百三十三話 「というかデートだな」
「なあ、夏休みどうするよ」
「やっぱ海よ」
「おーん、なら大洗の方でも行くか」
「耕司もそれで良いか?」
「あ、ああ、俺もそれでいいぞ」
今日は2025年7月22日火曜日。
今週の金曜にはもう夏休みが始まる。
俺は楽しい夏休みを送る為に、入院していたせいで受けられていなかった期末テストに追われていた。
昨日も授業後に遅くまで学校に残って三科目分のテストを消化したが、まだ四科目残っている。
今日も放課後は二科目分のテストを受ける。
なのだが、昨日やったテストの結果が思ったよりも悪くて焦っていた。
国語53点、英語42点、地理34点。
学年平均点は順に、68点、60点、66点だった。
二週間寝込んでいたせいか、初めて平均点よりも下の点数を取ってしまった。
俺の学校では平均点の半分よりも低い点数が赤点になり、夏休みは補習に追われる。
今日は数学二科目分のテストがある。
そして俺が一番苦手な科目も数学。
いつもなら平均点よりも少し上の点数を取っていたが、今日返されたテストみたいな事になってしまったら夏休み中のお勤めが決定するのは間違いない。
楽しい夏休みを送る為には、今日のテストを頑張らなければならない。
「な、なあ、数学ⅡBの平均点って何点になると思う……?」
数学のノートを見返していて驚いたのだが、ほとんどの公式を忘れてしまっていた。
一か月前までこのノートに板書を写していたはずなのに、綺麗にほとんど抜けてしまっている。
このままでは非常に不味い。
「あー? まぁ、いつも通りだったら60点くらいじゃね? そんなにヤバイのか?」
「控え目に言ってやばい。俺の今日の点数を知っているか? 地理なんて34点だったからな?」
「おもろ。あと一問でも間違えていたら補習だったやん」
「物は相談なんだが、ここら辺勉強しておけばどうにかなるぜって所を教えていただく事は……」
友達に笑われたが、俺は藁にも縋る思いだった。
なんせ夏休み中はほぼ予定が詰まっている。
学校の友達と遊んだり、ネットで知り合った友達と遊んだり、その辺で出会った友達と遊んだりする約束をした上に、バイトもある。
バイトに関しては母さんの伝手で働かせてもらっている花屋さんとは家族ぐるみの付き合いなので、補習になったとでも伝われば花屋のご婦人に「勉強に集中して欲しいからシフト減らしとくね」とか言われるかもしれない。
貴重な収入源が無くなってしまうのはとても不味い。
「と、言っても俺らはもうテスト受けてるから何も言えないんだよな」
「んー、まぁ、授業中に先生が出すぞって言っていた所くらいは教えても良いんじゃない?」
「それくらいならまぁ大丈夫か?」
「あと、学校に来られなかった分のノートもみせてあげるよ」
「あのー、授業録画したのがあるから良ければ見ますか? 倍速で見たら放課後には間に合うと思います」
「どけ皆、俺が学年一位の手腕見せたるわ」
「学年十位の私も要りませんかねっと」
わらわらと教室中から人が集まって来る。
仲間内で話していたが、騒ぎを聞きつけた人達が後から後からとやって来る。
皆で俺を囲み、各々自由に喋るサポート合戦が始まった。
「み、皆……有難いけど、実は俺聖徳太子じゃないんだ!」
教えてくれるのは本当に有難かったのだが、声が混ざり過ぎて何を言っているのかが分からなくなっていた。
「そう言えばそうだったわ。解散」
「学年一位のノートだけ置いとくわ」
「海行くんだからしっかり点数取れよ」
「呆けていないで早く勉強しなよ。私はもう行くけど」
「なんだこいつら……」
—————
「——という事が昼休みにあったんですよね」
その日の夜、今日あった事を電話で喋っていた。
「そうですか。コウジ君の周りではいつも面白そうな事が起きていますね」
「面白い友達に感謝ですね」
相手はアメリカからの留学生で日本語ペラペラなフレンダさんだ。
フレンダさんは入院時から俺の事を心配してくれ、よく電話をくれた。
退院後もこうして熱心に電話を掛けてくれる。
「それで、今日のテストは大丈夫そうでしたか?」
「なんとか赤点は回避したんじゃ無いかなと思います」
当初は赤点にならないか心配だったが、皆の協力もありなんとかなったと思う。
「良かったです。夏休みは私ともお出掛けしてくれるとの事で心配していました」
「心配掛けてしまってすみません……」
「良いですよ。それよりも、余裕があったら私のとの事も考えてくれたら嬉しいです」
「……お返事はもう少し待って欲しいです」
気付いて二日目、フレンダさんは初めてお見舞いに来てくれた日に「好きです」と言ってくれた。
俺が二週間目覚めない事で想いが爆発したらしい。
もしも目覚めたら、遠くへ行かない内に私の気持ちを伝えようと決めていたと教えてくれた。
だが、俺はフレンダさんのその想いに応えず保留にした。
フレンダさんは俺の事を想っていてくれて、色々と良くしてくれる。
ご飯を奢ってくれたり、色んな場所に連れていってくれたりと自分も忙しいはずなのに本当によく尽くしてくれる。
おまけに綺麗な人で、スタイルも良く、服のセンスも良い。
これ以上ない程の人なのだが、俺は想いに応えるかどうか迷っていた。
「両親が心配しているので、夏休み中に私は国に一旦帰ります。だから、今度お出掛けする時に教えて貰えると嬉しいです」
フレンダさんは優柔不断な俺に愛想を尽かす事無く、健気にそう言ってくれた。
「……分かりました。その時には必ず」
「嬉しいです。ありがとうございます」
友達は多いが、彼女は一度も出来た事が無い。
今まで良い感じになった子が数人居たが、皆突然、引っ越しや転校で急に何処かに行ってしまった。
だから、面と向かって「好き」と言われたのもフレンダさんが初めて……だと思う。
一回だけ小さな女の子に好きだと言われたような気もするが、小さい頃の思い出だろう。
「では、明日も放課後にテストがあるようなので今日はこの辺で。テスト頑張ってくださいね」
「お出掛け出来るように頑張ります」
「名残惜しいですが、おやすみなさいです」
「……おやすみ」
会話終了のボタンを押して、ベッドに転がる。
なんて応えるかまだ決まっていない。
フレンダさんは良い人だ。良い人だし、恋愛対象として見る事も出来る。
それなのに悩んでいる。
別に好きな人が居る訳でも無いからお試しで付き合ってみて、相性が良かったらそのまま付き合い続けるというのでも良いのかなと思っている。
付き合っている内に俺もフレンダさんの事を好きになるかもしれない。
だが、真剣に告白してくれた人とそういった理由で付き合うのはどうかとも思う。
現に、脳が警鐘を鳴らしてきていた。
止めた方が良いと。
危機管理が働いているのかどうかは分からないが、そういう理由で付き合うのは止した方が良いと本能で分かっているのだろう。
フレンダさんの想いに応えようとすると、頭がうるさくなるのだ。
「まあ、お出掛け……というかデートだな。そこでフレンダさんとどうしたいか決めれば良いか……」
思考放棄をした。
本能がそう告げている事だし、今は考えない方が良い。
ベッドから起き上がり、勉強机に座る。
色々考えなければいけない事はあるが、今一番考えなければならないのは期末テストだ。
フレンダさんがどういう人かは四十四話にあります。
忘れてしまった方や、この話から入った方はそこを読めばどれだけ素敵な方か分かると思います。




