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百四十三話 この景色をもう一度見よう


「こいつに身体を返すと何してくるか分からないし、一先ずこいつは俺の身体の中に入れておくか」


 俺がなんとなしに言ったその言葉が全ての始まりだった。


 魂を身体から引き抜かれたアオイロは気絶したのか、完全に沈黙していた。

 アズモを背負いながら俺が異世界転移した元凶であるアオイロを倒した。


 決まり手は解放を使用し魂体となった俺が、アオイロの魂を身体から引き抜いて無力化させるという初見殺しみたいなインチキ技だった。

 俺達の事を侮っていたアオイロは自分に行われる荒業に対応する事が出来ず、為す術も無くやられた。


 ただのオレンジ色の球体となったアオイロの魂を掴んで、会話をしてみようと試みたがアオイロはうんともすんとも言わない。

 他者の魂を好き勝手に弄って遊んでいた癖に、自分は魂を抜かれたら直ぐに気絶するような軟弱者だったのだ。


 しょうがないので魂を肉体に戻そうとしたが、自分の身体に戻ったら何をしてくるか分かったものではない。

 その為、アオイロの身体に戻す訳にもいかず少し悩んでいたが、「俺の身体に宿せば良いか」という事に気付いた。


「なっ……!」

「ナーン!?」


 しかし、この場に居る俺以外の人はそれを聞いた瞬間に不快感を露わにした。


「何を言っているのだコウジは! そいつをコウジの身体に入れるだと!? それこそ何をされるか分かったものでは無いだろう!」

「ナーン、ナーン、ナーン!」


 俺にしがみついたままのアズモが俺の事を見上げながら文句を垂れる。

 白猫の姿に擬態している大輪、俺達の召喚獣ことスズランも全身の毛を逆立たせながら抗議してきた。


「でも他に入れる場所が無いだろ? アオイロに殺された人達の身体に入れる訳にもいかないし」

「だからと言ってコウジの身体にそいつを住まわせるのもおかしな話だろう! だいたいコウジの身体は既に満員だ! 私とコウジだけでこれ以上誰が入れる余地など無い!」

「じゃあ、スズランの身体にでも入れてもらうか……?」

「ナーーーン!!」


 アズモは絶対嫌だと反対し、スズランはぴょんぴょんジャンプして暴れ始めた。

 言葉は伝わらないが怒っている事だけは分かった。


「困ったな……」

「ナーン」


 いよいよ万策尽きて頭を抱えると、スズランが俺の目の前に一輪の青い花を差し出した。



―――――



「……ここは」


 まだ喋っていたいと駄々を捏ねるアズモのご機嫌をなんとか取り解放を解いた。

 二人で俺の身体の中に戻り、また前みたいに話せるようアズモには頑張って回復してもらう事にした。


 いつまでも魂体のままで居る事で、力を消耗しきっていきなり消滅されても困る。

 戻る前に涙目のアズモと熱い抱擁を交わしたら、異世界に残したアズモにも会いたいという気持ちが強くなった。


 その後、スズランに魂の抜けたアオイロの身体や、アオイロにやられた犠牲者の遺体をスズランの普段居る空間に保管してもらい、アオイロが起きるのを静かに待っていた。


「気付いたか」


 俺にそう返されたアオイロは首を動かし周囲を見回すと溜息を吐いた。


「私は負けたのですね……」

「ああ、これでお前の野望は終わりだ。これからお前には倫理を身に着けてもらう」

「この身体で、ですか?」


 アオイロが葉っぱとなった自分の両手に視線をやりながら問う。

 頭は花、茎から二つの葉っぱと根が生えた植物の姿が今のアオイロの姿だ。


「流石の私でも植物になった事は無いですよ」

「逃げられたら困るからな。今のお前の生き死にはスズランに握られている」

「……人間化」


 そう呟くと、アオイロの姿が一瞬で変わる。

 身構えかけたが、植物の状態で人間化したアオイロの姿を見て浮きかけた腰を地面に戻す。


「…………はぁ、これじゃどう足掻いたって逃げる事は出来ませんね」


 人間化をしたアオイロは確かに花から人になったが、小さいままだった。

 15cm程度の頭から花が生えた小人。

 魔物固有の能力はその身体でも使えるようで少し安堵した。


「何処に逃げてもスズランがお前の事を召喚出来るから逃げても無駄だがな」


 アオイロはやれやれともう一度溜息を吐く。


 召喚は世界を超える。

 それはスズランが既に証明してくれた。

 スズランに関しては自力で俺の近くに現れただけだが、向こうの世界に居るアズモの元にも行こうと思えば行けるらしい。


 ただ、今はそれが出来ないのか、スズランに向こうの世界に残ったアズモの様子を聞いても首を横に振るだけだった。


「アオイロの力で俺をもう一度あの世界へ飛ばしてくれ」


 俺はアオイロに頭を下げた。


 魔物としての力がまだ使えるのなら、異形化や解放も使える。

 アオイロのその力がどういった物なのかは知らないが、両方の世界で俺をストーキングしていたこいつなら俺を異世界に連れていけるはずだ。


「あの世界はコウジ君が思っている以上に危険な世界ですよ」


 俺はあの世界で、魔物の世界しか見ていない。

 それもスイザウロ魔王国の一部という極限られた場所のみだ。

 交通路整備も法整備もされた人間と魔物が共存する完成された国。


 だが、アズモを助けに行くとなったら話は別だ。

 誰かが俺とアズモに良からぬ感情を抱いていた。

 俺があの世界に戻ったら、テリオ兄さんを倒せてしまうような誰かが俺を狙って来るかもしれない。


 考えたくないが、もしかしたらテリオ兄さん自身が俺の事を刺して来た可能性も完全には否定出来ない。


「……それでも俺はあの世界に戻りたいんだ」

「どうしてそこまでしてあの世界に行きたいのですか?」


 あの世界で何が待ち受けているのか俺は分からない。

 だが、それでも俺は行かなければならない。


 何故なら、あの世界には。


「アズモが居る」


 アズモが異世界で俺の帰りを待っている。

 その理由があるだけで俺は死地に飛び込める。


「……そう、ですか」


 アオイロはそう言うと、青空を仰ぎボソボソと何かを呟く。

 しかし、俺には何も聞こえなかった。


 少しの間沈黙が流れ、アオイロは小さな口を開く。


「まぁ、良いですよ。コウジ君の頼みなら私は断りませんから」

「そうか……」


 肩の荷が下りた。

 これでやっとアズモの居る世界に戻る事が出来る。


「では、行きますよ。こんな場所に居続けても良い事なんてありませんから」

「頼んだ」


 アオイロは頷くと、何も無い場所に向かって歩き始める。


「……彼の地へと逃げる為に、その身を余所へ」


 アオイロが何かを唱えると、アオイロの進行方向上にガラスのような階段が現れた。

 階段は途中から見えなくなっており、何処に繋がっているのかが分からない。


「私が先に行きます。私と同じように右足からこの階段を一段ずつ上ってください」

「ああ……」


 アオイロは俺にそう言うと、小さい身体を器用に動かして自分の背丈程ある段差を跳ねながら飛び越えるように上っていく。


 俺も立ち上がり、階段へと足を進める。

 アオイロに言われた通り階段を右足から一段ずつゆっくりと上っていく。


「あ……」


 階段を五十段程上ると、少し先を歩いていたアオイロの姿が見えなくなった。

 恐らくあの場所が世界の境界線なのだろう


 一旦歩みを止めて、後ろを振り返る。


 何処までも続く青い空が広がっていた。

 周りは木で囲まれて何も無いが、遠くの方には田んぼや民家が見える。

 道路にはがらがらのバスが走り、空には飛行機や鳥が飛ぶ。


 ふと下を見ると、階段が下の方から消えてきているのが見えた。

 前に向き直り、止めた足を動かす。


 この景色をもう一度見よう。

 そう決めて歩みだした。











 三章 戻った身体と戻らない記憶―完―



背反の魔物~異世界に転生したと思ったら竜王の娘に憑依していた~は今話にて、本編終了になります。


この後、三章閑話を一話だけ上げ、その後エピローグです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんで自分魂に入れようとしてんだコイツ [気になる点] 15cmの体で階段を上るのは無理では… [一言] ???「え!?うちの息子が翼を生やして学校から飛び出してそのはまま行方不明なんです…
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