百十三話 俺はアズモの為に頑張ればいいんだ
「……コウジの罪は私も背負っている。だから、必ず倒して私の身体に戻って来てくれ」
俺が身体から抜けた事で動けなくなったはずのアズモが口をパクパクと動かして耳元で囁いた。
手から伝わるアズモの体温は喋れているのが不思議な程に冷たく、硬い。
心臓の動きも全く感じられない。
「タイムリミットはもう来ていたのか……俺は身体に戻った方が良いか」
「まだ良い。それよりも、私の事をしっかり抱きしめろ」
「でもそれだと言葉が聞こえなくなる」
「良いから早くしてくれ」
持ち上げて耳元まで持って来ていたアズモの頭を胸まで下ろす。
脇を掴んでいた手を前進させ、腕を入れアズモに言われた通りにしっかりと抱きしめた。
『私の声が聞こえるか』
アズモを抱きしめた途端、声が聞こえた。
いつも頭に中で響いていたアズモの声だ。
「聞こえるぞ。でも、なんでこんな事を」
『声を出すな。家族に聞かれる』
……分かった。いつもみたいに言葉を思い浮かべれば良いんだな。
でも、なんで聞かれちゃ駄目なんだ?
『口止めされている事だからだ。だが、私の独断で喋る事を決めた。もう一度言う、コウジの罪は私も背負っている』
……それはもう良い。
こんな俺を慰めないで欲しい。
俺はこの身体に憑依してから、アズモと周りの人に迷惑をかけてばかりだ。
『……その憑依にネスティマス家が一枚噛んでいる。初めからコウジは巻き込まれただけだ。コウジは私が生きる為にこの身体に宿された。コウジが抱えている悩みは全て元を辿ると私に行きつく』
……何を、言っているんだ。
俺を励ます為に、そんな嘘を吐くのか?
『私が今言っている事は全て事実だ。コウジは元の世界で事故に巻き込まれ、魂を抜かれた。そしてその魂は私に入れられた。全部仕組まれた事なのだ』
待ってくれ、理解が追い付かない。
今この状況でそんな事を羅列されても、全然飲み込めない。
俺は、死んでいたって事か……?
『元の身体は生きている。事故で激しく損傷はしたが死んではいない。だが、魂は抜かれた』
どうしてだ?
アズモはどうしてそれを知っている。
出まかせを言っている訳じゃないのか?
『全部事実だ。父上がコウジの記憶を封印したため、自分では何があったのか思い出せないようになっている』
どうしてそんな事を……。
ネスティマス家は俺にどうしてそんな事をしたんだ。
あんなに優しくしてくれていたのは全部嘘だったって言うのか?
『それは嘘では無い。皆、コウジに感謝している。何せ死にゆくしか無かった私を助けてくれたのだから』
分からない。
何があってそんな事になるのか全然分からない。
なんで今それを言うんだ。
それを言って俺に何を伝えようとしていたんだ。
俺が悪くないって事を伝えようとしたのか?
でも、結局ルクダが異形化する原因を作ったのは俺である事に変わりは無いだろう。
……頼むから何を伝えたかったのか教えてくれよ、アズモ。
『詳しい事は全部終わったら教える。……ただ今は、難しい事なんて考えずに、私の為に友達を助けて欲しい。ルクダが居なくなったら私は困る』
俺はルクダを助ければいいのか?
『そうだ。私の為にルクダを助けろ。あいつは私の少ない友達だ。……これで充分だろうか。…………コウジが戦う理由にちゃんとなっているだろうか?』
俺を励ましたいのなら、そんな不安そうに聞いて来ないで欲しい。
はっきり言ってちっとも充分では無い。
謎が増えて更に混乱した。
なんでこんな時にこれらを伝えて来たのか本当に分からない。
肝心の言っている事も要領を得なくて分かりづらい。
『うぐ……』
……ただ、一つだけ分かった。
腕の中にいるアズモの体温がだんだん上がって来ていたんだ。
アズモは俺が居ないと、生命活動を行えないんだろうな。
そしてそれは俺もなんだろう。
こうしてアズモとくっ付いていると、透けていた身体が元に戻っていく。
俺がこの世界に居る理由がなんとなくだけど分かった。
戦う理由作りもしてもらえた。
異形化したルクダを倒せたら、アズモの友達を救え、アズモの身体に戻る事でアズモの事も助けられて、おまけに俺がこの世界に来た理由も教えてもらえるんだ。
俺はアズモの為に頑張ればいいんだ。
『その通りだ。私の為に戦え。そして早く帰ってこい』
……充分だ。
知っているか? 俺はこの世界に来てから、自分じゃ何もしようとしないアズモの為にずっと動いてきたんだ。
『知っている。だから、今回も頼むぞ』
分かった。倒すよ。
じゃあ、俺はもう行くぞ。
『待て』
まだ何かあるのか。
『最後に高い高いしていけ。スフロアとラフティリにはして私にしないのは有り得ない』
……なんだこいつ。
でも、アズモはこういう奴だったな。
割と暴君なんだよな、憑依先の女の子は。
……憑依者の俺はそれに従うだけだが。
言われた通りに高く上げ、振り回してやる。
俺のいないアズモの反応は鈍いが、微かに笑顔が浮かんだように見えた。
『よし、じゃあ行っていいぞ。下ろす時は慎重に下ろせ』
へいへい。
気の抜けた返事を返し、地面に下ろす。
直ぐにスフロアとラフティリがアズモを支えるように近くに寄った。
「身体の色が戻ったわ!」
「ああ、アズモの為にはくよくよしていられないからな」
「何を話していたの?」
「晩飯何食うかについてだな」
スフロアが訝しげなまなざしを向けて来るが、白を切る。
アズモとの会話は二人だけの秘密だ。
「じゃあ、今度こそルクダを止めて来る」
追及される前にその場から走り出す。
なんとなく振り返ると、アズモがスフロアに小突かれているのが見えた。
腕を組んだスフロア(なんか長くない? こいつらこんな時に何を話しているのかしら)
ラフティリ(スフロアの毒針付きの尻尾がバタバタ揺れてて危ないわ!)




