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十一話 二人で一緒に身体を動かさないか?


 ——一か月が経った。

 朝は親父に転移魔法で保育園に送ってもらい、夕方まで保育園でルクダやスフロアと全力で遊ぶ。

 家に帰ってきたら、身体を動かすのと魔物化の練習。


 この一か月はかなり充実していた。

 ルクダとスフロアはかなり仲良くなったし、俺は先生から問題児扱いされた。


 気づいたらルクダはスフロアにべったりしている事が多かったし、俺は先生から追いかけ回された。


 周りもそんな二人を見て少しずつスフロアに対する目を変えた気がするし、俺は周りから「アズモやばくね?」と距離を取られた。


 家での特訓も中々なものだった。

 身体を動かすのはまだ要練習と言った感じだが、それでも最初に比べて確実にマシになっている。今なら五十メートル走も三十秒くらいで踏破出来ると思う。


 しかし、魔物化は難航していた。

 両手を人間のものから竜のものへと変質させる事は初日に出来たため、魔物化は簡単にマスター出来るな。と舐めていたがそんな事は無かった。


 両手以外を変質させる事が出来ない。

 両足も変質させる事が出来たら機動力を上げる事が出来そうなのに出来ない。

 翼も生やす事が出来なかった。


 親父に原因を聞いてみたら「アズモとコウジの場合は、一つの器に二つの意識が混じっている。そのため変化させたい箇所への集中が上手く出来ていない」と言われた。

 両手は出来たのにそんな理由なはずがない。と思うが、他人と比べて身体を動かすのにハンデがあるため満足に歩く事もまだ出来ていない。

 そんな奴が、両足の強化を望むのもおかしな話だった。


 だから、魔物化を習得する前座としてひたすら身体を動かす練習をした。

 今は前に思いついた、片方が身体の力を抜いて、もう片方が身体を動かすという方法で身体を動かす練習をしている。

 練習は進み前にアズモが言った20%を超え、30%の力を出す事は可能になった気がする。


 だが、この方法は合っているのだろうか。

 何かもっと良い身体の動かし方はないのだろうか。


「アズモちゃん捕まえた!」

「やるねー、ルクダちゃん!」


 そんなこんなで今日はアマリリス組の皆で鬼ごっこをしていた。

 これはこの一か月で知った事だが、俺達二歳児組のクラス名は「アマリリス」という名前だった。


 我らアマリリス組は厄介な事情を抱えたスフロアがいたため皆で遊ぶという文化が無かったが、この一か月のルクダの尽力でスフロアがクラスに馴染んできた。

 その結果、今まで皆で遊べなかったのを埋めるかのようにアマリリス組の皆で遊ぶ事が増えた。


 寧ろ最近は俺の方が皆から距離を取られているので、いつ俺が皆からハブにされるのかヒヤヒヤしている。

 今だってルクダが鬼の時は走る速度を緩めてルクダの方をチラチラ見ていた男子共が、俺がルクダにタッチされたのを確認すると舌打ちをして全速力で逃げていく。


 ……もしかして、俺が周りにやばい奴扱いされているのはあの先生にボコボコ殴られているからではなく、ルクダやスフロアと仲が良いからだったりするのでは?

 俺が距離を取られているのは男子共の嫉妬からでは無いか?


 二歳児の癖に色気付けやがって……。


『いや、それはないだろう。だって私も——』


 ——うわ、あいつ俺の事を挑発してやがる!

 見てみろアズモ! あの猿みたいな尻尾生えたやつ!

 尻尾をユラユラ揺らして煽ってきてやがるぞ!


『あれはあからさまだな。しかし、あんな挑発に乗るのかコウジは……?』


 俺は挑発に乗るんじゃない。

 大人として二歳児を躾けるだけだ。


『私はこういう十八歳にはならないようにしよう……』


 とにかくあいつを捕まえるぞ、アズモ!

 アズモは俺に任せて力を抜いていてくれ!


 心の中でアズモにそう言い、俺を挑発してきた奴に向かい駆ける。

 身体を動かすのは難しいが毎日特訓した。

 出せる力が制限されて30%くらいしか出せないとはいえ、ただの2歳児に追いつけない俺ではない。


 必死に走って追いかけて、追い続けて加速する。

 あと一歩で背中に手が届く所まで追いつく。

 やはり走り方は間違っていなかったんだ。


 いける……!

 そう思い手を伸ばす。

 伸ばした手は前方を走る男子に当たりかけ宙を切る。


 なんで手が届かないんだ……?

 二度、三度とトライしてみるがいずれも空しく同じ結果となった。


「遅いなぁああああ、アズモ君は! それで本気で走っているのか!? 俺はまだ80%ってところだぜえ!!?」


 俺が捉えるのに四苦八苦していると、前を走って逃げていた男子が振り向きながらそう叫んできた。

 完璧にこちらを舐めている目の前の男子。

 ニヤニヤとした表情でこちら見てくる。


「はあ、こっちなんて30%っていったところだからな! しかも80%ってほぼ本気じゃねえかよ!」


 俺はキレた。

 いくら温厚で有名な俺でもこれは切れる。

 なお言っている事はブラフでは無く真実だ。


『いや、おい、十八歳児……』


 だって、アズモこいつが!


 これは流石に大人でもカチンってくるって。

 というかこいつの煽り力が高い!

 こいつ本当は中身中学生くらいのが入っているんじゃないかって思うんだが!


『本当に中学生が入っていたとしても、お前は高校生だっただろうが……。どちらにせよって感じだ』


 正論やめてくれ。地味に俺に効くから。

 でも俺はどうしてもあのクソガキに一発入れたいんだよ。

 ここまでコケにされて黙っていられるかっての。


「見とけよ。ぜってー捕まえて(蹴り入れて)やるからな」

「やれるもんならやってみろってんだよ! スフロアちゃん俺を見ていてくれ! 俺がアズモより速いってのを証明してやるから! あんな男より俺のが足が速い!」

「はあ誰よ、あんた。何急に。アズモ、そんな奴に負けないでよね!」

「ずっと同じクラスに居たのに……。お、俺の名前はフールだ!」


 くそ、あの野郎……スフロア狙いかよ。

 ますます生かしておけねぇ……。


『……私も気が変わった! 全力で手を貸すぞコウジ! あんなやつ絶対捕まえて(ぶちのめして)やろう!』


 アズモ乗ってくれるのか!

 よし、二人でやってみたい事があったんだ。

 協力してくれアズモ。


『ほう。それはなんだ』


 最近思っていたんだ。

 俺たちの今の身体の動かし方じゃ全力を出したくても出せない。

 このまま練習していったらいつか100%を出す事は出来るかもしれない。

 だけど、それはとても時間が掛かる。


『それは私も感じていた。どうにかならないかとヤキモキしていたやつだ』


 そこでだ。

 ここからが提案だ。


 どちらか片方が身体を動かす。そしてもう片方が身体の力を抜いて身体を動かす邪魔をしないようにする。

 これじゃ駄目だ。


 アズモ、二人で一緒に身体を動かさないか?

 俺達は折角二人いるんだ。

 両方の力を合わせれば100%を超えて200%を出す事が出来るかもしれない。


『それは……確かに夢のある話だ。だが、出来るのか。同時に身体を動かそうとして今まで散々失敗してきた。コウジの言っている事はゲームで言うと、一つの操作キャラに対して、動かす奴が二人もいるという面倒なものだ。果たしてそれを今この場で出来るのか』


 今の俺達ならたぶん出来る。

 この一か月、身体を動かす特訓をしてきたんだ。


『それは一人で身体を動かす練習じゃないか。片方は休んでいるのだ。コウジがやろうとしているものの練習にはなっていない』


 いや、出来る。

 アズモが身体を動かして俺が休んでいる間、俺はアズモの身体の動かし方をずっと集中してこの身体で体験してきたんだ。


『まさか……私の動き方を覚えたと言うのか?』


 ちょっとだけな。

 なにせ休んでいる間は暇で他にやる事がない。


『なんて奴だ。コウジと言えちょっと引くぞ』


 なんでそこで引くんだよ……。

 逆に努力を褒めて欲しいところだぞ……。


『悪い。それで私はどうすれば良い』


 最初に右足を出そう。アズモは同じタイミングで左足を出してくれ。

 後はそのまま全力で。


『二人三脚じゃなくて一人二脚なのだからそんな事出来るわけがないだろ』


 あ、悪い。左足じゃなくて右足か。


『しっかりしてくれ、折角決めようとしているのにダサく見える』


 へいへい。厳しい奴め。

 俺が右足から始める。アズモも右足から出してくれ。


『分かった。タイミングはコウジが決めてくれ』


 じゃあ懐かしの前に使っていた1、2の3っていう掛け声で行こうか。

 行くぞ、アズモ!


 1、2の3!


 一足で止まっていたフールに肉薄する。

 距離はもう拳一つ分も残っていない。


「ひ、ひぃ!」


 スフロアに「あんた誰よ」と言われて消沈していたフールは、急に近づいて来た俺に恐怖して情けない顔をする。

 ここで少しでも手を伸ばせばもう俺達の勝ちだ。


 しかし、俺達の身体はガクッと傾き派手に転がる。

 速さを出していた俺達の身体は凄まじい勢いで地面を滑っていく。

 受け身をとる事も出来ずに無様に。


『っくう! コウジ、上手く走れていないではないか!』


 ごめん、アズモ。

 俺が体験してきた速さと、今さっきの速さが違い過ぎて上手く調節出来なかった。


「び、ビビらせやがって……! どうなるかと思ったけど、派手に転んだだけかよ。ダッセーなー」


 アズモ、もう一度行くぞ。


『正気か? また転ぶのは嫌だぞ』


 アズモの全力を侮っていたんだ。

 次は俺も全力で行く。そしたら大丈夫だ。

 次からは全て上手く行く。


『本当——』


「——アズモちゃん、大丈夫! 凄い血だよ!」


 地面に倒れた俺にルクダが心配しながらやってくる。

 目には少し涙が溜まっていた。


 初めの内は色々あって表情をよく曇らせていたが、最近はそんな事もなくずっとニコニコしていたルクダ。


 俺はまたルクダを……。


「大丈夫だ、ルクダ……。俺はちょっと足を滑らせて転んだだけだ」


 俺はヨロヨロと立ち上がりながらそう言った。

 確かに血は出ている。

 だが、興奮状態だからか全く痛くはない。


『私は痛いが。痛すぎて泣きたいが』


 俺は痛くない。

 アズモは無理そうだったら身体の力を抜いていてくれ。

 俺一人で蹴りをつけるから。


「スフロアちゃんに続いてルクダちゃんまで……ムカつく! 女子に心配されてばっかりの情けない男だなお前は!」


『冗談抜かすな。また怒りの薪をくべられたところだ』


 気が合うな、アズモは。俺も同じ気持ちだ。

 俺はアズモの身体に憑依出来て良かったって思うよ。

 欲を言うと、別の身体を持って転生して、こういう保育園とかで出会って普通に友達になりたかったけどな。


『なんだ唐突に。気持ち悪いやつだな。……私は憑依でもコウジに出会えたって事だけで嬉しい』


 照れるからやめろ。この戦闘中に心を乱してくるな。

 動きを合わせるのが難しくなるわ、アホ。


『つれない奴だ』


 さあ、第二ラウンドと行こうか。




ここからやっと転生じゃなくて憑依系にした意味をお見せしていく事が出来ると思います。

あと、ごめんなさい。今の話と次話の内容の都合上、今の内にあらすじを訂正しておきます。

訂正の内容は次話に乗せます。



この後9時にもう一話投稿します!

ブックマーク&評価しなくても大丈夫なのでそっちも見てくれたら嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
[一言] コウジ&アズモ in アズモがやたら嫉妬されていると思ったら、そもそも女の子同士ではなく幼女を侍らすショタだと勘違いされていたのですね。これにはアズモ in アズモも激怒。 そして痛みを感じ…
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