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異世界転生したら吸血鬼にされたけど美少女の生血が美味しいからまあいいかなって。  作者: 只野誠
最終章:イナミさんが異世界に来て、大団円はすぐそこで私のフィナーレにはまだまだ遠いのかも。

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異世界転生して、私のフィナーレにはまだまだ遠いのかも。

ついに最終回。

 気が付くとそこは何もない、ただただ黒い世界だった。

 けど光がないわけじゃないみたい。周りにまったく物がなくて、周辺が黒く見えているだけ。

 その証拠に唯一だけど見えるものがある。

 唯一何が見えるって? 私だよ、私。

 私自身の体が見える。裸なんだけど。

 真っ裸で何もない空間に漂っている訳だから当然恥ずかしい。何か着るものか羽織るものが欲しいけど、そんなものはここにあるはずもない。

 ここには私以外何もない。

 初めて来たときは肉体もなく本当に何も見えなかったんだけど、今回は肉体付きなのか。

 しかも、銀髪だから、これはアンティルローデさんの肉体だよね。

 私本来の肉体じゃなくて、イレギュラーで入り込んだアンティルローデさんの肉体で、なんでここにいるんだろう?

 しかも、破損した部位もしっかり再生されてる。幻覚とかじゃなくてしっかりと触れるし感触もある。

 もう随分と慣れ親しんだ肉体だ。

 あと多分、ここには空気があるはずもないんだけど息苦しくもないから、空気があるんだと思う。

 それも言ったら、光があること自体謎なんだよね。光源はどこにも見当たらないし、私の肉体が普通に見えるってことは、なんだかの光があるってことだよね?

 なんでだろう? 色々と謎だ。

 とりあえず管理人さんを待つか。

「私なら既にいます」

 おあっ、びっくりした。

 いたならいたと言ってよ。

 あれよね、次の転生の話よね? ならちょっとお願いがあるんだけど?

「いいえ、違います」

 あれ? 転生の話じゃないの?

 じゃあ、なんで私ここに呼ばれたの?

 って、そうなると私の計画が既に瓦解してるんだけど、どうしたもんか。

「イナミ様には長期的に協力していただきたい事がありお呼びさせていただきました」

 長期的に協力? うーん、なんだろう。

 にしても思考を読まれるのはなんだか嫌ね。

「失礼しました。思考を読むプロセスを一時中断させていただきます。

 肉体があり、疑似的にはですが大気に似た環境を用意していますので、以後は発声にてイナミ様の意志をお伝えください」

「あっ、あ、あー!

 ほんとだ、声が出る。

 えっと、まずはその長期的な協力ってなに?」

 んー、あんまり良い予感がしないんだけど……

 だって、世界の管理をしている存在が協力を頼んでくるって、相当なことだよね?

 長期的な協力か、その協力をすれば私の願ってることくらい叶えてくれるかしらね?

「はい、では説明します。

 イナミ様には長期に渡り、滅びが予測できている世界へ出向いて頂きたいと思います」

「はっ? なにそれ?

 やっぱりロクな話じゃなかったけど、滅びが予測できている世界って……

 その予測ってどれくらい確定しているの?」

 もしかして滅びる世界を救って回れってこと?

 私に勇者でもやれってことかな?

 私、あんまり勇者向きではないと思うんだけどなあ?

「小数点以下第二位繰り下げで、九十九点九パーセントとなります」

「予測というか、もう確実に滅ぶってことね?

 なんでそんなところへ私を? なんかの嫌がらせ? 悪いことしたなら謝るけど?」

 なんかやらかしたかなぁ。心当たりは色々あるけど……

 でも、そんな長期的に滅ぶ世界に送り込まれるような酷いことしたかなぁ……

「いいえ、そんなことはありません。

 イナミ様はエルドリアの世界で私の予測を超える発展を促してくれています」

「そ、そうなんだ。じゃあ、なんで私にそんな仕打ちを?」

 ん? エルドリアの世界?

 大巫女様の世界ってこと? あっ、いや、元ネタのほうかな?

 まあ、それは一旦置いておこう。

 とりあえず、私がどうなるかだけは確認しておかないと。

「まず、現在のイナミ様は第一級の特異点となっています。

 この場合の特異点、という言葉の意味は、私の予測を覆すことができる存在、と、考えて下さい」

「管理人さんの予測を覆す……

 ああ、だから、管理人さんが滅ぶと予測した世界に、特異点である私を送り込んで救おうと?」

 なるほど、でも、いつの間に特異点なんて存在になったんだろう。

 となると、やっぱり世界を救って回れって事か、ちょっと面白そうではあるけれども。

 大変そうだよね、だってもうほぼ滅んでいる所に行ってどうにかしろって話でしょう?

 しかも、この神様みたいな管理人さんが九十九点九パーセント滅び確定しているっていう世界だよ。私にできるような事じゃないよね?

「はい、その通りです」

「なるほど。わかった。

 でも、そんな滅びが決まってるような世界に私なんかを送り込んで救えるものなの?」

 送り込むのが私じゃたいして影響ないよね。

 だって、私はひきこもり気質だぞ。

 もっと有能な人材を選んでくれないかしらね。

「その可能性は限りなく低いです」

「ああ、もしかしてダメ元でって感じ?」

 ダメ元でいいって話なら、少しは気が楽だよね。

 というか、どういう風に予測が覆るかわからないけど、どうせ滅ぶ世界だから、どう特異点がさようしても平気、って言う感じで送り込まれるのかしらね?

 それなら、ちょっと面白そうだけれども、途中でやめたりできるのかしら?

 ゲーム感覚でやっていいっていうのであれば、また話は変わってくるんだけども。

「そういう事になります」

 うーん、条件次第では面白そうまであるかもしれない、けど、滅びかけって言うことはまだ滅んでないわけで、そこへ遊び感覚の私を送り込まれても迷惑な話だよね。

 色んな能力とかもらえてゲーム感覚でどんどんクリアしていければ…… それは楽しそうだけども。それが私にできるかと言われれば、たぶんできないよねぇ。だって私だもの。

 そうだよね、送り込まれるのが私じゃたかが知れてるよねぇ……

 それに失敗したときのリスクも気になるよね。

「ダメ元ってことは、失敗しても怒らない?」

「はい、そのようなことはいたしません。

 また失敗に対し、ペナルティを課すようなこともしません」

 なら、やってみてもいいかも。

 ちょっと面白そうではあるのよね。

 あー、でも、滅びかけの荒んだ世界とか見てると精神的にキツイかもなぁ。

 でも、それでオスマンティウスにまた会えるなら…… がんばるしかないよね。

「もちろん報酬はあるのよね?」

「はい、報酬と呼べるかはわかりませんが、イナミ様が救った世界へ自由に転移できるようにしたいと考えています。

 それと私にできることであれば、それをある程度まで叶えることも可能です」

「うおっ、随分と大盤振る舞いね。

 管理人さんにできないことってないんじゃないの?」

 使いっ走りやらせられるかと思ったけど、世界を救って回るって事なら、神様の御使いって感じなのかしらね?

 あっ、ちょっと素敵かも。滅びを救う天使とか素敵じゃない?

 私の性格上、あんまり表立って行動したくはないんだけどね、だって注目されると恥ずかしいのは今も変わらないし。未だに大勢の人の前に出るのとかダメなのよね。これはもう天性のものだよね。

 しかし、この管理人さんにできることって、ほぼ万能だよね、多分だけど。

 もしかして、私のチート異世界転生生活は、ここからが本当のスタートだった!?

 まあ、そんなことにはならないよね。

 本当に万能なら私なんかに協力を求めるわけないんだから。

「そうでもありません。

 私は世界に直接関与ができません。なので、願いを叶えれることのほうが少ないです」

「ああ、なるほど。

 と、言っても今でも数個ほど叶えてあげたい事はあるんだけど、転生というか、そっち方面とかで。

 あっ、それよりも、私が救った世界って、さっきまで私が居た世界も含まれる?

 あの世界の名前、私、知らないけど」

 そうなんだよね、あの世界。不思議と名前が抽象的なものが多いんだよね。

 固有名詞があんまりないというか、意図的につけられてないというか……

 相当古い文献でもない限り記されてないんだよね、意図的にそう言う風にされてたのかしら?

「あの世界、イナミ様が滞在なされていた惑星はエルドリアという名が一般的でした。

 イナミ様の関与で滅びを回避しているので、自由に転移することを許可することができます」

「エルドリア? それがあの世界、というか、星の名前なのね。

 精霊が初めて降り立った場所が元ネタだったんだっけ? 

 そういうことだったのね。間違ってはいないんだろうけど巫女の役職名のイメージが私には強すぎるなぁ」

 良かった、これでオスマンティウスとの約束も果たせるね。

 にしてもエルドリアって星? 世界? の名称だったのか。どうしても大巫女さんのことを思い出しちゃうよね。

 これでとりあえず私の第一目標はクリアか。管理人さんの使いっ走りになればだけど。

 ん? 私の関与で滅びを回避?

 あの世界も滅びに向かっていたのかしら……

 あれか、アレクシスさんが魔王や精霊王に負けたりした世界があったってことかしら?

 それとも私が来なければアレクシスさんが最終的に魔王に負けてたとか?

 穢れに飲み込まれていた世界もあるのかしらね?

 うーむ、にしても、アレクシスさんは精霊王に勝てたのかしら?

 平和的解決とか、あの様子じゃ無理そうだよね。

 うーん、エルドリア、だっけ? あの世界に戻ったら聞いておかないとって、あそこに戻ってももう聞けないか。

 あっと、それ以前にこれも確認しておかないと。

「あの世界に戻った時に、記憶とか消されちゃったり、弄られちゃったりする?」

 そうそうこれを確認しておかないと、今ここで悩んでも意味ないよね。

 記憶を維持できないんじゃ、ちょっと面倒よね。

 それだと最終的にオスマンティウス任せになっちゃうし。

 アレクシスさんと精霊王次第では、あの世界自体どうなるかわからないし。その結果次第では早く戻らないといけないよね?

「いいえ、転生という訳ではないので記憶の消去等の処理は行いません。

 更に申し上げますと、私には精神体に保存されている記憶を編集する権限はありません」

「精神体に保存されている記憶……

 それってこの体が、精霊の血を引いているから?」

 精霊は精神に記憶を記録してるって言われてたけど、やっぱり本当なのね。そう言われはしていたけど、確かめようがなかったのよね。

 この管理者さんが言うんなら事実なんだろうなぁ。

 で、そっちの記憶は管理人さんでも弄れないってわけか、いや、権限がない? 権限があればできるってこと?

 この管理人さんに権限を与えたりできる存在がいるってこと?

「はい、あなたがたが精霊と呼ぶ別次元より訪れた精神生命体によりもたらされたものですので、私には権限がありません」

「権限ってことはさ、管理人さんより偉い、というか、上位の存在がいるの?」

 そいうことよね? つまりこの管理人さんを創った神様的な存在が存在する可能性が?

 いや、別次元より訪れた精神生命体っていうのも気になるけど…… 話をすればするだけ聞きたいことが増えていくなぁ。

 でも、まあ、そうよね。精霊ってあの世界でもちょっと異質だものね。魔法も魔術も、亜人も魔神も、魔王すらも元をただせば精霊が原因だし。

 それって…… 私と同じように別の世界から来てたってことよね? いや、私より異質よね?

「いいえ、私より上位の存在は確認されておりません。

 権限といいましたが、権利がない、と言い換えて貰っても構いません」

 よその所から来たから、精神に記憶している記憶は、いじる権利がないってこと?

 ということは、やろうと思えば、やれるってことでもあるのかしら?

 管理人さんには管理人さんならではのルールでも存在している?

 いや、待って、私の記憶は弄れているんだから、精霊の記憶だって弄れるはずなんじゃ?

 それとも別の理由か何かで精神生命体の記憶はいじる権利がないってこと?

 それが別次元云々って話? でも私も別次元? 異世界? から来てるから記憶を弄れない理由にはならないよね?

 どういうこと?

 まあ、それはいいや。考えてもあんまり意味はなさそうだし、そういうものだと思っておいた方が良さそう?

 で、結局のところ、管理者さんは一番の上位存在だと…… いうことよね?

 もしかしたら管理者さんでも認識できないだけで、管理者さんを創った、本当の意味で神様な存在がいるかもしれないけど……

 それがいたとして私がどうこうできる存在じゃないから、これも気にしないことにしよう、うん。言きいた意味もあんまりなかったな。

 管理人さんが知らない以上、私にとっては意味のないことだよね。

 でも、管理人さんが誰かに創られた存在じゃないとすると? 少し気になる。

「んーと、じゃあ…… 管理人さんってどういった存在なの?

 前に神様じゃないって言ってたけど……」

 これくらいは気になるよね。こんなとんでもない存在なんだし。

「私はこの世界、この次元の意志とも言うべき存在です。

 この世界により、この世界を管理するために自然に発生した存在です」

「それって神様みたいなものじゃないの?」

 自然に発生した?

 世界の意思ねぇ。まあ、そう言われればそうなのかもしれないけど。

 どちらかというと、なんか機械的というかシステム的な感じだし、管理人さんを創った存在もいそうなんだけど。

 まあ、その辺は気にしたらダメなんだろうなあ。

「いいえ、違います。

 あくまで私はこの世界を管理しているにすぎません。なので私は管理人です」

「よくわからなかったけど、まあ、いいや。世界の意志って認識しとくね」

「はい、その認識で構いません」

 とは言え、世界の意思ねぇ……

 ぶっちゃけ、精霊王がどれくらいの存在かわからなかったけど、神様って呼ばれている精霊王より管理人さんのほうがよっぽど神様ぽいよね。

 やっぱり神様は表に出てこないほうが、なんだか有難みがあるのよね。

「んじゃ、次はやっぱりこれも気になる精霊の話、その別次元より来た精神生命体って、どういうこと?」

「はい、説明します。

 彼らは別の異なる次元より、この世界にやって来ました。

 彼らの元の次元は崩壊したと推測されます」

 異なる次元? 私みたいな異世界転生してきたのとはまた別ってこと?

 だから記憶をいじる権限がない?

 とりあえず元の居場所が崩壊して、避難してきたってことだよね。

「難民みたいなもの?」

 崩壊した別次元から来た存在か。そう言われると納得はできるかなあ。

 私なんかよりよっぽど稀人的存在じゃん。

 私は管理人さんに異世界転生させてもらったけど、精霊達は自力で移動して来たという感じなのかしらね?

 私との差は、自力かそうじゃないかの差? でも、それだけじゃないよね?

「はい」

 精霊が、魂と精神しかもっていなかったのは別の世界から来たからってこと?

 まあ、別の世界の生命体って事なら納得かな。

 で、あの世界では、肉体、精神、魂が必要だから、肉体を求めていたと。

 んー、でも、なんか引っかかる気がする……

「あー、そうだ。

 アレクシスさん達の決着は着いた? 

 どうなったの?」

 そうそう、これを確認しておかないと。場合によっては早めに戻らないといけないし。

「はい、現在は別の惑星へと転移して頂きました」

「別の惑星? あの世界、ああ、エルドリアとは別の惑星ってこと?」

 そうか、じゃあ、エルドリアに戻ってもやっぱりアレクシスさんやイシュ、アリュウスさんとはもう会えないのね。

 残念だけど仕方ないか。アレクシスさんはそのために頑張ってたんだしね。

「いいえ、違います。

 エルドリアが存在する宇宙空間には、エルドリアの他に生命が存在できる環境の惑星は存在しません。

 別の世界の宇宙空間にある惑星へと転移して頂きました。

 転移して頂いた先も滅びへ向かう世界でしたが、それを回避できる形となりましたので私は大変満足しています。

 これはとても稀な成功例となります」

「ん? それって、別の異世界ってこと? それって転生でもさせたってこと?」

 別の世界? 別の世界ってことは、転生させたってこと? なら、みんな死んじゃったってこと?

 精霊王が勝っちゃったとか?

 結局、どっちが勝ったんだろう? まあ、あれをアレクシスさんに渡してるから一方的に負けるってことはないと思うけど。

 まさか、暴走して精霊界を崩壊させちゃったとか?

 それならあり得るなぁ……

 後でちゃんと聞いておかないと。

 とりあえず今は現状把握することをしないと、私の頭じゃついて行けないよ。

「いいえ、違います。転移です。場所を移しただけの処理です」

 ん? 何かよくわからないことを言い出してる?

 転生じゃなくて転移させただけ?

 私の認識になんか思い違いがあるってこと?

「え、だってエルドリアのある宇宙には他に住める惑星ないって?」

 ん? どういうこと?

 頭がこんがらがってきたぞ……

「はい、その通りです。

 説明します。

 私が管理するこの広大な世界を、一つの次元と仮に呼称します。

 その次元内には数多の世界と呼べるような宇宙空間が存在しています。

 その宇宙空間一つ一つが、イナミ様が異世界と考えている物となっています」

「え? 全部の世界が繋がっているってこと?

 地球も、エルドリアも、アレクシスさん達が行った星ってのも?」

「はい、その通りです」

「な、なるほど……

 ああ、その世界と世界の狭間の空間が、この何もない空間ってことね? まえにも狭間って言ってたもんね」

 異世界転生したと思ったら、実は宇宙旅行だったのか。

 いや旅行じゃないか、宇宙転生? それもなんか違うような。とにかく同じ繋がった世界だったってことか。

 異世界と言えば、それはもう異世界と言えなくはないけども。

「はい、その通りです」

 宇宙の外側に何もない空間があって、その先にまた別の宇宙がたくさん存在してるって事よね。

 ああっ、世界の真理を知ってしまった……

「じゃあ、頑張ればアレクシスさん達にも会いにいけるのかな」

「理論上は可能ですが、座標移動の能力でもない限り世界間の移動は困難です」

「座標移動?」

「指定した座標に移動できる能力です」

「ワープってこと?」

 また、なんだかよくわからない話になってきた。

「ワープという言葉の意味は複数確認できます。超光速航行などの移動手段では世界間を移動することは困難です」

「どういうこと?」

 また訳の分からない言葉が増えた。

 私の脳味噌じゃ理解できないぞ!!

「世界間の距離で一番近いところでも、イナミ様にお伝い出来ないほどの距離があります」

「え? どういうこと!?」

 伝えられない距離ってなんだよ、どういうことよ?

 もう、なんなのよ、まったく理解が追いつけないんだけど……

「その距離をイナミ様が理解できる距離の単位でお伝えすると、イナミ様の脳の容量を約八割ほど使用してしまいます」

「は? え? 距離を伝えるだけで脳の八割?」

 なにその、え? 距離を伝えるだけで脳の八割?

 どんな距離なんだよ、それ。

「無限大数乗の無限大数光年、それが端数にも満たない距離となっています」

「あ、はい。とてつもなく遠いってことだけは理解できた」

 どんな距離かは想像もできないけど、繋がってはいるけど移動して行ける距離ではないってことね。

 で、座標移動か。

 指定した座標にいけるような能力でもなければ移動は無理と。

 これは納得できた。ワープ云々はよくわからないから忘れよう。

 私が考えるだけ無駄だし。

「それに加え、本来、霊子力のないこの狭間の空間では時の流れが通常の世界と違います」

「また理解できないことを……

 ご説明お願いします!」

 説明してもらえばもらううほど新しい疑問が増えていって、全然話が進まないんだけど……

「はい、この次元では、世界規模での霊子力の強さ、つまりは魂レベルにより時の流れかたが一定ではありません。

 基本的に、霊子力が高いところが低いところに比べ時の流れはゆっくり進み、霊子力が低いところは相対的に時間が早く進みます」

「ふーん? じゃあ、今は、もしかして凄い勢いで時間が進んでいるってこと?」

 ここには何もない世界の狭間だものね。

 じゃあ、あんまりゆっくりしてられないのかな?

 浦島太郎の竜宮城的な感じなのかしら?

「現在は私意識がここに集中しているので、他の場所と比較して、ここで過ごした時間はほぼ止まっているとお考え下さい」

「ああ、管理人さん自体が凄い存在だものね。

 だから、その魂レベルって奴が凄い高い状態になってるんだ。それで周りから見ればほぼ時間が止まってる感じなのか。

 じゃあ、とりあえずこのままゆっくりおしゃべりしてても問題ないのね?」

 思ってたより恐ろしい存在だった、管理人さん。

 存在してるだけで時間が進まないとか……

 まあ、すんごいとてつもなく広いらしいからそんなんでもなければ、管理しきれないのかな?

 なんかゲームで一時停止して色々設定できてる感じなのかしらね? リアルタイムシュミレーションゲームとかであるよね。そういうの。

「はい、問題ありません」

 とりあえず急いでいる用事はアレクシスさんの勝敗くらいけれども、時間が止まっているって言うんじゃ、色々聞きたいこと聴いちゃうか、ついでに。

 これから使い走りやらされるんだから、それくらいはいいよね。

 色々世界の仕組みを知っている方が、世界だって救いやすそうだしね。

 ん? 待って待って、ついさっき世界間移動をしようとした人達の話を聞いたばかりなんだけど?

「あっ、あのさ、あの世界、エルドリアのさ、教会の神様って呼ばれてた人達知ってる?」

「はい、存じてます」

「彼らって……」

「はい、現在地球のある世界へ向けて世界間を移動中です」

「それって地球に帰れるの?」

 移動中ってことは、座標移動とかじゃないってことよね。

 じゃあ…… 結果は聞くまでもないか……

「いいえ、彼らが地球のある世界へたどり着ける時には地球という惑星は既に存在していません」

 やっぱりか。これも知っちゃったからには、私がどうにかしてやらないといけないのかしらね?

 まあ、同じ地球の出身だしなぁ。仕方ない、助けてあげるしかないよね、もう。

 どうにかするって言っても、管理人さんにお願いすることしかできないんだけどさぁ……

 なんだか尻拭いばっかりだなぁ……

 でも、地球が存在してない、か。なんか聞いたことのある話だよね、確か未来的は……

「たしか地球は将来的に太陽に飲み込まれちゃうんだよね? そんなことテレビで言ってた気がするよ」

「いいえ、違います。

 地球は現在、アンティルローデ様により襲撃され滅びかけています」

「は? え? はぁ!?

 なんでアンティルローデさんが地球を襲撃してるの!!」

 待って待って待って!!

 何がどうなって、アンティルローデさんが地球を襲ってるの?

 はぁ、え? どうなってるの?

 頭が本格的に混乱してきたぞ、なんだこの展開!? 理解がまるで追いつけない!!

「はい、説明します。

 アンティルローデ様は、イナミ様が海原の世界と認識する世界へ転生した後、精神体に保存していた記憶を呼び戻し、魔術や魔法を使い海原の世界の女王として数世紀程君臨いたします。

 その結果、海原の世界の魂レベルは危険域を脱したどころか、地球を追い越すほどに繁栄いたしました。これは素晴らしい事です。

 ですが、アンティルローデ様は酷い悪政を敷いていたこともあり、自分の子孫たちにより革命にあい、その命を落とします。

 その後、アンティルローデ様は転生先に地球をお選びになり、お伝えした結果となっています」

「なんだよそれ……

 でもなんで地球に?」

 恐ろしい人だなぁ、アンティルローデさん。しかし、滅びかけの海原の世界を救ってはいるんだよね。

 何て言うか、優秀だけど規格外な人だなぁ。

「イナミ様に復讐したいと仰っていました」

 なんで私に復讐を!?

 恨まれるようなことしてないよね?

 なんでー、いや、別れ際に八つ裂きにしてやるとは言われたけれども……

 まさかそんな機会が本当に訪れるだなんて。出来れば会いたくないんだけど?

「それを素直に転生させちゃうんだ……」

 ほんと、なんてことをしてくれるんだ、この管理人は!!

 えっ? これって私のせいで地球が滅亡するってこと?

 しかも、逆恨みよね? 私どっちかというと被害者だよね?

 もう…… なんなのよ、本当にもうっ!!

「はい、私には転生する権利を持っている方を、理由なく拒むことはできません」

 理由はある気がするんだけど? ねえ? あるよね? 地球滅びかけてるよね?

 けど、なんかだんだんこの管理人のしたいことが読めてきた気がする。

「あの…… もしかしてさ、私がする最初の協力ってさ…… 地球の件だったりするの?」

「はい、その通りです」

「うっわ、ひっど!! 断るに断れないじゃん!!

 覚えてないけど、私の親とか…… は、流石にもう死んでるか。

 三百年も生きてたしなあ、ああ、でも時間の流れが違うんだっけ? 私が死んでから地球じゃどれくらいたってるの?」

「百年程になります」

「じゃあ、どの道、生きてないか」

 知り合いはいないだろうけれども、そもそも覚えてないんだけども。

 ほとんど言いがかりだけれども、私のせいで地球が襲われてるって言われたら、ほっとけないよね?

 それをわかってて、この管理人やってやがるな?

 くっそ、この管理人さん、思ってたより大分したたかだ。

「地球を救うのを断りますか?」

「いや、どっちにしろ、断れるもんじゃないでしょう?

 私のせいって言われてるようなもんだし……」

「安心しました」

 何ていうか、実は全部管理人さんの掌の上で踊らされてるだけじゃないのか?

 そんな気がしてきたよ。

「えっと、ちょっと待ってね、地球にアンティルローデさんが転生したってことは、アンティルローデさんは何らかの特別な能力貰ってるってこと?」

「はい、アンティルローデ様は後からイナミ様が送り込まれるのを警戒して、全てを浸食し奪うことができる能力を希望し、それを得て転生していきました」

「ちょっと、管理人さんの考えバレバレじゃん!!

 というか、あとから私を送り込むようなことするくらいなら、転生させなきゃいいじゃんかよぉ」

 本当にもうなんというか、なんで逆恨みされて尻拭いまでさせられてるんだ、私。

 しかも、相手はあのアンティルローデさんで、後出しされても大丈夫なような能力を選んでるし。

 なんだよ、その全てを奪う能力って。

 となると、私は反撃される間もなく殲滅できる能力? もしくは絶対防御とか?

 でも、下手な能力を貰うと奪われる可能性もあるのよね。というかそれをアンティルローデさんは狙っているわけだし。

 うーん、あのアンティルローデさん相手に頭脳戦というか騙し合いで勝てる気はしないよ。

 まあ、私が貰う能力は、じっくり考えるとするか。時間はありそうだしね。

 けど、どうせ私じゃ大したものは思い浮かばないしなぁ。困った。

「先ほども申し上げた通り、私には拒否することはできません。

 また未来に何が起こるか予測出来ていても、それに対してできるのは事後になってからです」

「何か起きるのがわかっていても、管理人さんが何かできるのは、なにか起こってからってこと?」

「はい」

「お役所仕事というかなんていうか、本当に決まったことしかできないのね。

 しかも、直接関与することもできないと……」

「はい、ですのでイナミ様にご協力していただきたいのです」

 なるほど、事後でしか動けない、その上、世界には直接関与できない、その辺をどうにかしたくて、私に協力を求めると。

 確かに協力者というか、直接関与できる存在が欲しくはなるよね。

 なまじ万能なだけに歯がゆい思いはしてそう。

「もちろん、地球に行くにあたって私にもなんか能力貰えるのよね?

 あの世界、エルドリアに転生したときのように」

 もらえる能力。これだけは間違わないようにしないとダメよね。

 全てを浸食して奪うか、厄介そうだなぁ。

「はい、転生とは違う処理となりますが、ご希望の能力を与える事は可能です。

 ですが、エルドリアに転生する際には私からの、イナミ様の希望する特別な能力を与えることは最低限しかできておりません」

「え? 何言ってるの。

 色々貰っているよ、私の希望通りに。

 髪の毛一本から再生したり、年を取らなかったり、美少女だったり、地位が安定してたり、魔術を解析できたり、そこそこ強いって言った割には魔力は強すぎだったけどさぁ」

 そうよね、私の希望していた事は大体かなっていたし。

 その結果、吸血鬼にはなっていたけれども。まあ、しいて言えば、あの世界ではそこそこ強いじゃなくて、魔力がぶっちぎりで最強だったことくらいよね。

「いいえ、あの世界では非情に強い魔力だったこと以外は、ほぼ偶然の産物です。

 私がイナミ様のイレギュラーな転生に対し出来たことは、言語フィルターなどの最低限の処理と言語フィルターに機能を一つ追加することだけでした」

「偶然? そんなわけないよね?

 えっと…… 待って、ええっと、せ、説明してくれる?」

 ぐ、偶然? あ、あり得ないよね?

 あそこまでぴったり私の要望になってて……

「はい、説明いたします。

 先ほどもお伝えした通り私にできることは、起こったことに対して対応することのみです。

 そもそもの特異点であるアンティルローデ様は、私の予測を覆すことができるため、言語フィルターに機能を一つ追加することだけで精一杯でした」

「いや、それはそれで助かったけどね。

 あれよね、その機能を一つ追加って、アンティルローデって名前というか言葉を最初、私がどうしても覚えれなかったのは、管理人さんの仕業よね?」

 ん? そもそもの特異点?

 そういえば、アンティルローデさんのことを特異点って。

 そもそも? つまり私はアンティルローデさんの肉体を得たことで、その特異点の特性を受け継いで特異点になった?

 私は管理人さんの予測を覆すことができる存在、特異点にそうやってなったってこと?

「はい」

 確か、アンティルローデさんと縁の糸が繋がっている間に私が、その名を言ってしまうと、乗っ取られるだか、融合するだかって話だったよね。

 と、ここで珍しく私が何か聞く前に、管理人さんがまるで言い訳にように喋りだした。

「イナミ様とアンティルローデ様の魂の融合がなされると、予測し得る中で最悪の事態になる可能性が高かっため、阻止させて頂きました」

 アレクシスさんの話ではそれほど影響ないって言ってたけど、アレクシスさんの予想以上にアンティルローデさんの影響が強力だったのかしらね?

 まあ、この管理人に特異点って言われるくらいだしね。

 私への影響は甚大だったのかもしれない。

 ん? 待って、阻止させて頂いた?

「それって未来の事に対して対処してない?」

 だよね?

 矛盾してない? この管理人の話?

「いいえ、違います。名目上はイナミ様の人格保護のためです」

「いや、あの…… さっきは最悪の事態の阻止って……

 ああ、わかった、結局管理人さんの匙加減で結局は色々できるってことね?」

 名目上はって、そういうことよね?

 そんなところまでお役所仕事と一緒なのかよ!

「いいえ、そんなことはありません」

「あるよね?」

「ありません」

 認めるつもりはない。けど、名目上はって自分で言っちゃってるじゃんかよ。

 管理人さん自体に私が思ったよりも自由がないって事なのかな、これは?

 でも、名目上って事が通るなら、割といろいろできそうね?

 それとも本当は特例だったとか? この管理人さんが最悪の事態とか言うくらいだし。

 その可能性もありそうだけど。

「まあ、いいわ、匙加減なのはわかったから」

「違います」

「もういいって、説明続けてよ」

 本人が認めなくても名目上であればできるんだったら、結局は匙加減なんだろうね。

 それを認めることはできないんだろうけど。

 なんか管理人というよりは、システム的なものなのかしらね?

 でもこの管理人さん、感情無いようで実はありそうよね。

 まあ、世界の意思って言うんだから、感情はあるのかしらね?

「はい、説明を続けます。

 イナミ様が得た能力はほとんどは腐魂体、現地名では吸血鬼と呼ばれる存在の能力であり、私が特別に付与した能力ではありません」

「腐魂体? いや、それの説明は後回しで続けてよ。

 でも、強い魔力以外ってことは、魔術解析とかも?」

 また私の知らない単語がでてきた。

 でも名称がついているってことは、その腐魂体っていうものは、割とポピュラーな存在なのかしらね?

「いいえ、魔術と呼ばれる世界法へのアクセス方法の解析は、魔力と呼ばれる魂の強さである霊子力と、世界への理解の深さがあればどなたでもできる能力です」

「誰でも? そうなの? 私と精霊王くらいしかできないって話だったと思うったけど。

 魔力の強さはわかるけど、世界への理解の深さって何よ」

 えぇ…… 特別な能力だと思って鼻高々だったけど、そういうわけでもないのか。

 ゲームで言うならば、ステータスが高ければ誰でも自動で身につけれるスキルって感じなのかな?

 そう聞くとちょっとがっかりだなぁ……

 後なんだっけ、魔術が世界法へのアクセス方法? まあ、それはなんとなく理解出来なくもないかな。

 世界への理解ってほうはまったくもって理解できないけど。

「真理や世界法への理解度とも言えます。

 基本的に魂レベルの高い世界で誕生した者ほど、生まれもって高い理解を示すような物です」

「私の場合は、地球で生まれてたからって事か……」

 じゃあ、地球で生まれた人は皆できたのかな?

 いや、教会の神様達は出来たって話は聞いたことないし、少なくとも地母神って呼ばれてた野田さんは魔術の解析できてなかったよね?

「それもありますが、それだけではありません。

 本来、転生するにあたり特別な能力を与えるのは、魂レベルと世界法の理解度などを現地に合わせるための行為です。

 魂レベルの高い者に、特別な能力を与える事で魂レベルと世界への理解度を下げ、転生先に合わせます」

「ああ、だから教会の神様達は、なんだかの能力をちゃんともらえてたから、魔力はそこまで高くなくて、その理解力ってのも下げられてて、魔術の改変とか解析とか出来なかったってこと?」

 なるほど。能力を与えるのは現地に合わせるためだったのか。

 でも結局、奇跡ともいえるような能力をその世界に持ち込んでいるんじゃ……

 ああ、それも目的なのか。

 転生先は大体魂レベルが低い世界へするものだから、その世界の手助けとなるように、能力を持った転生者を送り込んで遺伝させていく……

 で、世代を重ねるごとにその能力も薄まっていくので後々には影響も小さくなるという感じなのかな?

「はい、その通りです」

「え? じゃあ、私、本当になんの能力も貰っていないってこと?」

 だからあそこまで魔力が高かったのかぁ……

 いや、待って、流石にそれだけで、あそこまで魔力が高くなるのか疑問じゃない?

「はい、そうなります。

 その代わりというわけではありませんが、本来現地ではあり得ない能力値での転生となっています」

「それで、それだけで私の魔力があんなに高かった?」

 私が貰ってたと思った能力のほとんどは吸血鬼のもので、魔力が高くて魔術解析ができていたのは、素の能力値が高かったからって事なのよね?

 いや、そんな偶然あるか? ないよね?

 これ、管理人さん、狙ってやっている気がするんだけど?

 それにやっぱり、魔力の強さだけはそう言うレベルじゃなかったよね? 個人云々って感じではなさそうだけど。

「それともう一つ要因があります。私との会話中に無理やり転生させられたため、私とのパスが繋がったままだという事もあります」

「ん? パス?」

「イナミ様には縁の糸とでも言えばご理解できるでしょうか?」

「は? はぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!

 いや、待って、私が魔力高すぎたのって、管理人さんのせいなの?」

「いいえ、違います。

 一番の要因としてはアンティルローデ様があげられます」

 いやいやいやいや、なに人になすりつけてんの!!

 いや、まあ、元はと言えばそうなのかもしれないかもしれないけどさぁ。

 まあ、そうだよね、流石に一個人の能力値が調整されてなかったとしても、あの常識外れの魔力量はおかしいよね?

 いくらなんでも魔力が高すぎるよね?

 まさしく桁外れの魔力量だったものね?

 調整されるされない以前の話よね?

 その一番の理由が、こいつと縁で結ばれてたままだからって…… なんだよそれ。

 あのすんごい魔力は、この管理人から流れ込んできたせいかよ!!

 そりゃ皆が清廉な魔力っていうはずだよ、こんな神様みたいな存在の魔力が流れ込んできてたんだから!!

 しかも、しれっと人のせいにしてやがるし。

「じゃあ、私が御しきれない程に魔力が増大した一番の理由は?」

「私とのパスが繋がったままだったのがあげられます」

 あっ、それは素直に答えるのね……

 というか、管理人さん的には答えなきゃいけないって感じなのかな?

「管理人さんのせーじゃんか!!!」

「いいえ、違います」

 でも、これは認めないのか。

 けど、はっきりした。

 この野郎!! 絶対わかっててやってるな?

 私という扱いやすい手ゴマを手に入れるために、アンティルローデさんの凶行を止めずにいたな?

 私が希望した能力に近い能力を得ていたのは、せめてもの罪滅ぼしのつもりか!?

「いや、いい、もういい。なんだかこうなったカラクリが一気にわかってきた。

 じゃあ、聴くけど、管理人さんは私が望んだ条件に近い状態で転生するってわかってたよね?」

「はい、予測できていました。またできる限り要望にあった結果にするために、タイミングを見計らってお呼びしました」

 一応善意、というか、希望に添えるようにって感じなのかな。

 特異点以外の行動は、予測、というか全部未来がわかっているようなもんなんだろうしね。

 どういったタイミングでどうなるかぐらい、わかってるんだろうなぁ、もう。

 と、いうことはだ……

「実はさ、私を使いっ走りにするために色々画策していたんだよね?」

「私はイナミ様を使い走りとは思っていません」

 画策していたって言葉はやっぱり否定しないのか。

 使い走りとは思ってなくても、都合の良い手ゴマとは思ってそうだなぁ。

 しかも聞いたらあっさり認めそうだから、聞かないで置こう……

 さすがにそれを直で聞いちゃうと、気分は良くない。

「でも、この状態は管理人さんにとって喜ばしい状態よね?」

「はい、その通りです」

 そこはやっぱり素直に認めるのね。

 認める判断基準がよくわからないけども。

「その辺、詳しく話してもらえる?」

「はい、イナミ様の仰られた通り現状は私の希望通りに事は運んでいます」

「やっぱり…… 続けて!」

 希望通りって、つまりアンティルローデさんの特異点を私に移して、私を協力者にしたかった、というのが、管理人さんの目的か。

 理由としては…… やっぱりアンティルローデさんが扱いにくいからかなぁ。

 逆恨みで地球滅ぼそうとしてるし。

 多分それも止めようと思えば、止めれただろうに。

 私に協力者と言う立場を断らせたくなかったから? いや、相手はアンティルローデさんだし、予想外の動きだった可能性も。

 もしくは、地球襲撃が避けれない未来予測だったとか?

 どれもありそうね。今更詮索してももう遅そうだけど。

「はい、私は滅びゆく運命の世界をどうにか救うために、私の予測を覆す特異点の特性を持つ協力者を欲しています。

 過去にも数人そういった者は存在していましたが、とある理由から長期間に渡り協力を取り付けることは困難でした」

「それって、寿命とか?」

 そうよね、たしか完全な不死は存在しないって前に言ってたものね。

「それもありますが、決まった呼称がありませんが、イナミ様が穢れと呼ばれている存在が大きいです」

 ここにきて穢れの存在?

 そう言えば穢れって結局、何だったんだろう。

 穢れについても色々研究したけど、よくわからなかったのよね。

 何ていうか、決まった現象を起こすんだけど、場所と時間によっては全く別物の特性になってたりしてて……

 言うならば、混沌的なナニカとしか言いようがないんだよねぇ。

「穢れ? 他の世界にも穢れとか存在するの? それでその協力者が汚染されるようになるとか?」

 少なくとも地球にはなかったよね?

 それと、管理人さんなら穢れだって簡単にどうにかできるはずよね?

 そもそも転生者が穢れに対して堕落しなかったりするのは、転生者、つまりは管理人さんの関与があるからだよね?

「はい、その通りです。

 穢れと呼ばれる存在は、一つの生命体がその決められた寿命を逸脱し、長い間、個を維持することでも発生します。

 原則とて、その個を維持したままで、これを止める術はありませんでした。魂の腐敗とも言うべき現象です。

 また外部からの穢れを防ぐことは可能ですが、穢れの発生自体を止めることはできません」

「それって、生まれ変わらずになんだかの方法で生き続けていると、穢れを発生させるようになるってこと?」

 魂の腐敗? んでもって、それを止める術はないと……

 つまり寿命に以上に生きていると、魂が腐って穢れを生み出すようになると?

 個を維持したままだとそれを止める方法はない。

 寿命にしたがって死んで、生まれなおせって話なのかしら?

 それと、私や転生組が穢れに対して強かったのは、管理人さんによって外部の穢れを防ぐ処理をしていた?

 言語フィルターなどの最低限の処理、の最低限の処理ってところに、外部の穢れに強くなる含まれてるとか?

 やっぱりこの管理人さん、私を協力者になるように誘導しているのかしらね?

 それならもっと真摯にしてくれていた方が、私には好印象なのに。いや、その辺もわかっててこういう返答を返してるのかしら?

 でも、千三百年生きていた野田さんは穢れを生み出していなかったよね?

 それくらいの年月じゃ穢れは生まれてこないのか、また別の理由か? 

 野田さんも大分精神まいってたし、そろそろ穢れを生み出し始めていた? その可能性はあるよね、大分狂い始めてはいたみたいだし。

 うーん、この辺は推測でしかないか。

「はい、その通りです」

「じゃあ、私もいずれそうなるんじゃないの?」

「いいえ、違います。

 精霊と呼ばれる異世界の精神体は、そもそも寿命というものがなく、長期に渡り存在し続けても穢れを産まないことが確認されています。

 これは別の次元からもたらされたものですが、大変すばらしいことです」

「ああ、そういう事か。その混血種の……

 って、混血種なのはこの体であって私の精神も魂も、人の、地球人のものでしょう?」

 私の寿命がどれくらいなんだろう?

 地球人基準で考えたら、私の魂もそろそろ腐りだすんじゃないの?

 でも野田さんは少なくともまだ穢れを生み出さないでいたから、まだまだ平気なはず?

「魂、精神、肉体は共に影響し合います。

 ですが、肉体は影響されにくく、魂、精神は逆に肉体の影響を強く受けます。

 現在のイナミ様の魂と精神は、人と精霊の混血種のものとそう変わりないところまで変質しています」

「そうなんだ……

 あれ、でも精霊って穢れに弱いよね?」

 精神と魂の変質ねぇ。

 私の魂と精神も、混血種とそう変わりない、か。

 いや、うん、わかってたけど私ってもう人間を完全に辞めちゃってるのね。

 まあ、三百年もその肉体に宿り続けていたらそうなりはするか。

 じゃあ、私も長く生きても穢れは生み出さないってことか、それで長期的に協力ねぇ……

「はい、その通りです。

 精霊と呼ばれる彼らが元々いた次元では穢れと言った存在は無かったと推測されます。

 なので、著しく抵抗力が低いようです」

「な、なるほど…… 未知の病気に対する免疫がなかったと、そんな感じ?」

 そんな話をテレビかネットで見た気がする。

 外部とまったく接していない島の住人にただの風邪をうつしたら、風邪で大勢死んだって、そんなような話あったよね。

 うーん、でもこれ以上詳しくは思い出せない。

 適当に覚えていたせいか、それとも記憶を消されているせいか、はっきりしないけど。

 そろそろ、生前の記憶も戻してもらった方がいい気がするなぁ。

 いや、でも、若くして引きこもっていたってことを考えると、あんまりいい記憶じゃないのかしら?

 多分そうなのよね。結局最後は餅を喉に詰まらせて死ぬし……

「はい、その通りです」

「そもそも穢れってなんなの?」

「定義することが難しい存在です。穢れもまた世界により創られたシステムの一部のようなものです」

「んーと、想定よりも長く生きることを辞めさせるような?」

 管理人さんでも定義することが難しい?

 穢れって一体なにさ……

「そういった側面もありますが、また別の意味合いも多数あります」

「よくわからないなぁ」

 やっぱり混沌的なナニカなのかしらね、穢れって。

 そもそも管理人さんですら、決まった名前がないって言ってたくらいだものね。

「穢れと呼ばれる物を深く理解しようとすると、この次元の生命体は等しく精神汚染が発生します。これはイナミ様でも例外ではありません。

 穢れと呼ばれる物に関しては、あまり知らないほうがイナミ様のためです」

「精神汚染って、精霊が堕落して妖魔になるようなこと?」

 理解しちゃいけないねぇ。

 理解すると発狂しちゃうとか? だから穢れに汚染された存在ってあんなに狂暴になるのかしら?

 管理人さんが世界の意志なら、穢れは世界の混沌とか? そんな感じなのかしらね?

「はい、それも一つの結果です」

「でもこの肉体も半分は吸血鬼、腐魂体なんでしょう?」

 管理人さんの話でも、穢れには色んな側面もあるぽいなぁ。

 私が知っていることもほんの一部だけなのかしらね。

 シースさんがいれば一緒に相談し合えたのになぁ。でも理解したらダメなんだっけ?

 シースさんがこの場にいたら狂うのわかってても質問攻めにしてそうだけどね。

「腐魂体は人類の進化の可能性の一つで、精霊と呼ばれるものが妖魔と呼ばれる存在になるものとはまた別の現象です」

「ちょっと待って、管理人さんと話してると、聞きたいことが永遠と増えていくんだけど?

 えーと、待ってね。

 えーとね、まずは…… そうこれ。

 まずはエルドリアの世界に大量の穢れがった理由は?」

 とりあえず大元から。エルドリアに穢れが大量にあった理由よね?

 時間はあるんだし、色々聞いて行かないと。

「エルドリアと呼ばれる惑星には今の文明の前に、大変栄えた文明がありました。

 魂の力、つまりは霊子力を利用するにまで至った超高度文明です。それ故に不老を求め、それを達成しその結果、穢れを大量に生み出すようになりました」

「エルドリアの人たちは、その子孫ってことなのか……」

 超古代文明的なものかな。いよいよ漫画じみてきた。

 地球なんかよりも全然進んでいた文明よね。

 電気の代わりに、魔力というか、霊子力を使っていたって感じなのかな。

 まあ、便利そうだけど安定は難しそうだよね?

「いいえ、違います。文明を築き上げた前人類は例外なく穢れに適応出来ずに滅んでいます」

「え? じゃあ、エルドリアの人たちは?」

 適応できずに滅んだ? しかも例外なく?

 じゃあ、今いる人達は誰の子孫なわけ?

「前人類に愛玩用、もしくは奴隷として使われていた存在が生き残り繁栄を果たしました」

「えぇ…… ちょっと聞かなきゃよかった。その前人類って人型じゃなかったとか?」

 うっわ、聞くんじゃなかった。

 愛玩用や奴隷って……

 ああ、だから一度完全に文明が途切れちゃっているのか……

 海に沈めちゃっていたってのもあるのかもしれないけど。

「いいえ、姿形は同じです。今、エルドリアで繁栄している人類は、不老化する以前の前人類を模して造った人造人間のような存在です」

「ああ、うん、わかった、この話はいいや。なんか気分が悪くなりそう……

 で、穢れについてはあんまり理解しないほうがいいと。吸血鬼、いや、腐魂体だっけ? それもあんまり聞かないほうがいいの?」

 旧人類が滅んで、愛玩用や奴隷だった現人類が、右往左往しているときに精霊がやって来たわけね。

 しかも、世界のほとんどを穢れと共に海に沈めてしまったと。そりゃ文明もなくなるし精霊を崇める信仰と文明が始まるわけだ。

 なんというか、うん、あー、聞くんじゃなかった。

 もしかして教会の神様達が大人数で転生させられてきたわけって、それをどうにか食い止めたかったからなのかしら?

 言ってみれば、別次元から来た精霊達に不法占拠されているようなものだしね……

「いいえ、腐魂体は人類の進化形態の一つです。穢れはきっかけにしか過ぎません」

 きっかけに過ぎない?

 私は精霊が妖魔化するように、人間も堕落して吸血鬼になるようなものだと思っていたけど……

 違うのかしら。そう言えば、エルドリアの前人類が穢れに適応できなかったってそんなようなことも言ってたっけ。

「もしかして、吸血鬼って穢れに対応した人類とか?」

「はい、概その通りです」

「ああ、そうなのか。でも吸血鬼って穢れがまったくなくなったらどうなるの? 未来はあるの?」

 結局吸血鬼は、人の血を吸わなくても存在していけることが、グリエルマさんの件でわかってしまったしなぁ……

 人の血を吸わなくても、穢れさえあれば、存在していけるようだし。

 矛盾だらけのよくわからない存在よね。

 いや、混沌的な存在の穢れに適応してしまったから、矛盾だらけの存在に?

「大きく分けて三つの結末があります。腐魂体も長く生きることで穢れを生み出すようになるので、腐魂体同士で自給自足で生きていくがができます。成功例も数少ないですがあります。ただしそれらの中に知的な文明が存在した事例は今のところありません。

 二つ目はそのまま穢れ不足で餓死という形での滅亡です。これは急激にその数を増やすことでこのケースになることが多いです。

 三つ目は、対腐魂体とも言うべき超人的新人類によって駆逐されます」

「三つ目のなにそれ?」

 超人的新人類? なんだそれは。

 ああ、また話がそれた……

 でも気になる、超人的新人類。私の中の中二心をくすぐるよ。

「はい、腐魂体は基本的には既存人類が死亡するときにある程度の濃い濃度の穢れが存在していると低確率で突然変異として誕生します。また魔術等の世界法へのアクセスでその現象を再現することも可能です。

 腐魂体は既存人類に対し敵対関係および捕食対象とするため、既存人類に対して優位に立てる能力を持っていることが多いです。

 それに対し、既存人類は対腐魂体とも言うべき、超人的な新人類を生み出すことで対抗するケースがあります」

 その吸血鬼、腐魂体だっけ? は、超人的新人類を作り出すための切っ掛け?

 いや、腐魂体自体も進化の一つなのか。

 にしても……

「超人的な新人類ね…… なんか心当たりがあるなぁ、そんな気がするんだけど……

 その新人類ってさ、もしかして目が見えなかったりしない?」

 も、もしかして、凄い気がかりだった謎が解ける瞬間な気がするんだけど。

「早期に生まれてくる新人類は、進化の途中であり肉体が未熟な状態で誕生してくることも確認されています。

 特に腐魂体は既存人類に対して視線にて精神支配を行う事が多いため、その対抗手段を持つ眼球ができるまで、眼球が存在しないケースは多く見られます」

「あー、今長年の謎が一つ解けたよ。感動だよ……」

 なんかちょっと納得の答えだった。

 レビンさん、あなた早熟の新人類だったのか。納得の強さだよ。

 対吸血鬼用の新人類だってよ、半分だけとはいえ、吸血鬼の私がトラウマになるはずだよ。

 早熟だったとはいえ人間離れしてるはずだ。

 はえー、超人的新人類が完成していたら、どんな強さになるんだろう。

 半分吸血鬼の私にはあんまり考えたくない事だなぁ。

 いや、注目すべき点は、穢れがきっかけで、最終的に新人類が生まれてくることになるって点か。

 穢れも世界のシステムって話だし、寿命だけでなく次の進化を促している存在?

 ああ、穢れについて理解しちゃいけないんだっけ?

 あんまり穢れについて考えないようにしないと。

「えっと、話が横道にずれすぎてた。えっとなに聞いてたんだっけ……

 穢れ関係はもういいや、あんまり聞かないほうがいい話みたいだし。

 吸血鬼の話ももういいし……

 ああ、そうだ、アレクシスさんと精霊王どっちが勝ったの?」

 そうそう、吸血鬼のことなんかよりこっちをちゃんと確認しておかないと。

 あれ? 何か聞き忘れてる?

 元々はなんの話だったんだっけ? あっ、協力者の話だったか。

 まあ、それは別にどうでもいいか……

「アレクシス様です。精霊王と呼ばれる個体を異質な樹木に封じ込めた後、精霊界と呼ばれる領域を新しい世界にするために、私とコンタクトを図りました」

 異質な樹木。まあそうだよね。

 精霊鋼自体が異質な存在だものね。

 というか、今考えると精霊界自体が別の次元から来ていたわけよね?

 宇宙船というか移民船って感じなのかな?

 だから、世界自体に根本的なズレがあってその結果、そのズレが実体化して結晶になり精霊鋼として存在してたわけだ。

 そうじゃなければ、転生者の私の周りにも精霊鋼が多少なりともできるはずだしね。

 根本的に別の次元の存在、まったく異なった存在だから世界にズレにより生じてたわけね。

 そう思うとやっぱり精霊鋼って危険な物なんだよねぇ…… まさに世界のズレ、つまりは相違の物理的な結晶みたいなものだし。

 その結晶に私の、元をただせば、管理人さんの魔力が流れ込んでいるわけだからね。危険にもほどがあるよね。

 でも、まあ、アレクシスさんが勝って無事のようだし、あれを託して結果は良かったのかな?

「で、別の世界の惑星に転移してそこを新しい世界にと?」

「いいえ、違います。あの領域を新しい世界と仮認定し、その後、滅びが予測されている惑星へと転移していただき、そこと合併という形になります」

「まあ、何て呼ぶかはどうでもいいけど、アレクシスさんの願いは叶ったってことよね?」

 精霊界の独立か。結局一度も精霊界に足を運ばなかったから、どんな場所かも知らないけど。

 アレクシスさんの希望通り、独立できたって言うんならそれはいいことなのよね。

 あんなに頑張っていたもんね。

「はい、アレクシス様の希望は叶ったと予測されています。

 あの新しい世界は精霊と呼ばれる種族の世界として、私の管理下となりました。

 彼らは霊子的因子が非常に高く、どんなに長く生きても穢れを生み出さないため非情に有意義な種族です。

 外部からとはいえ、貴重な新しい種族となります。これも大変素晴らしく珍しいことです」

 そうか。私もその遺伝子だかなんだかを継いでいる肉体の影響で、長く生きても穢れを生み出さないんだっけ。

 それで長期的に管理人さんの手伝いをって話になるのよね。

 しかも、管理人さんの予測を覆せる第一級特異点で……?

 ん? あれ? これってさ、もしかして、今の私の状態って管理人さんにとって凄い理想的な人材で……

 やっぱり結局は私という存在を手に入れるために、管理人さんの掌の上で皆、踊らされてたって事?

「あ、あのさ、管理人さん? 私のイレギュラーな転生の経緯って、実は管理人さんの思惑通りってことはないよね?」

「はい、そのようなことは画策していません」

「でも、今の私の状態って、管理人さんにとってかなり理想的な協力者なのよね?」

「はい、その通りです。

 当初はアンティルローデ様に協力いただこうかと思っていましたが、アンティルローデ様は既に穢れの理解により精神汚染され、さらに性格にも難があるため見送らさせていただいておりました」

 やっぱり当初はアンティルローデさんが候補だったのか。

 私は肉体を受け継ぐことでその特異点の性質も受け継いだってことなのよね。

 つまり、アンティルローデさんも結局この管理人にうまい事乗せられてたってことだよね。

 それで、必要以上に私を逆恨みしてるのかしら?

 やっぱり一番の原因は、管理人さんじゃんかよ。

「そこへ私がのこのここやって来てその枠に収まったと?」

「はい、その通りです。イナミ様は私にとって理想的な協力者です」

「あっ、そこは認めちゃうんだ……

 どうせ認めないとは思うんだけど、管理人さんの目的って、その理想的な協力者を得るために、なんかこう、裏で動いたりしてたりする?」

「いいえ、そのようなことはありません」

 で、そこは認めないと。

 どういう基準で認めるのか認めないのか、よくわからないけど、まあ、いいか。

 いや、聞き方次第で答えが変わるのかしら?

「じゃあ、その理想的な協力者を得るためになんかした?」

「はい、タイミングを図り、より良い方向へと向かうようにいたしました」

 で、それはあっさり認めて言ってしまうと。

 やっぱり聞き方次第で色々答えてくれそうではあるなぁ。

 多分、嘘は言わないだろうし…… いや、言うか。名目上とか言ってたし。

 うーん、世界の意思的な存在だけあってよくわからない。

 結局は何もかも掌の上な気がしてきたぞ。

「より良い方向へねぇ? それは誰にとって?」

「世界にとって、です」

「んー、まあ、そういう事なのか。管理人さんは言わば世界の意思、つまり世界そのものだもんね。

 なるほどなるほど……」

 どうなんだ、これ。この管理人さんのこと信用していいのかしら?

 まあ、多分、世界のためっていうのは嘘じゃないんだけど、それが必ずしも私の認識する正しい事、とも違うこともありそうだしなぁ。

 うーん……

「協力の件、お断りになりますか?」

 そう聞いてくる管理者さんの声は普段と同じなんだけど、気持ち弱々しく感じられるのは、私の気のせいなのかしら?

 ここで私に断られたら、今までの努力が水の泡だものね?

 実際そうしてやりたい気持ちも少なからずはあるんだけどね?

「断った場合、私はどうなるの?」

「エルドリアの世界で再度、生を受けることとなります」

「私的にはそれでもいいんだけどね?」

 その方が、多分私的には楽なんだろうなぁ。

 けど、まあ、地球をほっては置けないよね。

 はぁ、結局は掌の上なのよね。

「そうですか、それはとても残念です。私にその選択を止める権限はありません」

「でも、管理人さんには、もうどうなるか、わかってるんだよね?」

 どうせ私がどう選ぶか、管理人さんは予測できているのよね。

 いかに私が第一級特異点と言っても、管理人さんの予測は九十九点九パーセント当たっているって事なんだよね、きっと。

 はぁ、まあ、いいや、管理人さんの掌の上で踊ってあげるよ!!

 でも覚悟しておいてね、私が踊れるのは…… 盆踊りくらい…… なんだからね? 期待されても何もできないからね?

 し、しまらないなぁ…… もう。

「はい、予測はできています。ただしイナミ様は特異点ですので私の予測を覆すことが可能です」

「まあ、いいや。とりあえず地球を救ってから、もう一度色々聞くことにするよ」

「ありがとうございます」

「で、地球を救う際に貰える能力なんだけどさ───」




 目が覚めると私なぜか水槽の中にいた。

 しかも全裸の私を白衣で眼鏡をかけた、いや、眼鏡がずり落ちた男が、驚きというか、恐怖で引きつっている表情で凝視していた。

「あばわわばわわ……」

 話しかけようとしたけど、水中なので声ないならない。

 仕方がないので、拳を振り上げて水槽を叩き割る。分厚いガラス…… ではない、なんか透明な水槽を構成していた物質は簡単に割れた。いや、割れたというかはじけ飛んだ。粉々になった。

 内部の液体が流れ出し、私を見て驚いていた男もその液体に流されてた。

「ち、地球侵略体のサンプルが……」

 と、眼鏡の男性、多分なんかの研究者よね、が、押し流されて床に這いつくばりながら、恐怖に顔をゆがめてそう言った。

 地球侵略体。

 なんてわかりやすい呼称なの。

 しかし、私の肉体、いや、元はアンティルローデさんの肉体なんだけど、本物との肉体は特異点の本質らしいので貴重だからと、管理人さんによってどこかに保管されてしまった。

 で、地球に帰ってくる際、現地の生物の肉体を一時的に借りるとか言ってたけど、よりにもよって地球侵略体、つまりは地球を侵略というか破滅させに来たアンティルローデさんの……

 恐らくは細胞の一部なのかしらね? それをを使われるとはね、そんなことされるとはまったく思わなかったよ。

 ああ、もう、あの管理者さん、実は私のこと嫌いだったりするのかしら?

 でも、生きた人を無理やり依り代にしちゃうよりはいいけれども。

 で、現状把握、自分自身の肉体を観察する。水に濡れてもなおまっすぐな銀髪と抜群のスタイルだけは確認できた。

 容姿はアンティルローデさんの物らしい。

 と言うか、特異点の力を出すにはこの姿でないといけないのかもしれない。何かしらの繋がりがないと、パス、つまりは縁が切れてしまうからね。

 今はそんなことはどうでもいいか。

 その一糸まとわぬ肉体を、恐怖で引きつらせながらガン見している研究者風というか、十中八苦、その地球侵略体の研究者の男に向かって語りかける。

「私は違うわよ」

「なっ、しゃっ、喋った……」

 と、研究者の男が更に顔を強張らせ驚愕する。目が点になって完全に思考が停止してそうだ。

「あー、うん、私はね、その地球侵略体から地球を守るために……

 神様じゃないけど、神様みたいな存在から派遣された、えーと、エージェント? 正義の味方? 天使? まあ、そんな存在よ、うん、そうだよね」

 自分でそうは言ってるものの、とてもじゃないけれども信じられるないようじゃないよね。

 まあ、いいんだけどさ。別に信じてもらわなくてもね。

「なっ、え? 神? 派遣? な、何を言ってるんだ、神なんて存在しない!

 存在していたら、世界はこんなことにはなっていない!!」

 眼鏡がずり落ちていた研究者は眼鏡の位置を直しながら、かなりの怒気を持って私に怒鳴り散らかした。

 私の言葉で正気に戻った、というよりは、私が話した内容に怒ることで、止まっていた思考が動き出したのかもしれない。

「いるから私が派遣されてきたの。

 で、地球は今どうなってるの?」

 私のその言葉に、研究員の逆鱗に触れたらしく一気に怒りの感情を爆発させた。

「は、破滅しかけている、おまえのせいだろ、地球侵略体!!」

 研究者の男は唾をと怒気、それとありったけの殺意を飛ばしながら声を張り上げて叫んだ。

 凄い憎悪の感情が向けられているのがわかる。

 気持ちはわからなくはないけど、私に向けないでよね。

 一応こっちは救世主的な存在なんだよ。

 この状況で理解を求めるのは難しいだろうけどもね。

 しかし、なんでよりにもよって依り代に選んだのが、敵の細胞片なんだよ、もう。

「私はそれを止めるために来たんだってば。

 とりあえず信じなくていいから、なんか着るものない?

 私、裸なんだけど? じろじろ見ないでくださいますか?」

 とりあえず胸を隠しながらそう言ってみるが、服を用意してくれるような雰囲気ではない。

 むしろ殺しにかかりそうな感じすらあるが、研究者の男はどうしていいのかわからない感じだ。

 そりゃ、まあ、こんな事態になれば判断も難しいだろうし当たり前か。

「し、信じられるか!!」

 そう言って研究者風の男は私と距離を取ろうとする。

「別に信じなくていいけども。勝手に救って勝手に帰るから」

「何を言ってるんだ……」

 研究者さんはひたすら困惑してるようだけど、まあ、そんな反応になるよね。

 私は裸で恥ずかしいのだけれども。

「とにかく、その白衣だけでいいから貸してくれない? そうすれば地球侵略体って言うのを倒してあげるからさ」

 そう言って私が近づこうとすると、白衣の男は慌てて白衣を脱いで投げつけてきた。

 近づかれることに凄まじい程の焦りと恐怖の感情を感じることができる。

 気持ちはわからなくはないけれども、そんなに怖がられるとショックだよね。こんなに美人さんの容姿をしているのに。

 とりあえず、投げつけられた白衣を空中で受け取って羽織る。これで一安心だ。

 でも、水槽の中の液体に濡れていて着心地は最悪だ。水よりも大分粘度があって肌に張り付いて気持ち悪いし、刺激臭もする。

 一体何の液体に使っていたんだろうと、私が入っていた水槽を見ると地球侵略体サンプル173型35番と名札が書かれていた。

 173型35番ねぇ……

 ああ、私の名前、やっと思い出した。

 管理者め、これを見せたいがためにコレを依り代にしたのか。

 イナミってやっぱり苗字だったのね。名前はあんまり好きじゃなかったのよね。名前の字の割りに私の本来の容姿は平凡だったから。

 私が何の気なしに本名を思い出していると、研究員ぽい男性は少し離れた所にあるなんかしらの機械に向かってなんか必死になって叫んでいた。

 研究用サンプルが生き返って人型になった、早く処理部隊をって、と叫んでいる。

 嫌な予感がするんだけど。いや、予感とかそう言うのじゃないか、もう。

 すぐに扉を開く音がして、なんかこう、映画でよく見るような銃を持った特殊部隊がやってきて私に銃口を向ける。

 でもなんていうか、脅威を感じる事はまるでない。本能的にあんな銃では私を傷つけることすらできないのが理解できてしまう。

 んー、魔術や魔法はあんまり使っちゃダメなんだっけ?

 この世界に送られる寸前にそんなこと注意されたっけ。

 世界法へのアクセス手段は危険なのでやめて欲しいと。特に魔法は厳禁、出来れば魔術も使わないで欲しいと。

 そもそも魔法も魔術も別次元からもたらされた技術で、世界法とやらを誤作動させるきっかけになるんだとか。

 それが原因で精霊達がいた次元が崩壊するきっけになったらしい。

 しかし、私から魔法や魔術取り除いたら、何ができるんだって話よね。

 そうなると、魔力の…… 触手は……

 おっ、あるある。

 私が魔力の触手を確認していると、その特殊部隊はすぐに構えて、警告も何もなしに迷うことなく引き金を引いた。

 素早く魔力の触手を全身に巻きつけて、それで向かってきた弾丸を受け止める。

 私くらい霊子濃度が濃いと魔力そのものを半物質として扱える、とのことだ。それが魔力の触手ってわけね。

 私からは魔力の触手は視認できるけど、他の人から、少なくとも地球人には視認できない。弾丸が私に当たる前に急に止まったように見えたはずだ。

 テレキネシスかバリアでも使った感じに思われるだろうか。

「あの、私は地球を救いに来たの。

 その地球侵略体? ってのを倒して帰るから、邪魔しないでくれる?

 ついでに状況なんかを教えてくれると助かるんだけど?」

「し、信じられるものか!!」

 と、特殊部隊の人達から総突っ込みを受ける。

 まあ、もっともな反応だ。

 うーん、どうしようか。まあ、無視してアンティルローデさんだけさっさと倒しちゃってもいいんだけどね。

 今の地球とエルドリア、どっちのほうが時の進み具合早いんだろう?

 管理人さんの話だと、滅亡寸前って話だったし今の地球の方が時間の進みは早そうだよね。じゃあ、ちゃっちゃと終わらせようかな。

 多分知り合いとかも、もう寿命か何かで死んでいるはずだしね。そもそも滅亡寸前で生き残っている可能性も低そうだ。

 ああ、でも、ちょっとアニメとかゲームとかは気になるなぁ。

 その辺は、管理人さんに言って用意してもらえればどうにかなるよね? それくらいはいいよね?

 それに早くオスマンティウスと再開したいしね、さっき別れたはずだけど、もう随分あってない気もするし。

 いや、半日もたってないのか? けど随分長い間会ってない気がする。

 オスマンティウス、金木犀か…… あれ、どんな花だったけ?

 確か花自体は小さかった気がするなぁ、というか、芳香剤のイメージが強いのよね、金木犀。

「あっ、そうだ。ねえ? 金木犀の犀ってどういう意味か知ってる?」

「はっ? え? 金木犀の犀?」

 私がそう聞くと研究員と特殊部隊の人たちが間抜けそうな声を返して来た。




 私は魔力の触手を使って自分自身を投げて空を飛ぶ。

 結局、あそこにいた人たちは置いてくる形になった。まあ、戦力にもならないし、無事生き延びてくれればそれでいいかな。

 構っている余裕もなさそうだしね。なんせ、もう既に世界の七割ほど壊滅、というか、アンティルローデさんに飲み込まれてしまったらしい。

 目指すはアンティルローデさんただ一人だ。

 地表は無残な有様だ。肉でできた木のようなものが所狭しと根を下ろしている。

 その肉のような木が地球侵略体、つまりはアンティルローデさんの末端らしい。

 宇宙から隕石に乗ってきたというのが通説らしいけど、きっと転生で直に地球にやってきたと思うよ。

 名も知らないあの研究員の話だと、その肉の木に近づくとなんでも喰われるんだとか。だから私が近づこうとしただけで、あんなにビビってたのね。

 更に地球侵略体に対しては近代兵器では、あまり効果的でないらしいと話してくれた。

 核爆弾も使用されはしたらしいけど、傷は追わせられるものの仕留めるまではいかなかったとか。

 その負わした傷もすぐ再生され、しかも、二発目の核爆弾にたいしては明らかに耐性を見せていたらしい。

 核爆弾にも耐えるとか、凄い耐久性だなぁ。というか、核爆弾を二回も使われたことの方が私的には驚きだけど。

 しかし、全てを浸食し奪う能力ねぇ。

 多分大丈夫だとは思うけど、あの肉の木には近寄らないでおこうっと。

 魔力の触手でもなるべく振れないようにしとかないと。なんか、こう、すんごい見た目自体が気持ち悪いし粘々してそうだし。

 さっさとアンティルローデさん倒して帰ろう、こんな悲惨な地球、というか日本だよね、ここ、見たくはないしね。

 救った後に、また復興した後にでも遊びに来ればいいしね。

 娯楽なんかはエルドリアより全然日本、というか地球のほうが発展してるしね。特にゲームとかアニメとか!!

 エルドリアにはあってカードゲームとボードゲームくらいだし、漫画なんてないし小説とかも、実話が元になった伝記は結構あるけど、創作のお話とかはほとんどないし。

 魔王と戦いの歴史のせいか、娯楽要素があんまりないのよね、あの世界。

 けど地球のほうも私の知らない間にどれくらい発展してるんだろう? だいたい百年だっけ? 漫画とかも気になるなぁ。百年もたってたら私が読んでた漫画の続きとかもう手に入らないよねぇ。

 地球自体こんなことになってるし、もう残ってないだろうなぁ、残念だ。せっかく自分自身の記憶も戻ってきているのに。

 その辺は管理者さんにお願いして見ようかしら?

 もしかしたら、本来、続きの巻が出てない漫画とかも、管理人さんの予測やらなんやらで無理やり読めちゃったりしないかしら?

 それは…… 素晴らしいかもしれない。ちょっとやりたいことが増えてきたかも。

 それにゲームとかもよ、もうゲームの中に入れちゃったりしているのかしらね?

 VRゲームは知ってるけど、結局やったことはなかったしなぁ。高校生のひきこもりには買える値段じゃなかったし。

 その辺も楽しみだわ。それにはまず地球を救わないとね。そして、管理人さんに色々おねだりをするんだ。

 もう一度改めて地表に目線を戻すと本当に酷いありさまだ。

 今通っている場所は大規模な戦闘でもあったのか、色んな兵器が肉の木に飲み込まれている。

 戦車に戦闘機、それとあれは戦艦かな? 潜水艦ぽいのまである。

 なんでこんな場所、ここはかなり内陸なんだけれども、なぜか戦艦や潜水艦のようなものまであって、様々な多種多様な兵器が肉の木絡まりながら打ち捨てられている。

 それの背景は完全に蹂躙された後の街並みだ。ほとんどの建物は破壊され、残っている建物もその内部にまで肉の木が根をおろしている。

 そして蹴散らかされたように散らばる兵器たち。ついでにおもちゃのように散らかっている様々な兵器にいろんな国の国旗も確認できる。一応連合軍みたいなものを作って地球侵略体に抵抗してたのかしらね? それともこの辺に集めて捨てられたとか?

 それはわからないけれども、ここいら一帯からはもう生きている人の気配はない。けど、肉の木に取り込まれた無数の魂だけは感じ取ることができる。

 取り込んだ人達から魂のみを奪い隔離し、霊子力を奪っているのか、いや、逆だ。霊子力、つまりは魂の培養器と言った感じかな。

 それらをアンティルローデさんは転生の条件を満たすためだけに使う気だろう、無理やり魂レベルとやらをあげるためだけにドーピングされている。

 アンティルローデさんが滅んだ、いや恐らくは自滅したあとには、取り込まれ無理やり強化され残された魂は再生されるだけの力は恐らく残されていない。

 無理やり強化され続けた魂はすぐに限界を迎え転生も出来ずに消滅してしまう。

 酷い話だ。

 確かにこのまま放置すれば滅亡の道しかない。アンティルローデさんが去った後は、もう世界の再生もままならない。

 もう世界中こんな感じらしい。自然と嫌なため息ができる。が、まだ、今ならまだほとんどの魂を救うことができるはずだ。

 少なくとも魂を再度転生させることは、まだ間に合うはずだ。それが間に合えば、地球は立て直せる。

 地表から目線をあげると遠くに一本の大樹のようなものが見える。

 大きな肉の大樹だ。その大樹も私の存在を察知したのか、その巨躯を揺らしながらこちらに向かってきている。

 あそこにアンティルローデさんの本体がいるぽい。なんとなくわかる。これも貰った能力の一旦かしらね?

 あんな風にわかりやすくいるんなら、手っ取り早く絶対に敵を完全消滅させる能力とか貰って来ればよかったかな。

 それはそれで意味なさそうだし、あの大樹が罠って可能性もあるんだけどね。

 でも、とりあえず行くしかないよなぁ。

 他に手掛かりもないし、地上は何て言うか阿鼻叫喚だし。

 肉の大樹の近くまで行くと、地表は肉の木だらけで足の踏み場もない。

 魔力の触手でも気を付けないといけない。うっかりにでも触りたくはない、そんな見た目をしているし。

 何て言うか、皮をはいだ肉みたいな感じの上、なんかドロドロの粘液が表面を覆っているしで、どうにも気持ち悪い。

「地球侵略体、もとい、アンティルローデさん、いるんでしょう?」

 と、結構遠くから大樹に向かい声をかける。

 そうすると近くに肉の木の根が膨れ上がり瘤となり、その瘤が人型へと変えていく。

「おや、これはお久しぶりです。イナミ殿。その節はお世話になりました」

 木から人型の上半身だけが生えている。皮のみを剥いだような人型の上半身で、見ているだけで気分が悪くなりそうだ。

 その姿に見覚えはないけど、なんだか確信めいたものがある。

「グントニールさん?」

 私の計らいで、アンティルローデさんを追って転生していった妖魔だ。

 まさか再開するとは思っていなかったけど、もう妖魔ではない。

 いや、グントニールという個ですらない。

「我を覚えておいででくださいましたか」

「何でここに?」

 まあ、予想はつくけどね。結局あの妖魔は、自分の主に全てを捧げたんだと思う。

 その魂すらも。だから彼もこうしてここにいる。

「我は貴女様のおかげで主と再開し、二度と離れぬように魂の融合を果たしました」

「あー、やっぱりそうなのね。悪いけど、その主さん呼んでくれる?」

 グントニールさんがいるのは私にとっては予想外だけど、まあ、問題ないよね。

 多分…… だけど。

 もうアンティルローデさんの下位の別人額みたいなものだろうし。

「いえ、その必要はございません。我と主は一体であるが故、です」

 グントニールさんがそう言い終わる前に、巨大な肉の大樹から一本の枝が急激に伸びで来て、私の目の前でつぼみをつけ、そのまま凄い勢いで血のように真っ赤な大輪の花を咲かせた。

 そして、その花の中にいた。

 私と同じ姿、いや、向こうが本家本元だ。

 アンティルローデさんだけは、醜い姿ではなく、私と瓜二つの美しい姿をしている。

 こう、客観的に見ても理想的な美少女で素敵だ。

 私も外からこう見えていると思うと、ちょっと誇らしくさえ思えてしまう。

 アンティルローデさんは、そのまま大きな花びらを使い器用に体に巻き付けた。

 真っ赤な花びらのドレスだ。血を連想させる色以外は、とても素敵だ。

「フフッ、待っていたわよ。けども、未だに妾の体を使っているのね?」

 アンティルローデさんはそう言った。

 三百年ぶりのはずだけど、日誌やらなんやら割と読み込んでいたので、あんまり久しぶりな気がしない。

「ええ、大変美人さんで気に入っているので、使わさせていただいてます。まあ、これはレプリカらしいけどね」

「レプリカ? あの管理人の考えそうな姑息な手を……」

 そう言ってアンティルローデさんは値踏みするように私を見ている。

 なんの能力持ってきてるか、気になってるのかな?

 まあ、そりゃあそうよね。貰った能力は気になるよね。

 いや、肉体の方が目的だったのかな? 管理者さんと本気で争う気なら特異点の力は必須だろうし、少しでも特異点の特性をあげたかったのかも?

 でも、特異点の力を持ってても、あの管理人はどうこうできる存在じゃないよ?

「えっと、その…… あんまりこういうこと言いたくはないんだけど、戦うだけ無駄だから諦めてくれない?」

 無駄だと思うけど、一応降伏勧告をしてみる。

 まあ、無理だよね。わかってる。私もわかってるんだ。そんな諦めのいい人じゃないよね。

「なにそれ、妾に対して降伏しろと? 妾、言いましたよねぇ?」

「再会したら、八つ裂きにって?」

 私はそう言われたときのアンティルローデさんの表情を思い出す。

 なんていうか、怖い表情してたなぁ。同じ顔だけど、私はあんな表情を浮かべないように心がけよう。

 子供が見たら一生トラウマになるよ。

「ええ、そうです」

 美しいけど悪い、何て言うのかな、妖艶なって言葉がぴったりくるのかな、そんな笑みを浮かべてアンティルローデさんは、まだ私を見定めている。

 さすがにいきなりは仕掛けてこないかな?

 私が貰った能力を警戒しているんだと思うけど。

「アンティルローデさんは、こうなるってわかってたの?」

 この人が本家本元の第一級特異点。

 数々の凄まじい魔術を作り出してきた天才魔女。

 まあ、間違いなく私では勝てない。

 だって、頭の作りからして違いそうだものね。そうなると結局のところ他人だよりなのよね。

「いいえ、流石に妾とてそこまでは想像できていませんでしたけど、こうなる気はなんとなくしてたのよ?

 女の勘って奴ですね、フフッ」

 そう言って、また妖艶な笑みを浮かべる。

 私にはできなさそうな表情で、何て色っぽい表情なんだ。

 けど、相手を馬鹿にしたような笑みでもある。私はそんな笑みを浮かべたいとは思わないけど。

 いや、だって、私は他人を馬鹿にできるほど自分が賢くないって知っているしね。

 名前を思い出した影響か、徐々に前世の記憶が戻りつつあるけど、勉強は確かにできたけど頭の回転が良い方じゃなかったのは自覚してたよ。

 そのせいもあって私はひきこもりに…… やめよう、あまり楽しい思い出ではないし。

「私あんまり戦い上手じゃないから、降参してくれると助かるんだけど?」

 そうしてくれないだろうな、とは確信している。けど万が一降伏してくれたら助かるからね。

 だって本当に私戦い下手だもの。そもそも運動自体が苦手なのよ。

「なにそれ? 妾に勝ち目がないと思っているの?」

「うん」

 多分ね、勝ち目はないよ。そう言う能力貰って来たからね。

「どんな能力を貰ったかまでは知らないけれど、そう易々と妾に勝てると?」

「うん」

 易々とかどうかまでは、わからないけど多分勝てるよ。

「とりあえず、貴女を八つ裂きにしてから考えるとしましょうか」

 そう言って、アンティルローデさんは綺麗で長い爪を、その場で、まるで手招きするように私に向かい振るった。

 その瞬間、次元が裂けその裂け目が私に向かってきた。

 ああ、その次元の裂け目っていう表現も本当かどうかはわからないけどね。

 本能で理解しちゃっているだけで、それがあってるかとどうかと言われればわらないのよね。

 多分、世界の真理を色々聞いちゃったせいで私の世界への理解力が上がっちゃってるのかしらね。自然にそう言う風にわかるというか、理解できちゃってるの。

 けど、その裂け目は私の魔力に触れると、何も起こらなかったかのようにかき消えた。

「あの裂け目をかき消した?」

 そう言ったのはアンティルローデさんでなくグントニールさんだ。

 次元そのものを裂いているので、本来は防ぎ様のない攻撃だ。

 どんなに硬い物質や魔法による強力な障壁だろうと防ぎ様ないはず。

 なぜなら、この世界そのものを裂いているのだから。

 キャンバスに描かれた世界の絵に対して、キャンバスそのものを裂くような攻撃だ。

 本来なら防ぎ様がない。

 けど、私には効かない。

 そして、私はそれが効かなかったことに心から安堵し、勝てると確信する。

「今のを防ぎますか、だとすると……」

「いや、推測するだけ無駄だと思うよ」

 一生懸命になって私の能力を推測しようとしているアンティルローデさんを見るとちょっとかわいそうだ。

 まあ、ぶっちゃけちゃうと、私も貰った能力の内容の詳細を実は知らない。

 けど、勝てる。そう、勝ててしまうのだ。そう言う能力だから。

「妾を愚弄しているの?」

「言っちゃうけど、私の貰った能力はアンティルローデさんに勝てる能力だからね」

 そして、意味深に笑みを浮かべる。

 浮かべた笑みは、ただのはったりだけど。

「何をおっしゃっていますか、ならその能力を奪えばいいだけですよ!」

「いや、だから、私が貰った能力を奪っても、あなたは勝てないのよ。

 アンティルローデさんに勝てる能力を貰ったから」

「は? なにを……」

 何かに思い当たったのか、初めてアンティルローデさんが動揺を見せた。

 まあ、そうだよね。そんな能力貰う人なんて居ないよね。

「言葉遊びで悪いんだけどね、どう転んでもあなたは勝てないのよ」

「ぐぅ、馬鹿にして!!!」

 アンティルローデさんはその言葉で魔術を展開する。

 その術は良く知っている。

 私も何度か使わさせてもらったもの。

 私の遥か天空に青白く輝く小太陽とも言うべき球体が見える。

 あの出力で打ち出される物を地球で使われたら大惨事だ。やめさせないと。 

「却下」

 そう言って魔術自体を解体する。

 が、その上に今度は魔法で構成された同じ術が展開されていた。

「ぬっ! 二段構え? しかも魔法!?」

 と、驚いて見せる。

「あたりまえです、貴女が魔術を改竄できることなど知っていますから!!」

「でも、それも却下」

 そう言って、その魔法も無理やり破棄させた。

 まあ、驚いて見せたけど、わかってたけどね。

 魔術と魔法の二段構えしてるの。いや、認識阻害も使って隠してたから三段構えなのかな?

 とはいえ、私の魔力網の範囲内だし、今の私に認識阻害の術がかかるわけないでしょうに。

「魔法すら改竄しただと!?」

 そう言いながら、アンティルローデさんは憎々しそうに私を睨んでいる。

「うん、世界への理解が深まってしまい、できるようになってしまったのよ。

 それにほら、魔力は無制限にあるしね、私」

 まあ、魔力が無制限にあるのは、協力者の特権というか、未だにパスが管理人さんと繋がったままのせいだけどね。

 わざわざそのパスを切らずにいるってことは、これも管理人さんの予定通りって事なのよね。まったくあの管理人は本当にしたたかだなぁ。

 しかし、なるほどね、世界法へのアクセスか。

 そう言われると今なら凄いピンとくる。

 確かにおいそれと使っていい方法じゃないなぁ。特に世界法への改竄を仕掛ける魔法は世界崩壊の切っ掛けになりかねない。

 エルドリアに帰ったら、とりあえず魔法の使用禁止だけはしてもらわないと。

 アレクシスさん達にもそのことを伝えないといけない、その手はずも一応考えている。

「クソガァ!!」

 アンティルローデさんは逆上して肉の木の枝を何本も私に向かわせてきた。物量に任せて私を飲み込むつもりらしい。

 その中の一つに、グントニールさんもいる。

 うーん、私の貰った能力は、アンティルローデさんには勝てるけど、グントニールさんにはどうなんだろう?

 一体になったとは言ってたけど、一番気を付けなければならないのは実はグントニールさんなのかもしれない。

 とはいえ、魔法や魔術を使うなと言われていると、攻撃手段が魔力の触手で攻撃するくらいしかないのよね。

 あんまりあの肉の木を魔力の触手とはいえ触りたくはないんだけど。

 だって、魔力の触手のほうが、手で触るより得られる情報、要は刺激が多いだもの。あんなキモイもの触りたくないんだよ!!

 かといって、素手で殴りかかるはもってのほかなんで、結局は魔力の触手で攻撃するしかない。

 仕方がないなあ、もう。

 魔力の触手を肉の木の枝を迎撃するように向かわせる。

 肉の木の枝は私の魔力に触れた瞬間、粉々に砕けて消滅した。そこには塵すら残っていない。

 それを寸前で見たグントニールさんがついている枝だけが、私の触手をどうにか回避して見せた。

「なっ、なんで…… 物質崩壊? いえ、物質だけでなく霊的にも崩壊を?

 あ、貴女、いくつあの管理人から能力を貰って来たの!!」

 悲鳴のようにアンティルローデさんが金切り声で叫ぶ。

 伝説の魔女様に対してこうも優位に立てるのは気分がいい。まあ、私の力じゃないのは重々承知してるけどね。

「いや、私が希望したのは一つよ」

「嘘をおっしゃい!!」

 アンティルローデさんが恨みがましく見つめてくる。

 さっさと例の話をしてあげて、戦意を失ってもらったほうがいいのかしら?

 でも、効果があるとは限らないしなぁ。

「いや、本当だってば。私が貰ったのは、アンティルローデさんに勝てる能力、ただ一つだよ」

 私がそう言うと、疑問が確信に変わったのか、唖然とした表情を見せてくれた。

「まさか、それをそのまま貰って来たとでもいうの?」

 唖然とした少し間抜けそうなその顔は、私がイシュに貰った鏡で何度も見てきたことのある顔だ。

 少し間抜けな方が、アンティルローデさんの顔はかわいい。

 なんというか、造形が美しすぎるんだよ。とんがりすぎでさ。少しくらい腑抜けていた方が愛嬌があって可愛いんだよ。

「うん、私が考えたんじゃ勝てそうになさそうだったから、管理人さんに全部丸投げしてきたわ!」

 私は自信満々にそう言った。

 他人任せで悪いけれども、それが一番確実だと思ったからね。

「く、クゾガァ!! そ、そんな能力頼む馬鹿が!! 貴重な、奇跡とも言うべき、望んだ能力得られる機会を、そんなバカげたものに!!」

 その反応はわからなくはない。

 だって、ある意味どんな超常的な力も得られるチャンスなんだよ、それをただ一人に負けないだけの能力を貰うという時点でおかしい。

 まあ、私の場合は世界を救って回らなくちゃけないから、救った後のことをあんまり考える必要がないんだけどね。

 それに今は、

「いや、私はアンティルローデさん倒して、さっさとエルドリアに戻るつもりだからさぁ」

 早く帰りたいんだ。色々あって少し疲れたよ。教会の神様いたり世界の真理を聞いてしまったり、まさかのアンティルローデさんと戦わされたりで、疲れたんだ!! 予定にもなかったんだ。

 私の中では、海神戦が最終決戦だったんだぞ。それをなんだか知らないうちにどんどん追加されて、挙句の果てにしたたかな管理人さんの使いっ走りにさせられて!!

 私はゴロゴロしてまったりしていたんだ。

「この世界より、あのクソみたいな世界の方がマシだと!?」

「いやー、戻るって約束しちゃったし、ああ、でも地球救ったら地球にいつでも戻れるようになるのよね」

 何の気なしにそう言うと、アンティルローデさんが驚愕の表情を見せた。

「なっ、どんな契約をあの管理人と結んでいる!?」

 私の言葉にアンティルローデさんが驚愕している。

 救った世界に戻れるってそんな驚かれるようなこと?

 それとも実は私だけが特別で普通は世界間をそんなポンポン移動できないってこと?

 まあ、そりゃそうか。とんでもない距離があるんだもんね。

「滅びかけの世界を救って回る的な?」

 ただ何に驚かれているのか見当が着かなかったから、当たり障りない程度の本当のことを言ってみる。

「それがどれだけ馬鹿げているかわかっているのか?」

 まあ、あれよね、滅びかけの世界を救って回るだなんてことは、要は無理ゲーをリアルで繰り返せって言われているような物だものね。

 それでも私は。

「いや、ちょっと面白そうかなって、思ってるよ。

 私、実際バカだからね。

 まあ、大変そうなのは私なりにわかっているつもりよ。

 あっ、それと管理人さんに願い事を叶えてもらえるのもかな? こっちは中々魅力的でしょう?」

「願いを叶えてもらえる?

 ど、どこまで、おまえは優遇されている!!」

 もはや原型がないほど、私と同じ顔とは思えないほど、表情を醜く変えて、嫉妬の感情を露わにしている。

 そうか、この人の根本は、嫉妬なのか。

 だから、奪う能力を選んだのかしらね。

「いや、私の立場は元々アンティルローデさんが付くはずだったらしいよ。

 アンティルローデさんは性格に難ありで外されたらしいけど」

「なっ、そ、そうか、そういう事か。はじめっから奴の掌の上だったわけだな?」

「みたいね」

 そう言って怒りを露にするアンティルローデさんには同意できる。

 なんせ私も掌で踊らされている一人なんだから。

 にしても流石は夕闇の魔女様。理解が早すぎる……

 どういう思考回路しているのかしらね、何て言うか頭の回転が早すぎる気がする。

「貴女はいいのか? 奴の思惑通りに踊らされて!」

「私は盆踊りしか踊れないから、まあ、良いかなって?」

「何を言っている……」

 アンティルローデさんが素直に不可解な表情を見せてくれて少し面白い。

 うん、自分でも意味不明の返しだけどね。わかってるよ?

 けど、私と争っても無駄なことはもう理解できてるよね。

 それに少しは話も聞いてもらえているようだし、そろそろかな。

「まあ、そう言わずに聞いてよ、私に負けることはアンティルローデさんにとっても悪い話じゃないのよ?」

「何を馬鹿な!」

 アンティルローデさんはそう言って、唾をはき捨てた。

 うっわ、美人さんだけどお行儀が悪い。

「もう管理人さんに約束は取り付けてあるから、しっかりと聞きなさい。

 私に倒されたら、アレクシスさんがいる世界に転生させてあげるよ」

「え……」

 急にアンティルローデさんから表情が、いや、全ての感情が消えた。

 そして、今までとは別の感情があふれ出てくる。

 うん、これは勝った。効果てきめんだ。

「どう? アレクシスさん、今は精霊の王として、新しい精霊の世界を切り盛りしているらしいわよ。

 近いうちにその伴侶をって話も上がっているそうだから、まだ間に合うかもしれないよ?」

「そ、それは…… ほ、本当なんですか?」

 そう言ってくるアンティルローデさんは以前のような粗暴さがまるでない。

 まるで初心な少女のような表情を浮かべている。夕闇の魔女なんて言葉はそこからは到底想像もできない。

 ちょっと心配になるくらい効果てきめんだった。

「ついでに管理人さんもこの案に賛成よ。精霊の力で記憶を引き継げるあなたをこのまま野放しにするよりは、アレクシスさんに押し付けたほうが……

 いえ、嫁がせた方が世界的に見ても非常に良い未来が予測できるってさ。

 どうする?」

 と、一応聞いてみるが、その答えを聞くまでもない。

 一目見ればもう結果はわかり切っている。

 そこまでずっと好きなら、なんで海原の世界からアレクシスさんがいる世界へ転生しなかったんだろう。

 恋は盲目って、そういう意味じゃないよね。野田さんもアンティルローデさんもなんで致命的に……

 ああ、これも管理人の仕業なのか?

 でもタイミングだけでどうこうできる話じゃないだろうに。

 いや、ちがうか。精霊界が正式な世界として認められたけど、そこにいるのは魂レベルの高い精霊達ばかりだ。そこを指定して転生するとなると相当元の世界の魂レベルをあげないといけない。

 簡単にはアレクシスさんがいる世界へは転生できない、とか? だからアンティルローデさんは腹いせに世界を滅ぼして回るつもりでいたのかしら?

 いや、待って、それだとタイミングがおかしくない? ん? 研究者さんの話だと地球侵略体がやってきてちょうど十年目って話だし?

 ……

 となると、管理人さんによりそう言う風に仕向けられた?

 野田さんもすぐに気が付きそうな物なのに、気づいてなかったようだし……

 あの管理人に対して気を許してはいけない…… 気がするよ。

 決して邪悪な存在じゃないんだけど、なんていうか、ねえ?

 まあ、それは私の杞憂だったんだけどね、後で管理人さんに確認したら、アンティルローデさんはエルドリアの世界で色々やらかしていたので、エルドリアでは出禁にされていただけだったんだけどね。

 だから、エルドリアに再転生することができない状態だったらしいし、アレクシスさんが新しい世界へ旅立ったのは、ついさっきの話だ。それをアンティルローデさんでも知るすべはない。

 で、もうエルドリアに転生できないのを知ってしまっていたアンティルローデさんは、それだけに肉体と魂を分けられた状態でも、どうにかエルドリアの世界に必死にしがみ付いていたみたいね。

 そして、私を使ってエルドリアに戻ろうとして、よりにもよってアレクシスさんの手で、最後の望みの綱だった、私との縁の糸を断ち切られてしまったと言うわけね。

 それで諦めがついて、別の世界へと。って感じらしい。まあ、アレクシスさんがエルドリアを離れたことで、再び同じ世界で相まみえる機会を得たんだけどね。

 ついでに野田さんは既に狂い始めていて思考自体がまともじゃなかった、とのことだけど。

「と、嫁ぐ? 妾が? 妾がアレクシス様に?

 そ、それが、ほ、本当なら…… 大人しくやられてやっても……」

 もう、何て言うか、ただの恋する乙女だ。

 敵意すらない。既にもじもじとしていて、先ほどまでの威厳も何もない。

「我が主よ、良いのですか? 騙されている可能性は?」

 と、グントニールさんが忠告するが、無意味だろう。

 もうアンティルローデさんから敵意を感じることはない。

「いや、よい。理にかなっておる。記憶を蘇らせれ、世界を壊して回るつもりでいた妾を封じ込めるには、良い手段じゃ……

 まさかこんな方法で妾を懐柔してくるとは思いもよらなんだ……

 参った、降参じゃ。貴女の好きにすると良い。

 悪いな、グントニール。魂まで捧げたくれたおまえの忠義に感謝する」

「いえ、とんでもございません」

 そう言う結果になった。

 ここまで効果てきめんなら、最初に話しとけばよかった。

 けど、私もここまで効果あるとは思ってなかったよ。

 しかし、何百年もアレクシスさんのことを思い続けるって、どんな感じなんだろう? 私にはわかんないや。

「まあ、グントニールさんもタイミングは違うだろうけど、新しい精霊界に転生できるようにお願いしとくから」

「すいませぬ、貴女には感謝しか……」

 まあ、追加の注文になるけど、管理人さんもそれくらい認めてくれるよね。

「じゃあ、さっさと終わらせてあげるね。向こうで今度こそ幸せになってね」






 我ら精霊が新天地を得てから数十年にはなるか。

 新しき王は良き王ではあるが、王というには少し似つかわしくない職務に勤しんでいる。

 今も田畑を耕しているのだろうか。

 この地には我ら精霊を脅かす穢れも敵もいない。だからと言って、王自らが畑仕事をするとは……

 とはいえ、我ら精霊を崇め奉仕する人間達もいない。自分達のことは自分でどうにかしなければならない。

 食事などはただの嗜好の類に過ぎないのではあるが、王の作る料理は大変美味である。

 それは毎晩の楽しみになりつつあることは否定できない。

 そんな平和な世界である。

 想定する外敵すらいないのでシャーザン殿は少し物足りなさそうにしてはいるが、グリアノーラに憂さ晴らしとばかりに稽古をつけている。

 付き合わされるグリアノーラも愚痴は漏らすものの、剣を打ち合っているその表情は生き生きとしている。悪いことではないだろう。

「貴方」

 と不意に呼ばれる。

 振り返ると愛しき我が妻、ルナティリアルは、生まれたばかりの赤子を抱いて私にそっと寄り添ってきた。

 私の愛しき娘は精霊の希望だ。なにせ精霊と精霊の間に生まれたのにも関わらず、生まれながらにして肉体を持って生まれてきた。

 恐らくは、あの管理人の管理下に置かれた影響が出ているのかもしれない。肉体、魂、精神、その三つが揃って生まれてくることは非常に喜ばしいことだ。

 精霊にとって最も危険な小精霊の時期を過ごさなくて済むのだから。

 これも王の決断があってのことだろう。

 妻が私に娘の寝顔を見せてくる。

 妻が愛しているのは、私の真似ている姿であり私ではない。だが、我らにとって時間は永遠とも言えるほどある。

 いつかは私自身を見てもらえる日は来るだろう、私はそれを待ち、そして、それに向かい努力するだけだ。私のかつての主がそうであったように。

 なに、ずっと憧れていた方の傍に誰よりも近くでいられるのだ、今はそれだけで幸福なことだ。

 ただ一つ、気になるのは妻が抱いている我が娘の名だ。

 よりにもよって、あの名前をつけるとは思いもよらなかった。

 妻は娘を王に嫁がせるつもりでいるが、どうなる事やら……






 私は一仕事を終えて、いや、仕事を投げ出して初めての休日を取ることにした。

 まさか地球を救った後、話し合いの結果そのまま別の世界を救いに行かされると思わなかった。

 まあ、私の提案の仕方が悪かったんだけど。

 雇用形態、いや、雇用条件? っていうのかな、五日働いたら二日休む。

 と提案したら、地球を救うので一日かかったので、他の世界を救うために四日働く羽目になってしまった。

 そんなわけで、ほぼ砂漠と腐った海の惑星に飛ばされて、そこでサバイバル生活をさせられる羽目になってしまった。

 四日間どうにかサバイバル生活を終えて、やっとの休暇だ。とりあえずご飯、何か食べるものが欲しい。

 後、ちゃんとしたお風呂!! あとあと、ひきこもりの私も流石に人恋しい。

 しかし、なんだ、この気分的にも久しぶりのイナミの街は……

 あれれー? おかしいなぁ、大分、見た目からも変っているんだけど……

 そう言えば時間の流れが違うんだっけ?

 これは、オスマンティウスを大分またしてしまったかな?

 まあ、とりあえず食事をしよう。なにせこの五日間何も食べてないんだから。

 本当に白湯しか飲んでない。

 適当に、とは言っても一番おいしそうな匂いをしていた、お店に入り、料理を注文する。

 ムーとグレルボアの合い挽きハンバーグがメインのセット料理に、ガーの卵とムーのミルクをふんだんに使ったアイスを注文。

 とりあえずその二品だけにしておく。足りなかったら追加で頼もう。

 適当に入った割りには、このお店は結構な高級店のようで、かなり値段がお高い。お高いと言っても、今、私は一銭ももっていないので関係はないけれども。

 良心の呵責から、とりあえず二品だけの注文にしておいたんだけどね。

 まあ、すぐに気が付いてくれるだろうし、心配はしていない。

 最悪、騒げば誰かしら私の知っている人に出会えると思う…… が、こっちの世界で何年経ってるかわからないのが心配ではあるのよね。

 料理を待っていると、物凄い勢いで誰かさんが走ってくるのがわかったので一安心だ。

 その誰かさんは、お店の扉を物凄い勢いで蹴り破り飛び込んできた。

「イナミ!! イナミイナミイナミ!? 

 なんか、よくわからないけど、急にイナミが帰ってきた!!!」

 そう叫んでオスマンティウスは私に抱き着いてきた。

 その後ゆっくりと、大人に成長した、多分ズー・ルーちゃんが蹴破られた入口からお店に入ってきた。

 その成長度合いからもかなりの年数が経っていることがわかる。

 十年くらいかしら?

 それと、お店のシェフかオーナーかは知らないけど、お店を仕切っている人がオスマンティウスを見て驚いていた。

 蹴破られた扉の方よりも、オスマンティウスの取った行動のほうが驚きだったようだ。

 まあ、オスマンティウスはこの世界では正真正銘、神様だからね、しかも外面は割とふんぞり返ってクールを気取ってたりしてるし。

 そんな神様が私に泣きわめきながら抱き着いている様子はさぞかし珍しいだろうて。

 しかも、この町の名前を叫びながらだよ、そりゃあ、驚くよね。

「オスマンティウス、お待たせ。帰ってきたよ。

 んー、時間どれくらいたった?」

「十年!! 十年よ!! イナミの魂どこ探してもないし、どうしてたのよ!!」

「いや、色々あったのよ、私も。

 私のほうでは五日くらいしかたってない感覚なんだけどね」

 まあ、そのうちの四日は、ほぼ砂漠だけの世界に投げ出されて、路頭に迷ってたんだけどね。

 今思い出してもため息しか出ない。

 なにいっぱしの社会人を気取って、週休二日にしよう、とか提案しちゃってるのよ。ほんと調子に乗っていいことなんてないわ。

「五日? なに? 何がどうなっているの? それにその魔力なによ!? 前より強力になってるし、記憶も維持してるの? 姿だってそのまんまじゃない!!

 なんでそのままなの? 一体なにがどうして、どうなってるのよ、急にふっと湧いたように出て来たし!! イナミ!!」

「とりあえず聞いてよ、今酷い事になっててさ。

 給湯ポット一つで砂漠の惑星を救わされる羽目になって、辟易してるのよ、もう。

 調子に乗って、じゃあ、その星を救える能力ちょうだい、だなんていうんじゃなかったよ」

 あんまり人任せにするのは良くないね。

 ほぼ無限にお湯が出せる給湯ポットとはいえ、それ一つで一面砂漠の世界を救えって、どういうことよ。

 まあ、あの管理人のことだから、救えはするんだろうけどさぁ……

 それを実際やらせられる身にもなってよねぇ……

「え? なに? なんの話をしているのよ!!」

 オスマンティウスもなんか感情が爆発して発狂してるし、って、十年か。

 結構待たせちゃったけど、私的にはやっぱり五日くらいなんだよなぁ……

「まあ、今日明日はゆっくりしてられるから、愚痴に付き合ってよ!!

 というか、向こうで四日、こっちで十年じゃ割に合わないわね、労働条件の改善を申しでないと……」

 そうよね、流石に十年に二日しか会えないんじゃ、オスマンティウスがかわいそうだよ。

 というのは建前で、私がこのエルドリアの発展について行けないよ。

 このエルドリアは管理人さんの話じゃオスマンティウスの元にいるかぎり繁栄が約束されているようなものらしいし。

 次からは地球の娯楽もこっそり持ってきちゃおう。

 あっ、地球によってお米とかも持ち込もうかしら?

 というか、地球救った時に白米、いや、おにぎりだけでも食べてくればよかった。

 そう思うと無性に熱々のご飯が恋しい……

「今日明日? だけ? イナミどいう事!? ちゃんと説明してよ!!」

「するから、ちょっと待って、ご飯食べさせてよ。私、久しぶりの食事なんだから!

 あっ、あとここの支払いもお願いね?」

「え? 支払い? ズー・ルー、お金持ってる?」

「はい、念のためにと持たされています」

 と、ズー・ルーちゃんは狼狽えることなく答える。

 流石最後のズー・ルーであるズー・ルーちゃん。

 まるで動じている様子がない。

 多分、理解することを破棄しているだけなんだろうけども。

 にしても、この二人が仲良さそうでよかった。

「それは良かった! ズー・ルーちゃんも久しぶり…… になるのかしらね?

 私からしたら、そこまで日にち経ってないんだけど……」

「はい、お久しぶりです、イナミ様」

 と、私がズー・ルーちゃんと挨拶をしている間に、オスマンティウスは、

「ちょっとシース、今は黙ってて!!」

 と、発狂してそう叫んでいた。

 あれ、シースさん? シースさんもいるの?

 そう言えば、オスマンティウスの中から、シースさんの魂の波長を感じなくもない。

「え? シースさんいるの?」

「今私の中に間借りさせているんだけど、挨拶したいって騒いでて」

 間借りって、そんなことできるのか、流石神様だなぁ。

 管理人さんを見慣れちゃうと、ちょっと神様成分が足りない気がするけど、オスマンティウスはこれからもっと成長していくだろうしね。

 彼女も元は精霊で、長生きしても穢れを生み出さないだろうし、きっとこれからも長い付き合いになるよね。

「間借り…… あっ、シースさんに生まれ変わらないとダメって伝えておいて!」

 不味いよね? 人間が穢れを生み出すようになるのに最低でも千五百年はかかるって話だし、まだ大丈夫なんだろうけども。

 あ、でも貴族のシースさんは一応混血種の末裔なんだっけ?

 どうなんだろう? 流石に世代を重ねすぎかな? どの道、素直に転生してもらった方がいいよね、幽霊の状態が正常な分けないし。

「だってよ、シース。イナミにも再会出来たしさっさと転生して生まれ変わりなさい!」

「そうだよ、生物が寿命を大幅に超えて生きていると穢れを生み出すようになっちゃうんだから」

 と、私も付け加える。

「え? そうなの?

 って、シース、頭の中で興奮して騒がないでってば!」

「あはは、シースさんらしいなぁ」

「イナミからもどうにか言ってあげてよ、このままじゃシースは魂が擦り切れちゃうんだけど、知識を捨てたくないって聞かないのよ。

 そもそもシースの魂の寿命はもうそれほど長くないのに!!」

「え? あー、うん、知識だけなら、オスマンティウスの中に保存しておいて、生まれ変わったらそこから引き出せばいいと思うよ」

 何ともシースさんらしい話だ。

 けど、魂が擦り切れちゃうか。

 穢れとを生み出すとはまた別で、魂と精神そのものが持たないのかしらね?

 じゃあ、やっぱりイリーナ、いえ、エッタさんももういないのかしらね?

 少なくとも今のオスマンティウスからは彼女の存在がまったく感じられない。

 オスマンティウスと完全に融合した彼女がどうなったか、わからないけども、そのことはなんだか聞きにくい。

 うーん、私がもっと世界の真理に詳しかったら、魂の寿命を伸ばす方法も伝えられたのになぁ。まあ、あんまりよくないけど。

 それで穢れを生み出すようになっても困るしね。

 この件はオスマンティウスが自分で話してくれるまで、私からは聞かないでおこうかな。それが良いよね。

 オスマンティウスにとってエッタさんは私以上に特別な存在なんだろうし。

 まあ、最悪あの管理人なら失われた魂すらサルベージ出来そうだけれどもね。

 念のため後で確認しておこうっと、今はまだ確証ないからぬか喜びさせても悪いし。

「そんなことできるの?」

 と、オスマンティウスがシースさんの代わりに驚いて見せている。

 いや、オスマンティウス自体も驚いているのかしらね。

 これは…… 記憶を引き出す方法の話よね。あの管理人と話してると、思考を読まれてないか気になって仕方ないのよね。

「オスマンティウスの眼があれば簡単でしょう?

 シースさんの生まれ変わり見つけて、その知識を教えてあげればいいんだけなんだから」

「それも…… そうね」

 と納得したように頷いた。

「そんなことも気が付かなかったの?」

「でも、かなり膨大な量よ?」

「じゃあ、オスマンティウスの記憶領域の一部をストレージにして、シースさんだけに自由に引き出せるようにしておけばいいかな」

「ストレ…… え? なに?」

「保管庫とか、そんな感じ? ああ、そうだ、オスマンティウス、魔法とか魔術ってあんまり使っちゃダメみたいでさ、オスマンティウスの神様権限で禁止できたりするの?」

「え? 出来なくはないけど…… 流石に急には無理よ? 魔法はともかく魔術は生活基盤になっているもの」

「だよねぇ、とりあえず魔法からかなぁ。

 魔法は結構危険でね、世界崩壊の切っ掛けになりかねないからさ。魔術もあんまりよくないみたいなのよね。特に複数の効果を組み合わせたやつとか、負荷がかかるし。

 その辺の話を落ち着いたら話すね。

 とりあえず今はご飯食べさせてよ、本当に何も食べてないのよ!!」

 私は話さなきゃいけないことを頭の中でまとめながら、肉汁たっぷりのハンバーグが焼けている音と、オスマンティウスが何やら騒ぎ立てている声を聞きながら自然と頬が緩んで微笑んだ。


 管理人に働かせられる事を考えると、私のフィナーレはまだまだ先なのかしらね。

 でも、とりあえず、これでいいのよね?

 だって、概大団円になったんだから、まあ、いいよね!

適当にそれっぽいタイトルを考える→転生する→タイトルに引っ張られて吸血鬼にされる→妖魔と出会う→聖女と出会う→英雄に一度殺される→山の魔神うんぬん→聖女が吸血鬼に→最初からいる子が聖女に血を吸われ死ぬ→聖女をメテオで倒す→聖女の神託成就→英雄は精霊界へ帰り精霊界と世界を分ける→主人公が地球に帰り魔女を倒してEND。主人公は管理者の下請け業者になる。


という大まかな話以外ほぼほぼ適当にその場の乗りで書いてます。

当初はオスマンティウスなんていませんでした。

適当に生やしたら、いつの間にかに神様になってました。

上記以外流れで伏線ぽいのは全部適当にそれぽくしただけです。

ほぼ全部その場の乗りです。

ただ執筆のスピードより妄想して物語を作るスピードのほうが早いので、そこで補ってはいたかもしれませんが、本当に上記以外の話はその場の乗りで適当に書いてました。

細かい設定はその都度思い付きで追加しているような状況です。

もちろんなるべく矛盾しないようにはしてましたけど、どこかに資料として書き留めるとかしてなかったので、矛盾しているようなことは多くあるかもしれません。

次はどっかにまとめて書いておきたいな。

無駄に設定だけ思いつく傾向があるみたいですし。



なんというか、これは練習のつもりで作ったものなので。

意外と、あっ、これ伏線として使える、と思えるようなものが多くできてびっくりしています。

書き始めると意外とどうにかなる物ですね……



後は…… 一人称が「私」が多すぎですね。

最初のほうは少し気にして一人称を変えてましたが、途中からきっぱり諦めてます。

なるべく前後の文でわかるようにはしているつもりですが、そこはただの素人、そんな表現できるわけもなく……

ただただ読み難い文章に。


反省点は多いですがこの辺で。


そんなわけで次回作は、設定などを最初に書き溜めたものでなく、本当にほのぼの?した日常ものの予定です……


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 1部の文書量が多め(個人的な感覚)ですので、 2~3に分けて頂けると、しおりも挟みやすくなり、 読みやすくなる(個人的な感覚)ので、幸いです。 [一言] 完結おめでとうございます。 楽…
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