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6-1.昔の日本を取り戻す

前回のあらすじ


電話もつながらず、交番にも人がいない状況で、失くした本を探しに行ったが、結局本は見つからなかった。

 白柳カフェを出て交番に戻った私たちは、交番にまだ誰も戻っていないのを見て、落胆した。


「事件現場にいるのかも」

 私がひところぽろっと言ったことで、森に行くことになった。


 正直、赤川が死んだ場所に行くのは気が進まないが、他に、これといってすべきこともない。


   ***


 私たちの住む美琴氏桜町と、隣の青葉町の境にあるのが、事件のあった森だ。みんなは『暗がりの森』と呼んでいる。


 大きな木が密集したこの森は、見通しが悪く、昼間でも薄暗い場所だった。小学校の先生が『あの森には、入っちゃいけませんよ』と言っていたのを思い出した。


 森の中へ続く道はどれも細くて、車が通るのには向いていない。森の入り口に警察車両がとまっていた。私たちはそこから森の中へ入った。


 5分ほど進んだところで、立ち入り禁止の黄色いテープを見つけた。


 ここから先が、事件現場だ。

 なんか緊張するわね。


「およよっ、冬宮ちゃん!」

 テープの向こうから、1人の警察官が近づいてきた。手を振ってくれているが、久しぶりに忙しかったせいか、少し疲れて見える。


「高橋さん」

 話しかけてきたのは、顔見知りの警察官だった。さっき『パトロール中』の札を出していた桜町交番の担当の一人。高橋英二(たかはしえいじ)という名だ。


 担当の一人、といってもあの交番は、高橋ともう一人、合計2人の警察官だけで回している。高橋の相棒の岩山雷人は、今のところ見当たらない。


 桜町外から応援が送られているのか、知らない警官もいた。


「岩山さんは?」

ときいてみた。高橋は言った。


「町で起こった放火事件のほうを見に行ったあと、パトロールしてる。今頃交番に戻るか、スーパーマーケット巡りしてるか、どっちかだな」


 高橋はうんうんとうなずいた。


 スーパー巡りって。

 仕事しなさいよ。


「スーパーでプリンでも買ったんじゃないかな。絶対そうだと、僕は思うよ。僕ならそうするし」

 高橋はどや顔で言った。


 高橋とコウモリを足して2で割れば、人並みに真面目な人になるんだろうな。


   ***


「僕たち、昨日の夕方、赤川涼子さんにあったので、そのことを伝えに来たんです」


 アルテミスが言うと、高橋は私たちを、立ち入り禁止のテープの中に入れた。高橋では頼りないと思ったのか、この事件の担当刑事は桜町外の警官だった。高橋を現場のリーダーにしなかった、上層部の対応は正しい。


 高橋は、担当刑事のもとに私たちを案内した。立ち入り禁止って言いながら、警備はあまり厳しくないようだ。


「日野さーん。情報提供者、出現っすよー」

 高橋は殺人現場とは思えないほどの、マイペースな口調で言った。そのおかげで妙な緊張を感じなくてすんでいるのは助かるが、なんだか赤川に申し訳ないような気もする。


 日野と呼ばれた男性は、高橋の声にこちらを振り返った。口にたばこをくわえている。


「日野さんは、美琴警察署からの応援で来てくれた刑事で、()()()なんだよ」

 高橋は横にいたアルテミスに耳打ちした。


重煙者(ヘビースモーカー)

 アルテミスは高橋の謎に独特な当て字に笑った。


   ***


「で、君たちは昨日の夕方5時ごろに赤川さんに出会い、彼女は『今から森むこうの祖母の家へ行く』と言っていた、と」

 日野は煙草から煙を立ち昇らせながら、手帳にメモを取った。


 私たちが日野と話しているのは、事件が起こった地点から10メートル強しか離れていない場所だった。


 日野の背後に、しゃがみこんで何かを観察している警官がいる。そのすぐ近くに、白字で数字が書かれた黒い小さな目印が立てられているのが見える。


 刑事ドラマ以外で、あれを見たのは初めてだ。あそこに赤川がいたのかと思うと、胸が苦しい。


「なるほど、死亡推定時刻から考えるに、被害者は君たちと別れてすぐ、まっすぐ森にやってきたみたいだな。これで彼女の事件前の行動が、よりクリアに分かった」


 日野はそれから、私たちに訊いた。

「最近、赤川さんに、何か変わった様子はあったか?」


 私は首を横に振った。

「いつもどおりでしたよ。尋常じゃなくオシャレにこだわってて、人並み外れて恋バナ好きで、授業態度もすこぶる不真面目でした」


「それは普通なのか・・・まあいいや。トラブルに巻き込まれていたとか?」

「ないと思います」


「そうか」

 日野は次に、アルテミスを見た。

「君は、何か気づいたことは?」


 アルテミスはすみません、と首を振った。

「僕は昨日、赤川さんと初対面だったので」


「ふーん。そうか。捜査協力に感謝するよ、2人とも」

 日野は手帳を閉じた。


 赤川の遺体があったであろう場所にしゃがみこんでいた警官が、私たちの話が一段落ついたのを見計らって、立ち上がった。

「日野さん」

「おう、久川」

 立ち上がった警官は久川というらしい。長めの金髪に、切れ長の目が特徴的だ。


「何か、わかったか?」

 日野の問いかけに、彼は金髪を耳にかけながら言った。


「いや、まったく。よく考えたら僕、暗号解読なんて、まったく向いてませんでしたね」

 久川は、日野の肩をトンとたたいて、彼の手に何かを握らせた。


「というわけで、代わりにお願いしますね」

 久川は私たち二人にも、日野と同じ何かを、半ば強制的に渡すと、高橋のほうへ向かって歩きさった。


 残された3人の手には、棒キャンディーが1つずつ握られていた。


「あいつ、ヘビー棒キャンディー野郎なんだ」

 日野はヘビースモーカーをもじって、久川を形容した。それから、去り行く久川に向かって怒鳴った。


「おい、どこ行く気だ久川! 俺だって、暗号なんて、ちっとも、わかんねぇっつーの! 丸投げすんなや!! っていうか、高橋! お前も久川と一緒に消えるつもりか。そうはさせねぇぞ!」


 私とアルテミスは顔を見合わせた。

 美琴氏の警官は、かなり個性派ぞろいだ。


   ***


「暗号っていうのは?」

 アルテミスはさりげなく、日野に尋ねた。警察官から捜査状況を聞き出すつもりだ。


 普通なら、日野はその質問には答えなかっただろう。ただ、彼は今、久川と高橋という不真面目な同僚に結局逃げられてしまい、とても機嫌が悪かった。


 イライラがピークに達しており、判断力の若干落ちている彼は、

「被害者のもとに残されていたものだ」

と言いながら、赤川が倒れていた地面を指した。久川がさっき、熱心に見ていた場所だ。一般人にそんなこと、教えていいのか?


 何はともあれ、私たちはその場所を見に行った。


 舗装されていない土の地面には、赤川の血痕が飛び散っていた。そしてその横には、木の棒で書いたような文字が残されていた。


『101 26 100 26 x 42 85 42 85』


「ダイイングメッセージ?」

 アルテミスは文字を見て、ひとりごとを言った。


「さぁね、どうだか」

 私は首を傾げた。


「記事によると、赤川さんは人狼に食い殺されたのよ。食い殺されたことないから、分からないけど、おそらく彼女にはこんなに長いメッセージを、しかもこんなにキレイな字で残すことはできない。そんな時間はないはずよ」


「確かにそうだ。それに、こんなにわかりやすくメッセージを残したら、犯人に消されてしまう」


「そして、決定的なことがもう一つ。赤川はお世辞にも、頭がいい方じゃない。時間があったって、死ぬ前にこんな暗号を思いつくなんて、ありえないわ」


「死者への冒涜」

「いいじゃない。ほんとのことだもん」


 日野は新たなタバコに火をつけて、私たちの元へ戻ってきた。日野は暗号を見て、憂鬱そうな目をした。

「2人とも、それ、何のことかわかるか?」


 その問いに、私たちは首を横に振った。日野は煙を吐き出して、うなずいた。

「やっぱ、そうだよな」


   ***


「ところで、記事って何のことだ」

 日野は私たちに尋ねた。


 私は、スマホで桜田ミリアに送ってもらったニュース記事を表示した。


 スマホを受け取った日野は、記事を読んで顔をしかめた。

「誰だ、こんな記事を書いたやつは」


 日野は私にスマホを返すと、深々とため息をついた。

「また一つ、問題が増えたな」


「その記事がどうかしたんですか?」

 アルテミスは訊いた。こうなったら、とことん捜査状況を引き出してやろうという魂胆だ。日野は部外者の私たちに、事情を説明した。


 ここの警察は、情報管理が棒キャンディーより甘い。


「この記事の最終更新日時は今日の早朝・・・警察が『森で人が倒れている』と通報を受けてから、1時間かそこらだ。そのときにはまだ、俺たちはマスメディア側に捜査状況を伝えていない」

 日野は深刻な顔で言った。


「じゃあ、この記事はデマってことですか?」

 私が言うと、「いや」と日野は否定した。


「内容は実に正確だ。赤川さんの体には、事実複数の噛み跡があったし、歯型はオオカミのものに非常に近い。


 そして、噛み跡が首や顔など、体の上部に集中していたことから、野生のオオカミの仕業ではない・・・普通のオオカミは4足歩行だから、そんな高いところを狙うのは、無理があるし、非合理的だ。


 だから、オオカミの身体特徴を持ち、なおかつ2足歩行である人狼の犯行だと断定した。・・・この記事が書かれた時点で、この事実を知っていたのは警察だけだ」


「情報が、リークされたってこと?」

 私は敬語を忘れて、日野に言った。リークなんて言葉、物語以外で使うのは初めてだ。


 日野はううん、と考えこむ。

「そうだとしても、動機がない。それに、うちの警官は、主に高橋を見てわかる通り、わざわざwebページを開設して、記事を書くほどの技術力のあるやつはいない。その記事を拡散するなんて、できるわけがない」


 日野は真面目な顔で言った。


 情けない警官たちね。

 私はこの町が、少し心配になった。


   ***


「ちなみに、君たち名前は?」

 日野が私たちに訊いた。


「冬宮雪花です」

 私は言った。


「アル・・・えと、月島或斗(つきしまあると)です」

 アルテミスは言った。


 日野は、よろしくな、と言った。


 日野がいったんその場を離れると、すぐさま私はアルテミスをからかいにいった。

「日本人ぽい名前にしたわね、月島君?」


 アルテミスは「だってー」と口を尖らせた。


「アルテミスです、なんて言ったら『なに人?』とか聞かれて、めんどいんだよ。月から来ましたって言っても、地球人は信じてくれないし」


「そうね。頭おかしい人と思われるのが、オチよね」

「ホント、どストレートに言うよね」


 言葉を包むオブラートなど持ち合わせていないのが、冬宮雪花の生きざまだ。


   ***


 しばらくして昼になったころ、日野がまた戻ってきた。久川と高橋は、まだ戻ってきていない。


「ひゃくいち、にじゅーろく、ひゃく、にじゅーろく、エックス、よんじゅーに、はちじゅーご、よんじゅーに、はちじゅーご・・・あーあ、分かんね」

と日野はぶつぶつと、つぶやいていた。暗号のほうも進展はないことが、容易に察知できた。


「あの暗号は消されていなかった。ということは、あのメッセージを書いたのは犯人だ」

 アルテミスも思案顔でつぶやいている。


「もしあの暗号が、犯人の残した犯行声明だとしたら・・・? なんでわざわざ暗号化したんだろう。犯行声明って『自分がやりました』って、みんなに伝えるために書くものなのに。ね、雪花ちゃんは、どう思う?」


「赤川さんを殺すような奴の考えなんて、分かりたくもないわ」

 私はそう言って、近くの木にもたれかかった。右手首についた青いリングが木に当たった。


 そうだ、このリング。


 赤川のことがあって忘れてたけど、アルテミスの『月に帰らない宣言』を無事成就させるためには、このリングを全種類集める必要がある。


「ねぇ、アルテミス」

「ん? 何?」


「リングって、全部でいくつあるか、知ってるの?」

「皆目見当もつかないよ」


「誰が持ってる、とかも?」

「おふこーす、のっと」


 ああ、先が思いやられるわ。

 私は小さく嘆息した。


   ***


 5分ほどたったころ、久川と高橋が立ち入り禁止のテープの内側に戻ってきた。


「おい、久川! どこ行ってやがった!」

 日野の怒声が出迎えた。


 久川は落ち着き払っている。

「被害者の祖母の家に、事情を聴きに行ったんですがね。孫娘が亡くなって、気が動転してるみたいで、あまり何も語ってくれませんでした。


 あと、この森の中に腕の良い猟師が住んでいると聞いて、事件について何か知らないか話を聞こうとしたのですが、そっちは留守でした。つまり、進展はたいして、なかったってことですね、はい」


 それを聞いた日野は、口ごもった。

「そ、そうか。ちゃんと仕事してたんだな。ご苦労」


 久川、意外と有能じゃない。

 ただの棒キャンディー野郎じゃなかったのね。


「高橋、お前は?」

 日野は高橋に鋭い目を向けた。高橋は、ハ、ハイッと背筋を伸ばした。

「僕は、事件現場近くを散歩して、大きなお花畑を見つけましたっ!」


「それだけか?」

「もちろんですよ。それ以外、なにがあるっていうんですか」


 高橋の開き直りっぷりに、日野は怒りを通り越して、諦念の境地に達した。


「で、高橋。お前が手に持ってる、その袋はなんだ」

 日野は落ち着いた声で言った。高橋の手には、コンビニの袋があった。


「ああ、コレ。そろそろお昼なんで、みんなで食べようと思って、買ってきましたよ」

 袋の中には、人数分のコンビニ弁当が入っていた。


   ***


 せっかくなので、高橋が見つけたお花畑でお昼にしよう、ということになった。さすがに殺人現場で食事をする気になれないし、気分転換にもなる。


 お花畑はとても広くて、色とりどりの花が咲き乱れていた。


 そういえばティンカーベルが『森でお花畑を見つけた』と話していたっけ。もしかして、ここのことだったのだろうか。


 キレイなところだ。こんな深い森の中にあるのでなければ、有名スポットになっていたかもしれない。


 私たちは警官たちとともに、お昼を過ごした。もはや部外者って感じはしない。立ち入り禁止区域の中に入るわ、捜査中の内容を教えてもらうわ、たぶん私たちは、高橋よりもこの事件に深く関わっている。


 久川は弁当を早々に食べ終え、どこかに電話をかけていた。


 彼は戻ってくると、さっそく日野に報告した。

「森に住んでいる猟師は、森本良治(もりもとりょうじ)というそうです。彼は今日、地元の猟友会の集まりに参加する予定だったのに、姿を見せていないそうです。彼の行方を知っている人は、まだ見つかっていません」


 日野は、そうか、と少し考える。

「森本が行方をくらましたのは、この事件に関係あると思うか?」

「さあ? まあ、少なくとも森本は、オオカミ男ではありませんね」


「容疑者候補ではないってことか。もしかして、この事件の第二の被害者として、どこかに倒れている・・・とか?」

「そこは、何ともわかりませんね。昼から考えますか」


「そうだな。暗号の手がかりも、まったくないわけだし」


 一方、私とアルテミスは、お弁当を食べ終わったら町に戻ろうということで、意見が一致した。


   ***


 町のほうに戻ると、桜田ミリアが白柳カフェにいた。鶴野と酒田の姿も見える。店番中の白柳美月も一緒だ。


「雪花!」

 ミリアが私に気付いた。それから、アルテミスを見て「誰コイツ」という目をした。


「みんなで集まって、どうしたのよ」

 私はミリアの視線を無視して質問した。4人とも珍しく真面目な顔をしていて、ただ集まっておしゃべりしていたようには見えない。


「私たち、涼子を殺した犯人を、捜すことにした」

 ミリアは唐突に切り出した。


「え、どういうこと」

 私は聞き返した。ミリアは超真剣に私を問い詰めた。


「涼子は私たちの友達だよ? 雪花ちゃんは友達が死んで、なにも思わないの? 犯人、絶対許せないって、思わないの?」


「それは・・・」

 私は返事に詰まった。何も思わないわけがない。もちろん犯人には、罪を償ってほしい。だが、そういう問題ではないだろう。


「どうやって犯人を捜すつもり? 忘れてるかもしれないから、一応言っとくけど、私たち、何の権限もない高校生よ」

 私は質問を返した。それにミリアが答えた。


「記事に、犯人は人狼って書いてたでしょ。人狼を見つけたら、話を聞きに行くの」


「この町に住んでいる人狼は、そんなに多くない。たぶん手分けして探せば、1週間ぐらいで総当たりできる」

 鶴野が付け加えた。


 私はその言葉に、呆れた。

「話を聞いて、どうするの? もし話しかけた人が犯人だったとして『はい、私がやりました』って、認めると思うの?」

「っ・・・それは」

 ミリアが答えに窮した。


 酒田がフォローに入る。

「それが無理なら、人狼を見つけたら、すぐに警察に通報すればいい。あとは警察に任せれば、OKだろ」

「そうだよ、雪花。それならいつか、犯人を捕まえられるよ」


 私は今言われたことに、すごく嫌な感じを覚えた。

「はぁ? あなたたち、そろいもそろって、バカなんじゃないの?」

 私が言い放った言葉に、ミリアは凍り付いた。他の3人の表情が険しくなった。


「ミリア、あなたの友達を思うハートがどれほど熱いかってことは、よくわかったわ。

 でも、人狼の側に立って考えてみなさいよ。その理論だと、無実の人狼まで通報されることになる。人狼だからっていうだけの理由で。

 それって、おかしくない? 

 あなたたち、自分が人間だってだけで通報されたら、どう思うのよ」


「それは・・・そうだけどっ! でもっ! 雪花は・・・涼子があんなことになったのに、何とも思わないってこと?」

「何とも思わないなんて言ってないわ。でも・・・」


「じゃあ、何で何もせず、じっとしてられるの」

 ミリアに睨まれて、私は返事ができなかった。


「行くわよ、月島」

 私はそのまま、彼らのもとを離れた。アルテミスは黙ってついてきた。


   ***


「僕は正しいと思う」

 歩きながら、アルテミスは言った。


「何が?」

と私は目を合わせずに言った。


 今までしょっちゅう教師にたてついてきた私だが、仲の良い友達に、面と向かって真剣に『バカ』といったことはなかった。思ったより友達と喧嘩するのって、しんどい。


「雪花ちゃんが言ったこと、正しいと思う。種族だけで、その人を判断しちゃいけない」


「そう・・・」


「あ、あと、犯人は赤川さんのもとに、メッセージを残している。それが犯行声明じみたものなら、犯人は自分を探してほしいってことになる。素直に探してやるのは、犯人の思うつぼだよ。警察がやるならまだしも、高校生が動くのは危険だ」


 アルテミスは、私の顔色をうかがった。


「私のこと、慰めてくれてるつもり?」

 私がきくと、アルテミスはすごく焦った。


「あ、えと、うん。っていうか、慰めになってないかも・・・じゃなくて、そもそも慰めてほしくなかった? えっと、なんか・・・ごめ・・・」

「謝んないでよ。嬉しいんだから」


「やっぱそうか、ごめ・・・え? 嬉しい?」

 アルテミスはだんだん混乱してきたようだったが、最後に

「なんだよ」

とすねた表情を見せた。そんな素直な反応を見ていると、少しだけほっこりした気分になった。


 私、やっぱり性格悪いのね。


   






 



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