日常2 「体力測定で勝負しようよ」 下
皆で囲んで昼を食べ、しばしの休憩。
体力測定勝負は各々残すところあと数種目になった。
俺達のクラスは問題児ばかり集められているが、優秀な子は何故か多かったようだ。
俺やブラリ、スフィラ、ラフティリ、ついでに巻き込まれたダフティは全種目で最高得点を叩き出し、上位陣はもうどう転んでもビリになる事はなくなった。
ここまで来るともう、勝負は俺達と言うよりかは……。
「こ、こんなはずでは……!?」
ムニミーが地面を叩きながら喚く。
惨めだが、自業自得だった。
「堀るのは僕の得意分野だからねー、邪魔されても五点は余裕だよ!」
「くっ……!」
事あるごとに俺達の失点を狙ってきたムニミーだったが、全部失敗に終わり最下位を独走している。
マニタリの地面を掘る種目でも失敗したようだ。
「なあ、真面目にやった方がまだどうにかなったんじゃないか……?」
「ここまで来たらもう引き返せないじゃない……!」
悔しがるムニミーに声を掛けるが響かない。
「でも考えてみなよムニミーちゃん。妨害した所で自分も最低点を取ってちゃ勝てる物も勝てないよ?」
「正論やめてよ!」
ムニミーに声を掛けたブラリも理不尽な怒られ方をしていた。
「俺とラフティリが後二種目、ブラリとスフィラとダフティが一種目。俺達五人の事はもう諦めるんだな」
「例え勝てないと分かっていても土俵にすら立たないのはそれ以前の問題なの……!」
「でもムニミーちゃんってば、その土俵にも細工してくるよねえー」
「だって! だって……!!」
ムニミーは地面に蹲ったまま顔だけあげて俺達を力強く見つめる。
「ディスティア先生に何されるか分からなくて怖いじゃない!?」
「「「あー」」」
「確かにそうですね」
「ディスティアは馬鹿力でハグしてくる化け物だわ!」
得心する俺とブラリ、マニタリ。同意を示すスフィラ。本人に聞かれたら不味い事を言うラフティリ。
「この中で誰が一番生徒指導のお世話になっていると思っているの!? 私だよ!! おまけに何故か今日も『君、明日から四日間指導ね』って他の先生に言われたし! 明日から私はディスティア先生と一対一で過ごすのよ!」
「いや、それはムニミーが悪いだろ」
「どうして被害者面しているの?」
「ほんとだよ。罰ゲーム関係無いじゃんもうさ」
「むしろしっかり更生してくるべきでは?」
「ムニミーって頭良いのに馬鹿なのね!」
「うわあああああああん!」
俺達の正論に耐え切れずムニミーが絶叫を上げる。
だいぶ堪えているようだ。
「ムニミー……」
少しだけ、ほんの少しだけ可哀想に思えた。
「なあ、ブラリ」
「そうだね」
俺とブラリが目配せをする。
それに気付いたムニミーがチラッと俺達の方を見た。
「可哀想だしな……」
「うん、協力してあげようか」
「ああ。……どうやったらディスティア先生の尻尾を怒られずに触れるか考えてやろうぜ」
「演技が甘いんだよね」
「うわああああああああああん!!!」
今度こそ本当に絶叫したムニミーにラフティリとマニタリが近寄って、背中をバシバシ叩く。
「良かった良かった。これが友情ってやつだね」
「ディスティアは怒らせなくてもやばいから気を付けるのね!」
マニタリは追撃を仕掛けたが、ディスティアに何度も鯖折りされたラフティリは励ましていた。
純粋なラフティリの好意にやられたムニミーは「うっ!?」と眩しそうにしていた。
その後、俺とラフティリは地面から一定の高さまで飛び上がる時間を計る飛翔力と、飛んだ状態から一定の距離までを駆け抜ける飛行速度で鎬を削り、いい勝負を繰り広げた。
ブラリ達も聴力を使った気配察知力だったり、身体のしなやかさを調べるテストをしたりしていた。
相変わらず妨害はされたが、体力測定は順調に終わり、俺とブラリ、スフィラ、ラフティリ、ダフティの五人は評価平均値五点のまま完走し、同率一位が五人となった。
勝負に勝った俺達は恨めしそうな顔をしたムニミーに良く分からない炭酸ジュースを呪言と共に渡された。
妨害工作に奮闘していたムニミーだったが、結局ビリとなったのだ。
果たして、恨み節と一緒に渡されたこれは飲んでも大丈夫な物なのだろうか?
ブラリとダフティが何かを話しながら飲むのを見てから、俺も意を決し飲む。
『美味しくない……』
アズモはそう言っていたが、爽快さのある飲み物で俺は好きだった。
そんなこんなで放課後になり、運動場もまばらになっていく。
全種目を終えた生徒は各自好きなタイミングで解散して良いと言われていた。
出来る事が多い魔物の子はやる種目がその分多いのでまだ残っているが、そうでない生徒がほとんどなので自然と数は減る。
例えば俺が受ける種目は陸と空の二つだけなので少し時間が掛かる程度だが、陸海空、それと地下種目の全てを受けなければならない子などはまだまだ帰れない。
「おう、来てやったぞ。んで、用ってなんだ?」
そして遂にやって来た。
黒いスーツを着崩したギザギザヘアの三白眼。
兄のテリオと共にクラス担任になるはずだったが、学長に「真面目な子の教育に悪い」と判断され、暇を持て余す事となったが、「問題児の監督には問題児を使おう」という考えの元生徒指導担当となった不良教師。
ディスティア姉さんの尻尾触りタイムだ。
俺達は茂みに隠れてムニミーの様子を伺っていた。
「ね、どうなると思う?」
「ぶっちゃけると、尻尾を触るくらいだったら別にそこまでだな」
ブラリに聞かれたので、そう答えて近くに居たラフティリの尻尾を撫でる。
呑気に地面に広がりながらウトウトしていたラフティリは俺の方を向いた。
「ん、どうかした?」
「ほら、こんなもんだ。俺達は別に尻尾を触られたくらいじゃ何とも思わん」
「ふーん、じゃあ案外何も起こらないのかもね」
「たぶんな。というか、それよりも今日あいつがやらかした事の方がやばい」
今日は様々な場所で爆発音が響いた。
全部ムニミーによる犯行だ。
あいつは俺達を妨害する為にほぼ全ての種目に工作をした。
結局俺達には何の被害も出さなかったが、土地や器具、建物に凄まじい被害を出した。
ムニミーが何処かを破壊する度に先生や、手伝いに駆り出されていた上級生が壊された箇所の補強をしなければならなくなるので、その分体力測定の時間が押していた。
「少し悔しいけど、十五組で一番常軌を逸しているのってやっぱりムニミーちゃんだよね」
「そんな事で悔しがるな」
体力測定ではビリだったムニミーだが、生徒指導室に入れられた回数では一位だ。
それも二位のラフティリを大きく突き放して。
「あ、見て! ムニミーちゃんがこっちを見ているよ!」
「表情が死んでいますね」
「本当だ……」
マニタリに言われてムニミーとディスティア姉さんの方を見ると、ムニミーが顔面を白くしながらこちらを見ていた。
「ん、そっちに誰かいるのか?」
咄嗟に茂みに隠れていた俺達は皆地に伏せる。
「誰も居ません。仲間を売り渡した非情な奴らなんて誰も」
「そ、そうか……?」
一瞬、俺達の存在を告げ口するかと思ったが、杞憂だったようだ。
何かとぶっ飛んでいるムニミーだが、流石にそこまではしないらしい。
言葉には俺達に対する恨みが詰まっていたが。
「それで話はなんだ?」
「実はあの高い木の上にジャージが飛んで行ってしまって……空の飛べるディスティア先生に取ってもらおうと……」
「アズモ達も飛べるだろうに、どうして私に頼んだんだ」
「学園内では決められた所でのみ飛ぼうと皆更生したのです。それにほら、私とディスティア先生の仲じゃないですか?」
ムニミーは、ニコと取って付けたような笑顔を顔に張り付ける。
「なんか今日のお前気持ちわりぃな……。私達の仲って言っても一年生一番の問題児と、学園で一番真面目な教師っていう相容れない仲だからな。まあ取ってはやるが」
お似合いの仲だよ。
口には出さなかったが、茂みに隠れている俺達は皆そう思った。
色々とやらかすせいで教室に居るよりも生徒指導室に居る日数の方が多いムニミーと、生徒指導室で勤務中だろうが構わず爆睡するディスティア姉さんはこれ以上無い程にお似合いだ。
ベストカップルと言ってしまっても差し支えない。
それとムニミーの上着は俺が木の天辺に乗せたから、ムニミーはシレっと嘘を吐いている。
ムニミーとディスティア姉さんは二人で並んで歩き、運動場の端にある一際背の高い木を目指す。
途中で何度もムニミーは俺達の居る茂みを向いてきたがスルーした。
「それじゃ一瞬で取ってきてやるから待っとけ」
「よろしくお願いします!」
ディスティア姉さんが翼を生やす。
そして、飛ぶ為に羽ばたこうと構えた所をムニミーはすかさず近寄り、尻尾を一撫でした。
「————ひゃん!?」
運動場にありえない声が響いた。
茂みに隠れていた俺達は全員耳を疑った。
状況から見るに、明らかに声はディスティア姉さんの物だったのだが、さっきのあの可愛い声がディスティア姉さんの物とは到底思えなかった。
「……実はディスティアちゃんはその性格故に人があまり近寄って来なくてね、触られるという経験をここ数十年はしていなかったのさ」
俺達の後ろから声が聞こえた。
驚いて振り向くと、その声を発した人物は疲れて眠ってしまったラフティリを抱えて俺達の事を見下ろしていた。
「通りすがりのディスティアちゃん後援会の者さ。ところで君達は随分と面白そうな事をしているようだね」
「て、てて、てり……パーフェクト先生」
あまりの驚きで危うく本名を洩らし掛けた。
声を掛けて来た人物はパーフェクトという偽名を用いて俺達の担任を勤める竜王ネスティマス家次男テリオだった。
普段はキラキラとした笑顔を張り付けているテリオ兄さんだが、なんだか今は若干笑顔に陰りが見えた。
「でもそうか、君達はディスティアちゃんの事が好きだったのだね。これは是非ともディスティアちゃんには私の代わりに十五組の担任を請け負ってもらおうかな。あの子も『あー、クラス持ってみてえなー』って言っていた事だしさ」
テリオ兄さんは恐ろしい宣告をしてきた。
担任が出来る事ではしゃいで無茶難題を課して来るディスティア姉さんの姿が脳裏に浮かぶ。
「うん、それで行こうか! じゃあ取り敢えず誰かラフティーちゃんを持ってもらおうかな! そろそろディスティアちゃんの元に行かなきゃ死人が出るからね!」
「……あ、はい。俺が貰います……」
見るとディスティア姉さんが照れを隠す為か、太い立派な尻尾でムニミーの事を弾き飛ばしていた。
俺に熟睡しているラフティリを受け渡したテリオ兄さんは、翼を生やすと吹き飛ぶムニミーの元へ飛んで行く。
「これが竜の逆鱗か……」
ムニミーがキャッチされるのを見届けながらそんな事を呟いた。
茂みにはどんよりとした空気が漂う。
次の日から数日間、十五組の全授業はディスティア姉さんが受け持つ事となった。
不思議な事にその数日間は生徒指導室が一度も使われる事が無く、平和だった。
ただ、十五組ではその数日間、悪夢のような時が流れていたと言っておきたい。
—千六百年程前—
とある荒野にて。
ディスティア(三歳)「疲れたよー。おにーちゃんおんぶー」
テリオ(十七歳)「いいよ。ほらおいで」
ディスティア「やったー! テリオおにーちゃん大好きー!」
エクセレ(十五歳)「歩かせておけ。弱いとこの世界では生きていけない」
アギオ(十九歳)「心配するな。俺が全員守る」
エクセレ「ふん。私は自分の身程度自分で守るがな」
テリオ「まあまあ。休める時に休むのも賢く生きる方法だよ」
アギオ「その通りだ」
エクセレ「……まあ、まずは安全な場所に隠れなくてはな」
日常話書くの楽しくて結構書いちゃってますが、ちゃんと需要はありますかね…。
そろそろキャラ紹介を出したいので、十五組でまだ出てきていない二人を登場させて全員で真面目に授業を受ける回を書きます。




