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十五話 「ごめんな、スフロア。俺には何も出来なかった…………」

本日二話目の投稿です。


『……私に考えがある。一か八かだがやってみないか?』


 逆立ちしても敵いそうに無い熊の魔物を前にアズモが俺にそう告げた。


 良い逃げ方でも思いついたのか?


『いや、違う。やつを倒すための策だ。それに、人を背負ったら確実に追いつかれる。逃げるのは懸命ではない』


 倒す策か……。


 俺はアズモを信用している。

 同じ身体を共有しているんだから不利になる事を言う分けがない。


 それにアズモはそういう嘘をつかない。


 だが……俺達で勝てるのか?


『殺せるかどうかまでは私には分からない。だが、少なくともこの場を切り抜ける事は出来る』


 ならば、言ってみてくれ。

 俺はどうすれば良い?


『スフロアの毒を使う』


 毒、か。

 だが、俺達の同じ箇所への二回攻撃でも駄目だったんだ。

 スフロアの針も刺さるかどうか分からない。


『毛が生えている所は狙わない。そもそも、毛があると刺さるかどうかは分からないから刺せないものとして動く。だから私達が狙う場所は硬くない箇所……目だ』


 ……成程な。

 眼球はどんな生き物でも柔らかいだろう。


 針も刺さるだろうし、毒も回る。

 場所が場所だけに、脳にもすぐ毒が回り倒れるのも早いだろう。


「だけど、それは……」

『とても難しいだろうな。だから、一か八かだ』


 頭は少し知恵のある生き物なら優先的に守る場所だろう。

 おまけに、高さ的にも狙いにくい。

 二歳児の子供の身長と熊の化け物とじゃ高さが違い過ぎる。

 ざっと二メートル以上は差があるのではないか?


 だが、それしかもう勝つ方法は無いだろう。


「……隙は俺が作る」

『出来るのか?』

「分からない。あの化け物が俺よりも馬鹿な事を願うばかりだな」

『そうか。ならそれに賭けよう』


 全部賭けだ。

 でも、そのくらい上手く事が運ばれない限り、俺達じゃあの化け物には勝てない。

 ちょうど近くに転がっていたスフロアの尻尾を拾う。


「スフロア、尻尾を少しの間借りるぜ……」


 洞穴の奥の壁に置いて来たスフロアに向かって言う。

 ……この戦いの最中に初めて見たスフロアの頬には涙が流れていた。


 傷が痛むのか、全く勝てそうにないこの状況に絶望しているのか、それとも俺達の事を巻き込んでしまったとでも思っているのだろうか。


 何を考えて泣いているのかは分からない。


 だけど、スフロアのその心配事を全部吹き飛ばしたら、スフロアはいつもみたいに呆れながらもどこか優しさを込めた表情に戻ってくれるだろうか。


 それに賭けて、やるしかないな。


『……気持ちは固まったか。私はどう動けばいい』


 俺の言う通りに身体を動かしてくれればいい。

 とにかくひたすらにあの化け物の攻撃を避け続けるぞ。


『分かった』


 俺はスフロアの尻尾の先にある毒針を握り、右手で構える。


 取り敢えず化け物に近づくぞ。


 アズモに指示を出し化け物に肉薄する。


 化け物は近づいて来た俺達に合わせて腕を振り下ろす。

 後ろに避けると、すぐに第二第三の腕が頭上に降ってきたが、全部ギリギリで避ける。


 地面がヒビ割れ、石が飛ぶ。

 ある程度は避けるが、小さい石までは気にしていられない。

 かなり痛いが、倒すためには必要な傷だ。


 悪い、アズモ。

 痛いだろうけど、耐えてくれ。

 あの化け物が俺達の方に来る前に、またこっちから近づくぞ。


『分かった。……あと、あまり舐めるなよ。このくらい掠り傷に過ぎない、耐えられる』


 頼もしいな。

 ……それなら、もっとギリギリで避けていくぞ。


 再び化け物に肉薄する。

 化け物は何の捻りもなくひたすらに腕を振り下ろしてくる。

 俺達は息を合わせギリギリで避けていく。


 砕かれ飛んで来た石が身体にいくつも注がれる。

 急所に当たるのは流石に避けるようにいるが、数が多くて捌ききれていない。


 身体中から血が流れていくのを感じる。

 一つ一つは大した事無い傷だが、いくつも食らって血だらけだ。


 熊型の化け物は絶えず、四本の腕を器用に使い俺達目掛けて振るってくる。

 一発二発三発……二十を超えてから数えていないが、相当な数を避けた。


『……まだかコウジ? そろそろ身体に限界が来る。さっさと決めないとこっちが先に倒れる』


 ……そろそろのはずだ。

 あともう少し耐えてくれ。


 また攻撃が来る。

 今までの傾向から、あの左上の腕を振るった後は少し間が空く。


 そこで、距離を離して少し整えよう。

 アズモ、右足に集中してくれよ。一息で飛んで距離を離すぞ。


『分かった。コウジが一体何を狙っているかは分からないけど、言う通りにする』


 ——来る。

 化け物の腕を冷静に避け、俺は右足を前に動かす(・・・・・)

 途端に俺達の身体がぐらつく。


 飛ぼうとしたのに上手く飛べずによろける。

 目の前にいる化け物が「ニタァ」と笑ったのが見えた。


『な、何をしているコウジ!?』


 隙を見つけた化け物が四本の拳を組み振り下ろしてくる。

 地面に激しいヒビを入れる大技。


 俺はそれを見て、左足に一人で力を込め後ろに勢いよく飛ぶ。

 顔面をスレスレで通った四本の腕は空しく宙を切って地面から凄まじい衝撃と轟音が放たれる。


 ——途端、叩かれた地面が崩壊する。

 ずっと叩かれていた地面は今までも砕け飛び散っていたが、今回はその比じゃない。


 連続で凄まじい攻撃を受け続けていた地面はいくつものヒビが繋がるように広がり、裂ける。


 化け物は地割れに対応出来ず、口を広げた地面に落ちかける。

 だが咄嗟に出した四本の腕で落ちないように耐えた。


 このチャンスを逃す俺達ではない。


「今だ、アズモ!」

『ああ! これを狙っていたのか!』


 俺達は化け物が割れ目から出る前に近づき、右手に握りしめた針を眼球目掛け振るう。

 化け物は、落ちないように耐えていた腕を動かし攻撃を防ごうとするが遅い。


「グアアアアアアア!!!」


 スフロアの毒針は、化け物の左目に突き刺さった。

 化け物は断末魔を上げ苦しそうにもがく。


 四本の腕をがむしゃらに振るい、雄叫びを上げ続ける。

 顔面は紫色になり腫れあがり、右目は白目を向き、口から泡を吹きだす。


 スフロアの毒はちゃんと効いたようだ。


「スフロアを抱えて出よう。化け物の死に様は見ていて気持ちの良いものじゃない。じきにこの洞穴も崩壊するだろう。そしたら、ここに居る俺達も死ぬ」


 化け物に背を向け、奥にいるスフロアに近づく。

 スフロアはもう泣いていなかった。


「終わったぞ、動けるかスフロア?」

「……動けないわ。抱えて欲しい」

「分かった。すぐにここから出よう」


 スフロアを両腕で抱え走り出す。

 洞穴を走っていたらスフロアは俺に抱き着いてきた。


「死ぬと思っていたわ。私も、アンタも。でも、生きている」


 スフロアは俺の耳元で続けて囁く。


「……ありがとう。私、アンタが好きだわ」

「はっ?!」


 口から漏れた声は、俺のものだったのかアズモのものだったのか。

 はたまた、二人で同じ言葉を漏らしたのか。


「と、取り敢えず出よう。ほら、出口だ。戦っている間に夜になっていたのか暗く……」


 暗くなっているだと……?

 長く戦っていた自覚はあるが、夜になっているはありえない。

 俺は朝、家の窓からフラフラと何処かに消えていく熊の化け物を見て家を飛び出してきたんだ。


 夜になっているはずがない。

 走っていた勢いが衰え、歩きながら出口に辿り着く。


 そこで目が合った。

 目が合ったそれを大きな口から舌を出し、口の周りを一周させる。

 目が一つで口がある化け物。


 こいつは、山の天辺に生えている花だ。

 俺達がさっき倒した熊の化け物を食べていた化け物。


「万食らいのキンディノスフラワー……」


 スフロアが絶望しながらそう呟く。


 目の前には、出口を塞ぐ化け物。

 後ろは崩壊していく洞穴。


 ……詰みか。


「ごめんな、スフロア。結局、俺には何も出来なかった…………」


「——諦めるのはまだ早えんじゃねえか、アズモ。いや、コウジか? まぁ、どっちかだなんて別にイイか」


 俺でもアズモの声でもない。スフロアの声でもない。

 さっきまで居なかった人の声が聞こえる。

 声のした方向を見ると、空中を泳ぐ青色の魚がいた。


 その数、およそ百匹。

 さっきまでいなかった大量の魚。

 魚は何も無い場所から現れ更に数を増していく。


「熊を倒したのは見ていたぜえ? 我が妹ながらよくやったって褒めてやりたい。でも、こいつは流石に荷が重いな」


 魚はやがて一か所に集まり、青い空間を作り上げる。

 魚だったはずのそれは固まると水のように透き通り、人型を形成する。


 そして、シルエットを為した水から一人の青年が出てきた。


「ここから先は兄貴に任せな」





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