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日常3 「この三日間は勉強してもらう」 中


「取り敢えず今のお前らがどんなもんか見るって事で簡単なテストを出してみたが……こんなに酷いとは思ってもみなかったぞ」


 教壇で項垂れながら、ディスティア姉さんがそう言う。


 スイザウロ学園初等部では三日後に学年別確認テストが実施される。

 勿論一年生も例外では無く、学園に入ってからのこの一か月で教えられた事がどれだけ理解出来ているかを見られる。


 高い頻度で実施されるこの確認テストはクラス分けがちゃんと出来ていたかを確認する為の意味もあり、下手な点数を取るとより自分に合ったクラスに転属させられる可能性もある。

 国きっての名門校であるスイザウロ学園は学業にもしっかりと力を入れている分、非情な一面も持ち合わせていた。


 ……俺達十五組は最下位クラスなのでこれ以上落ちようが無いが。


「点数が高い者から返すぞ。まず百点が三人、ムニミー、スフィラ、ブラリの三人だ。お前達はよくやった。私も嬉しいぞ」

「まあこのくらいなら百点以外を取る方が難しいと思うのだけれども」

「皆も僕みたいに真面目に授業受けた方が良いよ」


 満点を取ったムニミーとブラリは、答案用紙を受け取る際にわざわざ俺達の方を向いてそんな事を言って来る。

 血も涙もない奴らだった。


 お前達だって真面目に授業受けていないだろ。

 そう野次を飛ばしたいが、彼らは出来ていて俺達は出来ていない。

 甘んじて罵倒を受け入れるしか無かった。


「ミスくらいは誰でもします。打倒一組を掲げるのなら、皆で支え合うべきだと思います」


 それに比べてスフィラは出来ない俺達に対して優しかった。

 俺が異世界の言語でも余裕で百点を取れるような人間だったらスフィラのような聖人になりたい。


「続いて九十七点。これはリアクスだ。一問だけ間違えているが、これは書きミスだから百点みたいなもんだ。まさかあまり学校に来ていないお前がこんなに出来る子だとは思っていなかったぞ」

「ふっ、当然さ。四大称号王家として不甲斐ない点数を取る訳にはいかない」

「止めろ。私の妹と姪が可哀想になるだろ」


 ディスティア姉さんが俺とラフティリに可哀想な物を見る目を向けてくる。

 どういう事か分からずに首を傾けるラフティリのように俺も首を傾げたいが、自分の不甲斐なさを痛い程理解しているのでただ耐えた。


 努力はしているが、まだ結果は出ない。

 異世界で言語が違う中頑張っているんだ。


 他の人とはスタートラインが違う。

 おまけに翻訳機に頼ってばっかりだったので土台が未だに出来ていない。


『私達はラフティリと違い地頭は良い。文字を覚えてしまえばどうとでもなる。文字を覚える少しの間を耐えるだけだ』


 ああ、そうだな。

 翻訳機に頼ってばっかりだったが、異世界言語を覚えなければという気持ちはあった。

 それの対策をしっかりしていた俺達は日常会話くらいならば出来る。


 後は読み書きを覚えるだけなんだ……。


「ここから点数がガクっと落ちて六十四点。まあ及第点だろう。ゴスネリ」

「えっ、私ですか!? やったー!」

「答案用紙の裏に描かれてた絵も上手だったぞ。私は何のキャラを書いていたのか分からなかったが」

「あ、それはですね――」


 ゴスネリがディスティア姉さんに語り出した。


 ……不味い、これは非常に不味いぞ。


『ああ、いつもの面子が残った』


 まだ呼ばれていないのは、俺達と、マニタリ、ラフティリの三人。

 十五組勉強出来ない組の三人だ。


『流石にこの中では最初に呼ばれたい……』


 フィドロクア兄さんに甘やかされて育った結果、だいぶ自由な子に育ち、俺達と同じように字の読み書きが出来ない上に、授業中も寝てばかりのラフティリ。

 生物分野なら出来ると言っているが、それ以外の分野が全く出来ない突き抜けた明るいアホのマニタリ。


 この二人にはどうしても負けたくなかった。


「――それでですね」

「なるほどな。それも今度読んでみるが、今はもう十分だ。席に戻れ」

「あ、はい! 失礼しました!」


 自分が再び語ってしまった事に気付いたゴスネリが慌てて席に戻る。


「それでここからが本当に酷い。なんてまた更に点数は四十も落ちて二十四点……」


 両手を組んで祈る。

 本当にあの二人には負けたくない。


「アズモだ」

「ぃよっしゃあああああああああ!!!」

『良かった!』

「うるせえ。こんな点数でそんなに騒ぐな」

「ははは、ごめんなさーい! 頑張った甲斐がありました! 良かった良かったー! あー、先に呼ばれちゃって悪いな!」


 マニタリとラフティリを順に見てピースする。


「むかむかむかー!」

「……? 良く分からないけど良かったわね!」


 憤るマニタリと良く分かっていないラフティリ。

 大人気なくはしゃいでしまったが、本当に嬉しかった。


「まあ次の奴と二点差しか無いがな。という訳で二十二点、マニタリ」

「やったああああああ! ふふーん、二点しか離れてないじゃんアズモっちと!」

「な、なんだと……!?」

「この点数差なら次のテストでは僕が勝つよ?」

「ほお、言うじゃねえか。そこまで言うならやってみろよ」

「ほー、良いんだね! 勝負だからね!」


「うるさいからさっさと席に戻れお前ら」

「「はーい」」


 マニタリと言い合いになったが、ディスティア姉さんに言われて席に戻る。

 危ない所だったが、ドベ争いでは勝ち抜けた。


「そして最後は六点。ラフティーだ。……ほんと、フィドロクアがこの点数を知ったら泣くぞ?」

「パパはあたしには怒らないわ!」

「その通りなんだろうなあ……。どうするか? 私があいつの代わりに厳しく躾けるか? でも嫌われたくは無いな……」


 席に戻るとディスティアのぼやきが聞こえた。


 ネスティマス家十八男フィドロクアはアズモの兄で、ディスティアの弟。

 フィドロクアの一人娘であるラフティリは俺達から見たら姪。


 生徒、教師合わせて九人しか居ないこの狭い空間の内の三人は竜王家。

 今は俺達がやらかしたせいでディスティア姉さんが代打で担任だが、本来はテリオ兄さんが勤めている。


 テリオも竜王家一族の者で、次男。

 十五組は親族で構成されていると言っても過言では無い。


 何と言うか、教室に家族が居るという異常な空間である。


「色々と言いたい事はあるが、課題が分かった。このクラスは下の奴が足を引っ張り過ぎているんだ。幸い上の連中は満点かそれに近い点数を取れる。人数が少ないおかげでクラスの平均点はそれに伴い高くなるはずだが、おかしな点数を取る連中のせいで低くなってしまう」


「どうしてかあいつあたしの事をチラチラ見て来るわ」


 隣の席に座っているラフティリが俺にひそひそと話す。

 ディスティアは嘆かわしそうに点数の低い俺達を順繰りで視線を移していた。


「あれは俺も見ているからな」

「どうしてあたし達を見て来るのかしら?」


 相変わらずラフティリは自分がどう思われているのかに気付いていないようだが、これは気付かない方が幸せだろう。


「ラフティーの事が好きなんだよ」

「うへー、あたしは苦手だわ。だって、事あるごとに殺そうとするんだもん」

「あれは愛情表現だよ」


 姪への接し方を知っているが、力加減は出来ない。

 ディスティア姉さんに抱きしめられたラフティリが「むええ……!」と断末魔を上げながらジタバタ暴れるのをよく見ていた。


「愛で殺されたら堪らないわ!」

「しー! 声が大きい!」

「おい、どっちも聞こえているからな? 傷つくから止めろ?」


 ラフティリと一緒に謝り、縮こまっていたディスティア姉さんに話を続けてもらう。


「あー、そういう訳で、マニタリ、ラフティー、アズモ。お前ら三人にはこの三日間で点数を三十上げてもらう。ゴスネリはこれ以上点数を下げるな。他の連中はいつも通り頑張れ」


 三日間で三十点アップ。

 相当無茶な要求だ。


 三日で言葉を覚えろと言われているのと変わらない。


「先生はな、楽しみにしているんだ。生徒指導室常連のお前らが上位五十人の枠に全員入って、クラス平均点でもあそこの掲示板に張り出されるのを」


 定期的に行われる確認テストだが、スイザウロ学園では成績上位者は五十名まで学年便り等が貼ってあるボードの隣に、点数と名前が張り出される。

 クラス平均も上位五クラスまでは同じように掲示される。


 ここに載られるように皆頑張れ、という学園からの粋な計らいだ。


 ああいうのが見るのが好きな俺はよく誰が載っているのかを見るが、一位は毎回ダフティとブラリが争っている。

 五位くらいにスフロアやスフィラが載っていて、ムニミーも十位以内に今のところ毎回入っている。後ろの方にはルクダの名前も載っていた。

 リアクスも本来ならあそこに載れる逸材だが、テスト当日は体調不良で一回も来た事が無いので載った事が無い。


 ただあれに自分も頑張って載ろうという気持ちが湧いた事が無い。

 子供達が頑張っているなあ……という親心でしか見られない。


 それにあのテストの内容が難しいというのもある。

 言葉が読めないから出来ないというのもあるが、優劣を付ける為にテストには性格の悪い問題が何題か出題されているのも事実だ。


 そのような問題が何問か解けないとあの掲示板には載る事が出来ない。


「皆が何を言いたいのかも先生は理解しているつもりだ。だから今日はこんな物も持って来た」


 俺達に無理だと言われる事を想定していたディスティア姉さんは何か紙を掲げる。

 一番上の紙にはマル秘と書かれていた。


「……これは職員室に置いてあった物だ。中には次のテストに出される問題が書かれている。これを覚えれば皆であそこに載る事が出来てしまう代物だ」


「せんせー……」

「ディスティア先生……」

「ディスティア姉さん……」

「ふっ、止せやい。感謝は皆で五十位に入ってからだ」


 俺達に呼ばれたディスティア姉さんは鼻を擦り照れ臭そうにした。


『何故、ディスティア姉上が担任を任されなかったのか分かった気がする』


 ああ、俺も今分かったぞ。


 ブラリが後ろに振り向き「どうする?」と言いたげな表情を俺に向けて来た。

 俺は顎をしゃくり「言ってやれ」と示す。


「先生、流石にそれは無いと思うよ」

「……え?」

「ダフティとは正々堂々と戦いたいからね」


 ディスティア姉さんはもう打ちのめされたが、俺達も続く。


「いくら点数が悪いとは言え不正には手を染めないですよ、姉さん」

「爆破はする私でも、そんな事はしないわ」

「せんせー、やばっ! ワルじゃん!」

「ふっ、魅入られても良い禁忌とそうでは無い禁忌があるものさ」

「真面目に勉強する事にこそ意味があります」

「カンニングはいけませんぞ!」

「えっと、えーっと……馬鹿!」


 批難囂囂とはこういう状況を指すのだろう。

 問題児だらけで、授業も真面目に受けない子がほとんどの十五組だが、超えてはならない一線は理解している。


「そ、そんな、馬鹿な……不真面目だと思っていたのに」


「俺達真面目に授業受けられるので、それ早く返して来てくださいよ姉さん」


「可哀想だからこの三日間は実験も自粛するか。辛いけど」

「しょうがないから僕も真面目にやるよ」

「ブラリ様はいつだって真面目です」

「皆がやるなら僕もちゃんとやろーっと」

「俺もこの三日間は身体を溶かさないように努めよう」

「私も明後日出る予定だったイベントキャンセルしとこ」

「寝ないように頑張るわ!」


 そんなこんなで、ただ真面目に授業を受けてテストへ臨む事となった。



十五組+主要キャラで勉強が出来る順に並べると、


ダフティ => ブラリ > リアクス > スフロア => スフィラ

> ムニミー > ルクダ >> ゴスネリ >>マニタリ >>> ラフティリ


アズモは言葉が覚えられたらスフロアに並びます。

コウジは六歳児+言語習得という条件付きだったらルクダの少し上です。

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