み事よ」
何を言われるのだろうと身構えていたが、フィドロクア兄さんの気の抜けた言葉を聞いて脱力した。
凄みながらそれっぽい事を言われたため、覚悟していただけにその落差が大きい。
『この短い間で分かったが、こいつは私の苦手なタイプだ』
いつものようにアズモが脳内で喋る。
俺的には、今まで出会った人の中にアズモの得意そうな人がいた記憶が無いから、それを言われた所でな……と思ってしまう。
まあだがアズモさんや。
今回に限っては俺も苦手なタイプかもしれない。
強すぎるから冗談を言っても冗談に聞こえないタイプ。
『こういうタイプはなんだかんで切れる。そして地雷を踏み抜いた瞬間には……と言ったパターンが多い。漫画で学んだ』
漫画って言うのは創作だから現実ではそう振舞う奴はいない。
そう断言したいんだけどな。
フィドロクア兄さんならもしかして……? って感じる何かがあるから言えないな。
『ならばコウジの出番だ。私は人と喋るのが嫌いなのでな』
しょうがないな……って今回ばかりは通さないからな。
だいたいアズモは嫌いじゃなくて苦手だろ。
俺は知っているからな?
初対面の人と話す時にアズモが俺に喋るのをほぼほぼ任せている癖に緊張して喉に力を入れている事を。
かなり喋りにくいんだよ。
あれ、喋るのが苦手だから喉に力をついつい込めちゃっているんだろ?
『違うが? ただの嫌がらせだが?』
嘘つけアズモ。騙されんぞ。
それに他にもあるからな?
第一声を出す時に何故か舌を動かしづらいんだよな。
これも、アズモの嫌がらせなのか?
『そうだが』
あー、じゃあ、話すのは苦手じゃないと?
『無論』
それならさ、結局目の前の青年に名前聞けてないからさ、尋ねてみてよ。
十中八九、フィドロクア兄さんだと思うけど。念のために。
話すのが苦手ではないアズモなら、そのくらいは出来るよな?
『ほー、出来るが? 良いのか? 私が超絶ペラッペラに喋れる事が分かったら、コウジはもう喋りづらくなるが? もう私に任せた方がコミュニケーションを円滑に進められるって現実に打ちひしがれると思うが?』
そこまで言うなら、華麗なコミュニケーション能力ってのを見せてみろよ。
『本当に良いのか? 後悔するぞ?』
ほら、はよ喋れや。
『しょうがないな。では聞いておけ』
はいよ。
「……………………ぅぁ。ん……名前……」
……想像以上に酷い。
それで、何か反論ありますでしょうか、アズモさん?
『……』
このコミュニケーション弱者がああああ!
「クッハハハハハハ! お前ら仲いいな!」
「なんだかんで、俺達はもう一年以上の付き合いだし……」
——反射的にフィドロクア兄さんの言葉に答えようとしたが、俺達の会話が聞こえている……?
さっきの会話は声に出していない。
そもそも俺達が会話をする時は、脳内で会話をするのがほとんどだ。
時々、俺が声を口に出すくらい。
という事はだ。
「ああ、勿論聞こえているぞ。……というか、お前達は気付いていないのか? アズモの方に付けた魚から、声が出ている事に」
……どういう事だ。
「…………ドウイウコトダ」
何か聞こえた。
俺達にくっついている魚。
その中にいる紫色の魚。
そいつが喋っている。
「……ソイツガシャベッテイル」
感情の籠っていない機械音声みたいな声。
アズモとの会話に花を咲かせすぎて全く気付かなかった。
しかし、もしもだ。
もしも、ここで俺がボカロの歌詞を頭に浮かべたら面白い事が出来るんじゃないか?
『……! やれコウジ!』
「やらせねーよ。止まれギョタロウ」
「……ウィス」
くそ、止められたか。
「全く。考えている事を筒抜けにするギョタロウをこんな風に使うやつは初めてだ。それに脳内カーニバルか? ずっと喋っているとは思っていなかった」
どうやら、ギョタロウとやらの脳内会話筒抜け会話は終わってしまったようだ。
無念。
「さてと、このままずっと妹と喋っているのもいいが、そこにいる嬢ちゃんがさっきから口をパクパクさせて面白い事になっているし、実家の近くでこんな事をずっとやっていたら親父に怒られちゃうかもしれないからいい加減話をしようぜ?」
抱えているスフロアを見てみたら、俺とフィドロクア兄さんを交互に見ながら本当に口をパクパクさせていた。
スフロアには悪いが、面白い光景だ。
しっかし、不味いな。
声が筒抜けだったって事は、アズモの他に俺がいるのがバレたって事か?
別に隠しているわけじゃなかったけど、説明するのが面倒なんだよな。
「分かったよ、兄さん。取り敢えず自己紹介してくれない? フィドロクア兄さんって呼んでいいのか悩んでいるんだけど」
「失敬失敬。まだ名乗って無かったな」
「俺の名前は、フィドロクア・ネスティマス。ネスティマス家三十二人目の子供で、十八男。一から十までの兄貴と姉貴には負けるが、ネスティマス家で最強の水龍って言ったら俺だ。よろしくな、アズモ、コウジ」
短いのが続いてしまっている…。
そろそろ一章が終わります。
終わったら二章入る前にちゃんと書いた日常編を数話上げるので許してください…。
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