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十話 「あ、竜王様が逃げた!」


「アズモちゃんのバカバカバカ! 毒でアズモちゃんが死んじゃうと思ったんだよ!!」


 ルクダが救護室から出てきた俺をポカポカ殴りながら言った。

 スフロアも何か言いたげな雰囲気を纏っているが、ルクダがいるからか遠慮して何も言って来ない。

 先生は救護室に大量の魚が転がっているのを見て叫んでいた。


「ご、ごめんねルクダちゃん。俺は大丈夫だったよ」

「もー、色々言いたいけどアズモちゃんが無事で良かったよ!」


 そう言い抱き着いてくるルクダに俺は困っていた。

 この子が特別スキンシップの多い子なのか、俺が既に二歳児のルクダに抱き着かせるという事案を犯したからベタベタしてくるのか。

 俺は十八歳の青少年だから、二歳児に対して邪な気持ちなど抱かないが、これは少し恥ずかしい。


『青少年ね……。私は死ぬかと思ったが、毒が身体に有害って事を知らない青少年なんているのか。その青少年に文句の一つや百つくらいは言いたいのだが、紹介してくれないか?』


 アズモはご立腹だった。

 俺は毒を受けてもピンピンとしていたが、アズモはしっかり食らっていて瀕死だった。


 どや顔でした推理を思いきり外して萎えて休んでいたところに無常な毒が襲ってきた。

 そんな事をされたら誰だって腹が立つよな。

 当事者兼、憑依者の俺に出来る事は一つしかない。


 心の籠った謝罪だ。


 ……本当に申し訳ありませんでした、アズモさん!

 毒を舐めていました!


 知識として危険だとは承知していたのですが、どのくらい危険か分からず「竜王の子供とかいうチートみたいな身体だったら耐えられるんじゃね?」という軽い気持ちで刺してしまいました!

 申し開きは以上です!


 後は煮るなり焼くなりお好きにしてください!


『同じ身体を共有しているのだからそんな事をしたら私も大ダメージを受けるからしないが……でも、そこまで言うならスフロアを助けようとするのをやめてもらおうか』


 いや、それだけは無理です!

 友達なら無償で助け合うもんなんで!


『はあ……そう言うと思った。父上もなんかノリノリだったから私はもう折れるが……』


 親父は、スフロアを助けるのに否定的じゃなかった。

 寧ろ「我は一切介入しないが、望むのなら守るための力を授けよう」と強くなるために訓練をつけてくれる事を申し出てきた。

 その時に、「アズモとコウジじゃ生活が送りにくいだろう。と考え封印していたものがある。だが、今の二人なら大丈夫だろう」という事で俺達の封印が解除された。


「あれ、アズモちゃんのお尻の方に違和感が……って何か動いている!」


 封印を解除された事で尻尾が生えてきたのだ。

 場所はルクダが言った通りの場所から。

 中々に立派な黒い尻尾が生えてきた。


『こ、こいつ、なんて所を触ってくるのだ! いやらしいやつだ!』


 まあまあアズモさん。相手は二歳児。しかも同性。

 お尻を触られたくらいで一々怒るような年齢でもない。


『私も二歳児だが? 二歳児でも恥ずかしいものは恥ずかしいぞ? そこまで言うのなら、十八歳児さん。尻を触り返してもらっても?』


 流石に俺が触るのはアカン。

 お縄案件だから。


「なんか気づいたら尻尾が生えていたんだよね、俺もビックリした」


 特に誤魔化す理由もないが、説明するのが面倒だからしらばっくれる。


「へー、そうなんだ! ルクダにも急に尻尾が生えてきたりするのかな?」

「どうなんだろうね。昨日見た感じルクダちゃんって熊っ子だよね。熊だったら尻尾は生えないんじゃないかな」

「うん、ルクダは熊さんだよ! ルクダじゃやっぱり尻尾は生えないかー」


 残念そうにそう言うルクダを可愛いなーって思う。

 そんな子にずっと抱きしめられているのはやはり羞恥心がどうにかなりそうなので、俺は両手でルクダの肩を持ち少し離す。

 ルクダに俺の意図が伝わる事はなく、ルクダは更に力を込めて抱き着いてくる。


「で、でも、これでスフロアちゃんとお揃いだね」


 俺は慌てながらスフロアに話を振った。

 ルクダはそこで俺を拘束する力が急に弱まり、俺から離れて俯く。


「そ、そうね! お揃いね! ……お揃い、友達みたいだわ」

「俺とスフロアちゃんはもう友達だよ」

「友達……。………嬉しいわ」


 スフロアがデレている……?

 それとも初めから素直だったのか?

 話をした事が全然ないからいまいち判断をつけにくいが。


「でも、アンタからちゃん付けで呼ばれるの気持ち悪いわ。あと普通に喋ってくれない? 朝の時みたいに失礼な態度で喋ってくれた方が私もやりやすいし、楽だわ。……その方が友達っぽいし」


 あ、この子は素直な子だ。

 裏表の無い直球勝負タイプだなこれ。


「そうか。じゃあこんな感じで喋らせてもらうよ。改めてよろしくなスフロア」

「う、うん! よろしくね、アズモ!」

「スフロアには早速で悪いが尻尾の動かし方のレクチャーを——」


「——あ、あの!」


 さっきまで黙って俯いていたルクダがスフロアを見ながら言う。

 身体が少し震えているが、目は揺らいでいない。

 何かを決心したようだ。


「な、なによ」


 逆にスフロアはそんなルクダに声を掛けられてビクビクしていた。


「スフロアちゃん、ルクダとも友達になってください!」


「今までずっと避けてきてごめんなさい! いつスフロアちゃんが来なくなっちゃうか分からなくてずっと怖かったの! でも、それはもうやめる! スフロアちゃん、ルクダと友達になってください!」


 ルクダは矢継ぎ早にそう言う。

 それは最早叫びに近いものだった。

 ルクダも今までのスフロアに対する扱いに思う事があったのだろう。


「え、あ、え、あの」


 ルクダの懺悔ともとれる懇願を聞いたスフロアはまごまごしていた。

 スフロアがルクダを見て俺を見るのを繰り返す。


「ルクダがスフロアと友達になりたいってよ」


「そ、その……よろこんで?」

「やった!」


 ルクダは途端に笑顔になると少し離れた位置にいたスフロアの元に駆けていく。

 そのままルクダはスフロアに走って抱き着いた。

 スフロアは困惑しているが、嫌そうではないように見える。

 ルクダの背中に回しかけた手をどうすれば良いのか分からずに宙に漂わせているのがそれを証明している。


 これは目の保養だ……。

 俺の心が濁っていたら今ので心が浄化されているだろう。


 尚、俺達が友達になった後ろでは責任のなすりつけ合いが行われていた。


 フィドロクアによって生み出された大量の魚を巡る話し合いが行われていた。

 丁度先生の「あ、竜王様が逃げた!」という台詞が聞こえたので、そっちの話も終わったのだろう。



—————



 今日のお昼は急遽、海鮮系になった。

 魚は中々に美味しかったらしく、多くの園児がおかわりをしていたと思う。

 食べたらお昼寝の時間がやって来る。


 クラスから出てちょっとした広間に向かい、そこに各々で布団を並べる。

 俺の右にはルクダが布団を置き、左にはスフロアが来た。

 最初こそヒソヒソ話していたが二人は余程疲れていたのか、二歳児の性なのか、ものの数分で寝息を立てた。


 なあなあ、アズモ起きているか。


『起きている』


 親父逃走していたな。


『見事な逃げだった』


 親父のああいうところ初めて見たかもしれないわ俺。


『私も初めて見た。父上でも都合が悪くなったら逃げるのだな』


 ……ところで、皆あの魚食べていたな。


『食べていたな……』


 まさか、保育園みたいな子供を預かる施設が出所不明の物をご飯として提供してくるとは……。


 あの魚を食べた子供達は大丈夫なんだろうか?

 数日後に誰かに操られるかのように自我を失くしたり、急に爆発とかしたりするのではと思ってしまうんだが。


『…………』


 ルクダとスフロアには一応食べさせなかったけど。

 他の連中がいきなりどうにかなりそうで怖いな。


『あの魚は父上がしっかり仕留めたはずだ。万が一にもそのような事にはならないと思う……たぶん』


 そこはもう考えないようにしよう。考えても無駄な気がする。

 そうだ、親父と言ったら俺達の強くなる方法を提案してきたな。


『魔物化、異形化、解放の三つがあったな』


 三つもあるんだなって。

 変身パターンが三つもあるって正直多くないか?


『戦隊物や魔法少女物ならそれ以上あってお披露目の度に興奮するのだがな。自分にそういうのがある、と言われたら何故か少し微妙な気持ちになるな』


 そうだな。ゲームだと敵によって使い分けとかして敵毎に有効な手段を取れる面白さがあるけど、いざ自分が出来ると分かったらな……。


『どれか一つ。一番強いのを使えたらいいや。という気持ちになるな……』


 ああ……。

 ま、まあいいか。

 三つがどんなのだったか振り返ってどれが一番強そうか考えてみよう。


『魔物化が種族毎に決められた魔物の姿になる。異形化が個人に合った異形の姿になる。解放は……よく分からないな』


 解放は聞いた感じ異形化と似ていたような。

 自分の望む最適化をとる……みたいな感じだったはずだ。


『私達が解放を使ったら身体が二つ用意されるのかもしれないな……。解放を覚えるのだけはやめないか?』


 アズモがそう言うならそうするが、どうして嫌なんだ?


『なんとなく、コウジと離れるのは嫌な感じがする』


 俺達の解放でそうなるかは分からないが……。

 こういう時の勘は割と馬鹿に出来ないからな。

 じゃあ、異形化っていうのを習得してみるか?

 名前の響きは三つの中で一番強そうな気がしたが。


『それもどうなのだろうか。異形化をしたら理性と自我が崩壊すると聞いたが』


 でも確かそれは最初の内だけだって言っていなかったか?

 慣れたら普通の状態でいられるらしいぞ。


『その最初の内だけでも怖い。自我が崩壊したら一つの器に二人入っている私達はどうなってしまうのか、分からないから怖い。私とコウジ、二つの人格が混じって別の存在に変わってしまうかもしれない』


 それは俺も少し思った。

 身体がどうにかなるのまでは許容出来るが、意識までとなると不安になる。


『私としては身体がどうにかなるのも怖いのだが……。だって私の身体だぞ。もっと大事に扱ってくれ。特に毒とかは』


 あ、はい。その節は本当に申し訳ございませんでした。

 ……しかし、となると残っているのは魔物化しかないな。


『魔物化は父上も一番簡単だからこれを最初に覚えるのがいいと言っていたな』


 そうだな……。

 もしかして、実は初めからアズモの中ではどれを取るのか決まっていたのか?


 魔物化を使えるようになろうって。


『そうだが』


 あっさり認められると言及しにくい。

 まあいいけどさ。


『魔物化は変質させたい部位に意識を集中させて、言葉を唱える。言葉は補助みたいな物で段々と使わなくても変質させる事が出来る、だったか』


 なあ、アズモさん。


『言うな。私の気持ちはコウジと同じだ。やってみよう面白そうだ』


 よし来た!

 俺が右腕を担当する。アズモは左腕を頼む。


『任せろ。どっちが先に出来るか勝負といこうじゃないか』


 じゃあ早速一回目行こうぜ。


「Μεταμορφώνω」


 魔物化に使うキーワードを唱える。

 右腕の感覚は変わっていない。

 しかし右腕を動かして目で見てみると変わっていた。


 黒い鱗が綺麗に装飾された腕。

 伸びてかぎ爪のようになった爪は武器のようだ。


 お、おぉ……一発目で成功したぞ。

 そっちはどうだったアズモ。


『無論、こっちも成功した』


 左腕、右腕ともに変質して、竜の腕になっていた。

 まだ二歳児だから魔物化しても幼竜として、強くは無さそうな姿になるかと思っていたが……これは中々。


 これなら俺達は強くなれそうだ。



なおこの後、寝ているか確認しに来た先生に物理的に寝かされる模様。


読んで頂きありがとうございます!

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