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異世界転生したら吸血鬼にされたけど美少女の生血が美味しいからまあいいかなって。  作者: 只野誠
第一章:異世界転生することになったけれども。
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異世界転生しても私じゃ現代知識での無双は特に始まらなかった!

 気が付くとそこは真っ暗い空間だった。

 ただ明かりがないわけじゃない、みたい?

 いや、よくわからないけど私自身は鮮明に見えているから明かり自体はあるのかなって思うの。

 ただ、どこかに立っているという感覚はない。

 なんて表現したらいいかわからないどころか、落ちているのか、浮いているのかもわからない状態だし。

 周りは真っ暗で私以外何も見えない、もちろん地面も何もない。本当に私以外が何もない空間。

 行ったことはないけど、宇宙とかはこんな感じかもしれない。ここは星も何も見えないけど。

 これはあれだ、多分だけど私死んだ?

「はい、あなたは死にました」

 とこからともなく声が響く。男とも女とも取れない中性的な、それでいて奇麗で機械的な声。

 神様?、と、声を発しようとしたが声は出ない。

「私は神ではありません、私はここを管理している管理者です」

 ここ?

「とくに名はありません、しいて言うならば空間です」

 どういった空間なの?

「世界と世界の狭間の空間、あなたが認識しているものとは違いますが、外宇宙とでもいうべき空間です」

 う、うーん? よくわからないや。私死んだんだ。

 どうやって死んだの? 私の最後は苦しんだ?

「はい、あなたは大変苦しみながらの最後となりました」

 え、そうなの? 誰かに殺されたとか?

「いいえ、違います」

 病死とか? 事故? まさか自殺?

「広義の意味では事故が当てはまるかもしれません」

 車にはねられたとか?

「いいえ、あなたは餅をのどに詰まらせての窒息死です」

 えぇ…… 私の最後そんなんなの?

 あれ? 自分のこと…… 思い出せない?

「申し訳ありませんが、ほとんどのあなた自身の記憶は消去済みです。今は私とのやり取りに必要な記憶しか残していません」

 うぅ…… まあ、死んじゃったんだから仕方ないか。

 よく思い出せないけど私まだ若かったよね?

「はい、あなたは若い人間の女性でした」

 なのに餅をのどに詰まらせて死ぬって、なんだかなぁ。

「あなたには、これからいくつかの選択肢が用意されています」

 選択肢?

「まずは元の世界、地球という惑星がある世界に戻り、また人として生まれ変わることできます」

 また人間に生まれ変われるのか。輪廻転生ってやつかな。

「次に、別の世界へ行き新たなる生を謳歌する選択肢があります。これにはいくつかの特典が付きます」

 ああ、うん、なんかわかる、異世界転生ってやつだね。

 トラックに跳ねられなくてもできるんだね。

 転生するときになんか能力とか才能とかくれるんでしょ? そうだよね? 特典ってそういうことだよね?

「はい、その通りです。過疎化が進んでいる世界ほど良い特典をギフトとして送ることができます」

 過疎化が進んでいる世界って?

「この空間には無数の世界が存在しています。私はそれを全て管理しています。

 私の目的はすべての世界での繁栄ですが、個々の世界に対し理由もなく過度な干渉はできません。

 そこで繁栄している世界から、そうでない世界への移住をお願いしています」

 移住、過疎化…… どこの世界も田舎は世知辛いのね。

 で、その提案を受けているということは、地球は繁栄していたってことね?

「はい、繁栄度Cクラス相当です」

 その繁栄度っていうのは?

「端的にいうと生命の数と質です」

 今の私は…… 魂だけの状態?

「はい、今のあなたは肉体と呼ばれるものは持たず、魂と精神の存在です」

 魂と精神? うーん、よくわからない。

「例えるなら、パソコン、パーソナルコンピューターに例えるのがわかりやすいかと思います。

 肉体がパソコン本体。魂が電源から流れてくる電流、エネルギーといった物ですね。

 精神がインストールされているOS、オペレーティングシステムと例えるのがわかりやすいかと。

 今は肉体的なものはありませんが、私がサポートしています」

 うーん、やっぱりよくわからないや。

「あなたの得ていた記憶の中から、適合値の高いものを選択したのですが申し訳ありません」

 まあ、いいや、うーん、なんか地球ではあんまりいい生活してなかった気がするから異世界転生はありかもしれないなぁ。

「あなたが地球で暮らしていた時は、俗にいうところのひきこもりという生活を送っていました」

 ああ、なんとなくそんな気がしてた。一日中パソコンの前に座ってネットとかゲームとか絵と書いてた気がするよ。

「はい、概その通りです」

 地球に生まれ変わっても、なんか特殊な能力とかもらえないんでしょ?

「はい、そうなります」

 じゃあ、異世界転生かな。どんなものがあるの?

「ご希望を頂ければ、それに近いもののリストを提示します」

 んー、じゃあね、まず美人!! これ絶対条件ね。美人は得だものね。で、ずーと若くて綺麗なままがいいかな。後死なない、とか? 死ぬのはやっぱり異世界だと怖いしね。

 あとは、別に最強じゃなくていいから、それなりに強くて、不自由なく暮らせる環境? あと地位? 平和なことも条件ね。

 それでそれで、魅力的な、みんなにちやほやされる感じ? 目を合わせるだけで相手を魅了できちゃうような?

「はい、いくつか候補があります。またいくつかの条件に添えないものもあります。

 まず完全な不死は存在しません。また地位、生活環境の安定などは時代によって変わります」

 あー、はいはい、とにかく候補とやらを見せてよ。

 不意に頭の中に無数に風景が浮かび上がる。

 でも、多すぎてなにがなんだかわからない。

「候補を条件に当てはまる上位のも5つに絞ります」

 5つの風景だけが残り後の風景は消えた。

 一つは赤い世界で無機質で虫だかロボットだかわからない生物がわしゃわしゃ動いている。

 一つは砂漠のような世界ででっかいイモムシが数匹のたうち回っている。

 一つは天気の良い草原の中に石造りの廃墟が見える。

 一つは大海原に船のような建造物が見える。

 一つはサバンナのような風景が映し出されている。

 そ、そうか、人以外になる可能性もあるのか。やっぱり人型がいいかな。イモムシになっても、ねぇ?

 そういうことで、この中で人の姿に近いのはどれ?

 そうすると、赤い世界と砂漠の世界の風景が消えた。

 あれ、意外と人型は多いのか。

 あと、ごめん、転生先の人の姿とかわかる? 一般的な人達でいいから。

 風景を映し出されていた中に人の姿が映し出される。

 草原の世界には、ファンタジー世界のような服装といえばいいのか、そんな感じ普通の人、私の知っている人間と時代は違うものの、人間自体はあまり変化は見られないかな。もちろん衣服とか違うけどね。

 大海原の世界は、ぴっちりのスーツを着た人型、ただし背が高く異様に細身で肌も青色、目も青く特徴的。白目黒目などがなく青い宝石がはまっているかのように思える。全体は美しく外見だけど、宝石のような目だけは少し怖い。

 サバンナの世界は、毛むくじゃらの原始人がいた。あー、ここはなし。

 サバンナの世界が消えた。

 この二つの世界の詳細とかわかります?

「はい、あなたが草原の世界と呼ぶ世界は、地球があった世界の小説、特にあなたが認識しているファンタジーの世界と類似しています。魔術や魔物、精霊といったものが実在する世界です。

 この世界は現在、魔王と呼ばれる存在が討伐された直後となっており大きな争いの予定はしばらくはありません。

 大海原の世界は、映像に映っている都市がこの世界最後の都市となっていますが、高度な科学技術で生活は保障されています。また総人口が少ないので争いらしい争いは起こりません」

 えぇ…… ほぼ草原の世界一択じゃないですか。

 あっ、ちょっと待って。転生した先でまた死んだらここに来るの?

「いえ、違います。条件に合った方のみとなります」

 条件に合った方?

「はい、それまで生きていた世界に不満などを持っていて移住してくれる可能性があり、なおかつその移住先の生命を増やしてくれる可能性のある方です」

 ふーん、じゃあ、またここに来れる可能性もあるということか。

 うーん? 生命を増やす? 私がこうやってここにいて転生するってことは魂の数は全体で決まってるの?

「いいえ、違います。魂は充実した生活を送ることでその強さを増し、ある種の細胞のように分裂することができます。精神のほうは生まれ変わるたびに再生成されますが、以前の精神に引きずられる傾向にあります」

 充実した生活送れば増えるものなのね。ああ、じゃあ、地球の頃の私の魂はさぞかしくすんでいたんじゃない?

「それだけに魂を増やせるエネルギーも高くはなっています」

 うーん、大体でいいから転生したらどうなるかくらいはわかる?

「あなたが草原と呼ぶ世界では、選択肢は無数にあり、お伝えすることは困難です。ですがなるべく良い方向へいくタイミングで転生してもらいます。

 大海原の世界では、新しく生まれる女王として孵化します。女王の数は貴重で大切に育てられます」

 女王? 女王か、悪くない気もするなぁ。ん? いや、待って、女王? 女王の数? いや、女王が孵化するっていうのは?

「蟻や蜂といった生物の女王と似通ったものになります。

 生態も卵生のものとなります。

 この種族の女王は視線で下位種を支配でき、あなたは動くことなく食料を調達することができ生活は安定しています。上位種である女王は下位種よりも種族的に強く絶対的な地位もあります。

 また発展した科学力は不死とはいかないまでも長寿を約束してくれます。またもとより寿命が長い種族となります。

 それにより女王の本分である産卵も絶え間なく……」

 あ、いや、大海原の世界もないや……

「はい」

 心なしか残念そうね。

「大海原の世界再生のチャンスでしたので、少し残念には思います」

 ん? 草原の世界も滅びそうなの?

「いいえ、魔王との戦争でおびただしく生命の数が減っているだけで、これからは増えていく傾向にあります」

 じゃあ、そこでいいわ。元の世界に戻っても、またひきこもりになりそうだしね。

 魔王が倒された世界なら平和だろうし、私、ゲームのクリア後の世界でうろつくのも好きなのよね。

「はい、わかりました。感謝いたします。では転生と移住の手続きを……」

 そこで私の意識は唐突に途切れた。



 気が付くと暗く狭いところに横たわっていた。

 光などないのにもかかわらず、周りの様子がよく見える。

 横たわっていた場所が石……? 石材っていうの? そういうものだったらしく体が痛い。

 まるで数年そのままの姿勢でいたかのような感覚。

 あれ? 転生って言ってたけど生まれ変わってない? 少なくとも赤ちゃんとかそういった過程はない感じ?

 どうなってるんだろう?

「……」

 声を出そうとしたけど、声が出ない。

 いや、出るには出るけどかすれて声にならない。

 これはどうなってるの?

 もしかして、私騙された!?

 いや、でも、騙してどうにかする意味もないよね?

 というか、なんか途中で途切れた感じだったし、不慮の事故?

 うーん?

 とりあえずこの狭い空間からでないと…… でれるかしら?

 そう思って体を動かそうとするけど、うまく体を動かせない……

 意識はギリギリあるけど、夢の世界と現実の世界の狭間にいる感じ。

 気を抜くとすべてを持っていかれそうな感じ。このまま意識を失うのはまずい気がする。

 けど、動けぇって頭で思ってても体が言うことをきかない。

 でも、別に拘束されているわけじゃないし、うーん、こういう時は意識をしっかり持って、こういう風に気合でっ!!

「えいやっ!!」

 と、無理やり手を上に伸ばしたら、暗かった場所が急に明るくなった。

 おお、声も出て体も動くじゃん、と思った直後、ドガンっと重く響く音とともに地響きのようなものさえ聞こえた。

 え、何が起きたのと思って身を起すと、石の大きな板、いや、蓋というべきものがそこに転がっていた。

 音の原因は間違いなくこれで、これをどかしたのは私?

 えっ、まって、こんな重そうなものどうやって?

 そういえばさっき声も出てたよね、でも自分の声と違ってたような?

「あっ、あっ、あー、と今度は声、ちゃんとでる……」

 けど、これ誰の声!?

 わ、私の? 私のにしてはかなり美声な気がするけど……

 あ、やっぱり転生したったこと?

 急いで見える範囲で自分のことを確認する。

 手は白く細く美しい。爪には真っ赤なマニキュアが塗られていた。

 何この細くて繊細で綺麗な指は。

 服は黒と濃い赤の色のドレスを着ていた。

 頭から垂れる髪は白く輝いているように見えて、触ると水のように滑らかだった。

 うっわ、すごいサラサラの髪質、なにこれ。

 転生って言われてたから、赤ちゃんから生まれ変わると思ってたけど違うのかな?

 記憶も…… ないといえばない、というか自分のことだけ思い出せない。けど、あのわけわからない謎空間にいたときの記憶はあるし。

 うーん、よくわからない。

 けど美人さんって要望出しといたから、美人さんにはなってるはず!!

 姿を確認したい! 鏡!! 鏡はどこ?

 そう思って周りを見渡すと、自分が横たわっていた場所が、石棺だったことに気が付いた。

 え? 死体に転生させられたってこと?

 これでゾンビみたいに腐ってたりしたら目も当てられない!

 と思ったけど、少なくとも見えているところは普通の人間みたいに思える。

 少し肌が白すぎるけど。白すぎるというか病的に青白いというか、まるで死人のようって、まさか本当に死人に転生させられたの?

 ここであわてても仕方がないので、一度落ち着いて改めて、周りを見渡すことにした。

 落ちつけ私、慌てても何んもいいことないのは、多分前世の記憶で知っている。

 ここは石造りの建物のようだった。

 元は綺麗な場所だったと思えるけど、今は廃墟って言葉がぴったりくる。

 壁どころか天井も崩れ落ち、ところどころに陽だまりができていたし、植物に浸食されて荒れ放題になっている。

 少なくとも数年は手入れなどされた気配はない。

 こんな場所では鏡などないか、と落胆していると、石棺から左の方に、まだ壁も天井もしっかり残っていて崩れていない場所がありそこに鏡、壁にはめ込むタイプの姿見のようなものがあることに気が付いた。

「なんだ、あるじゃん」

 と、自然と声が出た。

 やっぱり透き通るような美声だ。声の感じからして若い感じもする。なんだか容姿にも期待が持てる。

 急いで石棺からでて姿見の前まで行く。

 なじんでないのか体が動かし難かったけど、なんとか姿見の前までこれた。

 が、姿見は曇っていた。

 曇っているというよりは、ぼやけている?

 私の姿はぼやけていて良く見えなかった。

 が、次の瞬間ゾクッとする嫌な感覚があった。

 それは私が気が付いてしまったからだ。

 鏡の中の私だけがぼやけていて、背後の容姿はしっかりと鮮明に写し出されていたから。

「えっ、なにこれ……」

 動揺して思わず声に出してしまう。

 次の瞬間、私をさらに驚愕させることが起きた。

 鏡の中で何かが動いたのだ。黒い毛玉のような大きななにかだ。

 振り返って辺りを見てみるが何かが動いた様子はない。というか、鏡の中でなにかが動いていた場所には何もいない。

 けど、再度鏡を確認すると鏡の中では今も何かが動いている。鏡の中で黒い毛玉に見えたそれは、コウモリとトカゲを足して二足歩行させたような怪物だった。うずくまっていたので毛玉に見えただけだ。

 しいて言えば悪魔。そう、悪魔のような見た目といえばわかりやすいかもしれない。

 もう一度振り返るが、鏡の中に怪物がいた場所には確かに何もない。

 が、鏡の中の怪物は鏡の中に確かにいて、ゆっくりと近づいてきていた。

 逃げなきゃ、と頭ではわかっていても恐怖で焦って、どうしていいかわからない。

 思考が停止して馬鹿な私はその場に、呆けたように立ち尽くしていた。

 やがてその悪魔のような怪物が、鏡のふちに手をかけて鏡の中からゆっくりと出てきた。

 私はその光景をみても完全に思考停止したままだった。

 ああ、確かに魔法や魔物が存在するファンタジーな世界って言ってたっけ、などと思い出すのが精いっぱいだった。

 鏡の中から出た悪魔は私を一瞥すると、ゆっくりと私の前に跪きこういった。

「我が主、アンティルローデ様。お目覚めの時を心よりお待ちしておりました」

 えっ? 我が主? 私が主? アン… アンティ…… なんだって?

「えっと…… どちらさまでしょうか?」

 我ながら馬鹿な返しである。

「我は主の第一の僕、イシュヤーデにございます。お忘れになられておいででしょうか」

「お忘れというか、私は別……」

 待て待て待て待て!! 私待って、ここで別人と言おうものなら、この悪魔に襲われちゃうんじゃない?

「別…?」

「いえ、えーと、と、とりあえず、状況を説明…… してくれますです?」

 緊張のあまり変な語尾になってるけど、気にしている場合じゃない。

 今はこの悪魔が私をご主人様と思っているうちにどうにかしないと。

「はい、我が主よ。

 主が転生の儀式を行った後、予定では一週間ほどで目覚めるはずでしたが、時は十数年立ちました。

 その間、この神殿は人間どもに攻め落とされ、魔王殿まで討伐される始末です」

「ん、んんんんんんん……?

 ええっと、まず順を追って、転生って?」

「はい、我が主よ。十数年もの間、眠っていたので記憶が混濁しているのかもしれません。

 主は吸血鬼の真祖となるために儀式を行い転生の眠りにつきました」

「きゅ、吸血鬼!? えっと、ちょっとまって、え、えーと、私は誰でしたっけ?」

「我が主、夕闇の魔女、女天魔、黄昏の姫君、夜の赤き薔薇の乙女、その名はアンティルローデ」

「魔女…… 魔女が吸血鬼に?」

「はい」

「そういえば、魔王、魔王は討伐されたって?」

「我も伝え聞いただけなのですが、おそらくは真実かと。他の魔王四天王の方々も討ち死にしたと聞いております」

「他の……?」

「はい、アンティルローデ様も魔王四天王が一人でございます。

 今となっては魔王軍最後の将と言っても過言ではございません」

「えぇ……」

 何この状況。平和な世界って希望してたけど、私が平和じゃないじゃん!!

「ど、どうすべき、かな?」

「これは機と我は考えます。アンティルローデ様が次の魔王となり、世界を収めるのです」

「えー、やだなぁ、魔王とか。私、争いごと嫌いだし」

「アッ、アンティルローデ様!?」

 と、イシュヤーデとか名乗った悪魔は、口をパカンと開き元から丸い目をさらに丸くして呆けたように聞き返してきた。

 私が、ちょっとかわいい、と思っちゃうくらいには驚いているみたい。

「どっちかにひっそりと隠れて暮らしていくっていうんじゃダメ?」

「えっ、あの女天魔と恐れられた、あのアンティルローデ様が…? ですか?」

 表情はよくわからないけど、その口調から驚愕しているのは伝わってくる。

 そのアンティルなんとかさんは、どんな人だったんだ。

 しかし、このままじゃ拉致が明かない、もういいか。言っちゃおう。

「もう、どうせにっちもさっちもいかなそうだから、言っちゃうけど私多分、そのアンティ何とかさんとは別人よ?」

「はっ? 今なんと?」

 あ、やっぱり不穏な空気に。ひどく怪訝そうな表情に思える。思えるだけで、さっきと表情が変わってないようにも思えるけど。

 悪魔の表情なんてわかるわけがない。

「べ、つ、じ、ん!! 私、アンティなんとかって名前じゃないわよ?」

「では、どなたなのです? いえ、我が盟約の呪はあなた様、我が主を今も指示しております。

 あなた様は我が主、故にアンティルローデ様であります」

 悪魔らしき生物、イシュヤーデは必死に主張している、でも、違うのだよ。

 転生は転生でも、私は異世界転生したんだよ、多分だけど。

 というか、状況的に吸血鬼になる予定の悪の大幹部の体を私が乗っ取ってしまった感じなのかな?

「盟約の…… それって魔法的な何かで私が主って定められてるってこと?」

「……はい、そのような感じです」

「私は……」

 自分の名前も思い出せないか、と思ったけど、ふと思い浮かんだ名があった。

「私はイナミよ」

「イナミ… 様ですか?」

「もし仮に、私がアンティなんとかじゃなくて、別人だったとしても盟約云々であなたの主は私になるの?」

「それは…… 結果的にはそうなります。

 ですが、あなた様は紛れもなくアンティルローデ様その人でございます。鏡の妖魔である我が目をごまかすことなどできません」

「鏡の魔、だから鏡の中にいたのか。

 うーん、例えば、例えばよ、転生の儀式ってのが失敗して、この体だけが残ったとして、その体に別の魂とかなんかが乗り移ったとしたら?」

「そのようなこと…… もし仮にそのようなことがあったとしても、我は主の命令には逆らえません。

 そして盟約はあなた様が我が主と指示しております」

「あら、そうなの?」

 これってこの悪魔は私に逆らえないってことよね。とりあえず異世界転生して即終了ってことはなさそう。

「はい、我は盟約により縛られています故」

「うーん、どうしよう、あ、そういえば鏡の魔なのよね? あなた。

 私の姿が鏡にぼやけて映らないんだけど、なんで?」

「それは主様が吸血鬼としての転生を成功させたからではないでしょうか。

 吸血鬼は元来、鏡には映りませんが、この鏡は魔力を持っているため、多少なりとは映ることができたのかもしれません」

「ああ、なんかそんなような話聞いたことあるかも。んー、私の姿を確認したいんだけど方法知らない?」

「偽りの鏡なら、疑似的にはですが御身を映し出すことができると思いますが」

「偽りの鏡、それってどこにあるの? 簡単に手に入るの?」

「お忘れですか、我は鏡の妖魔です」

 そう言って鏡の妖魔ことイシュヤーデは、おもむろに右手を握り、そしてゆっくりと開いた。

 そこには手鏡があった。まるで手品のようだ。

 イシュヤーデはそれを私に差し出してきた。

 それを受け取り私は手鏡を覗き込んだ。

 そこには息を呑むような美少女が映し出されていた。

 なんていうか、完成された芸術品ともいうべき美少女だった、なにこれ、美しすぎる。こんな子ずーとみてても飽きないよ、これが私?

 こ、これは素晴らしい!!

 思わず、

「うわっ、何この美少女」

 と、声が漏れてしまうほどだった。

「主?」

 悪魔の少し困惑した返しに、私が困惑してしまう、けど、今は自分の新しい容姿のほうに興味が全力で振り切っている。

「いえ、あの、あんまりにも美少女だったから、ね?」

 ついでに口を開けてみると不釣り合いなほどの犬歯が見えた。

 口を閉じれば隠れはするけど、ちょっと口の中で違和感がある気はする。

「本当に主は、アンティルローデ様ではないのですか?

 では、アンティルローデ様は……」

「いや、あの、ごめんなさいね、偽物で……」

「ぬ、ぬぅ、我はどうしたらいいのでしょうか?」

「私に聞かれても、ねぇ?」

「イ、イナミ様は、そもそも何者なのですか?」

「うーん、私は、たぶん別の世界から来たんだと思うんだけど、信じられる?」

「別の世界!? 稀人という存在なのですか?」

「マレビト? それ、よくわからないけど、とにかく別の世界から来たのは本当だよ、記憶ないけど」

「記憶がない? それはアンティルローデ様が記憶をなくしているだけではないのでしょうか?」

「いやー、違うと思うよ? ええっと、イシュヤーデさん? だったっけ?」

「はい、我が主よ」

「私もさ、こんなんだから無理に仕えなくていいよ?

 私のことなんかほっておいて、自分の好きなところへ行ってくれてもいいのよ?」

「そんな、我はいらないというのですか?

 我は…… 我には行く場所も帰る場所もありませぬ。

 主に見捨てられたら、我には何も……」

「ええぇっと、どうしよう、私もこの世界のことまるで分らないから、助けてくれると助かるけどさぁ、私からは何もあげれないよ?」

「我は、力ある者に仕えるように堕とされた妖魔です、仕えることこそが我が悲願、見返りなど求めません」

「堕とされた?」

「はい、我は元々は鏡の精霊でした」

「誰に堕とされたの?」

 イシュヤーデは人のようなトカゲのような、そんな奇妙な指で私をゆっくりと指示した。

「アンティルローデ様です」

「いや、うん。なんかごめんね、後、私はその人じゃないから恨まないでね?」

「う、恨んでなどは……」

 そうは言っているけど、明らかに言いよどんでいる。

「本当に?」

「いや、それは、その……」

 もう視線外したりしている、この悪魔ちょろくない?

「怒らないから正直に言って? ええっとこれは命令よ?」

 イシュヤーデという悪魔、妖魔だっけ? は観念したように、一度深く息を吐いて観念したように口を開いた。

「はい、我は本心ではアンティルローデ様が憎くて仕方がありません、我は今でも精霊に戻りたいと考えております」

「精霊に戻れるの?」

「我には方法はわかりませぬが、そういった前例はあったはずです」

「そういうのは大概善行を積めばいいのよ、そういうのが定番だと思うのよね」

「善行…… ですか、どういったことでしょうか」

「んーと、弱いものを助けたり、殺生をしなかったり、とか? 要は人助けよね」

「そ、そんなことで精霊に戻れるのでしょうか?」

「この世界のことわからない私がわかるわけないじゃん」

「……」

 恨めしそうな、それでいて何かを訴えるような眼をしている。

 なんかこの悪魔、案外悪い奴じゃないように思える。

「あっ、そうだ、こうしようよ!

 私のことを助けてくれるんなら、私もあなたが精霊に戻るのを助けるからさ、協力し合おうよ? ね?」

「主が、我が精霊に戻るのを強力してくださる? そ、それはからかっているのではないのですか?」

「精霊に戻れるっていう確証はないけど、からかっているつもりはないよ」

「わ、我を試しているのではないのですか?」

「そもそも命令に逆らえないんでしょ? 試すも何もないじゃない?」

「それは、そうですが……

 では、あなた様は本当にアンティルローデ様ではないと?」

「それだけは確証をもって事実と言えるわよ」

 イシュヤーデは考え込むように下を向いた。

 姿かたちは悪魔そのものなんだけど、なんかしぐさが人間ぽくて少しかわいい思えてきてしまう。

 いや、姿が姿だけに、不気味は不気味だけどね。

「わかりました、どちらにせよ我は主の命には背けません。

 ですが、これからは誠心誠意、イナミ様を我が主としお仕えいたします」

「そんなに畏まれても恐縮だし、手伝うつもりではいるけど、精霊に戻る確約はできないからね」

「そのお気持ちだけで充分です」

 とりあえず襲われる脅威はなくなって、協力者、まあ、悪魔? 妖魔?だけど、協力者を得られたのには違いないよね。

「さてと、これからどうしよう」

「人間たちが麓を開拓し村を作っております、とりあえずそこへ出向かれるのはいかがかと」

「そう、そうよね、とりあえず情報よね、後食事、食事ということは私、吸血鬼だから人の血を吸わないといけないのよね、血を吸ったら相手は死んじゃうよね?」

「いえ、吸いすぎなければ命を奪うことはないでしょう」

「あ、そうなの? ああっ、でも血を吸ったら相手も吸血鬼になっちゃうんだっけ?」

「我もそこまで詳しいわけじゃないですが、確か吸血鬼に血を吸われた後、その者が死ぬと吸血鬼化するはずです」

「んー? 吸血鬼化を止める方法はないの?」

「至極簡単で死ぬ前に日の光を浴びれば良いだけです。吸血鬼は夜の眷属に属するので日の光が苦手なのです」

「そんなんでいいなら簡単ね。人の命を奪ってまで血を吸うのにはちょっと躊躇するけど、献血してもらってるくらいと考えれば気は楽かな?

 ん? そういえばあなたは何を食べるの?」

「我は主の使い魔なれば、主より魔力の施しを頂いております」

「そうなの? それってどうやってあげればいいのかな?」

「特には。必要な分の魔力は自動的に我に分け与えられます」

「それって私の魔力っていうのが吸われているってこと?」

「そういうことになります」

「えー、私大丈夫? 干からびたりしない?」

「いえ、我が主は元より人並外れた魔力の持ち主です。

 それに、今は使い魔も我のみですし、そんなことにはならないかと」

「前はいっぱい使い魔がいたってこと?」

「はい、我を入れて上位の妖魔だけで7体、それに魔神の類が1柱、下位の妖魔や精霊などは無数とおりました」

「そのアンティなんとかさんはすごい人だったのね」

「吸血鬼化した今の…… イナミ様のほうが、魔力は比較にならないほど強まり、より深くなっております」

「ふーん、ん? 魔力ってことは魔法とか使えちゃったりするの?」

「魔法…… ですか?

 どうでしょうか、魔術ならもちろん扱えるでしょうか、魔法となると話は変わってきます」

「魔法と魔術って違うの?」

「はい、魔法とは法則そのものに干渉します。魔術は今ある法則を用いて術とします」

「よくわからないんだけど?」

「申し訳ございません、我にはうまく説明できませぬが、魔法は神々や上位の精霊が使うより高度なもので、魔術はその一端を借りて扱うもの、と認識していただければと」

「んー、大体理解した!」

 魔法難しい、魔術簡単!! ってことよね、わかったわ!

 何もわかってないけど!

「おお、さすが我が主」

 意味もなく褒められて嬉しくなってしまう自分がいる、あれ、これ私もちょろくない?

「まあ、魔術だか魔法は追々考えるとして、その麓の村までいきましょうかって、私はともかくイシュヤーデさんはやっぱり目立つよね?」

「では、我はその手鏡に潜みお供いたします」

「ああ、それいいね、何か連絡取れる方法はある?」

「念話という魔術があります。鏡に潜んでいる間は我の声は念話で主にのみお伝えいたします」

「私からは?」

「普通に声に出して話しかけてくだされば問題なく」

「わかったわ」

 でもはたから見ると独り言を言っている怪しい人よね、私。気を付けないと。

「では、我が主よ、失礼いたしまする」

 そう言ってイシュヤーデという悪魔だか化け物は、私の持っている手鏡へとシュルシュルっと煙のようになり入り込んでいった。

 本当に人外がいる世界なんだなぁ、と感心してみるのと同時に、いつの間にかに、イシュヤーデという悪魔に対する恐怖心が無くなっていたことに気が付いた。

 いや、ちがう、初めこそ驚いたものの、鏡から出て私に跪いた瞬間から、姿こそ異形だが私に害をなせる存在じゃないとなんとなく理解できていたから、かもしれない。

 そう、例えるなら部屋の中からベランダにいる小鳥を見て、それを怖がる人がいるか、と言われればいないよね、それと同じ感覚。

 私にはイシュヤーデという悪魔が、小鳥と同じような存在でしかないと本能で理解できていたかもしれない。

 ほら、相手が小鳥でも不意を突かれてバサバサって自分に飛び込んできたらびっくりするでしょ? はじめはそれで驚いていたただけのような。

 相手の正体が小鳥と分かれば、自分に害をなせないとるに足らない相手と理解できるように、落ち着いてみたイシュヤーデという悪魔は私にとってとるに足らない相手なのかもしれない。

 見た目が悪魔なので信用しすぎるのも怖いけど、精霊に戻りたいって話は嘘じゃなさそうだし、私に逆らえないみたいだし、まあ、いいかなって思う。何よりこの世界のこと何も知らないしね。鏡の中からアドバイスくれるなんて有能じゃない?

 それに、そもそも私が吸血鬼っていう人外なんだから、怖がることもないのかもしれないし。

 吸血鬼、吸血鬼かぁ。

 確か、人の血を吸う怪物で、処女の生血が好きなんだっけ? あと、日の光に弱くて、十字架やニンニクが苦手で、杭を胸に打ち込まれると死ぬんだっけ?

 記憶はないのにこの辺の知識だけ残ってるのって変な感覚よね。

 っと、そういえば日の光、今私がいる場所には直射日光は差し込んでないけど、日光浴びたら灰になったりするのかしら?

 日の光に弱いってイシュヤーデさんも言ってたよね。

「ねえ、イシュヤーデさん、聞こえる? 吸血鬼って日光が苦手なのよね?」

(はい、我が主よ、我もそのように聞き及んでおります)

 これが念話か、頭の中に響くようでちょっと不思議な感じね。

「日光浴びたら灰になったりしないかしら?」

(灰に……? ですか? そのようなことは聞いたことがないですが、まだしばらくありますが夜を待ちますか?)

「んー、ちょっと実験してみるわね」

 私はもったいない気もしつつも、きれいな銀髪を一本抜きそれを息を吹いて、日の光の中へと飛ばした。

 普通ならすぐに見失ってしまうだろうけど、吸血鬼の目は空中に飛ぶ一本の銀髪をとらえ続けた。

 飛ばした銀髪は空中を漂い、日の光の中に入りやがて陽だまりがある床へと落ちていった。

 床に落ちた後も銀髪には特に変化はない。

 大丈夫そう?

 恐る恐る日光が当たる陽だまりへと手を伸ばす。

 少しチリチリっとする感覚はするが灰になるようなことはなかった。

 普通の人にとっては心地よい陽だまりだけれど、吸血鬼にとっては真夏の日光と言った感じか。

 これなら特に問題もなさそう。

 それよりも日の光に反射する白く美しい手が芸術的でひどく美しい。

 これが私の手だなんて、信じられない。

「問題なさそうね」

(主よ、まだ目覚めたばかり故、無理はなされないほうが)

「ありがと、でも大丈夫そう、とりあえず麓の村とやらをめざしましょうか」

 私は意を決して光あふれる外へと一歩を踏み出した。


 神殿跡地、というよりはもう廃墟と言った方がいいかもしれない。

 イシュヤーデの話では大掛かりな神殿とアンティルなんとかさんの住んでいた館があったらしいが今は見る影もなくただの広い草原だ。

 ところどこに石造りの建物があった跡地という感じで、石棺があった神殿の本殿以外は建物らしい建物すら残っていない。もう草原と言った方がしっくりくる。

 また、ここは台地の上で周りの土地よりかなり標高的に高い場所にあるみたい。

 台地の斜面の部分は険しい森になっており、アンティルなんとかさんが存命のときは木の妖魔と霧の妖魔に、木々の迷路を作らせ侵入者を拒んでいたとか。

 自然にできた森とは違い地面が見えないほど木が所狭しと生えている。

 今はその妖魔たちも倒されただの鬱蒼としたただの森に過ぎないのだけれど、所狭しと木々が生えていてここを降りるのは至難の業。少なくとも私は降りていきたくはない。

 そして、当時出入り口に使っていたという道はすでに森に飲み込まれていた。

「これ、降りれないんじゃないかしら?」

(ここまで木々の浸食がすすんでいようとは。申し訳ありません、我が主よ)

「んー、どうしよっか」

(主よ、我が飛んでお運びいたしましょうか)

「それ目立っちゃうよね、やるにしても夜になってからかな」

(承知いしました)

「麓に村があるっていうんだから、ここまでくる人とかいないのかしら?」

(月に数度は人が訪れた気配はありました)

「そうなの? 

 そういえばイシュヤーデさんは私が目覚めるまで、ずっと鏡の中で隠れていたの?」

(はい、我は主が目覚めるまで、あの石棺を守るのが役目でした。

 我は鏡の中に潜みつつ、ここに来た侵入者に対し、魔術であの石棺を朽ちた台座と認識するようにして欺いていました。

 稀に生き残りの魔の者どもがアンティルローデを頼りやってきて現状などを教えてくれましたが、目覚める様子がないとわかると皆去って行きました。

 人間どもはその魔の者を警戒してか、たまに見回りに来ている感じです)

「なるほど、とすると人でも行き来できる道がどっかにあるのかしら?」

(恐らくは)

「とりあえず一周してみましょうか」

 散歩がてらにととりあえず一周しようとしたけど、意外と広い。小さな町なら一つ分悠々入るくらいの広さはある。

 あとこの体、色々凄い。

 まず美しく華奢な体つきなのに、力が強く疲れることが全くない。

 試しに一抱えもある岩を片手で持ち上げようとしたら、軽く持ち上げることができた。

 ただバランス崩してすぐに岩を手放しちゃったけど。

 まるで発泡スチロールでできた模造品のように岩を軽々しく、しかも片手だけで持ててしまった。

 とにかく身体能力が凄い、吸血鬼なんだから当たり前だけど人知を超えた身体能力を持ってるみたい。

「ねえ、イシュヤーデさん、吸血鬼ってどんな能力持ってるのかしら?」

(吸血鬼の能力ですか、我が知っている限りでは、限りなく不死に近く再生能力が非常に高いと聞きます。餌となる人種を目を合わせるだけで魅了でき、怪力を持ち、恐るべき魔力を持つ、というところでしょうか)

「ああ、なるほど、確かに私が希望したどおりの能力だね」

(と、いうのは?)

「ここ、この世界に転生するときにね、私の希望をね、美人でずっと若くて、死なないで、それなりに強く、魅力的なって、お願いしたの。あと地位と平和ってところも、か」

 一応希望してたことは全部かなってるのかな。

 地位は、まあ、魔王軍の幹部なら高いと言えば、高いよね。

 その魔王軍自体は、もうなさそうだけど。

 私は平和じゃないけど、世の中自体は魔王倒されて平和そうだし。

 私、あれよね、このままいくと世界の敵対者だよね、どうしたものかしらね……

(そのようなことがあったのですか。

 相手は神かなにかですか?)

「自分は神様ではないと言ってたけど、管理者とか何とか」

(高位の神の代行者、御使いか何かでしょうか、稀人には稀人のルールのようなものが存在するかもしれません)

「ああ、イシュヤーデさんも死後転生したかったら、別の世界に行きたいって願ってれば可能かも? あと多分殺生関係は控えたほうがいいかも?」

(殺生…… はやり徳を積むというのは、殺生などは控えるべきなんでしょうか?)

「わからないけどね。そっちの方がいいかも?

 さてさて、そんな話はここまでにしてっと。やっと見つけた。きっとここよね。

 ここから降りれそうね、そして、ここから村らしきものも見渡せるわね」

 私が発見したのは獣道と言っても過言じゃないほどの道だった。

 少しだけ木々に切れ間があり、そこから麓の小さな村が見えた。

 それほど大きくはなく家も数件ほどで、その全部が木造みたい。また全部がまだ真新しく思える。

「いやしかし、麓の村までかなり距離があるのにかなりはっきり詳細まで見えるのね、この目すごいね」

(ある種の魔眼の類ではないかと、人種を魅了する以外にもなんだかの魔力が宿っているのかもしれません)

「ふーん、さて、村に降りる前にどうするか決めないといけない」

(どのように?)

「私が人間っていうのは無理があるかな?」

(見た目的には問題ないですが、魔力は人のそれとはかけ離れています。一般人は騙せても魔力に携わる者には人でないことがすぐにばれるかと)

「うーん……

 そういえば、イシュヤーデさんは元精霊なんだよね、精霊ってどんな感じなの?」

(精霊とは、元来この世界の神に連なるものになります。また色々な物や生物に宿り守護するもので千差万別に存在します。

 存在自体が純粋なもので、悪や正義といった概念も精霊の間にはありません。

 一応は神族ですので、人種の間では信仰の対象になっています。今は、神そのものより精霊を信仰している人種のほうが多いかと。

 また精霊は我のように堕落すると妖魔となり果てます。妖魔に堕ちた場合はもはや神族とは呼べるものではありませんな)

「ふーむ、いろんな精霊がいるってことね、じゃあさ、私は血の精霊ってことにはならないかしら?

 血の精霊だから血をよこせー、とか?

 さすがに無理がある?」

(おお、素晴らしい!

 イナミ様は吸血鬼にしては、穢れや邪気と言ったものをまったくまとっていないので、精霊と言えば疑うものなどいないでしょう。

 本来吸血鬼は穢れや邪気を絶えずまとっているもので隠せすらしないほどものですので。

 それに人種相手なら吸血鬼の瞳の魔力で魅了してしまえばどうにでもなるでしょう)

「ふむふむ、いい、いいぞ、なんか未来が見えてきた!!

 血の精霊として崇められよう!!

 そういえば、吸血鬼ってやっぱり処女の生血がいいの?」

(はい、我もそう聞いております)

「じゃあ、あれね、村を掌握したらここに学校でも作って、きれい所の娘さんたちを呼んで死なない程度に血を提供してもらおう」

(なるほど、それは名案かと。

 精霊信仰の神殿は色々とまずいですが、精霊を崇める人間たちの修道院などでしたら問題ないでしょう。

 また精霊の修道院ともなれば、人どもも早々手は出せませんからな)

「修道院ね、わかったわ!!

 とりあえず村にいって血の精霊ってことにして、最悪魅了でもなんでもして修道院を立てさせればいいのね!」

 なんだか希望が見えてきた気がする!

 細かいことは目を合わせて相手を魅了しちゃえばいいのよね? やり方知らないけど。

 な、なんとかなるかな? なるようにしかならないし、やるしかない!!

 



「そ、そこの人」

 と、声をかけたのは村の入口より少し離れた人通りがあまりない畑で、そこで作物の世話を独りでしているおじさん。村の農家の人かしらね。

 なんとなくだけど、まずは相手が一人のほうがいい、そんな気がしたから一人で作業をしていたおじさんに声をかけた。

 まあ、降りてきて一番最初に見つけたってだけでもあるけど。

「はい、どちらさ…… 貴族の方ですか?」

 かがんで作業していたおじさんは、ゆっくりと立ち上がりながら振り向き、少し驚きの表情を見せた。

 恰好が結構豪華そうなドレスだからね、貴族の人に見えたのかもしれない。

 この世界の貴族がどんなんか知らないけど。

「違います。私は精霊です」

 そういうと一瞬、驚いた表情を見せたがすぐ訝しげな表情を見せた。

 あれ、これ大丈夫かな?

「はぁ? 精霊様ですか? 

 えーと、その精霊様が何か用でも?」

 そう返すおじさんの表情は、怪しい人を見る目に思える。明らかにいぶかしんでる。

 それでも、ちらちらとこちらを確認してくるのがわかる。

 まあ、私は今、超絶な美少女だしね、チラ見したい気分になるのもわかる。

 ただ疑われてるだけかもしれないけど。そして、疑いたくなる気分もわかる。

 だけど、ここで引くわけにもいかない。

「わ、私は血の精霊です。だから血が欲しいのです」

「私の血ですか…?」

 そういうおじさんの表情は険しい、というか鋭い。農夫とは思えないほど鋭い、殺気すら感じる。

 けど、種族的優位があるせいか、私に畏怖はない。

 このおじさんが手に草刈り用の鎌を持っていたところで私に害をなせないのが本能的に分かってるんだと思う。

「どちらかというと、おじさんではなく、若く綺麗な娘の血を所望しています」

「それは、生贄を出せと?」

 そう言った村人、おそらくは農夫の顔が更に険しくなる。

 殺気を隠す気もない感じだ。この人本当に農夫なのかしら?

「いえ、私は精霊です。命を取るようなことは致しません。

 そうですね、血を少しばかり分けてもらえればいいのです。

 ついでに私を崇め奉って、修道院でも作ってくれれば幸いです」

「んな無茶苦茶な……」

 そう言ったおじさんの表情は少し和らいだ。殺気らしきピリピリしたものも消えた。

 生贄を出せと思われてれば、そりゃ険しい表情にもなるよね。

「で、ですよね」

「それにしても、あんた本当に精霊様か?」

「嘘だと思うのでしたら、魔力を操れる方でも連れてきてください、すぐにわかると思いますよ」

 ここまでは事前にイシュヤーデと打ち合わした通り。

「ふむ、少しここで待っとってくださいますかな。今連れてきます」

 そう言って手に持っていた鎌を地面に突き刺し、おじさんは村の方へと小走りに歩いて行った。


「こんな感じでいいのかしら?」

(問題ないでしょう。魔力に携わる者がいたことは幸いです)

「そうなの? それって厄介じゃないの?」

(我が主よ、主の魔力は人のものとは一線を画しています。魔力に携わる者が主様を一目見ればその力量の差から、無下されることはないでしょう)

「そんなにすごいんだ。そのうち魔法だか魔術のことも勉強しないとね」

 どんな魔術がこの世界にはあるのかまるで知らないけど、色々便利なことができるに違いない、そう考えるとなんかワクワクしてくる。

 ふとおじさんが手入れしていた畑をみると、何かしらの作物が植えられている。

 大き目の草か、木の苗木くらいに育っている。白い花も咲いているが実らしいものはつけていない、ジャガイモってこんな感じだったけかな?

 などと考えていると、数人殺気だった感じで近づいてくるのが分かった。

 そのうちの一人、一団の中心人物にほんの少しだけど何か感じるものがある。その人が魔力に携わるって人かしら?

 そしてこちらに来る前に、向こう物陰でヒソヒソと相談している。でもその相談内容も丸聞こえだ。吸血鬼の耳は地獄耳らしい。

 話していた内容は大体こんな感じ。

 血の精霊など聞いたことがない、精霊かどうかも怪しい、が、言うことを聞くしかない。あれは魔神にも劣らぬほど魔力の持ち主だ。

 よりにもよって聖歌隊がいないときに。

 彼女達がいたとしても、人が、少なくともこの村には、アレにあらがうすべはない。

 命まで取らないというのであれば、ひとまず怒らせないようにしましょう。

 と言った感じの相談というか、諦めに近い内容の話だった。中にはせっかく村が軌道に乗ったのに、とか、やっぱりここは曰くつきの土地なんだ、とか、やっと兵士から戻れたのに、とか聞こえた。

 いや、なんか悪いことしちゃった気がする。ちゃんと血を恵んでくれたら、私にできるなんかしらのお返しはするからそこまで怖がらないで欲しいなぁ。

 と思うけど、魔王が倒されて平和になってるとはいえ、魔物なんかが実在するこの世界じゃそういうものなのかもしれない。

 意見がまとまったというか選択肢がなかった可哀そうな一団が私の前までやってきた。

 先頭は少し年老いた人で着ている服も良い物の感じがする、ついでに一番偉そうだ。続いて司祭というのか聖職者というのか、そんな恰好をした人、この人が多少なりともなにかを感じた人でおそらく魔力を感じれる人。あと武器を持ってる若い人が数人とさっきの農夫のおじさんだ。

 先頭の一番偉そうな人が声をかけてきた。

「精霊様、この度はこのような村にどのような要件でしょうか」

「私は血の精霊ですので、血を所望します。できれば処女の血が好みです。もちろん、命までは取りません」

 考えて決めていたセリフを私は吐き出した。

「処女の血ですが、まるで吸血鬼の……」

 わ、鋭い!! 私の頬がぴくぴくっと引きつったのがわかったけど、それでも、なるべく顔に出さないように笑顔を保ちつつ私は聞き返す。

「吸血鬼? 私がですか?」

「い、いえ、滅相もない……」

 私を吸血鬼と言った一番偉そうな男は恐縮して失言を取り消してくれた。でも、本当のことではないので失言でもないけどね。

「ディラノ代表、彼女、いえ、この方からは穢れの気配が全くありません。

 精霊かどうか私には判断できかねますが、吸血鬼といった不浄の存在、少なくても魔に属する者ではないことは断言できます」

 名も知らない司祭風の人、ナイスフォロー!!

「そうです、私が吸血鬼に見えるんですか?」

 と調子に乗って返したけど、どう見ても吸血鬼の容貌をしてた。というか実際に本物の吸血鬼だし、やっぱり無理あったんじゃないかしら?

 村人一同も私と視線を外して口ごもっていた。賛成してくれる人も反対を口にする人もいなかった。

 そんな気まずい空気のきっかけを作った張本人が口を開いた。

「あ、あの、申遅れました私この開拓村の代表を務めさせていただいているディラノという者です」

「ディラノさんね、私は血の精霊のイナミです」

 私の名を聞いて司祭風の男は恐る恐るだけど聞き返してきた。

「イナミ様、失礼ですが位と出自は」

 なにそれと思ってると、イシュヤーデが答えたをくれた。

(位は天上の第三、出自は原初の宮、本江とお答えください)

 ほんと便利だなイシュヤーデさん。精霊に戻れるように私も頑張るからね。でも今やってるとこは徳を積むどころか詐欺だけどね、ごめんね片棒を担がせてしまって。

「位は天上の第三、出自は原初の宮の本江です」

「失礼いたしました、かなり高位の精霊様のようでお会いできて光栄でございます。出自もしっかりとなされています。しかし、そのようなお方がなぜこのような場所に?」

(魔王が倒されたので現世に来た、というのがいいかもしれませぬ)

「魔王が倒されたと聞き、散歩がてら現世に来てみたってところかな?」

「そ、そうですか、ですが、ここは開拓を始めたばかりの村でして、なにぶん余裕がないもので、良ければ精霊神殿があるような他の大きな街などをご紹介したい所存なのですが」

 今度はディラノさんが答えた。まあ、人数も少なそうだし血をよこせって言われていい気はしないわよね。

(他の精霊の場所を荒らしたくない、自分の場所を現世にも欲しいとお答えください)

「そういった場所にはあれでしょ、もう他の精霊がいるのでしょ? あんまりもめたくないし、私は私の場所を現世でも欲しいんだけど? ダメかしら?」

「それは、この村を拠点にしていただけると?」

 そう答えたのはディラノという男ではなく、司祭風の男だった。しかもかなり食い気味で。

 更に司祭風の男は少し興奮しているようにも見える。

 そしてしばらく考えた後、司祭風の男はディラノに提案した。

「代表、これはチャンスかもしれません。これほどの高位、もしかしたらこの方は精霊王の血縁の精霊様かもしれません、そんなお方がこの村にいついてくれるチャンスなどもう二度とないでしょう」

(精霊王の血縁という部分は否定しておいた方がいいかもしれません)

「悪いけど私は精霊王の血縁じゃないわよ」

「そ、そうですが、申し訳後いません。

 しかし原初の宮出身の精霊様ともなれば、大都市に神殿を立てられるほどの出自ですよ、代表。

 ここは命までは取らないとおっしゃってますし、非常に穏やかな気質の精霊様に見受けられます、村にいついてもらうべきです」 

「ちょ、ちょっと精霊様、申し訳ございません、相談させてください」

 ディラノという男は司祭風の男に耳打ちし小声て、

「ラルフ、本当に精霊様なのか? 魔物が偽っているのでは?」

 と、確認している。聞こえないように小声で話しても私の耳には聞こえちゃうのよね。

 いやー、中々鋭い、大当たりだよ。

 というか疑って当然よね、なんせここは魔王の腹心の拠点だった場所だしね。というかこの体の持ち主は腹心そのものだしね。

 などと内心ひやひやしながら、ばれたときのために人を魅了する方法はどうやればいいのか、と考えていた。

 けど、司祭風の、ラルフと呼ばれた男は、

「まず邪気や穢れといった悪しき気配は感じれません。魔の者でないことだけは保証できます。また、低位の精霊が高位の精霊を騙ることもありますが、イナミ様の魔力は完全に上位のそれです。正直、私は本人が否定なされてますが、精霊王の血縁者ではないかと思っているくらいです」

 と返してくれていた。ラルフさん、あんたいい人だね、でも詐欺に騙されちゃうタイプじゃないかしら。もう少し疑いの目を持っていいのよ!

「そんなに力のある精霊様なのか?」

「はい、メディオル市の花の大精霊様よりもイナミ様のほうが私には強く感じられます……」

「ほんとかね? あの大精霊様よりも? し、しかしな、血をよこせとはなぁ」

「生血の要求は私も聞いたことはないですが、捧げ物を要求する精霊様の性のようなものです。命まで取らないというのであれば、毎日生け花を大量に所望する大精霊様よりも良いかと。

 それに、このお方がいればこの地でも魔物共におびえることもなくなるかと」

「それは本当かね?」

「はい、先ほども言いましたが、ここまで力の強い精霊様は私は見たことがないです。

 聖都ですら見たことがありません。魔物どももおいそれと手を出すことはないでしょう。ここは例の魔女の土地ですし、王命により開拓を諦めるわけにもいきません。

 ぜひイナミ様に、いえ、むしろこちらからお願いしてでも協力を仰ぐべきです」

「たしかに魔王が倒されたというのに、この地には未だ魔物が多い。

 しかし、なぁ、村の女衆がなんというか、それに処女ともなるとどれだけいることか……」

「神殿から派遣された聖歌隊が数人います、彼女たちに頼んでみるしかないですね。彼女たちなら精霊様の世話なら本分でしょうし喜んで世話をしてくれますよ。血も彼女らに提供してもらえばいい」

「そうか、なるほど。聖歌隊は防衛の要だが、精霊様がいれば、そもそも防衛はいらないと。

 しかし、踏ん切りがつかなんな…… 悪い話ではないのだろうが、あまりにも出来すぎてないか?」


 そんな話を永遠としている。

 私は少し飽きてしまって、畑の作物を眺めていた。

 これはジャガイモなのかしら? 少し紫がかった白く小さな花がかわいくて綺麗だ。

「ねえ、これはお芋なの?」

 と、いまだに小声で議論し合ってる二人を尻目に、最初に話しかけた農夫に視線を送り聞いてみた。

 視線が合った農夫は、少し顔が赤くなり照れながら、

「は、はい、ジャガイモになります」

 と答えた。

 まあ、こんな美少女と目があえば顔も赤らむという物よね。ああ、なんかすごく気分がいい。

 私がニコっと微笑むと、農夫のおじさんは顔を真っ赤にさせてうつむいた。

 うっは、美人さんはやっぱりすごい!!

 それよりもこの世界にもジャガイモはあるのね、となるとポテチくらいは作れるのかしら?

 薄く切って揚げるだけだし楽よね。いや、まって、吸血鬼って普通の食事できるのかしら?

 美味しいもの食べれなくなるのは悲しいなぁ。

 この辺りは畑が多い。というか、私が目覚めた丘というか台地というか、今思うとかなり不自然に盛り上がっている土地と村の間には畑しかない。

「ここは畑ばかりなのね」

「あっ、そうです、この村はまだ新しく作られた村ですので、この畑は村の生命線です。

 この辺りはまだましですが、村の外側、あの山から離れると魔物がうようよいますので畑仕事どころではないのです。

 不思議なもんで魔女の本拠地だった山の周辺だけ妙に魔物が少ないのですよ」

(アンティルローデ様は魔物にすら嫌われ…… 恐れられた方でしたからな。あまり近寄りたくないのでしょうな)

「そうなの? 大変そうね。でも、少ないって言っても魔物はいるんでしょ? なんでそんな場所に村を?」

「王命でして……

 まあ、あれです、魔王が倒されて平和になり兵士の数が多くなりすぎたので、その兵士の再就職先に魔王支配していた土地の開拓が始まったわけ、なんですよ」

「なんか大変そうね、私がいれば魔物くらいならどうにかできるかしら?」

 何の気なしに言ったつもりでも、ちょっと不自然だったかな? まあ、イシュヤーデさんに伝わればいいか。

(この地に住む魔物は元々はアンティルローデの配下の魔物がほとんどです。腹心であった我が命令すれば問題なく)

 ちゃんと伝わった、よかった。

「うん、どうにかなりそうね、それほど強い魔物もいなさそうな感じだし?」

「わ、わかるのですか? そんなことまで?

 さすがは精霊様!!」

 私と農夫のおじさんとの会話を聞いてか、ディラノが話に割り込んできた。

「精霊様、今の話本当でしょうか、イナミ様のお力で村を魔物から守れるという話は!?」

「いえ、おそらくはですよ? 私もこっちの世界はあまり詳しくなくて、ね?」

「ですが、それは頼もしい。イナミ様の要望は血だけでよろしいのでしょうか?」

「そうですね、私用の修道院的なものを用意してくれると助かります」

「精霊神殿を立てろと? それはわかりますが、精霊神殿となると私どもではちょっと難しく……」

(精霊神殿を立てるのは厳しいかもしれません、色々と人と精霊両方に制約があり、精霊じゃないとばれる可能性が高くなります。

 イナミ様の住まいと世話焼き係の住む場所の提供というのがよろしいかと)

「いえ、神殿はいろいろ立てるの大変なんでしょ?

 ですので、私の住まいと、お世話焼き係、というのかしらの住む場所、つまりは修道院的なものでいいのです」

「修道院ですか、精霊様の修道院など聞いたことがないですが、精霊神殿でなければ許可はいらないでしょうし問題ないですが……」

 そこでラルフとかいった司祭風の男が割り込んできた。

「神殿でなくてよろしいのでしょうか?

 本当にこの村にいついてくださるのでしょうか?」

(精霊神殿は、精霊に取ってこの世界と精霊界をつなぐ門であり住まいのような場所です、故に現世の精霊は皆神殿を求めるのです。

 ここは、お忍びで来ているので神殿はいらないと……)

「うーん、実は私お忍びで来ているので、神殿だと、ね?」

「なるほど、お忍びでしたか……」

「大丈夫、私ここ気に入ったし、しばらくはここにいるつもりだし?」

「そ、そうですか」

「ほら、そこの台地の上なんか綺麗な場所じゃない?

 あそこに私の住処? 修道院? を立てちゃうとかダメなのかしら?」

「魔女の地へ行ってこられたのですか?」

(そこに降り立ったと)

「私そこに降り立ったから」

「魔物などはいませんでしたか? 低級な魔物はおりませんが、あそこには稀にですが上位の魔物を見かけるとの報告が……」

「いえ、そういった類のものはいなかったと思うけど」

 超いた! 今もいる!! 私の懐の手鏡の中にいます!!

 というか私自身が魔物だと思います!!!

「そ、そうですか……」

「もしや、イナミ様のお力に魔物どもは逃げて行ったのでは?

 あとで聖歌隊に見てこさせましょう。

 その報告次第では、ご希望通りあの台地の上にイナミ様のお住まいを御造りいたしましょう、よろしいですか? 代表」

「うむ、魔物どもから解放されるどころか、魔女の地まで浄化されたとなれば、もはや疑う余地などありますまい。こちらからお願いしてでもこの村にいていただきたい」


 と、言うことで私の第一目標はクリアした、のかな?

 特に危ういこともなかった、よね?

 ほぼほぼイシュヤーデさんのおかげだけど。魔王四天王の腹心だけあってほんと優秀よね。

 その後、私は村の新築の空き家に通された。

 あとで聞いた話だけど空き家ではなく元々住む人が決まってはいたが私に譲ってくれたらしい、申し訳ないことした、かな?

 魔物にこの村を襲わせさなくする命令は、イシュヤーデさんが寝静まった深夜にでも行うとのこと。

 これで私の地位は安泰かも。

 今宵は私を歓迎して宴まで開いてくれるそうだ。

 ご馳走、食べれるのかしら、私?

 というか、血以外食べれるものなのかしら? イシュヤーデもそのことは「すみません、わかりませぬ」と言ってたっけ。

 まあ、そんなに裕福な、というかどちらかというと生活ギリギリの村ぽいから豪華な食事など期待はできないけど。

 歓迎してくれるだけで嬉しい。

 もう日は落ちてきてランプ? こういうのってカンテラっていうのかしら? に、火がともされ淡い光で室内を照らされいた。

 吸血鬼の私には特に光源なんてなくても、たとえ真っ暗闇でも見えるんだけど、なんとなくカンテラの火が燃える様子をみていた。

 小さく炎を見ているとなんだか心が安らいでいく。

 で、このカンテラ、ちゃんとガラスが使われているのよね。

 でもよくよく考えれば、私が起きた場所には鏡とかあったしガラスがあってもおかしくはないよね?

 この世界の文明レベルはどれくらいなのかしら、あの管理者はファンタジー小説のような世界って言ってたけど、科学の代わりに魔法? 魔術だっけ? が発展したせかいなのかな。

 今までの話しぶりに精霊っていう存在が、割と生活レベルにまで関係してそうだし。

 うーん、開拓し始めたばっかりの村じゃよくわからないよね。

 でも、ガラスがあるってことはそれなりに文明が発展してるってことよね?

 ガラスって文明的にどれくらいの物なのかしら。

 こんなことなら歴史の授業もう少し真面目に受けてればよかったかなぁ。

 ガラスのことなんて教えてくれるかどうかわからないけど。

 

 そんなことを考えていたら、トントン、と扉をたたく音がした。

 特に扉に鍵もかけてなかったので、

「どうぞー」

 とだけ、返事をした。

 そしたら、ずけずけと三人の…… 女? 後ろにいる二人はすぐ女の子ってわかるけど、一番先頭の子が少しガタイが良くて、その上イケメンで一瞬男に思えた。

 けど、吸血鬼の鼻は、その子からも美味しいそうな女の子匂いをかぎ取っている。

 って、ここだけ見ると私ただの変態みたいね。

「えっと、どちらさまです?」

 先頭の子が私を一瞥し跪いた。

「ファブアリル領第三支部神殿所属、第七聖歌隊隊長のミリルと申します」

「同じく聖歌隊、隊長補佐のエッタ」

「同じく聖歌隊、隊長補佐のシースです」

「私は血の精霊のイナミです。

 聖歌隊、お世話をしてくれるっていう?」

 そう返す私に、隊長さんのミリルさんの表情は少し険しい。

「はい、ですが、その前に一つ、失礼ながらお聞きします、あなた様は精霊…… なのでしょうか?

 私の知っている精霊様とはいささか、いえ、かなり異なっています。

 もちろん穢れや邪気を感じられないので、悪しき存在ではないことは分かっています。

 またその強い魔力は人ならざる存在だと分かっています、ですが我らは精霊様を祭る聖歌隊です。

 消去法で、他に当てはまる存在がないからと言って安易に認めることはできないのです。申し訳ございません」

 むむ、疑われている。

 イシュヤーデさん!! 頼みの綱のイシュヤーデさん!!

(むむっ、さすが精霊神殿の誇る聖歌隊というところか、ごまかすのは難しいかもしれませぬ、いかがしますか、我が主よ)

 ああ、なんかだめぽぃ、ここは私のはったりでどうにかするしか、ないかもしれない……

 うなれ私の脳みそ!!適当な嘘をこねくりだすんだ!!

 ああ、でも、脳みそも私のじゃないのかな? この体の元の持ち主、アンティなんとかさんのよね、なら、元私のポンコツ脳よりいい嘘をひねくりだしてくれるはず!!

 何とかの魔女とか言われてるような人の脳味噌だ、きっとすごいことを思いついてくれるに違いない!!

「仮によ、仮の話だからね。

 とあるところに位の高い精霊がいました。

 そして、その精霊は人に恋をしました。

 その恋は実り一粒の子種を設けました」

「それは…… 禁忌と……

 い、いえ……」

「あくまで仮の話すですよ?」

「は、はい……」

 うーん。反応はかなり驚愕してて、禁忌という言葉がでたか。

 隊長さんはなんとか平静を装っているけど、後ろの補佐の二人は見るからに取り乱してる。

 じゃあ、続きはこんな感じかしら?

「禁忌、そうね。そうなのかもね。

 その子種はね、向こうの世界で軟禁状態で隠されて育てられました。

 しかし、魔王が討伐がなされたことで、気が緩んだのか軟禁状態にも隙ができ、逃亡することができました。

 その逃げた先に、この世界が、とか?

 まあ、仮の話よ、仮のね?」

「……」

 やっべ、隊長さん凄い神妙な顔してる。

 なにかまずかったかなぁ……

「理解はできました」

「どう? 私を祭っていただけるかしら?」

「正直、私の権限で判断できる範疇を超える話です。

 ですがが、あなた様、イナミ様のお話は、私が得た情報から照らし合わせても納得のできるものです。

 神殿を希望していないのが一番の気がかりでしたがそういう理由なら納得できます。

 また他の精霊様と気配が違っているのも…… 今お聞きした仮の話ならば納得がいくものです。

 なによりここまで力の強く清らかな気を持っておられる精霊様を私は見たことがありません。

 また、このような僻地に降り立たれたことも納得がいきます。

 今は精霊界にお伺いを立てても返答は帰ってこないでしょうし、そもそもこの魔物たちが多い地ではイナミ様のような力の強い精霊様は皆の助けになることは間違いないです。

 最初に失礼はありましたが、ぜひ我々に御身の世話を任せてはいただけないでしょうか」

「ええ、こちらからもお願いいたします」

(おお、さすがは我が主、まんまと丸め込みましたな)

 嘘が上手いって褒められてもあんまりうれしくないなぁ。

「では、血をご所望とのことですので、早速、僭越ながら私めのを……」

 そういって隊長さん、ミリルとか言った長身でガタイのいいイケメン女子さんは、右手にナイフを持ち、左手首を切ろうとした。

「ちょ、まってまって」

 と、私は止めた。

「はい、なんでしょうか」

 と、真面目な顔で隊長さんは返してきた。そんな真顔で手首切ろうとされても。

「んー、そこ切っちゃったら大変でしょ?」

「まあ、そうですが、私は丈夫なので問題ないです、お気になさらずに」

「ちがうのよ、うーん、イメージは悪いかもしれないけど、あれよあれ、吸血鬼的な方法で吸いたいの、イメージは悪いんだけどね」

「首筋に噛みつかれると?」

 ミリルさんは少し怪訝そうな顔をしたが、私の前に両膝で立ち、着ていた服をほどけさせ首筋をあらわにさせた。

 長身のミリルさんが両膝立ちで立ってくれるおかげでちょうどいい高さで、目の前ちょっと下に首筋があった。

 その瞬間、私の理性が危うく飛びかけた。心臓が高鳴り本能が血を求める……

 一応事前にイシュヤーデさんに、血を吸うことになった時、相手に命の危険が及びそうなら止めてと頼んでおいたけど……

 ヤバイ、これはヤバい。理性をなんとか保つのが精いっぱいだ。

 ミリルさんの首筋から漂ってくるフェロモンのような甘い微香に私は興奮を隠せない。

「で、では、いただきます」

 なんとか、そう言って綺麗な白い首筋に噛みついた。

 私の犬歯はいとも簡単にミリルさんの首筋に突き立て皮膚を破り、その甘い、とても甘く、魅惑的なまでに美味な血にたどり着いた。

 私の牙を突き立てられた柔らかい乙女の首筋からは、甘いが決してくどくはなく、深いコクを持ち、乾いた喉を潤す爽やかな喉ごし。

 今まで味わったことないような、何とも言えない美味が私の舌と脳を支配した。

 でも、一応理性はあって、深々と牙を突き立ててしまったミリルさんは痛いだろうな、と思ったけど、

「んあっ……」

 と、外見からは想像もできない甘い喘ぎ声をミリルさんが発した。

 一瞬ドキっとしたけど、私は血に酔っていいて、すぐに気にならなく、いや、気にしなくなり一心不乱に血を啜った。

 それはもう無我夢中。今までこんな美味しいものを味わったことがない、といった感じで。

(我が主よ、そろそろまずいのでは…? 我が主!! イナミ様!? イナミ様!!!)

 頭の中でイシュヤーデの声が大音量で響き渡る。

 我に返る。

 はっとなって、血を啜るのをやめて、ミリルさんから牙を抜き開放する。

 ミリルさんはそのまま仰向けに倒れていった。

「ご、ごめんなさい、久しぶり、というか、初めての血を頂いて我を忘れて……」

 ミリルさんを見るとなぜかだらしない笑い顔で、目の焦点が合っておらず、息絶え絶えに喘いでいた。

 後ろに控えていた二人がすぐにミリルさんに駆け寄り様子を見ている。

「本当にごめんなさい、まさかここまで我を忘れるだなんて……

 ミリルさんは大丈夫そうですか? あの……」

「大丈夫です。我ら聖歌隊は精霊様にお仕えし、心身ともに命をも捧げる部隊です。

 これで隊長が落命なされても本望でしょう」

「そういうわけには……」

「問題ありません。シース、隊長に治癒の魔術は必要ですか?」

 シースさんは隊長さんの様子、特に私が噛みついたところを念入りに見ている。

「エッタさん、大丈夫そうです、ちょっと血を失いかけてますが、噛まれたところも既に治癒が始まってます。

 それに隊長の顔は、とても幸福そうです」

「隊長のこの顔はあの時の顔ですね、イナミ様問題ないです。隊長はとても大丈夫なので。

 良ければ私めの血もご所望なされますでしょうか」

 そう言われてちょっと血を吸いたい気持ちもあったけど、今は自分が我を忘れて血を吸いすぎてしまったことの方がショックだ。

「いえ、初めてのこととはいえ、ここまで我を忘れるとは正直自分でも困惑してるので、今日はこれで。

 ごめんなさい、こんなになるまで血を頂く予定では……」

「大丈夫です。隊長はとても頑丈ですし、その、元々こういう人なので」

「こういう人?」

「重度の精霊フェチなので」

「え?」

 今物凄く場違いな言葉を聞いた気がするんだけど、私もいろいろパニックになってて頭の中で整理できない。

「いえ、なんでもありません。

 それにしても初めて血を……?」

「はい、血を欲しがるなんて、吸血鬼みたいでしょう?

 それもあって私は軟禁されて……」

 ああ、また息をするようにするすると嘘をついてしまう……

「なるほど、それは仕方ありません。

 でも、まあ、現世にお越しの精霊様には大なり小なり執着はありますので、あまり気にしなくてよいと思います」

「そうかもしれないですが……」

(そうです、元々精霊は対価を求めるものですので、お気になされらずに)

 対価って、なんか願いをかなえる代わりに魂を要求する悪魔とそう変わらないんじゃ…?

 今のところ無償で私に尽くしてくれている妖魔だっけ? イシュヤーデさん、精霊ってそこまで戻りたいものなのかしら?

 あ、でも私から魔力をもらってるって言ってたっけ。私に自覚はないけど。

 って、あれ…… なんか体が変だ。

 変じゃない、これは……

 魂に体がなじんでいく、血を吸ったことでなにかが覚醒していく、何かずれていたものが、ぴったりと合っていく感じ……

 今まで、どこか他人の体だったような感覚がどこかにあったんだけど、それがなくなり、この新しい体が元々私の物だったような感覚に変わっていく。

 言うならば、なじむ、そう、体が馴染んでいく。

 今までよくわからなかった魔力という物が、本能的に、いや、視覚的にも、誰に説明されることなく理解できるようになった。

 そして、血を吸ったことで私から湯水のごとく溢れ出る魔力は、今までのそれとは段違いだった。

 言うならば、燻っていた炉に新しい薪がくべられれ再び火がともるような勢いがある。

「イ、イナミ様…!?」

「な、なんてすごいお力なの……」

(こ、これほどの魔力…… 我も見たことありませぬ…… なんという魔力……)

「これが私の力……」

 今までなんとなく感じるだけだった魔力という物が、今は完全に知覚でき自由にコントロールできる。

 私の体から魔力は湧き出でて立ち上りまた私へ帰ってきている。

 その流れを意識することで自由に動かせる。

 今ならたぶんできる、というかやり方も理解できる。

 野生の肉食獣が獲物を狩るすべを知るように、吸血鬼が人を魅了するのを本能的にこうするものだと。

 そしてそれは至極簡単だ、目に魔力の流れを集め手足を動かすように念じるだけ。

 人がどうやって手足を動かしているのか説明するのを難しいように、それを説明するのは難しい。

 できて当然、やれて当然。吸血鬼にとって、人を視線で魅了することなど息を吸うのとも同じこと。

「隊長さん、大丈夫ですか、すいません、少々血を吸いすぎたようで。

 もし明日お体の調子が良さそうならば、日向ぼっこでもしながら、これからのことでも相談しましょう?」

「ハッ、はひぃ、イナミ様まぁ…… 承知いたしましたぁ……」

 隊長さんはヘロヘロになりながらも了承してくれた。

 と、いうか、了承せざる得なかった。なにせ私に魅了されてたのだから。

 悪いと思ったけど、日光浴させないと吸血鬼化しちゃう可能性あるしね。

「では、お二人とも挨拶はすみましたし、今日は隊長さんの手当しないといけないでしょう?

 私もちょっと反省したいし、このあふれ出てくる力を制御したいので今日のところは……」

「えっ、あっ、はい、わ、わかりました」

 そう返事をするものの、聖歌隊の二人はしばらく私を見ていた。

 いや、私からあふれ出る魔力に圧倒されていた。

 しばらくして落ち着いたのか、間をおいてから、

「我々は向かいの家にて待機させてもらっております。なにかありましたらお呼びください、駆け付けます」

 と言った。

 嘘を言っているようには感じない、それどころか畏敬の念すら感じる。

「はい、ありがとうございす」

「では、失礼させていただきます」

 二人は床に倒れこんだままになっていた隊長さんを引きずって出て行った。


 二人が去って、周りに人の気配ないことを確認した後、

「血を吸ったことでなんか色々わかったわ」

 と言った。

(アンティルローデ… 様の記憶が戻ったとかでしょうか?)

 と、恐る恐る言っているのがもろ分かりの声が私の頭の中に響いた。よっぽど怖いのね、そのアンティルなんとかさん。

「それはないから、安心して、私は私よ」

(はい)

「なんていうか、魔力を感じるだけじゃなくて見えるようになったし、コントロールも自由にできる。魅了のやり方も勝手に理解できたわ」

(さすがは我が主です)

「というか、この体が凄いみたいね」

(アンティルローデめが、強化と改造を繰り返したのち吸血鬼に転生しましたからな、しかし、これほどの魔力、魔王殿と同等かそれ以上かと……

 それでいて穢れも邪気もない…… まるで本当に精霊王か神のようですぞ)

「本当にすごいのね」

 この体は凄い美少女ってだけでなく、物凄く力を秘めているのが今ならわかる。

 そしてそんな体と私の魂が凄い勢いで馴染んでいくのもわかる。

 今、もし魔王となって世界征服をしてみないか、と問われれば、それもいいかも。

 そう思えるほどに、強大な魔力を秘めていて、それを自在に扱える術を理解している。

 とはいえ、魔術を扱えるか、と言われればやり方がわからない。

 人を視線で魅了するのとはまたわけが違うのかもしれないけど、ただその方法さえ分かれば消して難しいとは思えなかった。

 そんな万能感が今の私を包んでいる。

 ふと、これが力に溺れていく感覚なのかしら、と、すぐに自覚できたことは幸いだったかもしれない。

 いくら力が、魔力強くても私は私だ。

 いざ戦いになった時人を殺せるか、というとできないと思う。

 私は意気地がないし、そもそも人と争うのが嫌いだった。

 と、思う。その辺の記憶がないので感情で理解するしかないんだけど、なんだかふわふわしてるのよね。

「さて、このまま、うまくいってくれればいいんだけど」

 と誰に言うでもなくつぶやいた。


 歓迎の宴は一番大きなディラノさんの家で開催された。

 宴と言っても、やっぱり質素なもの。

 あと、血以外の食べ物は普通に食べることができ、味も感じることができた。

 これは私にとって朗報だよね。この世界でも美味しいもの食べれるかな?

 けど、血の、あの何とも言えぬ美味を味わってしまった後では非常に味気ない。

 とはいえ、塩がここでは貴重で、味付けが基本素材の味そのまま、そして料理の7割がジャガイモなので、比べるのもがそもそも間違っている。

 聞いた話ではそれほど食料に備蓄に余裕はないが、餓死者が出るほど困っているわけではない、らしい。

 ここら辺の土地は肥沃な土地なのに作物の育ち具合が思ったより悪いとのこと。なんでも水があまり良くないらしい。

 これは魔女の呪いのせいだと皆しきりに言ってた。

 イシュヤーデさんにこっそり聞いてみたけど、そんなことはしてないと思いますが、あの魔女ならやりかねない、とも。

 コイツ、だんだん前の主の愚痴を漏らすようになってきてる気がするんだけど、私に気を許しすぎゃないかしら?

 まあ、それは私もか。

 格下とは言え、悪魔だか妖魔だかを、すんなり頼っちゃうのはまずいかしら?

 でも、イシュヤーデさんを頼るしかないんだよね。今のところ。

 歓迎の宴と言っても、村の人たちは一度挨拶に来るくらいであとは遠巻きに私を見ながら食事を楽しんでいる感じだった。

 疑われている、というよりは明らかに恐れられている感じがひしひしと伝わってくる。

 あ、あと村の人と少し話して、わかったことはここの村の人達、何かしら悪い事や不都合があると、全部魔女のせいにする癖があるみたい?

 魔物が出た、魔女の仕業だ! 馬が逃げた、魔女の仕業だ! 井戸の水が今日は特に塩辛い、魔女の仕業だ!!

 といった具合に……?

 ん? 井戸の水が塩辛いって、作物が育たない理由は、その水使ってるからなんじゃ? 確か塩分は植物にあんまりよくないのよね?

 これはあれかな、地球の知識で無双しちゃうパターンかな?

 そう思って最初に話しかけた、そういえば名前聞いてなかった、農家のおじちゃんを探し出し聞いてみたら、

「そりゃ、わかっていますがね、ここいらじゃあの塩辛い井戸水の他に水がないんですよ、幸い地下水は豊富なようですが、やっぱりちょっと塩分がきつくて作物には悪影響なんですよ。

 だからといって、水をやらねーわけには、ねぇ? まったく困ったもんです」

 と、愚痴っていた。

 なんだ、ちゃんとわかってたのか。なら全然魔女のせいじゃないじゃん。

 ついでに井戸の水から塩を生成するくらいなら、他の町から仕入れたほうが安く済むとも愚痴っていた。

 まあ、こんな魔物に囲まれた僻地を開拓しなくちゃいけないとなると、魔女のせいにしないと色々やってられないのかもしれない。

 雨乞いの術とかないか、イシュヤーデさんに聞いてみたところ、あるにはあるがそれなりに高度な術なので、その術を学ぶには専門の魔導書でもあれば、との事だった。

 魔導書か、字読めるかしら? 普通に話とかしてるというか理解できて話すのも問題ないけど、今私が口にしてる言語も私が依然知っていた言語とまるで違うのよね。

 異世界だから当たり前と言えば、当たり前だけど。

 なんにせよ、ちゃんと理解できて喋れるのは助かるわ。

 なんて考えてたら農家のおじちゃんが更に愚痴を漏らした。

「石灰でもありゃ多少は塩害を抑えれるんだがなぁ……」

 それを聞いたイシュヤーデが、

(石灰ですか? 確か南の岩場のほうに採石場があり、大理石とともに採掘されていたはずです)

 と伝えてきた。少し必死さを感じるんだけど、人助けをして徳を積むっていうのを信じてるのかしら?

「なんかあるらしいよ、石灰。あと大理石もあるとか」

「はっ? えっ? それは本当ですか?」

 目を真ん丸にして農家のおじちゃんが聞き返してきた。

「南の方の岩場だってさ」

 そう伝えると今度は完全に意気消沈してしまった。

「み、南ですが、よりにもよって南かぁ、そっちはまだ魔物がわんさか出るほうでして……」

(どうせ下位の魔物共でしょう、今夜のうちにでも魔物どもを追いやっておきます)

 やっぱりこいつ必至だな。元魔王四天王の腹心なのに、今は人助けに夢中なのかしら?

 って、そんなこと思っちゃダメか。少なくとも悪い事じゃないんだし。

「んー、なんか多分大丈夫ぽい? 明日にでも私が見てこようか?」

「えっ、精霊様自らですか?」

「ゴルダウさん、そんな声を荒げてどうしたのですか?」

 声をかけて来たのはディラノさんだった。後ろに聖歌隊のエッタさんがいる。シースさんの姿はない。

 シースさんがいないのは、もしかしたら隊長の看病でもしてくれてるのかしら。宴? 宴会? だっていうのに申し訳ない。

 それにしても農家のおじちゃんの名前、ゴルダウっていうのか、ちょっとごっつい名前だなぁ。

「代表!! 聞いてください! 精霊様、イナミ様がですね、南の岩場に石灰があると、それだけではなく大理石まであるとおっしゃられてて、明日自ら様子を見にと……」

 それを聞いて即座に聖歌隊のエッタさんが割って入ってきた。

「イナミ様、危険です、南側には、まだかなりの数の魔物が生息しています」

 そう言ってくるエッタさんを横目にディラノさんは顎髭を弄り視線を上に向けた。

「しかし石灰と大理石ですか、もしイナミ様の修道院を立てるならその大理石があれば、さぞ立派なものができますでしょうな。

 ですが、ここから南側は我ら人類にとってはまだ未開の地でして、それにもし仮にイナミ様のお力でその場所まで行けたとしても、採石場なんかを新たに作っている余裕は今の村には……」

 ディラノさんは一応笑顔だか、その笑顔は苦々しい。今はそんなよくわからないものに人手を避ける余裕はないぞ、と言っているような感じだ。

「んー、なんかね、魔物たちが使っていたらしい採石場があるんだってさ。それが今使えるかどうかは知らないけど」

 そういうとディラノさんの表情が少し変わる。

「え? それは本当ですか、その話はどこから……?」

 当たり前の疑問だよね。

 こっちのことあまり知らないって言ってたくせに、余計なことをベラベラ喋りやって! 私のばか!!

「えーと……」

(低位の精霊から聞いたとでも)

 さすがイシュヤーデさん、頼りになる!!

「その辺の子たちがね、話してたのよね」

「その辺の…… 小精霊、いえ、妖精の類かしら? イナミ様ほどの力ある精霊様に嘘は言わないでしょうし信憑性は高い、でしょうが……」

 そう言いつつも、エッタは少し困った顔をしている。

 石灰や大理石は魅力的だけど、私を危険に合わせたくないのかしら?

「しかし、イナミ様、あなた様自ら身に行くというのは、いささか危険ではないでしょうか?

 いえ、イナミ様のお力を侮っているわけではないのですが、ここはかの魔女の地でして、まだ如何なる魔物が潜んでいるものかもわかりませんので」

 いやいや、ディラノさん。目の前にその体だけだけど、その魔女がいて、その腹心が胸元の手鏡に潜んでいるんだけどね。

 んー、どうしたものだろうか。でも、無理に行くこともないのかしら?

「イナミ様がいかれるというのであれば、隊長ともどもお供させていただきます」

 意を決したようにエッタさんが発言した。

 隊長さん、この場にはいないみたいだけど大丈夫かしら。

「あ、隊長さんは… 大丈夫そうです?」

 おずおずとエッタさんに聞いてみた。

「はい、明日のイナミ様との日向ぼっこデートを楽しみと、うわごとのように申しておりました」

 それは本当にうわごとなんじゃ?

 というか、なんでデートに?

 覚えたての魅了を試したのがいけなかったのかしら?

「隊長さん、さすがに明日は動けないだろうし、無理させちゃうのもね。

 やっぱり突拍子もない話だったかしら?」

「隊長なら大丈夫かと思います。隊長は再生能力を持っているので」

(再生者ですか、生かさず殺さず血を提供させるには持って来いの…… おっと、こういう思考はやめたほうがいいんでしたな)

 再生者って言葉の響きからなんとなく意味は理解できる。傷が早く治るとかそんな感じなのかな?

 しかし、短時間だったとはいえ、かなりの量の血を頂いてしまったようなのよね。隊長さんには申し訳ないことしたなぁ。

「魔物は、多分問題ないと思うのよね」

 魔王最後の四天王に手を出す魔物なんて、そうそういないよね?

 いや、そもそも私が超強力な魔物なんだしね。

「んー、隊長さんの具合が良さそうなら、ちょこっと見に行って来たいんだけど、どうかな?

 どれくらいの距離があるか私にもわからないけど」

(何事もなければ馬車で三刻ほどかと)

 結構距離はあるのね。

「イナミ様がそうおっしゃるなら我らは命ある限り共にいたします」

「いや、あの、エッタさん、聖歌隊が隊長ごと村から離れられるのは少々困るのですが」

 そういえば聖歌隊ってこの村の防衛の要なんだっけ?

 そんなこと言っていたような。

 しかし、こんな若い女の子に守られる村ってどうなのよ。

「そういえば、聖歌隊の方って、この村に何人いるんです?」

「はい、隊長、そして隊長補佐の私とシース、そのほかに、正隊員が二名に、見習いが二名となります。

 我々がいない間は、ラルフ司祭にでも頼めばよいと思いますが。

 あの方は元神官戦士でいらしたのでは?」

 計七名、村一つ守っている割には少なく感じるけど、みんな女の子なのかしら?

 にしても、エッタさんラルフさんには少し棘がある感じに感じるけど……

(神官戦士ということは、あの男は教会の手の者でしたか)

 などと、少し意味ありげなことをイシュヤーデさんが念話で伝えて来たけど、私にはよくわからない。

 ええっと、今まで聞いていた感じだと、聖歌隊の人は神殿で、ラルフさんは教会の人ってことでいいのかしら?

 何が違うんだろう? 信仰してるものが違うとか?

 まあ、いいか。何かあればイシュヤーデさんが教えてくれるでしょ。

「それはそうなのですが……」

「それにここの住人はほとんど元兵士なのですよね、そんな人たちが、今更小娘達に守られるというはどうなのでしょうか」

 うんうん、私もそう思うぞ。

「魔物相手に魔術を使える使えないの差は大きすぎますよ。エッタさん。

 精霊様の前で、なにをもめているのですか?」

 そう言って会話に入り込んできたのは、噂のラルフさん。教会の司祭さんでいいんだっけ?

 にしても噂をすればなんとやらだなぁ。

 そう言ってきたラルフさんは私を見た後、すぐに目を丸くして固まった。

 最初あった時と魔力の強さが違いすぎるせいかもしれない。

「これはラルフさん、ええっとですね……」

 ディラノさんが今までの経緯をラルフさんに説明した。

 少しの間呆けていたラルフさんだが、ディラノさんの説明を聞いている間に正気に戻ったのか、説明を受け少し考えてから口を開いた。

「その魔物たちが使っていた採石場というのは、大丈夫なのですか?

 おそらく件の魔女が使っていたものでしょうが、それは十年以上も昔のことでしょうに、手入れなどされていない採石場など平気なものでしょうか?

 それ南の岩場と言われましても、どれくらいの距離があるのかにもよるのでは?」

 ちょっとお酒が入ってるせいか、ラルフさんなんか棘があるよね?

 まあ、言っていることは正しいんだけど。

「私も聞いただけだから詳しくは知らないよ?」

「良質な石材が手に入るのは確かに魅力的なことでしょうが、今の我々には2カ所も拠点を防衛することなど……」

「その辺はたぶん大丈夫よ、この辺の魔物なんて小物なんでしょう?」

 魔物も今晩イシュヤーデさんがどうにかしてくれるみたいだし問題ないよね。

「ふむ、イナミ様がそう仰られるなら……」

 そう返すラルフ司祭の言葉はなぜか少し歯切れが悪い。まあ、魔物が外にいていつ襲われるかわからない状況で、防衛の要を連れていくっていうのは嫌かもね。

「本来聖歌隊は巫女です。精霊様に尽くし崇めるために存在しています。

 村の防衛には協力は惜しみませんが、本分は精霊様に従事することです」

 エッタさんはきっぱりとそう言い切った。

 はじめは反対してたけど、私を危険な目に会わせたくない、というよりも私の意思の方を尊重してくれる方にシフトしたのかしら?

 ただ単にラルフさんに対抗しているだけな気もするけど。エッタさん、気が強そうだしなぁ。

「どうしても行くのであれば、村の技師を…… 二人、いや、一人ですな、連れてっていただきましょうか。

 親方からだれか選んでもらいましょうか、移動は馬車で?」

(その採石場から石材を運んでいたので整備された道はあると思いますが、今はどうなっていることか。

 石材を運んでいた道ですのでかなり大きい街道と言ってもいいほどの道でしたので全く使えないということはないとは思いますが。

 今晩、魔物どもに命令を伝える際にでも下調べをしてまいります)

 ふと、前使われていたという出入り口が完全に木に飲み込まれていたことを思うと、その整備された道とやらが残っているかどうか怪しい。

 まあ、イシュヤーデさんが下見をしてくれるというのであれば問題ないかな。

 あんまり信用しすぎちゃまずいんだろうけど、腹心っていうだけあって優秀よね。

「馬車と言っても通れる道があるのでしょうか、それにイナミ様を乗せれるような馬車がありますか?

 聖歌隊にあるのは戦車くらいですよ? 戦車を出すのであれば整備しませんと」

 えっ、戦車があるの? 大砲とかついてるアレかしら?

「あれは…… 移動用なのですか?」

 ディラノさんが不安げに訪ねてきた。

「遠征とかもできる仕様にはなっているはずです!

 魔王大戦の際も使用された歴戦の戦車ですよ!」

 エッタさんは自信満々で戦車とやらを推してくる。私はディラノさんの表情から不安しかないんだけど。

「村に今あるまともな馬車は運搬用の荷馬車くらいですが……」

 ディラノさんがふとつぶやく。

「もし採石場が使えるようならサンプルくらい持ち帰らなければならないし、荷馬車でちょうどいいのでは?」

 そう言ってきたのは最初に話していた農家のおっちゃんことゴルダウさん。

「それはそうなのですが、精霊様に荷馬車に乗っていただくのは… 失礼に当たりませんか?」

「うーん、私が言い出したことだし、荷馬車でも戦車でもいいわよ? なんか楽しそうだし」

「精霊様がそう仰られるのなら、早速職人の親方に話を通してまいります、それでは失礼をば」

 そう言ってディラノさんはそう言って一礼すると、親方を探してふらふらと歩いて行った。

 そのまま戻ってこないかと思ってたら、筋骨隆々の大男を連れてすぐに戻ってきた。

 そういえばこの大男とは挨拶はしてなかったかな?

「この方が精霊様で? 確かにこの世の物とは思えない程お美しいお嬢様で」

 そう口では言ってるが明らかに値踏みしている感じがする。

 ただやっぱり目を合わせると、顔を赤らめ私の目から背けた。

 そして気まずそうにほほをポリポリと掻き出した。

 うっひゃー、これは照れてるってやつなのかしら? ここまで美人さんだとそうなっちゃうよね。

 私を値踏みしようとして、逆に私に見つめられて照れるだなんてカワイイなぁ!

 この感じはいいな、すごく気持ちいい!!

「はい、私は血の精霊でイナミといいます」

「お、俺は職人連中をまとめているオーヴァルだ。明日は俺が着いて… 付き添いますんでよろしくお願いします……」

 オーヴァルって親方が途中で言いなおしたのは、私が美人だからではない。

 鬼の形相で睨んでいるエッタさんが怒りのオーラを放っていたからだ。

 そりゃ、聖歌隊の人たちにとって私は信仰対象だもんね、雑に扱われれば怒りもするか。

 にしてもこんな大男がビビるって聖歌隊って凄いのかしら? あの隊長さんはともかくエッタさんは線の細い美人さんだよね。

 魔術が使えるから? とかなのかしら?

「ところで魔物たちが使っていたっていうのは本当なんですか?」

「いえ、私も聞いただけで詳しくは」

「そうですか、魔物たちの技術は大概はロクなもんじゃないんですがね、中には驚くような技術を使っているのもありましてな、その辺分かるのはここじゃ俺だけでして」

(アンティルローデが作らせた採石場です。魔術を駆使して半自動化されているはずです。今も稼働するかどうかまではわかりませんが)

「なんか魔術を使っている採石場らしいですよ、楽しみにしてもいいんじゃないかな?」

「魔術ですか? さすがは魔女の地ってわけですかね? それじゃあ、明日はよろしくお願いします、俺は明日の準備に取り掛かりますんで早々ですがこの辺で」

 オーヴァルはそう言って口笛を吹きながら千鳥足で宴会場を後にした。

 結構酔ってそうだけど大丈夫かしら。

 でも、少し楽しそうにも見えた、魔術で動く採石場っていうのが気になるのかもしれない、技術者? 職人? よくわからないけどそういう人って自分の知らない技術だか知識だかで喜ぶよね。

「多少の石材位なら積める大型の荷馬車を用意してくれるそうです」

 そうディラノはニコニコ顔を伝えてきた。

 あれ、今気が付いたけど、ちょっと大事になっている?

 最初反対してたディラノさんもいつの間にかに乗る気になってるし。

「これは当時の戦闘に参加していた兵士に聞いた話んですがね、件の魔女の神殿と屋敷は上質な大理石がメインで作られていたそうなのです。

 激しい戦闘があったようで、今は跡形もないそうなんですが、そんな上質な大理石が入るならこの村の財政は心配いらないかもしれませんなぁ、いやー、イナミ様に来ていただいてよかった」

 いや、私は大理石が跡形もなくなるような戦闘のほうが気になるんだけど?

 魔術って爆弾とかミサイルみたいなものなの?

(館自体が大理石のストーンゴーレムを積み上げて作られたものでしたからな、殲滅戦ともならば、廃墟しか残りません。

 実際、広範囲の大規模破壊魔術で館自体を吹き飛ばされました)

 そ、そんな事実が…… よく私が目覚めた場所無事だったね。

 なんか私の思い付きで、大事になっちゃったなぁ。そりゃ木材しか建材がないような開拓村に、良質な石材が確保できるような施設があればそりゃそうか。

 んー、でも、せっかく異世界に来たんだもんね、私もちょっと冒険してみたいのよね。

「イナミ様、歓迎の宴はどうでしょうか」

 そう話しかけてきたのはエッタさんだ。

「どう、というか、私のために開いてくれてありがとうございます。

 んー、でも、私あんまり人前得意じゃないのよね」

「そうでしたか、では、明日のこともありますし、そろそろお休みになられますか?」

「え? ええ、エッタさんは今着たばかりでしょう?

 私はもう休ませてもらうけど、エッタさんは楽しんでいってね」

「はい、元々は隊長のご飯を分けてもらいに来ただけなのですが、イナミ様がそう仰られるなら少しばかり楽しんでいこうと思います。

 とりあえずはお住まいまでご案内いたします」

「すぐそこだよ、大丈夫よ?」

「いえ、これが我々の使命ですので」


 その後、私に割り当てられた新築の家までエッタさんに送ってもらいベッドに横になった。

 寝れはしないんだけど、目を閉じて色々考えていたら、日が昇っていた。

 吸血鬼だからか、とくに寝なくても平気みたい? 特に眠気はない。

 これは夜に毎晩暇になるなぁ。

 暇つぶしになるものでもあるといいけど、ああ、こういう時パソコンかスマホが欲しい。

 魔術ってのを学べば少しは暇つぶしになるかしら?

 魔導書が必要になるんだっけ?

 そうそう、イシュヤーデさんは昨晩こっそり抜け出して、無事魔物たちにここら一体の人間を襲わないように、と伝えることができたそうだ。

「じゃあ、魔物の心配はもうないのね」

(野生化した魔物、とくに魔獣の種類については恐らく効果がないでしょうが、ある程度知性のある魔物は人間たちから手出ししない限り襲ってこないはずです)

「ふむふむ、じゃあ、採石場までの道は?」

(視察で行くだけであれば現状でも問題はないかと。ただ本格的に石材を運ぶのであれば整備は必須でしょうが)

「今回見に行くだけなら、それも問題なし、と。

 採石場まで見て来たの?」

(はい、ですが、そちらは少々問題があります)

「手入れされてなくてダメになってた?」

(いえ、魔術で動くゴーレムたちが管理、運営しているので、今でも問題なく稼働していました。すでに掘り出された石材もいつでも出荷できるように準備されておりました)

「おお、すごいじゃん。で、問題っていうのは?」

(そのゴーレムなのですが、アンティルローデの命令しか聞かないようで、我が命令しても襲われはしないものの反応はありませんでした。

 おそらく人間が不用意に近づけば襲われるでしょう)

「えー、じゃあ、倒さないとダメってこと?」

(いえ、我がイナミ様を主と魔術的に認識できているように、ゴーレムたちもイナミ様を主と認識できれば良いのですが……)

「んー、なにか違うの?」

(我を縛っている主従の契約とゴーレムたちを動かしている魔術はまた別系統なので、どうなるかは対面してみないと分かりませぬ)

「なんとかそのゴーレムを従わせられれば問題ないと、けど……

 魅惑の瞳もゴーレムには効かないよね」

(精神に作用するもののようですので、精神を持たないゴーレムには無力かと)

「だよね、まあ、行くだけ行ってダメそうなら、残念だけど仕方がないよね。

 ゴーレムを倒すかどうか相談しに戻ってくるしかないか。

 ゴーレムを従わせられれば労働力の確保にもなるのになぁ。

 それにしても魔術で動くゴーレムかぁ、魔術を理解できれば私にも作れるのかな?」

(はい、イナミ様の魔力なら、魔術の構造さえ理解できればすぐにでも)

「精霊が魔術書を集めるのって変?」

(何とも言えません。精霊は基本何かに執着するもので、例えば、花の精霊であれば、花にばかり執着しますし他のことには大概興味を示しません。

 ただ長く生きた精霊は割といろいろなものに興味を持ったりもするものです)

「私に長く生きた演技なんて無理だしなぁ、隠すわけじゃないけどあんまり表立って魔導書を集めるのはよくないかもなぁ。

 ああ、そうだ、夜寝なくていいみたいだし暇つぶしに魔導書を読むのとかどうかな?」

(永久ともいえる時を生きる精霊は暇を持て余すのは性ですから、ありと言えばありですが)

「あんまりオススメじゃないのね、わかったわ」

(申し訳ございませぬ)

「あなたが謝ることじゃないよ、とっても助かってるし。

 さてと……」

 懐にしまっていた手鏡で容姿を整える。

 けど特に乱れた様子はない。そもそも水のようにサラサラの髪の毛で寝ぐせなども付いていなかった。なんだこの凄い髪質は。

 そもそもこの体は汗もかかないし皮脂がでることもないみたい。昨日お風呂にも入っていないのに体がべたつりたりすることもない。

 まるでお人形のようで、いつ見ても最高に美少女でカワイイ。お手入れいらずのかわいくて美しい肉体とか反則過ぎるでしょ。

 ただ、お風呂に入る必要性はあまりなさそうだけど入りはしたいなぁ、一応女子だし。

 あ、念のためにいっておくけど、一応お風呂を探したんだけど、この家には風呂場らしきものなんてなかった。

 あとで聖歌隊の子たちにでも聞いてみよう。

 さすがに、ないってことはないよね。それともファンタジーの世界ってそんなもの?

 一応イシュヤーデさんにも確認しとくか。

「アンティ… アン…… んー、この体の元の持ち主はお風呂とかどうしてたの?

 この世界にもさすがにあるわよね?」

(お風呂ですか? アンティルローデめはよく沐浴していましたな。

 今は亡き屋敷にも大きな風呂場がありました。少なくとも一日に二度は入っていたと思いますが)

「そう、んー、吸血鬼ってお風呂入らなくていいのかしら? 精霊はその辺どうなの?」

(吸血鬼の入浴事情ですか、さすがに我もわかりませぬ。

 精霊の方ですが、基本的にはですが水浴びは好まれているかと。とはいえ火の精霊ともなれば、基本は水を嫌がるものです。

 精霊の種類は千差万別で、同じ種類の精霊でも個性はあります、それこそ、火の精霊の中でも水浴びを好む者までいます。

 ですので、イナミ様のしたいようになされても、それにより疑われることはないかと。

 そういう意味では魔導書の収集も問題にはなりません。ですが、今は何がきっかけでばれるかわかりませんので)

「そうなんだ、んー、じゃあ、精霊としてやっちゃダメなこととかは?」

(これと言ったものはありませんが、しいて言えば精霊王の話はしないほうが良いでしょうか。

 出しゃばりで目立ちたがり屋なので下手に名を出そうものなら、顕現しかねないのです)

「わかった、しないようにするね」

 顔を洗う必要もなさそうだけど、洗いたいなぁ、それと歯磨きもしたいんだけど、どうすればいいのかな。

 そう思ってしばらくベッドの上で半身だけ起してボーとしてると、数人の人がこの家に近づいてくる気配を感じた。

 その後、トントンと扉をたたく音がした。

「はい、どうぞ」

 と返事をすると聖歌隊の人たちがやってきた。

 隊長のミリルさんと、後知らない子が二人。

「もうお目覚めでしたか、イナミ様。おはようございます」

 ミリルさんはもう元気そうだった。さすがは再生者ってところなのかな?

「おはようございます、昨日はその、ちょっと血を貰いすぎてしまって申し訳ないです」

「いえ、問題ありません。むしろ天にも昇る気持ちでした、でゅふ」

「でゅふ?」

「いえ、すいません、ただの思い出し笑いです。

 ご紹介します、この二人は聖歌隊の見習いの者たちです」

 え? 思い出し笑い?

「パティと申します」

「ヴィラと申します」

 二人は深々と頭を下げた。

 少し震えているようにも見える。そういえば昨日エッタさんが見習いの子がいるって言ってたな。

 年は隊長さんが一番上で、エッタさんとシースさんが少し下な感じ。で、この子たちは更に下で、子供と言ってもいいくらいの年齢だ。

「今日からこの二人がイナミ様の身の世話をいたします。

 二人とも失礼のないように」

「「はい」」

 そう言って二人は、一度家から出て水の入った瓶と木製のタライ、そしてタオルのような布を持ってきた。

「イナミ様、申し訳ございません、まだこの村には沐浴をできるような施設はありませんので、お体を拭いて清めていただくしかありません」

 なんかタイムリーな話ね。まさか聞かれてたりしないよね。まあ、人がいると気配とか臭いでわかっちゃうけどさ。

「あ、そうなのね、ありがとうございます」

 そう返したけど、そのまま、聖歌隊の人たちはその場にいて私を見てくる。

 あれ、何この状況。

 とりあえずベッドから出ると、控えていた見習いの二人がいそいそと近寄ってきて、

「失礼します。では、お召し物を……」

 と言って、私の服を脱がそうとしてきた。

 その時点で驚いて一瞬思考が停止する、が、

「す、すいません、イナミ様、このドレスはどうやってお脱がせになれば……」

 と、脱がされることはなかった。

「あ、自分でするのでいいですよ」

「イナミ様に奉仕することは私たちの喜びです、遠慮などなさらずに」

 と、隊長さんが穴息を荒くして言ってくれたけど、他人に服を脱がせてもらったり、他人の前に裸になるだなんて恥ずかしくて無理!!

 というか、なんで鼻息荒いの? 隊長さん?

「えっ、いや、ちょっと恥ずかしい、かな?」

「何を恥ずかしがるのです、イナミ様!! イナミ様の美しさなら、どこへ出ても恥ずかしくはないかと!」

 いや、隊長さん、そういう問題じゃなくてさ、そりゃこの美少女でこのスタイルなら、恥ずかしくはないけれども、いや、恥ずかしいよ!!

 そんなこんなしてると、見習いの子たちは涙目で震えだしていた。

「な、なにか、失礼でも……」

「えっ、いや、ほんとに恥ずかしいだけだから、気にしないで」

「聖歌隊の入隊には精霊様のお世話をすることが必要不可欠ですので、イナミ様、ここはこの二人のためということで、どうか、ここは!!」

 と言っている隊長さんはなぜか目を血走らせて鼻息は更に荒くなっていた。

 イケメン女子じゃなければ、結構ヤバい見た目だ。いや、イケメン女子でも割とやばい気がする。

 でも、そう言われると断りずらいような。

 ただ問題があって、この服の脱ぎ方、実は私も知らないのよね。

 昨日ベッドに横になる前に、皴にしちゃいけないと思って脱ごうかと思って四苦八苦したけど、結局脱ぎ方がわからなかった。

 もちろんファスナーなんてものはないし、それどころか留め具のような物すらないのだから。

 それなのに体にフィットするように作られてて、どうやって着たのかも分からないくらい。

 こ、ここは……

「じゃあ、脱がせられるものなら脱がしてみなさい!」

 半ばやけになって、直立不動でその場になった。

 見習いの子たちが、恐る恐る服を脱がそうと四苦八苦するけど、やっぱり脱がし方がわからないようだ。

 まあ、脱ぎ方わからないと一番困るのは私なんだけどね。

 そのうち、半泣きになっている見習いの二人組が、

「ミ、ミリル様……」

 と半泣きで助けを求める声を上げた。

 ああ、可哀そうなことしちゃった。

 ご、ごめんね、でも私も実は脱ぎ方わからないのよね。

「し、仕方ありません、こ、ここは、私めが…… イナミ様のお召し物を……」

 そう言って、隊長ことミリルさんが、血走った目で鼻息どころか、息を荒げて近寄ってきた。

 えっ、この人、大丈夫? 昨日かけた魅力の力が強すぎたのかな?

 と思ったけれど、ふと昨日エッタさんがさらりと漏らした「重度の精霊フェチなので」という言葉が頭をよぎった。

 重度の精霊フェチと魅惑の魔力の相乗効果でこの人、凄い事になっちゃってない?

 ちょ、ちょっと怖いんだけど!

「では、イナミ様失礼をして……」

 ちょっと恐怖で目を閉じちゃったけど、ミリルさんは私自身には触れることなく私の首に手を回して、パチン、となにかを外した。

 えっ、と思った瞬間、ドレスは脱がされる、というかはぎとられ、きれいにミリルさんの左腕に掛けられた。

 一瞬の出来事でわからなかったけど、私は一瞬で下着姿にさらた。

 ついでに、前世では多分着けたことのなかったと思うガーターベルトなんかつけちゃったりしている。

 なんか扇情的でとっても印象的だった。

「えっ、うそ、一瞬で?」

「では、二人ともあとはお願いします」

 そう言ったミリルさんは深く深呼吸をしている…… なんで深呼吸?

「あ、ありがとうございます、ミリル様。

 では、今度こそイナミ様、失礼いたします」

 そう言われて私は見習いの子に体を拭かれた。

 この子達、めちゃめちゃ緊張してるようで、震えながらだけど丁寧に恐る恐る体を拭いてくれた。

 他人に体を拭いてもらうだなんて、多分したことないよ。前世の記憶はないんだけど!!

「このドレスは古イニアチア朝のドレスですね。素晴らしい出来です。

 精霊様方はこの時代のドレスをよく好みますので、二人も覚えておきなさい。

 しかし、イナミ様、なんてお美しいお姿…… あぁ、お美しい、まさに人知を超えた美しさです……」

 息が荒くなっているミリルこと隊長さん、でもイケメンのお顔がスケベおやじのそれになってるよ?

「本当にお美しいです」

 隊長さんとはまた違った感じで、見習いの子達がほめてくれる。こちらは素直にうれしい。

 隊長さんはともかく、こんな純朴そうな子達に褒められて悪い気がするはずはない。

「あ、ありがとう、でも、そんなにまじまじ見られても恥ずかしいのだけれど……」

「す、すみません」

 謝ってくれたのは見習いの二人で、隊長さんは鼻の下を伸ばして私を見つめていた。

 この人本当に大丈夫なの? イケメン女子じゃなければ本当に犯罪の雰囲気を醸し出しているよ!!

「では、今度は着付けです、手本を見せますので二人共覚えるように。

 明日からは羨ましいことにあなたたちに任せますからね」

 羨ましいって……


 服を着終わったところで、シースさんがやってきて、

「本日は隊長とエッタさんがイナミ様に同行いたします。

 ですので私の血をお受け取りください」

 そう言って私の前に跪いて肩をあらわにした。

 またまた、ぶっ飛びそうになる理性を総動員してなんとか保ち、

「では、いただきます」

 と、血を吸いすぎないように細心の注意を払ってシースさん文字通りかぶりついた。

「はぁっ…… こ、これは……」

 と、おとなしそうなシースさんが色っぽい声を上げる。

「こ、こんなのはじめてです……」

 ど、どんななの? 深々と牙が刺さってるけど痛くないの?

 もっと、もっと、もっと、無くなるまで吸いたい、そんな欲望に打ち勝ち、私はすぐに血を吸うのをやめた。

 血を吸いたい欲望より今日は理性のほうが勝った。

「ありがとう、大丈夫? 血、貰いすぎてないかしら?」

「へ、平気です、でも、これは、すごいです……

 隊長じゃないですけど、これは癖に、な、なります……」

 そう言ってシースさんはその場にへたり込んでしまった。

 俗にいうところの腰砕け状態ってやつなのか、ただ単に血を吸いすぎて貧血を起こしているのかは私にはわからない。

「すいません、隊長、腰に力がはいりません……」

「すごい心地よいというか気持ちいいというか、とにかくすごいよな、イナミ様の… うーん、接吻? イナミ様の血の接吻、うん、これだ。

 イナミ様の血の接吻は、体験したことのないような快楽を与えてくれます、痛みなどないです。

 歯が首筋にあてられた瞬間に、ぞくぞくっと快楽が走るような感覚です」

「血の接吻って…… いやそれよりも快楽が走るって、うーん……

 痛みがないのはいいですけど、本当に大丈夫ですか?」

「は、はい、これはその、血が足りなくてとかじゃなくて、その、あまりにも気持ち良すぎて、腰に力が……」

 そ、そんな腰砕け状態で色っぽく言われても。

「二人とも済まない、シースを待機所まで運んでやってくれ」

 昨日のように体が馴染んでいく感じはあるけど、初めて血を吸った時ほどではない。

 昨日はなんかすごかった、体が一気に馴染んでいき力が沸き上がる感じがひしひしと伝わってきたけど、今日はそれほどでもない。

 ただ自分の力が多少なりとも力が、魔力が上がっていることは実感することができた。

 

 そうやって私の身支度と食事?が終わった私は外に案内され、村の真ん中の広場まで案内された。

 広場にはすでに大きな馬車が用意されていた。

 荷物運搬用の馬車らしく、屋根のようなものはついていない。

 その分作りはしっかりしていてゴツイ。

 昨日の親方、確か名前はオーヴァル、だったかな? まあ、親方さんでいいよね。

「イナミ様、おはようございます、その、採石場の件なんですが、大体の場所は……」

 イシュヤーデに事前に聞いていたことを話す。

「双子岩の方らしいのですけど、わかります? 道らしきものはあの山だか丘だかから続いているそうです」

「双子岩、ああ、確かにあの辺なら上質な石は取れそうですがね、そのー、魔物のほうは本当に大丈夫なんでしょうか、あの辺りは……」

「それを今日調べにいくのよ、まあ、私がいれば襲われないとは思うけど」

 襲われないわよね? イシュヤーデさんを信じて大丈夫だよね?

 ちょっと不安だなぁ、今のところ私を裏切るどころか、悪魔らしい、いや、妖魔だっけ? 妖魔らしい外道なことをしそうな雰囲気すらないけど。

 そんなことを考えていると、エッタさんがやってきた。

「イナミ様、おはようございます」

「エッタさん、おはようございます」

「魔物の件は、おそらく大丈夫でしょう。

 夜明け前にシースたちとも辺りを少し見回りましたが魔物の気配すらありませんでした。

 イナミ様のこのお力ですからね、おそらくこの辺りからは魔物どもは、もう逃げ出しているのでしょう」

 夜明け前に見回りって、大変そうね、聖歌隊七人だけでこの村を守ってるとかすごいよね。

「え、そんなにすごい精霊様なんで?」

 オーヴァルさんのその発言で、聖歌隊面々の表情が一気に険しくなり殺気立つ。

 オーヴァルさんもそれを感じて、

「す、すまない、俺にはわからないもんで」

「イナミ様は超がつくほど上位のお力をお持ちです!!

 これほど高貴なお力がわからないだなんて」

 そう言ったのは昨日もオーヴァルさん相手に怒っていたエッタさんだ。

 えぇ、私の力ってそんな高貴なの? 吸血鬼の力じゃないのかなぁ。

 ああ、でも吸血鬼ってアンデットの王とか貴族なんだっけ? ある意味高貴…? どうなんだろう。

 ちょっとイシュヤーデさんに聞きたいけど今は人の目が多すぎる。

「まあまあ、私は構わないので」

「イナミ様がそう仰られるなら」

「親方、以後イナミ様に失礼がないようにお願いします、これほどの精霊様は聖都にもいらっしゃられませんよ」

 隊長はそんな様子を冷ややかな目で見ていた。親方を見る目が鋭すぎて怖いくらいだ。

 ついでに、私が隊長さんに視線を送ると急に笑顔になる。

 正直この隊長さん、ちょっと怖いんだけど気のせいかな?

 いや、悪い人とか、私を騙すって感じじゃないんだけどね、なんか、なんていうか、視線が熱すぎる……

 これが美人であることの弊害なのかしら? いや、同性なんだし美人とかは関係ないよね?

「イナミ様、すでに準備はできています、出発しましょう」


 こうして私の異世界吸血鬼生活は始まりました。

 ちょっと思っていたのとは違うけど概ね問題なしだよね!

この章は全部執筆済み。

近いうちに公開していきます。


物語自体の大筋も決まっています。

たぶん5~6章程度。


誤字脱字は多いと思います。

教えてくれると助かります。

ただ某鏡の妖魔さんの口調は多少違和感があるような変な感じにしてあります。

その理由も本編で直接語られることはないです。

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