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百十九話 「また直ぐに会えたな」


「ここ、なんだね……」


 目を開き立ち上がる。

 付近に人の姿は見えない。


 対抗戦で遂に妹のダフティを倒した。

 ダンジョンの奥でダフティが異形化してから一年以上が経ったが、やっと終わりが見えて来た。


 異形化を完全に止めるには心の中に入り対話する必要がある。

 異形化したきっかけを見つめ直し、そこから抜け出す為の手助けをする。


 ダフティの心の中にまでやって来たが、僕がここで出来る事は話す事だけ。

 最終的に異形化が終わるかどうかはダフティの意思で決まる。


「この場所ならきっとダフティは……」


 現在位置を確認する。

 ここは僕達がよく知っている場所。

 魔王城……つまりは、僕達の育った場所である。


 ……そして、ダフティにとっては監獄だった場所だ。


 煌びやかな装飾が施された廊下を歩いてダフティの部屋を目指す。


 僕達は産まれてから学園に入学するまでの約六年間、ずっとここに居た。

 この城でひたすら勉強や訓練をしながら育った。

 自由なんか無かった。


 同年代の他の子が保育園に居る間僕らはここで勉強をし、他の子が友達と遊んでいる間ここで大人を相手に戦闘訓練をし、他の子が家族と出掛けている間にここで王族としての立ち振る舞いを教え込まれた。


 時稀に偉い人との顔合わせだとかで外に出る事はあったが、それ以外では基本的に外出が認められていなかった。

 家出でもしない限りは自由に遊べない。

 そんな家だった。


 ダフティは、時々家出をして毒抜きをしていた僕と違いずっとここに居た。

 そんなダフティが初めて僕を追って家を抜け出した時に家族の死に遭遇した。


 ずっと耐えて、耐えて、耐え抜いて初めて自分の意思で家を出たらフィラフトが死んでいた。

 異形化するのは必然だったのかもしれない。


 ただあの日、あの場所で僕がスイッチを押さなければ……。


 歩き続けるとダフティの部屋が見えた。

 三階構造になっている城の三階、そこの左奥にダフティの部屋がある。


 来客が入る一階や二階に比べて三階は質素な造りをしている。

 装飾品なんておいてなく、代わりに僕らが習い事で獲得した賞状やトロフィー、家族の写真、訓練に使った傷だらけの木剣、ダフティが入学式の日に読んだ挨拶文等が飾られている。


 それらを横目に見ながらダフティの部屋へと歩いて行く。

 恐らく、この扉の向こう側にあの日のダフティが居る。


 少しだけ震える手でノックをして、声を掛ける。


「ダフティ、開けるよ」


 ドアノブを捻り、開けようとする。

 しかし、扉はびくともしなかった。

 代わりに、ドアの向こう側からノックをする音が聞こえた。


「ブラリ様、私です」


 スフィラの声だった。


「スフィラが居て良かったよ。ここからじゃ開かないからそっちから開けてよ」


 ダフティの心の中へは僕達と一緒に育った従者スフィラと一緒にやって来た。

 気が付いた時に僕一人しか居なかったから何処か別の場所に居るとは思っていたが、まさかダフティの部屋に居るとは。


「……こちらからも開きません」

「え……?」


 想定外の答えが返って来て固まる。


「何度やってみても開かないのです」

「どうして……」

「ブラリ様が察している通り、ここにはダフティ様が居ます。部屋の真ん中で蹲って動かずに居ます」

「……ダフティ! 僕だよ、開けてよ!!」


 ドアをガンガンと叩き、扉を開いてくれるようにダフティに頼む。

 しかしどれだけ叩いても、声を荒げても何の反応も帰って来ない。


「ダフティ様はブラリ様に会いたく無いのかもしれません……」


 その内、スフィラの憔悴した声が聞こえた。


「ごめん、なさい……ブラリ様。私が、最後にダフティ様に本当は何があったのかを見せたのが、不味かったのかもしれません…………」


 続いてスフィラの泣く声が聞こえる。


 クラス対抗戦でダフティは異形化してティアラという悪魔に身体を受け渡した。

 ティアラを倒して終わったかと思いきや、意識を失っていたダフティは気が付き何かをしようとした。

 だけど、それをスフィラが幻影を見せて鎮静化。

 ダフティは再び意識を手放した。


 その時にスフィラはダフティにダンジョンの奥で何があったのかを見せた。

 死んだフィラフトの姿を見たダフティは異形化して、フィラフトを殺した人間を報復で殺した。


 でもそれは全部、ダフティの勘違いだった。

 僕と一緒に居た人間は、僕とフィラフトと一緒に冒険してくれた心優しいおじさん冒険者でしか無い。


 僕が、先輩冒険者としてエクウスがしてくれた「ダンジョンで違和感があったら一回止まれ。俺に教えてくれ」というアドバイスを破り、謎のスイッチを押してしまった。

 そしたら、未発見の階段が出てきた。

 僕達は「こんな場所があったのか!」と喜びワクワクしたが、そこから化け物が出て来て惨過が始まる。


 フィラフトを殺したのはエクウス達じゃない。

 全てはスイッチを押してしまった僕が悪い。


 ……僕がフィラフトを殺した。


 僕が昔、家出をして森から拾って来た小竜のフィラフト、魔王城に連れて帰っても温かく迎えられ家族の一員となりダフティにも可愛がられ、同時にダフティの支柱となっていたフィラフトは僕のせいで死んだんだ。


「……泣かないでスフィラ。外から開ける方法を探るよ」


 スフィラは悪くない。

 遅かれ早かれ説明する必要はあった。

 それを労いこそすれ、咎める事など断じて無い。


「城中を探し回って扉を開く為の鍵でも探して来るよ。だから、スフィラはダフティの事を頼んだよ」

「……はい。任せてください」


 ダフティの事はスフィラに任せ、扉から離れていく。


「とは言え、どうしようかな……」


 僕達が育ったこの城は手探りで探すには広すぎる。

 何かしら目星をつけて探す必要があるだろう。

 いつまでこの場所が維持されるかも分からない。


 一先ず、自室へと向かう。

 フィラフトは僕の部屋で寝ていた。


 もしかしたら、そこに何かがあるかもしれない。


 右奥にある僕の部屋へと向かう。


 緊張して扉を開けたが、こちらの扉はすんなりと開いた。


 懐かしの部屋へと入って行く。

 全寮制の学園に入った為、自室とは言えここは久しぶりに来る。


 フィラフトの寝床や玩具が置きっぱなしの僕とフィラフトの部屋。


「——よお、兄様。また直ぐに会えたな」


 僕の部屋には誰かが居た。


 ダークオレンジの髪をした女の子。

 ベッドに潜って僕の事を迎えるこの女の子には一つ大きな特徴がある。


 それは、顔がダフティと全く同じだという事。

 ただほんの少しだけ、ダフティと比べて勝気な目をしている。


「ティアラ……」


 異形化したダフティの代わりに僕と戦った悪魔だ。


 ティアラは起き上がり、僕の元まで歩いて来る。


「兄様が探している鍵っていうのは確かにどっかにあるぜ。俺が探すのを手伝ってやるよ」




はい、という訳で二章最後は心の扉の鍵を探す話になります。

いつの間にか百話を超えた二章の集大成となりますよろしくお願いします。

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