日常1 「細かい事は良いんだよ!」 上
スイザウロ魔王国、スイザウロ学園初等部一年十五組。
本来なら元気な一年生が八名居るクラスだが、その日の十五組は閑散としていた。
「ひーまーだーよー」
「あっ、コラ。実験道具をいじるなって何度言えば分かるの? 聞いてる、ねぇ?」
「だってひまなんだも~ん」
ムニミィメムリに注意されてもマニタリは実験道具を弄り続ける。
ムニミィメムリは教室内での爆発物の取り扱い及び、不慮の貰い事故、意図的な犯行によって教師からマークされる問題児である。
当然、そんな危険生徒の実験道具を弄ると言うのは自傷行為。
「あっ……」
試験管の一つが赤熱した。
それを持っていたマニタリはすぐさまそれを外に向かって投げる。
残念ながら試験管は窓枠を超える事は叶わず、教室内で爆発した。
窓側の席に座っていた生徒が爆発に巻き込まれる。
「お、おわああああああああああ!」
叫び声を上げた生徒はアズモ・ネスティマス……に憑依している沢畑耕司。
日本で高校生をしていた彼は、アズモの中に居る時も合わせて二十三年の月日を過ごしたが、流石に爆発に巻き込まれたら年甲斐もなく叫んでしまうようだ。
尚、アズモの方は驚いてはいるが、声にも顔にもそれを出さなかった。
「お、お前ら俺を殺す気か……!?」
コウジは全身を焦がす事となったアズモの代わりに抗議しに行く。
「ごめんね、まさか爆発するとは思わなかったんだよね」
「嘘吐け! 今月に入って五回目だからな! ムニミーなんて顔を覆って反省しているぞ!」
「これでまた生徒指導室送り……」
「あっ、こいつはこいつで自分の身の心配しかしていねえ!」
何をされても自分では怒りに行かないアズモの代わりにコウジは怒る。
いつもの十五組の光景であった。
表面上では怒っているように見えるものの、毎度の事過ぎてコウジは既に慣れていた。
「だって、ひまなんだもーん」
「まあ、それもそうだな」
その為、直ぐに切り替える事が出来る。
「ねえー、ブラリ君はどうしたのー?」
「あー、あいつなら、魔王の石像に悪戯して生徒指導室にぶち込まれたぞ」
「自分の父親の石像に悪戯するってやっぱあいつやばいね」
三人は教室に居ない生徒に思いを馳せていく。
「それじゃあ、スフィラちゃんはー?」
「あー、あいつなら、そんなブラリと離れたくないとかで隣に置かれていた学長の石像に落書きしたせいでブラリと同じく生徒指導室」
「薄々思ってきたけど、実はスフィラちゃんも充分やばくない?」
「ラフティーちゃんは?」
「あー、あいつはなんか生徒指導室にぶち込まれた」
「なんで……!?」
コウジは説明を端折ったが、ラフティリが生徒指導室送りにされたのは校舎内で許されていない飛行行為を行った為である。
ラフティリが寝坊したせいでコウジとラフティリは朝から全力疾走しながら登校する事になったのだが、ラフティリが「飛んだ方が早いわ!」と言い本当に飛んだ。
しかもあろうことか、そのまま校舎内に入り、十五組の教室を目指した。
飛行していたラフティリは不意に現れたディスティアという不良教師にぶつかってしまい、そのまま怒ったディスティアに意識を刈り取られ、気絶したまま脇に抱えられ指導室へと連行された。
その時コウジは運ばれるラフティリを呆れた目で見ていたが、内心ほっとしていた。
何故ならコウジも飛んでいたからだ。
一緒に飛んでいたコウジだが、ラフティリが隠れ蓑となったおかげで連行されずに済んだのだった。
その為、ラフティリが生徒指導室送りになった理由を端折ったのである。
自分も一緒になって飛行していた事が露見されたら不味いと思ったからだ。
「あの二人も居ないしねー」
マニタリがチラと廊下側の空いている席を見る。
廊下側には兎耳の生えた女の子と、ずっと溶けている男の子が本来なら座っていた。
「あー、あいつらなら、一人は学校サボってオタ活に行って、もう一人はあまりにも液体過ぎたから今日は学校に来るなって言われたらしい」
「へえ、まあ想像通りだわ。……あと、貴方なんでも知っているのね」
「まあ、十五組で一番信頼されているからな」
クラス対抗戦ではブラリがリーダーを務めているが、学級委員、つまりは教師と生徒の架け橋にはアズモ、もといコウジが指名された。
本当なら、挙手制で自分のなりたい委員を決めるのだが、学級委員においては半ば強制的にコウジになった。
教師から信頼されている生徒が他に居ない為だ。
「勉強は僕と同じくらい出来ないのにねー」
「うっせ」
教師からの信頼を一身に受けるコウジだが、勉強はからっきしだった。
何しろ字が読めないのである。
スイザウロ学園は学問に置いても、国で一番力を入れられている。
そんな学園ではテストが定期的に行わる。
クラス対抗戦と同じように、クラス毎に競えるよう試験にも趣向が凝らされている。
景品や、褒章も特別な物が用意されていた。
しかし、最底辺クラスである十五組はその結果が振るっていなかった。
日本からやって来たコウジは、竜王ギニスから翻訳機を授けられたのを良い事に異世界の言語をまともに覚えようとしなかったのでマニタリやラフティリと一緒に十五組の足を仲良く引っ張っている。
ブラリは親しみを込めてドベサンと心の中で呼んでいたりする。
「俺はマニタリと違って言葉を覚えればテストも余裕だからな」
「なにい!」
「じゃあ、言葉を覚えれば良いのでは?」
「ふふふ……ムニミーならそう言うと思っていたぜ!」
コウジはニヤリと笑い、ポケットを漁る。
文字が書かれた紙を取り出した。
「そこで今回はこんな物を用意してみました。これにより、俺の国に伝わる『こっくりさん』という遊びが出来ます」
「な、なんだそれはー!?」
「また出たね、俺の国シリーズ。前も言ったけど私達同じ国に住んでいるからね?」
「細かい事は良いんだよ!」
紙には、「はい」と「いいえ」。
それと五十音……ではなく、この国でそれと同じ役割を果たす三十二文字。
あとは下手くそな鳥居が書かれていた。
「なんとこれを使ったら楽しく言葉を覚える事が出来ちまうんだ」
異世界でこっくりさんが始まった。
一方その頃
ラフティリ「むぇ……」
ブラリ「あ、ラフティリちゃんが起きたよ」
スフィラ「まさか起きるとは。指導室に急に投げ込まれて驚きました」
ブラリ「なんか教室でもやってそうだし僕達も遊ぼうよ」
ディスティア「いや、お前ら指導中って事忘れるなよ?」




