百二十三話 アズモが一番可愛くない
スクリーンが思い出を映す。
ルクダの記憶を元に作られた映像には保育園の頃の俺達が居た。
「という訳で、この時二人三脚じゃなくて、三人三脚していたって訳なんだ。だから負けるのも仕方無かった」
「ああ、その通りだ。私とコウジは普段からハンデを背負って過ごしている」
「……あんた達、自分達の失敗には見苦しい程の言い訳をするのね」
俺達はまだルクダの心に残っていた。
既にルクダからの許しを得て、ルクダ曰く異形化も治ったらしいが如何せん今のこの状況が楽しく、抜け出さずにいた。
俺とアズモの事情をルクダにも知って貰えた為、今まで出来なかった話が出来る。
それがとても楽しかった。
「だからあの時、アズモちゃんは大変そうにしていたんだね」
今は六歳の時の運動会を見ている。
場面は足を紐で結んだ俺とルクダが派手にこけている場面だ。
「冷静に考えて二人で身体を動かす事が出来るのなら、そこにルクダが加わってもそんなに辛い物にはならないと思うけれど?」
「スフロアは何も分かっていないな」
「これだから二人二脚未経験者は……」
「そりゃ分からないから想像で言ったけど、そんなに大変なの?」
俺の右側に座ったアズモが、左側に座っているスフロアへ俺達がどれだけ大変な生活をしていたかを説明する。
俺の膝の上に座っているルクダもフンフン頷いて話を聞いていた。
「えー! 歩く事がずっと出来なかったの!?」
「その通りだ。ここまで歩けるようになるのにはかなり苦労した」
「あー、それは適当に言って悪かったわね」
アズモの説明が終わり、ルクダとスフロアの二人は俺達の歩行事情を理解してくれたらしい。
「いや、ほんとな。この通り俺は十七歳だったのに気付いたらアズモの身体に入っていたし、なんか熊が窓に張り付いていたし、満足に歩けなかったし大変だった」
異世界に来た日の事を思い返す。
あの時窓に張り付いていた化け熊は、森でスフロアを襲っていた化け熊と同じ魔物だ。
「熊? ルクダの事? ルクダ窓に張り付いてないよ?」
「ルクダの事じゃないよ。スフロアは覚えているか? 俺達と戦ったあの化け熊」
「あれまだトラウマなのよね……。尻尾引きちぎられたし」
「えっ、スフロアちゃんの尻尾を取った魔物って熊だったの!?」
俺達が二歳の頃、スフロアは姉妹の誰かに命を狙われ森に追いやられた洞穴で身体を丸めて息を殺し隠れていたが、その化け熊に見つかり殺されそうになっていた。
そこへ俺が駆け付けて化け熊はなんとか倒したが、今度は化け花に襲われそうになり、死を覚悟していたらフィドロクア兄さんが助けてくれた。
ルクダが熊の魔物という事があり、森でどんな魔物に襲われていたかだけは黙っていた。
「どうしよ! 熊を代表してルクダが謝っとくべきだよね!? ごめんね、スフロアちゃん!」
「……もー! 本当にルクダは可愛いわね!」
スフロアが堪え切れないといった風に俺の膝の上に座るルクダへ飛び込んで来る。
「む……」
それを見たアズモも何故か俺へ飛び込んで来た。
膝の上に女の子が集まり密になる。
ルクダの上に重なるようにやって来たスフロアはまだ良いが、俺に直接飛び込んで来たアズモは落ちそうになっていたので右手で支えた。
「流石に三人は多いからな!」
スフロアも滑りかけていたのが見えたので、左腕でルクダと纏めて支える。
何故小さい子はこんなにひっついてこようとするのだろうか。
歳を重ねれば大人しくなるが、小さい子は何かと人にべったりくっつく。
スフロアとアズモをなんとか隣の席に戻し、思い出の視聴を再開する。
「ほんと、二人三脚はまだしも、他の競技ではあんた達大活躍だったわよね」
「当然だ。私達は竜王家に恥じないよう運動は欠かさずにしている。同年代の奴ら如き私とコウジの敵にはならん」
結局俺達は二人三脚の種目からは外された。
ルクダと二人三脚の練習をしていたら、スフロアから肩を掴まれた。
何事かと振り返ったら、スフロアは口をつぐみ無言で首を左右に振った。
俺達のクラスが運動会で勝つ為に話し合いを行った結果、ルクダの隣は俺からスフロアへと変わったのだ。
息ぴったりだったスフロアとルクダペアは本番でも実力を発揮し、一位を掻っ攫っていたから良かったものの少し腑に落ちない。
「アズモちゃん本当に凄かったもんね! クラスの皆がアズモちゃんをどれだけ種目に出せるかで真剣に話し合っていたもん!」
保育園で喧嘩を繰り返し、先生から追いかけ回される日々を送っていた俺とアズモの身体能力はクラスの皆が認めていた。
その結果、ほとんどの種目に出場する事となった。
『待て、どこでアズモを使う』
『レースは得点が高めなのでここは絶対外しては駄目ですよ』
『成程、先生の言う通りにするぞ皆!』
『おー!』
『他に外せない競技はありますか先生!?』
丁度、スクリーンに種目決めをしている時の光景が映る。
二歳から卒園するまで俺を担当してくれた先生だが、普段は凛としていて毅然とした態度で竜王家出身のアズモにも接してくれるのに、毎年運動会の時だけは別だった。
先生同士で何か賭けでもしているのかどうかは知らないが、効率的に俺を使って勝ちを狙いにいっていた。
お陰で俺達のクラスは連戦連勝だ。
当然悪い事では無いが、これも少し腑に落ちなかった。
「うわー、本当に先生に褒められると嬉しそうな表情するわよねコウジって」
レースでアンカーを務め、三人抜きで一位を獲得し優勝へと導いた俺を先生が抱っこしている映像がスクリーンに映る。
「本当なんなのだろうなこいつは。卒園式でも先生と熱い抱擁をしていた」
スフロアとアズモが俺の行動にケチをつける。
「別にいいだろ……」
勿論アズモの姿だが、アズモはこんな表情はしないので喜んでいるのは俺だ。
保育園にはスフロアやルクダのような小さいのしか居ない。
日本で高校生をしていた俺としては、歳が近く見えた先生から褒められる方が嬉しかった。
綺麗な大人の女性から手放しに褒められて喜ばない男子高校生は居るだろうか?
しかし、この場に俺の気持ちを理解してくれる人は一人もいない。
三人分の視線が俺に刺さった。
「あの先生二百歳超えているからね?」
「やめろー、聞きたくなーい」
スフロアの言葉に耳を塞ぐ。
例えいくつでも綺麗な女性には弱い生き物なんだ。
「じとー」
ルクダは台詞付きで俺へ視線を向けて来る。
「ふんっ」
アズモは俺へ肩パンして来た。
アズモが一番可愛くない。
「ブラリなら俺の気持ちを分かってくれるはずなんだ……」
スイザウロ学園に入ってから俺に出来た男の友達だ。
まだ若い上に何を考えているか分かりづらいが、ブラリには見所があると俺は勝手に思っている。
「そう言えば、ダフティちゃんの方はどうなったのかな?」
ルクダが疑問を投げた。
「ダフティの所には、スフィラとブラリが行ったから大丈夫だと思うわよ。あの二人はダフティの事をよく分かっているもの」
「うーん……」
スフロアがルクダの疑問に答えるが、ルクダはスフロアの言葉に納得がいっていないようだ。
「ルクダには何か気になる事があるのか?」
「うん。ダフティちゃんって、結構隠している事がありそうだったから。悪魔を宿された時に少し聞こえちゃったんだ」
「何が聞こえたんだ?」
「羨ましいってずっと言っていたの、少し怖かった」
羨ましいか……。
ブラリから昔の事を色々聞いた為分かったが、ブラリは他の家の子が羨ましいと言っていたような気がする。
ダフティを正気に戻す為に泣き言を全く言わず行動し、王の座にも憧れているブラリがそう言っていたから、ダフティはそれ以上にその気持ちが強かったかもしれない。
「ダフティちゃんが心配だよ。ダフティちゃんもルクダと同じように元に戻って欲しいよ……」
「ルクダは優しいな」
ルクダの頭を撫でる。
理由は分からないが、ダフティはルクダに悪魔を宿し異形化させた。
それはルクダも分かっている。
それなのにルクダはダフティの事を心配している。
「……そろそろ戻るか。あいつらの事を外から応援してやろうぜ」




