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日常2 「体力測定で勝負しようよ」 上


 スイザウロ学園、第三グラウンド。

 広大な土地面積を誇るスイザウロ学園は修練場の他に、大きな運動場を四つ有していた。


 今朝はその運動場の一つに初等部一年生が全員集合している。

 今年度の授業が始まって一か月程、この日は体力測定の日だった。


 多くの種族が通う魔物学園では体力測定の種目も様々あるが、種族によって受ける種目が変わる。

 走力、瞬発力、持久力、跳力、潜水、泳速、飛翔、飛行、掘削……上げていけばきりがない。


 今は運動場で全体説明が行われているが、ここから各々決められた測定場所に向かって行く流れとなる。


「怪我をしないように、先生の説明をしっかりと——」


「——ねぇねぇアズモ。アズモならあたしと全種目同じよね?」

「あー、そうだろうな。受ける種目が書かれた紙を見せて見ろよ」

「たぶん、走る関係の種目ならこのクラス皆受けるよね?」

「その通りです。ついでに確認してみましたが、私とブラリ様、ダフティ様は全部同じでした」

「地面掘る人って僕以外にいるー? あれ僕めちゃくちゃ得意だよー」

「あぁ……運動は駄目なのよね……」


 運動場では各クラスが列を為し、座りながら全体説明を聞いていた。

 他のクラスに比べ、人数の少ない十五組は一際短い列を作るはずだったが、何故か円形になって座っていた。


「そこの問題児クラスうるさいですよ! ちゃんと話を聞きなさい!」


 台の上に登って説明を行っていた教師が十五組を注意する。

 それに呼応するように周りに立っていた教師が十五組の元にやって来た。


 問題児クラスという言葉はこの時初めて出たが、その時には「十五組は手のかかる子が多い」という共通認識が既に確立されていた為、教師は皆迷う事無く十五組に集う。


 教師の一人があと一歩で十五組の元へ辿り着くという所で、小気味いい爆発音が場内に響いた。


「じ、地雷だと!?」


 会場内がざわつく。


「またお前か! ムニミィメムリ!」

「爆発物を持って来ては駄目だと何度言えば分かるのだ!?」

「え、ええ!?? 今回は私じゃないですよ!? 第一そんな所に仕掛けていませんもん!」


 教師陣は爆発という事でムニミィメムリを疑いだす。

 ムニミィメムリは爆発物を全部教室に置いて来ている。

 流石に体力測定は真面目にやろうと思っていたからだ。

 謂れのない疑惑だった。


 その裏で憤る教師陣を見てブラリは一人ニヒルな笑みを浮かべる。


「現に爆発しているではないか!?」

「それはそうですけど!?」

「埒が明かん! 生徒の良いようにやられていては駄目だ!」

「今日と言う今日こそは許さないぞ!」


 地雷に怯む事なく、教師の一人が踏み込んで来るが、その教師は突如天高く聳え立ったキノコに打ち上げられた。


「今度はお前かマニタリ!」

「あれ、何もするつもり無かったよーな……? もしかして親友のピンチに隠された力でも目覚めちゃったとか!? だとしたら、めちゃくちゃアツいじゃん!」

「やっぱりお前か!」

「いぇーい! 生えろ僕の子供達―!」


 種明かしをすると、二人からサンプル品と胞子を拝借したブラリが前日に細工をしていただけだ。

 事前にこうなる事を予想しトラップを仕掛けておいた。


 狼狽えるムニミィメムリと、調子に乗るマニタリはそれに気付く事無く憤る教師陣に応戦する。


「こうなりゃヤケよ! 全部置いて来たけど生成は何処でも出来るもん!」

「運動場って地質が良かったんだねー!」


 ムニミィメムリは爆発物をポイポイと投げていき、マニタリは巨大なキノコを生やし続ける。


「楽しそうだわ! あたしも混ざるわ!」

「あ、おい!」


 コウジの静止を振り切り、ラフティリも水ブレスで参戦する。


「くそっ、こいつら無駄に強いから調子に乗らせたらやばいぞ!」

「早く治めろ! 増援だ! 皆こっちに来てくれー!」


「あーあ、なんか始まっちゃったね」


 事態の黒幕であるブラリは他人事のように呟いた。


「いや、これ実はお前が原因だろ。さっき笑っていただろ」

「この後起こる事を考えて楽しくなっていただけだよ」


 笑ったのを見ていたコウジに突っ込まれるが、ブラリはしらばっくれる。


「それより体力測定で勝負しようよ。普通にやるより楽しめそうな気がしない?」

「まあ別にそれはいいが、後であいつらに謝っとけよ。あの二人明日から指導室コースだからな」

「ラフティーちゃんは良いの?」

「あいつは知らん」


 ラフティリは自業自得である。むしろ止めてやった。と、コウジは思っていた。

 それにラフティリには散々迷惑をかけられていた。

 主にアズモが、だが。


 宿主のアズモを大事にするコウジは、ラフティリが大変な目に遭うと宿主が喜ぶ事を知っていたのでラフティリの事は自由に泳がせておく事に決めた。


「それより勝負ってどうやるんだ?」

「無難に受けた種目の平均評価で勝負しようよ」

「あー、それなら公平か」


 生徒によって受ける種目は様々だが、評価のしかたは概ね同じだった。

 指定の秒数、または回数を元に五段階評価される。

 一番悪い評価だと一、一番良い評価で五。


 全部の種目で素晴らしい成績を修めると、平均評価も五点となる。


「面白そうじゃない! あたしも混ざるわ!」


 羽ばたいていたラフティリが戻って来る。


「いいよ。スフィラもやる? ダフティも勝手に混ぜて大丈夫かな」

「ブラリ様の望みとあれば参加します。遊びたがっていたのでダフティ様も問題無いかと」

「僕もやるー!」

「私もやってやるわ!」


 続々と勝負に人が集まっていく。

 面白そうな事が好きなラフティリは勿論の事、ブラリに求められたスフィラ、知らない所で兄の横暴に巻き込まれるダフティ、楽しい事が好きなマニタリ、やけくそになっているムニミィメムリ。


「じゃあビリの人は一位に飲み物と、ディスティア先生の尻尾を触って来るって事で始めようか」


 負けられない戦いが始まった。



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