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九十九話 「私は子供じゃなくなったんだ」


「なら、これはどうかしら!」

「効かんわ!」


 俺とアズモでスフロアと激戦を繰り広げていた。


 毒針を受けないように距離を取る俺達に対し、スフロアは炎魔法で仕掛けて来る。

 俺達はそれに対抗するようにブレスで攻撃を仕掛けては、隙を見て近接戦に持ち込むのを繰り返す。


 ヒットアンドアウェイだ。


 普段は踏み込みがちな俺達だが、対スフロアにおいては毒針という分かりやすい必殺技があるのでいつもよりも賢く戦う事が出来る。


『次はあれをやりたい! あれをやるぞコウジ!』


 はいはい。

 火に触れると爆発する噴煙ブレスだよな。


『そうだ。炎魔法を撃つのに合わせて使って驚かせてやろう!』


 俺の宿主のアズモは楽しそうだった。


 アズモの言う通りに、スフロアが炎魔法を使ったのに合わせて噴煙ブレスを放つ。

 ディスティアの対ラフティリ用折檻ブレスを見て覚えたブレス技だったが、使い勝手が良く威力も申し分ない上、搦め手にも流用出来る優秀なブレスとなった。


 自身の炎を媒体にして可燃するブレスにスフロアを驚くが、それを好機と捉え迫って来る俺達にしっかりと尻尾から毒を噴出して牽制してくる。


 あの毒を噴出される攻撃は、注入されるよりはダメージがマシかもしれないが威力は分からない。

万が一あの一発で落とされるなどという事態に陥ったら目も当てられないので避けるようにしている。


「私達を近づかせないようにしているのか!?」

「当然よ! 毒針があるとはいえ、肉弾戦に持ち込まれたらあんた達の方が強いのだからね!」


 戦いながらもお互い喋る余裕はあった。


 本当はここでスフロアと戦うべきではない。

 ブラリからダフティの相手をする事を頼まれている。


 だが、スフロアは逃がしてくれる訳も無いし、倒すにしても直ぐに倒せるような相手では無かった。


「無論、近づけたら毒針を食らう前に落としてやる!」

「そこまで言うならやってみなさいよ!」


 ちなみにだが、ここまで喋っているのは俺では無くアズモだ。

 アズモは人見知りが激しく、コミュ障だが喋れる相手なら楽しくお喋りする事が出来る。


 そして、アズモはそういう人との会話を大事にしている。

 なんだかんだ言って、一度心を許した相手には優しい奴なのだ。


 その分、裏切られた時にはかなり怒る。

 ブラリが妹のダフティを任せるのに俺達が適任かどうか試した時は、アズモ史上最高に怒っていた。


 なんて、俺も思考に耽っている場合では無いな。

 アズモが喋る分、身体を動かすのやブレスの操作は俺がメインでやっている。

 そちらに集中しなくては。


 スフロアの火球により、周囲に生えていた草はもう焼け落ちている。

 普段草の無い修練場等で訓練をしている為、草が生えていた時よりも動きやすくなり助かる。


 スフロアがまた火球を数発自分の周りに浮かばせ、順番に撃ち込んで来るが、しっかり見て回避する。

 距離がある分、軌跡を読みやすい。


 だが、それはスフロアも同じだ。

 お返しにこちらも炎ブレスを何発か返すが避けられた。


 どうやって攻め込むか。


 俺が攻めあぐねているのに気付いたのか、スフロアが毒を飛ばして来る。

 それを飛んで避けてスフロアの頭上から噴煙ブレスを吐き、更に上空に飛び炎ブレスで爆ぜさせる。


 煙は晴れるが、スフロアは居ない。

 勿論、落とした感覚も無い。


 何処に行ったのか探していると、少し離れた木から紫色の液体が一直線で飛ばされる。

 それに気付いた俺はギリギリで避けた。


 木から地面に飛び降り、こちらに走りながらスフロアは火球を連発してくる。


「空を飛んでくれたおかげで狙いやすくなったわね!」

「それは当ててから言う事だな!」


 滑空しスフロアに近づく、口に炎を纏いながら突進するとスフロアは魔法を撃つのをやめて避ける事を優先した。

 地面に着地したのと同時に振り返り、ブレスを発射する。


 しかし、避けながら魔法の用意を完了させていたスフロアの火球により相殺された。


 実力が拮抗しているのか、スフロアの戦い方が上手いのか中々攻撃を与えられない。


「なんだ今のヘナチョコ炎魔法は。もう魔力切れなのか?」

「そっちこそさっきのブレスはおざなりだったわよ?」


 うぐ。ブレスも動くのもほぼ俺が担当しているのでスフロアの言葉が刺さる。

 アズモとスフロアの言い争いのはずなのに何故俺が被弾するのだろうか。


 ちょっと、アズモさん。

 あの、いい加減攻撃に付き合ってもらっていいですか?


『むう……しょうがない』


 アズモが渋々了承してくれた。

 これでやっと俺達本来の戦いをする事が出来る。


「ここからは私達の力を合わせて本気で行く」

「そう……ここからが本番なのね! 気合いを入れ直すわ!」


 アズモとスフロアの言葉の応酬も一区切りついたようだ。


 俺達は翼を広げ、空に羽ばたく。

 俺が引き続き翼を動かすのに集中し、今度はアズモがブレスに集中する。


 スフロアは飛ぶ俺達に向け、火球を放つが全て避けスフロアに迫る。

 動く事だけに集中する事が出来れば俺なら攻撃を避けながら近づく事が出来る。

 そして、アズモがブレスを吐いてくれているのでスフロアの攻撃の手が緩まる。


 もう手の届く範囲に迫り、スフロアが毒針を用意する。

 俺はそれを紙一重で避け、口をスフロアの顔に近づける。


 俺達の勝ちだ。


「——わあ、二人共楽しそうな戦いをしていたんだね」


 アズモが炎ブレスを零距離でスフロアに放とうとしていたが、突如現れた何者かによって吹っ飛ばされ不発に終わった。


 地面に転がる前に空中で態勢を整え、来訪者を見据える。


「誰だ……?」


 青い髪を背中まで伸ばした活発そうな女の子だった。

 喋り方と見た目から一瞬ルクダかと思ったが、この子はアズモよりも背が高い。


 ルクダはアズモよりも小さく、いつも近くで見上げてきていたので、この子はルクダでは無いはず……。


「えーアズモちゃん、ルクダの顔忘れちゃったの? じゃなかった! 私の顔を忘れちゃったの?」

「嘘だろ……?」

「ルクダなの……?」


 俺だけじゃなくスフロアも急に現れたルクダに驚いていた。


 ルクダがここに居るっていう事はラフティリとブラリがやられたのか?

 ここでスフロアと戦っていたがそこまで時間は経っていなかったはずだ。

 まさかその少ない時間で勝負が終わったと言うのか!?


 俺達でスフロアを連れ出して、スフィラがポディカスロを相手しているはずだから、あそこにはルクダとダフティが残ったはずだよな?


 ブラリとは最近喧嘩をしたが、直ぐやられる程弱い奴では無かった。

 ダフティはそんなに強いというのか?


 ブラリがダフティは強いよと言っていたが、ここまでとは。


 だが、それよりも今は急成長したルクダが気になる。

 この僅かな時間で一体何が……?


 その時、水色の小竜が俺の方にパタパタと飛んで来た。


「二人共逃げて! ルクダが歳を吸って(・・・・・)来るわ!」

「ラフティリなのか……!?」

「ラフティリだわ!」


 水色の小竜が、俺の頭に止まり翼を休ませる。


「歳を吸うってどういう事だ!?」


 俺の事を見ながらニコニコしているルクダと距離を取りながらラフティリに問う。

 一度ラフティリの完全に魔物化した姿を見せてもらった事があるが、こんなに小さくはなかったはずだ。


「そのままの意味よ! 触れられたと思ったら、私が縮んでルクダが大きくなったの!」

「そんな馬鹿な……」


 ルクダが不意にスフロアに迫ろうとしたが、ラフティリが水ブレスを吐きそれを阻止する。


 急な事態に理解が追い付かない。


 スフロアを倒したと思ったら、急に成長したルクダが現れて阻止され、小さくなったラフティリが飛んできた。

 そして何故か、スフロアの仲間であるはずのルクダが、スフロアを捕まえようと両手を広げて迫っていた。


「一時休戦だ、スフロア!」

「ええ!」


 頭にラフティリを乗せたままスフロアと合流をする。


 よく分からないが、歳を吸われるのは不味いだろう。

 最悪存在が消えてしまうのでは無いか?


 ルクダは何故俺達から歳を吸ってくる?

 どうしてそんな力を持っているんだ?


「私よりも皆ちっちゃいね!」


 ルクダは無邪気に笑い俺達を順番に見る。


 そんなはずは無いと思いたいが、魔物が異能に急に目覚める現象がある。


「なあ、ルクダ。何があったんだ……?」


 異形化と解放。

 それぞれ本能と理想を元にしてその魔物のなりたい姿と力を手に入れる能力。


 二つの中でも、異形化の方は使用者の理性が犠牲にされる。

 自分じゃどうしようも無い現実を前にした魔物が、本能のままに自分のやりたいように、気が済むまで獣のように暴走する力。


「えへへ、私は子供じゃなくなったんだ」


 ルクダは無邪気にそう言って笑った。

 しかし、その目には光が灯っていなかった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 既に洗脳されてしまっていた……ってコト?!
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