立体視で女性のヌードを見るのが好きな魔王の話
私は魔王だ。
この世界を一応支配している。
なぜ一応かと言うと私には妃である嫁がいるのだが、こいつの方が圧倒的に強いからな。
逆らえん。
さて、正直に言うが、私は女性の体のラインを見るのが大好きである。大きな胸、盛り上がったお尻、その間にある芸術的な曲線を描く腰のくびれ。
女性の体は美しい。
我が嫁も元々美人な上に、魔法のおかげでスタイル抜群なのだが、正直に言って他の女性の裸体も見たい。
ん? スタイル抜群で美人の嫁さんがいるなら、それで満足しろ、このスケベ魔王めって言いたいのか?
いやあ、男ってそんなもんですよ。
しかし、我が嫁はたいへん嫉妬深いので、浮気なんてもってのほか。他の女性にちょっと目を向けただけで、私はボコボコにされてしまう。そんなことされたら千年間ベッドで寝たきり生活だ。
え? お前は魔王なんだから魔法を使って、女の裸でも何でも見ることができるんじゃないかって?
確かにそうなんだが、魔法なんぞ使ったら嫁にすぐにばれるんだ。半殺しにされちゃうんだよ。嫁がいない時に魔法使ってもばれちゃうんだよなあ。嫁はかなり高度な魔法を使えるからな。魔力の残滓とかわかるようで、私が何をしていたか分かるようだ。怖い、怖い。
仕方がないので大きい砂時計を眺めている。
以前にも何度か言ったが、砂時計は丁度中央の辺りが狭くなって女性の腰を連想させるからである。
しかし、いい加減砂時計も飽きたなあ。
そんな風に思いながら魔王の間でぼんやりと座っていると、ある画商が訪ねて来た。
「魔王様、面白い絵画が手に入りましたよ」
そう言って見せてくれたのがわけのわからない抽象画。
けっこう大きいサイズの絵画だ。
「これのどこが面白いんだ?」
「ぼんやりと眺めていてください」
「何も起きないぞ」
「魔王様、もっと、遠くを眺めるような感じで絵を見て下さい」
私が画商の言う通りぼんやりとその絵画を眺めていると、おお、なんとスタイル抜群の女性の体が浮かび上がってきたではないか。
「画商よ、これはどんな魔法を使ったんだね」
「いや、魔法ではありません。二次元の画像を目の焦点を前後にずらして合わせることで立体的に見えるようになるんです」
いまいち原理がよくわからんが、とにかくこれは素晴らしい。
魔法を使っていないから嫁にもばれないぞ。
ん? それは「ステレオグラム」と言う立体画像で昔からあるものじゃないかって?
そうなのか。
うーん、私は知らなかったな。
まあ、いいや。
「これはいいものを持って来てくれた。褒美を取らすぞ」
「はは、ありがたき幸せ」
そう言って画商は帰って行った。
こうして、巨大な魔王の間にその絵画が飾られることになった。
私が座っている魔王の椅子の正面だ。
その絵画を見た嫁が言った。
「なにこの変な絵。趣味悪いわねえ」
「いや、この部屋殺風景だろ。絵の一つでも飾ろうかなと思ってな、アハハ」と私は笑ってごまかす。
すると、絵を見ている嫁の顔が一瞬、怪訝そうな顔をした。
やばい、立体画像が気づかれたか!
しかし、嫁は、「さて、私は領地の視察に出かけるわ」と言って、あっさりと魔王の間から出て行った。
どうやら嫁は立体視画像には気づいていないようだな。
それにしても嫁はやたら支配地域の視察に行くが、それが趣味なのか?
まあ、まかせるよ。
私は絵画を眺めながら立体で浮き出てくる女性の曲線美を堪能する。
まあ、浮き出てくると言ってもその表面は元の絵の抽象画の柄なんだけどな。
しかし、砂時計よりはましであろう。
おっと、それにしても、このステレオグラムというものはちょっと気を抜くとすぐ平面画像になってしまうな。
私は何度も目を凝らしたり、逆にぼんやりしたりと工夫しながら絵画を見ていると、そこへ、部下が魔王の間に飛びこんできた。
「魔王様、勇者が乱入してきました」
また、勇者かよ。
なんだよ、人がせっかくいい気分になって女体鑑賞しているとこを邪魔しやがって。
ボコボコにして返り討ちにしてやる。
魔王の間で待ち構えていると入ってきたのは、なんと先日、あの絵画を持ってきた画商ではないか。
「画商よ、お前は勇者だったのか」
「そうさ、画商をやっていたが勇者に転職したんだ。魔王、覚悟しろ!」
画商改め勇者が剣を構える。
ふん、元画商なんぞ、一捻りにしてやると私が魔法を繰り出そうとするが、なぜか魔法が使えない。
これはどういうことだ。
突然、魔王の間に飾ってあった絵画から全裸の女性が飛び出て来た。
おお、嫁以外の女性の裸体を見るのは久しぶりだ。
って、嬉しがっている場合じゃないぞ。
「おい、画商改め勇者よ。まさか、お前、謀ったな」
「そうだよ、魔王。お前の魔力は吸い取られていたんだよ」と画商改め勇者が嘲笑う。
どうやら、その女は魔法使いらしい。絵画のなかに潜んで、私が気づかない間に魔力を吸い取っていたようだ。
「観念することね、魔王」と全裸の魔法使いが迫ってくる。
いやあ、それにしてもいい女だな。
すげー美人でスタイル抜群。
なんて考えているわけにはいかん。
しかし力がはいらん。
ああ、わが生涯もこれで終わりか。
その時、閃光が走り勇者たちが吹っ飛ばされて窓から放り出されていった。
何事かと驚いていると、嫁が魔王の間に入ってきた。
「おお、助けてくれてありがとう」
「だらしないわね、魔王ともあろう者が罠に気づかないなんて」
どうやら、嫁は絵画の中に魔法使いの女が隠れていることに気づいていたが、その女は私の浮気相手と思っていたようだ。
視察に行くふりをして浮気現場を見つけて、私をボコボコにするつもりだったらしい。
「そんな浮気なんてするわけないじゃないか、私が愛するのは君だけだよ」
私は嫁を抱きしめる。
しかし、あの魔法使いの女いい体つきだったなあ。
あの女の全裸姿が目に焼き付いている。
私は興奮してきた。
我慢できなくなって、その場で嫁を押し倒そうとすると、
「ちょ、ちょっと待って、寝室に行きましょうよ」と嫁が慌てている。
うーむ、やはりステレオグラムなんぞより生身の体のほうがいい。
目も疲れないしね。
(終)