表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
166/177

聖夜の戦い ―血戦編―


「……?」


 左右から圧迫される感覚を受けて目が覚める。

 不思議に思い瞼を開いて確認してみると、スヤスヤと寝息を立てるルクダとスフロアが隣に居た。


「なんだ……」


 なんだろうと思ったが、ただ二人がくっついて寝ていただけだった。

 圧迫感の正体が分かって安心した。


 眠かったので、そのまま目を閉じて再び戻ろうとしたが、何か大事を忘れているような気がする。


 ……そういえばなんで二人は隣で寝ているんだっけか。

 確か二人が家にやってきて……。


 ぼんやりと動く頭で今日あった事を思い出す。


「……………………」


「…………」


「……っ!?」


 ガバっと飛び起きた。

 慌てて窓の外を確認する。


 外はまだ暗いままだった。


 ……危なかった。

 寝てしまうだけに留まらず、二度寝をしてしまうところだった。


『残念だ。そのまま気付かずに寝てしまえば良かったのに……』


 本来の目的を思い出したら直ぐにアズモの声が頭の中で響いてきた。


 アズモは起きていたのか。


『無論だ。ミイラになるミイラ取りをアホだなと思いながらボーっとしていた』


 起きていたなら起こしてくれよ……。

 しかしどんくらい寝ていたんだ俺は?


『一時間くらいだ。私もそろそろ寝ようと思っていた』


 そうか……。

 …………これアズモが寝ていたらサプライズが出来たんじゃ?


『……っ!? 謀ったな!』


 いや、俺は何もしていないぞ。

 アズモが勝手に夜更かししていただけだ。


『……』


 よほど後悔したのか、アズモが黙ってしまった。

 慰めたい気持ちはあるが、動き出さなければ。


 気持ちを切り替えて、俺の腕を握りながら眠っているスフロアの腕を慎重に放そうとする。


「…………」


 ……全然取れない。

 こいつ俺の腕を強く握り過ぎじゃないか?

 ルクダなんて脇の下に潜りこんでいるだけなのに、スフロアは両腕で俺の腕を挟みながら寝ている。


『む……こいつのそれには私も手を焼いていた。コウジが寝てから少しして、同じく寝ているはずのスフロアが腕を絡みつかせようとしてきたのだ』


 無意識で腕を伸ばして来たとでもいうのか?

 というか、起きていたのなら抵抗しなかったのか?


『ふん、見縊るなよ。一人で激しい抵抗をしていた。その女に腕を取られたくなど無かったから激しく抵抗をした。……そして負けた』


 なんで寝ている奴に負けているんですかアズモさん……?


『絶対掴まれたく無いという私の意思よりも、絶対掴んでやるというスフロアの執念の方が上だった。恐らくだが、こいつは私の事を抱き枕かなんかだと勘違いしている』


 ええ……。

 普段、抱き枕を使って寝ているのかスフロアは?

 だとしたら、かなり意外な事をしている。見た目からは想像出来ない。


『起こすのを覚悟して多少強引にやらなければスフロアの拘束は抜け出せないだろう』


 寝落ちしてしまったせいでこんな事になるとはな。


 ルクダを起こさないように反転し、スフロアの方を向く。

 スフロアに拘束されていない方の手を使って、無理やり引き剥がす事にした。


『そこだいけ。ついでに抓ってやれ』


 アズモがうるさい。

 起こしたくないんだからそんな事をする訳がないだろ。


『だが普段の鬱憤を晴らす良い機会だ』


 俺はアズモと違ってスフロアに鬱憤なんて溜めてないんだよ。


『な、なんだと……。こんな明らかに色目を使ってくる女に対して何も思っていないというのか……?』


 六歳児だからな。

 何をやっていても「可愛いなー」としか思わないんだよ。


『前に言っていた事と違うではないか……!』


 アズモがやろうとしていた事は特別可愛くなかったんだよ。

 自分の手を汚さずに気に入らない人を排除しようとしていただろ。

 抱き着き癖があるだけのスフロアと比べるな。


『なっ、なんてやつだ……!? 酷い、怒った!』


 ……あ、取れた。


『話を聞け!』


 そうしたいのは山々なんだが、アズモの話は長いからな。

 夜が無限に続く訳でも無いし。


 頭の中でギャアギャア喚くアズモを無視して、とある大型の機械の元へと向かう。


 全自動お着替えマシーン。

 あらかじめ入れて置いた服や、流行や利用者のニーズを元に取り寄せられた服に着替える事が出来る機械。


 家に置くには大きすぎて邪魔な上に超高額という欠点があるが、とある層からの支持を集めている。

 主に百年単位で生きていて、私財を蓄えていて、久しぶりに人里に降りるが何を着て良いか分からないという長命種に重宝されている。

 そして俺達もこの機械のヘビーユーザー。


 機械の中心に立ち、両手を広げて待つ。

 それだけで着替える事が出来るなんて楽で良いじゃないか。

 だいたい俺達は二人で一つの身体を共有している都合上、細かい作業というのが得意じゃないんだ。


 勿論だが、アズモの身体の大きさに合うサンタっぽい赤い服は既にこの中に入れておいた。


 サンタ服に着替えて、リビングに戻って親父に用意してもらったプレゼントを受け取ってくる。

 ベッドの脇にでも二人のプレゼントを置いておき、カモフラージュとしてアズモ用のプレゼントも置いておく。

 最後にまた全自動お着替えマシーンに戻ってパジャマに戻る。


 ――完璧だ。


 頭の中で尚も喚いているアズモの事を無視して、作戦を今一度思い出す。

 抜けが無い事を確認して機械の中央に立ち、スイッチを入れた。


 ――ゴウンゴウンゴウンゴウンゴウンゴウンゴウン。


「……」


 ……そう言えばこの機械、高価で大きくて場所を取るって欠点以外にも、稼働時に大きな音を出すっていう欠点があったな。

 そうか、だから人里離れた所に住む種族に人気があるのか。


 少し先の方で何者かが動く気配を感じた。


「……なんの音? あれ、アズモが居ない? ……あんた何してんの?」


 スフロアが起きてしまった。

 それどころかバッチリ目が合った上に、変装を見破られている。


「……お、終わった」


 ここまで頑張ったというのに、スフロアが起きてしまった。

 ルクダはまだ寝ているみたいなのに、どうしてスフロアは起きてしまったんだ。


『待て。諦めるのはまだ早いぞ。私に考えがある』


 絶望に打ちひしがれていたが、俺の宿主で普段は何もしないアズモが俺にそう伝えてきた。

 何か考えがあるらしい。


 そうだ、アズモは普段は本当に何もしないが、こういう時は咄嗟の機転を利かせて窮地を救ってくれる。


『ふん。今更私の価値に気付いたところで遅い……と吐き捨ててやりたいが、私とコウジの仲だ。今回は許してやる』


 アズモ……!


『良い。さて、まずはこのままスフロアに近づくぞ』


 ああ、分かった。


 何か策があるらしいアズモの言葉を聞き、言われた通りにベッドへと戻る。

 近づいて来る俺をスフロアは無言で見ていた。

 気のせいだろうか、「こいつら何かしようとしてきているわね……」と感づかれている気がする。


 しかし、それに負けずにスフロアに近づいて行く。

 そしてある所まで動くと急に身体が勝手に動いた。

 俺以外にこの身体を動かせるのは……。


「入眠パンチ!」


 ……ええ?

 アズモさん……?


「……あぶなっ!?」

「何故避ける」

「逆になんでいきなり殴ってきたのよ」


 …………お、終わった。

 策があるとか言っていたのに何もないじゃねえか……。

 しかも避けられているし。


「こんな事をするのは……アズモ(アズモ)ね」

「ふん、どうだろうか」

「いや、バレバレなのよ! というか、なんで殴りかかってくるのよ!?」

「私はむしゃくしゃしているのだ」

「完全に私怨じゃない!」


 どちらが身体を動かして殴りかかってきたのかを秒で看破するスフロア。

 そんなスフロアに掴みかかるアズモ。


「……ん、んん。二人共どうしたのー……?」


 騒音で目が覚めたのか、眠そうに半目で問いかけてくるルクダ。


「なんでもないわよ!? なんでもないから安心して寝ようね、ルクダ!」

「大丈夫だ。こいつを寝かせて私も眠る」

「そうなんだぁ……」


 二人になんでもないと言われたルクダはむにゃむにゃと呟き、再び眠りに戻った。


(私を寝かせるですって……!? 冗談じゃない、あんたを先に寝かしてやるわ!)

(ふん、やれるものならやってみろ!)

(頼むからルクダと同じように二人共寝てくれって!)

(うるさい!)

(黙れ!)


 その後、部屋では静かに熾烈な戦いが行われる事になったが、企画の主催者は途中で肉体精神共に疲弊し誰よりも先に意識を手放した。



―――――



「ふむ……例の物を取りに来ないと思えばこんな事になっているとはな」


 早朝。まだ陽が完全には上っていない時間帯。

 アズモの部屋の扉が開き、プレゼントを抱えた男が入って来た男がそう呟く。


 部屋は何故か物が錯乱していた。

 ベッドの上で布団に包まれ天使のような寝顔でスヤスヤと眠る一人の女の子と、散らかった床で抱き合いながら力尽きたようにして眠る二人の女の子。


「うむ……」


 男は二人をベッドに上げる際に二人を離そうとしたが、お互いがお互いを強く掴んでいて離れなかった為諦め、そのままベッドの上に置き布団を掛けた。


「良い友達が出来ていた……という事か」


 男は三人の女の子が隣り合うように寝かした後、三人分のプレゼントをベッドの脇に置き部屋を後にする。


「確かこう言うのだったな……メリークリスマス」


 最後にそう言って扉を閉めた。



アズモとスフロアは同時に目を覚ましたとかなんとか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] まず初めに完結おめでとうございます! 先日からちまちまと読み始めてみたらいつの間にか2部が始まっていたのでこの後も読ませて頂きます! [一言] 面白かったです! 引き続き2部の方の執筆活…
[良い点] オラッ、睡眠! [気になる点] プレゼントの中身はー? [一言] 次はバレンタインだな! 唐突ですが、カットされたコウジの初入浴が読みたい (ゲス顔) TS少年が恥じらいながら入浴す…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ