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ハグレ者達のダンジョン攻略  作者: 天野 雪人
第一章 竜殺しの竜
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第一話 エルフの少女はどこかおかしい

 俺は自分が人よりわずかに不運だと自負している。

 迷宮ダンジョンに潜ればなぜか強い魔物とよく遭遇するし、三回ぐらいパーティから追放され、罠に引っかかった回数は人よりわずかに多い。


 俺の不運とは平均よりわずかに、というのは幸運なのだろう。いろいろな事に巻き込まれても最終的に生きていたから。

 そして今起こっている事も、結局は俺の不運が招いた事かもしれない。


「おいッ! なんて数の魔物を引き連れてきてんだッ!!」

「しょ、しょうがないじゃないかッ! ボクだって好きで連れてきたわけじゃないんだ」


 俺と並走する少女。エルフの魔法使いと俺は、背後から追いかけてくる無数の魔物から全力で逃げていた。


「「「ギュラアアアアアアッッ!!!」」」


 魔物の声が迫ってくる。数を数える暇も、数える気もないほどの魔物は俺達を餌と認識して全力で追いかけていた。

 それもこれも、全部並走する魔法使いのせいだ。


 この魔法使いは、俺の知り合いとかではなくまったくの赤の他人。

 いつも通り俺がダンジョンで日銭を稼いでいると、大量の魔物を引き連れて走ってきた厄病神だ。


「魔物の擦り付けは重罪だ。分かってるのか!?」

「ボ、ボクは擦り付けてなどいないよ。魔物から逃げていたらたまたま君がいる場所に来ちゃっただけだ」

「法の抜け道を利用するなッ! 擦り付ける奴は決まってそう言うんだ」

「だから、ボクは本当に逃げているだけなんだッ!」


 ついいつもより荒っぽい口調で喧嘩してしまうが、それほど状況は切羽詰まっている。

 人間である俺の足より、魔物の方が早い。魔物は疲労に強いし、いずれ追いつかれてしまうだろう。


「魔法使いだろう!? あれを一網打尽にできる魔法は使えないのかッ?」

「使えたらとっくに使っているさッ! 今は使えないのッ!!」


 なんという魔法使いだ。……いや、ダンジョンの上層で探索をする魔法使いは大概そんな魔法を使えない。それを要求するのは酷だ。


「よーし。だったら次の分かれ道は二手に別れよう。俺は静かに左に。お前は大声を出しながら右にだ」

「それってボクに全部擦り付ける気だろう! そうはいかないぞッ!!」

「元々引き連れてきたのはお前だッ! 最後まで責任を持て」

「う~~!! それを言われたら何も言えないじゃないか」


 次の方針が決まったところで、俺はふと道の先に、ある物を見つけた。


「っ二人で逃げ切れるかもしれない」

「なんだって!?」


 絶望に暮れていた魔法使いは、俺の一言で顔に生気を取り戻す。


「あれを使えばっ」


 俺は道の先にあるものを指さす。


「なるほど! それなら逃げ切れるかも」


 俺の作戦をすぐに察した魔法使いは、明るい顔で頷いた。


 走る。これで終わりだと最後の力を使って走る。

 そしてある地点にたどり着いたところで、俺達は一斉に高くジャンプした。


「「「ギュラアアアアアアアアアア!!」」」


 そして聞こえてくるのは魔物達の悲鳴。

 息を荒くしながら背後を見れば、魔物達は落とし穴に落ちていた。


「ダンジョンの罠を利用するとは。……考えたね」

「今回のは分かりやすい罠だった。次はそう上手くいかないと思うけど、……まあ生きてて良かったあ」


 俺達は早くこの場から去ろうと、よたよたと歩き出した。



 ◇



 まったくひどい目にあった。あんな事があったため、今日のダンジョン探索は切り上げる。

 稼ぎとしてはギリギリだが、あんな怖い思いをした後に探索を続ける気にはなれなかった。

 

 俺は狩った魔物の素材を売るために、ダンジョンを出て迷宮ギルドの方に向かう。あの厄病神とはダンジョンを出てからすぐに分かれた。


「ほーん。今日は稼ぎがすくねえなあシェラ」


 俺はすぐさま迷宮ギルドの素材買取窓口へと足を運び、今日の成果を見せれば職員の男がそんな事を言ってきた。


「しょうがないんです。今日は厄病神と出会って、これしか稼げなかった」


 俺の言葉を聞きながら、職員の男、ライダーさんは査定を進める。

 ダンジョンを攻略する者達をまとめて管理する迷宮ギルド。相場でしっかり素材買取をしてくれるここで、一番の目利きを持つライダーさんはいつも通りきっちりと計算してお金を渡してくる。


「ほい。金だ」

「やっぱり少ないなあ」

「しょうがねえだろ。いつもより素材が少ないんだ」


 魔物を倒して手に入れる素材も、今日は早めに探索を切り上げたため少ない。その日暮らしの俺にとってこれは死活問題だ。


「明日。今日の分も稼ぎます」

「それが良い」

「ねえ査定が終わったのなら、ボクのもお願いしていいかい?」


 背後から、次の人が声をかけてくる。


「あ、すいません。すぐにど……き……???」

「ん? ああッ!!」


 背後に並んでいたのは、あの魔法使いだった。

 長いエルフの耳に、パッチリとした赤い瞳。緑色の髪。間違いないあの厄病神だ。


「な、何でここにいるんだい?」

「俺は迷宮攻略者だからな」

「……ボクと同じだって?」

「やっぱり厄病神も攻略者だったのか」


 ダンジョンに潜っている時点でそうなのはあたりまえか。


「そうだとも。……それよりなんだい厄病神ってのは?」

「魔物を呼び寄せる厄病神という意味だ」

「いまボクはとてもカチンと来たね。ボクにはルナという名がある、それの不名誉な名前はすぐにやめてくれ」

「はいはい」

「はいは一回!」


 ガルガルと噛みついてくるルナを、適当にあしらっていればゴホンという咳払いが聞こえてくる。


「痴話喧嘩ならよそでやってくれ」

「「痴話喧嘩ではない!」」


 しかし買取窓口の真ん前でやる事ではなかった。反省する。

 俺とルナは顔をそらし合い、ルナは魔物の素材が入った袋をドサっと窓口に置く。


「……また、ソロで潜っているのか?」

「そうさ。ボクはそれで構わない」


 なぜか立ち去る気になれなかった俺は、ルナとライダーさんの会話に耳を澄ませながら今日の稼ぎを数える。


「ソロは危険だと何度も言ってるだろ。ダンジョンはなにがあるか分からない。特に魔法使いのソロはな」

「……しょうがないよ。ボクと組んでくれる人がいないんだもの」


 ソロ……ソロか。厄病神、もといルナは一人で迷宮に潜っているらしい。俺と同じだが、俺は剣士だから何とかなる。前衛が必須と言える魔法使いのソロというのはかなり危険な事だ。


「……そうか。……そういえばシェラっ」

「え?」


 突然、ライダーさんが俺の名前を呼んだ。

 突然の事だったの思わずビクっと体を震わせる。


「お前もソロだろ」

「まあそうですけど……」


 嫌な予感がする。


「お前らソロどうしパーティを組め」

「「え!?」」


 俺とルナの声がハモる。

 やっぱり嫌な予感が当たった。魔法使いのソロなんてどうせかなりの地雷を抱えているのだろう。

 仲間を巻き込む暴走魔法使いとか、魔力が極端に少ない魔欠魔法使いとかそういう禄でもないものだろう。


 そもそもエルフの魔法使いとは引く手数多の存在。それがソロとはどんな地雷を抱えているのか分かったものじゃない。

 俺だってソロとして活動しているのはそれなりの理由があるが、それだってルナほどじゃないと思う。


「「…………」」


 断りたいが、大恩あるライダーさんの手前あまり強くは断れない。それに、俺も自分に火力が足りないとは思っている。魔法使いの加入はプラスになるだろう。

 でも……この魔法使いがどんな欠陥を抱えているのか。


「とりあえず、お試しで明日組んでみろ。それからパーティを組み続けるか決めればいい。一人ってのは危険だ。二人いるだけで出来る事は増える」

「……分かった。明日一日だけ、組んでみます」

「しょうがないね」

「ああ」

「改めてボクはルナ。明日一日だけだけど、よろしくね」

「俺はシェラ。明日のみの付き合いだが、よろしく頼む」


 何かこのエルフは気に入らん。それでもライダーさんの鶴の一声でパーティを組むことが決まった。

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