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元魔王による異世界領主生活〜強すぎてぼっちだったので領主として人生やり直す〜  作者: たんたん
【第二章】配下→領民、増えていく領民
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【第4話】魔王、料理人を仲間にする

 イフエルタが放った津波のような黒い炎を発生させる魔法。

 実を言うと俺はこの魔法、いやそもそも黒い炎を発生させるスキルなど見た事も聞いた事もなかった。



 基本的にスキルというのは、大半のものが他人からの伝授によって誰でも習得する事が出来る。

 例えばティナが扱う【剣術】スキルについては、王都の騎士や兵士などの剣術に精通したものから教えを請えば、大半の者が三日程度で剣術スキルの6級を習得することが出来る。

 俺もこの目で見たことは無いのだが、実際に王都や大きな街などでは、各種スキルの伝授などの依頼が出回っているようで、他者へのスキル伝授を仕事とする者が一定数存在するとのことだ。



 だが、中には他者への伝授が行えないスキル、所謂特定の者しか扱うことが出来ない特別なスキルが一定数存在する。

 例えば、俺が持つ【魔王スキル】や、ティナが持つ【勇者スキル】が良い例だ。

 俺が持つ魔王スキルは、遠い昔から魔王として魔族を統べてきた俺の一族しか使用することが出来ないスキルであり、人間は当然のこと、魔王以外の魔族にも魔王スキルを伝授することは出来ない。

 勇者スキルについても、噂によると前兆も無しに突如として発現するものらしく、魔王スキルと同様に他者への伝授は出来ないスキルであることは、俺が生きていた時代でも広く知られていた事実である。

 そしてそれらは、他者への伝授が行えない特性から、世間一般では【ユニークスキル】と呼ばれ、これらを扱う者達の多くは、その希少性を要因に周囲から羨望の眼差しを向けられる存在であったらしい。

 まあ、ぼっちの俺がたまたま風の噂で耳にした程度なので、詳細については不明であるのだが。



 そして、恐らくイフエルタの放った魔法も、恐らく勇者スキルなどと同様にユニークスキルであろうと俺は予想していた。



 禍々しいとも表現出来るような黒炎の波が、縦横に大きく広がりティナへと迫る。

 津波の両端へと移動し躱す、といった選択肢を取るには些か時間が足りない。

 かといって、身体強化をかけた体で目一杯ジャンプし、運よく津波を飛び越えられたとしても、空中で無防備の状態の身体を先程から次の魔法の準備を行っているイフエルタに撃ち抜かれるだけである。



 万事休すか。



 戦況を俺がそう判断したところで、ティナが動いた。

 ティナの行動は、津波の両端へ逃げるでも、上を飛び越えるでもどちらでも無かった。

 ただ自分の剣を両手で地面に突き刺しただけだった。



 直後、地面に突き刺したティナの剣が白剣の光を帯びる。

 それは勇者スキル特有の光だった。

 そしてティナは叫ぶようにスキルを発動する。



「爆ぜろっ! 【ホーリーブラスト!】」



 突如鳴り響く轟音と、足元に感じる若干の揺れ。

 砂煙と共に、小石が周囲に飛び散る。



「くっ……無茶苦茶な事やってるんじゃないですの!」



 ティナは自分の前方の剣を突き刺した一帯を、スキルにより爆発させ大穴を作ったのだ。

 大穴の周りは爆発の衝撃で、堤防のような起伏が出来上がっており、ティナはその穴の中に身を隠し伏せる事で津波を下からやり過ごした。

 躱された黒炎を、周囲を囲む木製の柵を燃やし尽くすのを防ぐために、イフエルタは悪態をつきながら魔法を解除する。



「私って頭の良さはそこそこだけど、こう言う機転はかなり効くのよねっ!」



 ああ、とんでも無いことをしてくれた……お前のその機転やらのおかけでここ一帯の地形は滅茶苦茶だ。



 先程までは綺麗に慣らされていたこの闘技場に、突如発生した大穴と、周囲に転がる岩石を見ながら俺が軽いショックを受けていたところで、その大穴から飛び出したティナはそのまま凄まじいスピードでイフエルタへと駆ける。



 なんとかその勢いを止めようと、イフエルタも先程まで準備していた魔法を放ち迎撃しようとするが、先程の魔法を躱された動揺は隠せず、必然的に魔法の精度と狙いが甘くなる。

 ティナは放たれる魔法を、必要最低限の動きで躱し、一瞬でイフエルタとの距離をゼロにした。

 そして、手元の剣の切っ先を、イフエルタの首元に突きつける。



「そこまでだ、この勝負、ティナの勝利とする!」



 こうして、予想外の口喧嘩から発展し、想定外の激闘となったティナとイフエルタの闘いは、ティナの勝利と言う形で幕を閉じた。



◇◇



「はぁ……負けちゃたのです」


「私にかかればこんなものよ! さぁ約束を履行してもらおうかしら! まず以前あなたが燃やした私の服の弁償よ! 見たところ今手元にお金は無いみたいだから……身包み全部とその杖で勘弁してあげるわ! そして、身包みを剥がれた恥ずかしい格好で王都まで帰りなさい。ソロ! 馬車を呼ぶのよ!」


「お前は下品な盗賊か! 少し落ち着け!」



 ティナがおっさんみたいな表情で、幼い美少女のような見た目を持つイフエルタの身包みを剥ごうとしたところで、俺はティナに軽い拳骨を食らわせた。

 もしイフエルタが一糸纏わぬ姿で王都へ送還されてしまっては、色々とまずい。

 年半ばもいかない少女の身包みを剥いだなど王都の者達に知られたら、一瞬で変態領主認定されてしまう。

 それだけは今後の領地経営を考えると避けたかった。

 いや、それ以前に俺は彼女に是非ここで料理人として生活してもらいたいと言うのが本音であるのだが。



「なあ、イフエルタ、それだけの強さを持っていながら、何故こんな辺境の寂れた村で料理人なんかやりたいんだ? それだけの実力があれば、仕事なんて引く手数多だろう?」



 ふとそこで俺は先程からの疑問をイフエルタに尋ねる。

 俺の言葉に嘘偽りは無い、イフエルタの実力は本物だった。

 惜しくもティナには敗れてしまったが、相性の悪さを勘案すると、二人の実力差はほとんど無いように感じる。

 そして、それほどの実力であれば王都でも様々な方面から美味しい仕事がいくらでも回ってくるだろう。

 


「わたし、小さい時から料理の店を出すのが夢だったのです。」



 すると、イフエルタは恥ずかしそうに顔を赤くさせ、その後どこか悲しげな笑みを浮かべながら言葉を発した。そして続ける。



「ですが、わたしの生まれ故郷はお世辞にも都会と言えるような場所ではなく、王都にあるようなお洒落な料理屋なんて一つも無かったですの……だから私は田舎を出て王都へ上京したのです。自分の店を出したい一心で、探索者として気が狂うように働きました。危険な仕事も沢山受けてきました。」


「それだけ沢山の仕事を受けてきたなら、もうとっくに店の出店資金くらい溜まっているんじゃないのか?」


「はい、確かに店の出店資金はあっという間に溜まったですの。ですが、その時にはもう、わたしは探索者として名が知れ渡ってしまい、自由に料理店を開く時間など無くなってしまっていたのです」


「……まあ、SSランク冒険者の宿命ね。探索者ギルドからの指名依頼もあるし、場合によっては国から直接依頼を受ける時もある。呑気にお店を切り盛りする時間なんてないでしょうね」


「……イフエルタってSSランク探索者だったんだな、まあ流れ的に一旦それは置いておこう」


「自分のお店を出すことは半分諦めていたのです。ですが、そんな時にこの村の事を噂で耳にしたのです。新しい領主が現れて、領民を募集していると。更にここに住むならどんな仕事をしても良いと」



 この村はどんな職にも就ける。それは本当のことだ。

 普通に領民を募集したところで、こんな危険な場所に移住する者などいるはずがない。

 なので、俺は移住の見返りとして、いくつかの魅力的とも言える条件を提示していた。

 その条件一つが、自分の好きな職に就くことが出来る。というものだ。

 勿論働かないというのは許していないが、働くのであれば、その者の過去や能力など関係無しに好きな職に就くことが出来る。

 

 かつて俺の配下達は、人間界の侵略を俺に無理矢理禁止され、やる事がないと去っていた。

 人間達には悪いが、彼らにとっては人間界の侵略が彼らのやりたい仕事であったのだろうと最近はよく思う。

 仕事は生き甲斐である、というのは良く聞く言葉だ。

 そんな生き甲斐を、俺は何も考えずに奪ってしまっていたのだ。


 それは俺の胸に決して忘れる事ができない教訓として深く刻まれた。

 だから俺は、今回の領民募集に当たって、このような条件を提示した。

 そしてそれが、イフエルタをここに呼んだ要因だった。



「本当に心が躍りました。気がつけば馬車に飛び乗っていました。夢にまで見た自分のやりたい仕事が出来る、と……ですがどうやらその夢もここまでみたいですの、わたしがここにいるのは、叶わない事ですので」


「ごめ゛んなさいっ! ……貴方にぞんな事情があっだなんで知らなかったわ」



 イフエルタが全てを話すと、いつの間に感動していたのか、ティナが泣きながら彼女に謝る。

 そして続けて、「出て行かなくていいからずっとここにいなさい! この村の料理人は貴方しかいないわ!」と闘い前とはうってかわってすんなりとイフエルタがここに住む事をすんなり認めた。

 どうやらティナは感受性が豊からしい。


 そしてこの雰囲気に居た堪れなくなったのか、「剣を振ってくるっ!」と村の奥にある森の方へと走っていく。

 どうやらこれが人間の青春というやつらしい。

 この表現が正しいかは定かではないが。


「良かったな、イフエルタ。どうやらこの村で店が開けるみたいだぞ」


 ティナが見えなくなったのを確認して、俺は隣で先程から俯いていたイフエルタに声をかける。

 すると彼女は広角をキュッと上げ、満面の笑みで言葉を発した。



「ふぅ、ちょろすぎですの!」



 ……え



「おい! もしかしてお前今までの話全部作り話なのかっ?」


「いいえ? 大体は本当の話なのです」


「大体って……正直なところ少し大げさでキナ臭いとは思っていたんだ。一体どこまでが本当なんだ」


「まあそんなことは一旦忘れて下さいですの、それよりソロさん、これから料理人としてこの村で精一杯働きますので、よろしくお願いしますね」


 そう言い、イフエルタはニコッと笑う。

 まんまと騙されたティナが不便で仕方ない。

 少し変な気分ではあるが、まあ何はともあれこうしてこの領地に人が増えた事は喜ばしいことだ。

 深く考えるのはやめよう。

 

 俺はイフエルタに「ああ、よろしく頼むよ」と返事をし、そのまま館へ戻るため身を翻した。

 

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