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ハイクロ  作者:
8/12

五 閉鎖三号

五 閉鎖三号



「ふふっ……ふふふふふふ……」

 芽宜未の口から不気味な笑いが漏れた。

「ふはーっはっはっはっ! ちょろいもんだ! やはり私は天才だった!」

 彼女は図書館屋上に、どこから調達してきたのか真新しい回転チェアと作業机、その上にノートパソコンを置いて、無線ネット環境まで整えていた。

「どうしたんですか」

 と瑠奈が近づいた。

「ふふっ、ふふふ、ここに来てからひっそりとネットに書き続けていた小説が……かなり、かなり好評なんだ。ぶっちゃけもう、ネット小説界隈じゃ大ヒットといってもいい……」

 芽宜未のニヤケは止まらなかった。

「サイトにつけた広告の収入も、最初はカスみたいなものだったが、今はもうワンクリック一円とか馬鹿にできないぞ。やはり……やはり、小説を書かせたら私は無敵だった。揺るぎない才能が証明された……」

「あ、実は少し自信なかったんだ」

 と伴乃が言った

「でもすごいですよ。ネット小説は人気の傾向も違うって聞きますし」

「そうだろう、そうだろう瑠奈。そうだな、これはおまえの好きな格闘技でいうなら、ボクサーが相撲界で活躍するようなもの」

「いえそれはなんか違いますし、かなり無理があります」

 得意分野だったので瑠奈は容赦なく否定した。

「プロのボクサーがアマチュアで活躍するみたいな感じかな?」

 と伴乃が言った。

「あれ、そう考えるとあまりすごくないですね」

 と瑠奈。

「いやいや盛り下げるなよ。実際プロは作品じゃなくて名前とか出版社の売り方で売れてることもあるんだから、尾画芽宜未の作家名を伏せて書いた小説がここまでウケたのは間違いなく実力の証明なんだよ」

「……あ、すみません芽宜未さん、自分で言わせてしまって……」

「めぎみ、ごめんねえ〜」

「……伴乃おまえ、ちょっとわざとだろ……。でも瑠奈の無自覚なそれも結構たち悪いぞ……」

 ――ともあれ、継続的な収入の見込みが得られたことで、三人はなんの気兼ねもなく散財ができるようになった。

「よく考えたら、これまでの財源……つまり生前の芽宜未さんのお金は、向こうの世界の法的にはもう芽宜未さんの自由にできるものではなかったんですよね。でも今はこっちの芽宜未さんがこっちで稼いでいるお金だから……」

 瑠奈に続いて伴乃が、

「うん! 罪悪感とか全然ないよね〜」

「罪悪感、感じろよ! おまえらにとってはどちらにせよ他人の金だろ!! なんだ瑠奈、『財源』って!」

 芽宜未は叫んだ。

「あっ、芽宜未さん、あのガチャガチャやりましょう」

「言ったそばから!! 全然話聞いてないな!!」

 それでも芽宜未は小銭を出して、瑠奈しか喜ばないであろうマニアックな格闘家のカプセルトイを買い与えた。

 三人は休日の繁華街を歩いていた。

 通行人に肩等が当たらないように、しかしたまに伴乃が当たりながら、それでもそれなりの人混みのおかげで違和感を持たれることはそうそうなく、ぶらぶらと街散策をしていた。

「でもたしかに、ずっとめぎみのお世話になるわけにはね〜。私もそろそろ、小説家デビューするときかな」

 と伴乃が言った。

 芽宜未はじっとその顔を見て、

「…………。なんかこう言うのも癪だが、おまえはちょっと変なセンスがありそうだからやめろ。売れたりしたらムカつくから。瑠奈は書いていいぞ」

「よし、もう書くしかない」

 と伴乃。

「あ、あれー、私、見込みなしですかー……?」

 と瑠奈。

「まあ、見込みなしというか、いや決してそんなことはないんだが、うむ、いいだろう。そもそも小説というのはだな……」

 芽宜未の講釈が始まった。

「私はあまり努力せずに売れたから一般論とはかけ離れた考えなんだが……」

「あっ、あの行列なんだろ」

「タピオカミルクティー的なものじゃないですか?」

「何よりまず、自分が他の大多数よりエライと思っていないと、出来はともかくとして思いきったものは書けないんだよ」

「くんくん……。いいにおいがする」

「あっ、ケバブだと思います」

「おまえら、少しは聞けよな……」

 そのとき衝突が起きた。

 ときどき後ろ歩きになりながらも人混みをうまくかわしていた芽宜未の後ろで、すいすいと人を避けて進んでいた瑠奈のさらに後ろで、余所見ばかりしていた伴乃が通行人のひとりとモロにぶち当たった。

「うわああ、ごめん」

 よろけながら伴乃は言った。

「まぁ聞こえてないけどな」

 と芽宜未。

「ああっ、相手の方から鼻血が! 真っ赤な鼻血!」

 瑠奈が慌てた。

「と言ってもどうしようもないだろ。おい伴乃、気をつけろよ」

 芽宜未が伴乃を見た。

 伴乃は、

「なんで鼻血が赤いの?」

「え、鼻血って赤いものですよ」

 と瑠奈。

「む……。いやおかしいな」

 と芽宜未。

「なんで私達以外に色がついているんだ」

 鼻血を出した相手方の少女は、それに触れた手のひらを見つめていた。

「でもこの方自身は、白黒じゃないですか?」

 瑠奈が言った。

 少女は黒い髪に、白い肌、白い服を着ていたが、

「……もしかして、超色白?」

 と伴乃が彼女にきいた。

 しかし反応がない。じっと手のひらの血を見ている。

「やっぱり聞こえてないですよね……?」

 瑠奈が言った。

「だが待て。こいつ、後ろから通行人が当たりまくってるぞ」

 と芽宜未。

 少女と肩が当たった通行人の女性が首を傾げて振り返る。

 その後で思い切りぶつかった男性が、「何だ今の」と言いながら、少女の体に触ろうとした。

 とっさに芽宜未が彼女の手を引いた。

「よくわからんが、一度場所を変えるぞ。おいおまえ、聞こえてるんだろ? 返事をしろ!」

「…………」

 四人は裏通りに入って、ビルとビルの間で足を止めた。

 少女は依然、無表情で、遥か遠くを見つめたままだった。

「歳は多分、私達と同じくらいだな。かなり痩せてはいるが」

 芽宜未が言った。

「仲間かな〜」

 と伴乃。

「わっ!」

 突然、瑠奈が大声を出して少女の目の前で手を叩いた。

 芽宜未と伴乃はびくりとしたが、少女はなんの反応も示さなかった。

「もしかして、もともと目が見えてないとか。音も聞こえなかったり……」

 瑠奈が言ったが、

「ううん」

 と伴乃が首を振った。

「さっきめぎみに引っ張られて走ってたとき、眼球が細かく動いてた。足元や障害物を見ていたんだと思う」

 そして伴乃は少女に、

「ねえねえ、名前おしえて?」

 と言った。

 また無反応かと思われたが、今度ははっきりと伴乃の方を見た。

「クローズスリー」

 蚊のなくような声で彼女はそう言った。

 伴乃はその細い手をとって握手をして、瑠奈はぺこりとお辞儀をし、


「クローズスリーちゃんね〜」

「クローズスリーさん、はじめまして!」


「誰か突っ込めよ」

 芽宜未は呆れ顔をしたが、

「ん……、待てよ、クローズスリー……?」

 視線を落として考え込んだ。

「クローズスリーちゃんはどこから来たの? やっぱり二字区?」

 伴乃のその質問に彼女は応えなかった。

「ここは楽しいですよー」

 瑠奈のそれも無視された。

「こちょこちょ、こちょこちょこちょ」

 伴乃が脇をくすぐった。

 クローズスリーは「ぶふっ」と吹き出した。

「笑った!」

 伴乃はくすぐり続けた。クローズスリーの口角は上がり続けた。

「笑顔がかわいいですね! 私は脇腹いっていいですか?」

 瑠奈も背後から参戦した。

「ふはっ、あははっ……」

 クローズスリーはついに声を出して笑った。

 が、次の瞬間、正面にいた伴乃に頭突きをかました。

 続けて、後ろにいた瑠奈にも後頭部で頭突きを食らわせた。

「うっ……」

「ぎゃあ……」

 二人はよろけて鼻血を出した。

「な……なにを……」

「なにをするんだぁ〜っ……」

「やめろってことだろ」

 芽宜未が言った。

 そして少女を見て、

「クローズスリー……【閉鎖三号】。最先端科学によって造られた、少女型戦闘アンドロイド」

 その言葉に、少女は静かにうなずいた。

 芽宜未は続けた。

「……という設定の、昔のアニメのキャラクターだ」

 少女は首をかしげた。

「こいつはそれになりきっているのか、いや……」

 芽宜未は、すこし異様なくらい澄みきった少女の瞳を見て言った。

「そう信じ込んでしまっている」

「ええ〜!」

「そ、そんなことがあるんですか」

 伴乃と瑠奈は仰天した。

 クローズスリーは、そんな外の世界など興味がないというように静かに佇んでいた。





 白髪と透けるような白い肌……、その細い手首には腕輪型端子が装着されており、様々な外部デバイスと接続して戦闘を行う。

 物語終盤では巨大飛空兵器と一体化し、五次元より現れた敵侵略生物の母船に突入、自爆して大打撃を与え、戦局を大きく動かした。

 クローズスリー……その儚さと作中屈指の戦闘力がファンを夢中にさせ、主人公やメインヒロインを差し置いて本アニメを代表するキャラクターとなった。放送終了から二十年が経った今でもその人気は根強い。


 ……というのが、アニメホームページのキャラクター紹介、クローズスリーの項目である。

「似てますね。さすがに髪の色は違いますけど」

 ノートパソコンの画面と少女を見比べて瑠奈が言った。

 四人は図書館の屋上にきていた。芽宜未は画面をスクロールして画像等をあさりながら、

「ふうん、腕輪型端子ね……。こんなのついてたっけ。まあ一回さらっと観ただけだったからな。なんていうか、売れる作品の研究がひょっとして必要かなと思った時期があって……天才の私には実際そんなの要らなかったんだけどな」

「腕輪型なんとか、ついてないね」

 伴乃が自称クローズスリーの手をとって言った。

「ついてたら怖いわ。しかし瑠奈の言ったとおり、外見は似てるな。薄くて儚い感じの猫っぽい童顔。……おい伴乃、あまりベタベタ触るとまた頭突きが飛ぶぞ」

 芽宜未が言った。

 クローズスリーはパソコンに表示されたアニメ画像を見ていたが、もう興味が失せたというようにそっぽを向いた。

「でも結局わからないですね。彼女が誰なのか……。反応を見るに、アニメ作品自体知らないみたいだし」

 瑠奈がそう言うと、芽宜未は、

「……いや。多分、そのうちわかる」

 パソコンの画面にちらりと目をやった。

「まさか二次元のクローズスリー本人ではあるまいし、アニメのファンじゃないとなれば考えられるのは一つだ。それすらも突飛ではあるが、死後の世界や白魔に比べたら幾分か現実的だろう」

「えっ」

「どーいうこと、どーいうこと」

 瑠奈と伴乃が食いついた、そのとき、

 ピロリンッ。

 パソコンに通知が入った。

 芽宜未がそれをクリックして開いた。

『速報 二字区の民家地下室に少女の遺体。異臭で隣人が発見。住人は半年前に空き巣で収監中の男。監禁か』

「……きたな。これだ」

 芽宜未は言った。



 続報。続報に次ぐ続報。二字区で起きた少女監禁致死事件は、すでに終わりかかっていた尾画芽宜未刺殺事件を完全に吹き飛ばし、世間の話題を独占した。

 空き巣男はこの件についての一切を沈黙してきたそれまでと一転、涙とともにすべてを自供した。五年前に自宅付近を歩いていた当時十歳の少女を連れ去ったこと。地下で食事を与えて育てたこと。その後、生活費であった親の遺産が尽きたため民家に盗みに入り逮捕されたが、事態の発覚を恐れて何も語らず、結果彼女を餓死させてしまったこと。

 少女の身元については当初全く不明であったが、男の家から誘拐当時の彼女の持ち物が見つかり、隣県の高速道事故で両親とともに死亡したと思われていた女児であると判明した。

 ただ、監禁の一点について容疑者の男は否定しており、自分は社会に馴染めず親も失った孤独を埋めるためにたまたま出会った少女を家に連れこんだが、地下室は鍵がついておらず自由に出入りできる状態で、閉じ込める意思はなかったと主張している。(恐らく事故時の怪我等で記憶を失い)「自分は何者か」ときく少女に、好きなアニメのキャラクターであるアンドロイドの名を教え、男自身はその製造者であると吹き込んだ、それによって偶然にも支配的主従関係が生まれたが、決して意図して彼女を外に出さなかったわけではないと述べた。

 また男は、少女への親的感情が芽生えており、彼女の健康と幸せを心から願っていたと言う。貯金が尽きてしばらくは働き口を探したがうまくいかず、当面の金欲しさに空き巣を働いた。しかし捕まったことでパニックになり、地下室の彼女のことは誰にも話さなかった。まさか彼女が空腹でも外に出ず自ら餓死するとは思わなかった――そう語った。

『これが事実なら、男の行ったことは洗脳に他なりませんから、実際の監禁状態ではなかったとしても、監禁、致死の責任は充分にあるかと思いますがね。何にせよ悪質ですよ』

 とコメンテーター。

 司会者が相槌をうった。

『ええ、そして、可哀想なのが、被害少女の親族です。少女の祖母は、孫を二度殺されたようなものだ、これならば事故で死んでいた方がよかったかもしれない、とコメントを……』

「少女の名前は…………出た。『虚空真中こぞらまなか』」

 深夜の図書館、ノートパソコンの画面、テレビ放送のウインドウの横で検索をかけていた芽宜未が言った。

「まなか〜」

 と呼びかける伴乃に、虚空真中であるはずの少女は反応しなかった。

「ガセなんじゃない?」

 と伴乃。

「いや、画像も出たんだが……つーか流してるの誰だ。クズだな。……どれもそいつそっくりだぞ」

 芽宜未が画面に出した画像は、儚げで猫顔な……しかし満面の笑顔の女児だった。

「でもほんと、やな事件だよね……。わかったときには全部終わっちゃってて、それがすごく後味悪くて」

 伴乃が言った。

 テレビ放送のウインドウでは、取材を受ける少女の祖父母が映されていた。

『本当に、元気な子で……』

『それが、食べられなくて、痩せ細って死んでしまうなんて……』

 祖母の言葉は嗚咽に変わった。それまで喋っていた伴乃が黙り込んだ。

「おいっ!!」

 瑠奈が突然、真中の肩をゆさぶった。

「あなたは虚空真中です! アンドロイドじゃありません! 思い出してください!」

 真中は依然、無反応だ。

「なんか……こんなの、あんまりですよ! 真中さんは助かってたはずなのに! せめて、思い出してください、あなたを想っているおじいさんやおばあさんがいること……」

「よせ、よせ瑠奈!」

 芽宜未が言って、瑠奈を強く引っぱった。

「忘れたいから記憶を封じ込めた可能性もあるんだ。……こいつは恐らく両親の死体を見ている。二人か三人かわからなくなったような死体をだ。無理に思い出させてやることじゃない」

 瑠奈はハッとして、地面に視線を落とした。

「……す、すみません、私……」

「うん、でもこの事件は許せないよ。なんか、誰に怒ったらいいかわからないけど」

 伴乃が言った。

「犯人が幼稚すぎるからな。それに、死亡者として数えられてしまった事故、記憶喪失に、素人の洗脳がここまで成功したこと……偶然、いや不運が重なりすぎている。まぁこの男は死んでいいけどな。気持ち悪いから」

 芽宜未が画面をスクロールすると、犯人の画像が出た。

 脂ぎった四十代無職男。

 その、汚いとしか表現のしようがない顔。

「博士」

 真中が言った。

 表情を変えずに。

「クローズスリー、あなたの命令を待ちます」

 これは以前ニュース等で同じ画像を見たとき、すでに示していた反応だった。

 瑠奈は複雑な顔をした。

 芽宜未は言った。

「こいつはきっとこれが幸せなんだ」

 伴乃はどこか遠くを見て、

「そうかな〜……うーん。…………。あー……そうだったかも……」

 と言った。





 翌日の朝、――空気が変わった。

 三人の服が黒く変わり、真中も鎧めいた黒い服の姿になった。

「真中、わかってるのか、戦いにいくんだぞ」

 芽宜未が言うが、真中はまるで反応しない。芽宜未は苦い顔で考えてから、

「クローズスリー」

 と呼びかけた。

 真中の目が動いた。

 しかし、

「クローズスリー、現在待機中」

 と返ってきた。

「…………。もういい。伴乃、建物の中に引っ張っていけ」

「は〜い」

 伴乃は図書館内に真中を連れていき、また屋上に戻ってきた。

「あの硬そうな服なら、この中では一番防御力がありそうだが……戦う意志がないんじゃあな」

 芽宜未は言って、遠くのゴルフ練習場のネットの上に現れた白魔に目を向けた。

 そして背中の黒い羽を広げた。

「ねーめぎみ、それで私達も運んで〜」

 伴乃が引っ付いた。芽宜未はその状態で二三度羽ばたいたが、

「重っ。無理」

 伴乃を払って一人で飛翔した。

 残された伴乃と瑠奈は、

「重っ、てなんだよぉ」

「仕方ないです。私達はジャンプでいきましょう」

 二人は跳躍して隣の建物に着地。そこからさらに跳躍した。

 それよりひと足早く目的地付近に着いた芽宜未は、ネックレスの卵からライフルを発生させ、白魔を狙った。

「もう少し射程が長ければ、開始数秒で片が付くんだが……。まあそうなると無敵すぎるか。今でさえ私の独壇場だからな。これがゲームなら経験値独り占め、私ばかり育っていくという大格差だ……」

 ニヤニヤしながらトリガーを引いた。白魔の頭は軽く爆ぜた。

「あっ、もう倒しちゃってる」

 近くのビルに着地した伴乃が言った。

「芽宜未さんがきてからこればっかりですよ」

 隣に着地した瑠奈が笑った。

「なんだ、おまえら来たのか。残っててよかったんだぞ」

 芽宜未は上空から嘲笑をあびせた。

「でもめぎみの銃って、威力あんまないんだよ」

 伴乃がこそっと言った。

「聞こえてるぞ伴乃。また当ててやろうか」

「今はちゃんと服着てるから、当たっても平気じゃないかな〜」

 そうして二人が睨み合ったそのとき、

「あれ、白魔を倒したのに、変身解けなくないですか?」

 と瑠奈が言った。

「ほんとうだ」

 と伴乃。

「おいおい、まさか」

 芽宜未は街を見回すと、さっと真顔になった。

 図書館屋上に白魔がいた。

 その正面には、建物に入ったはずの真中がいた。

「……二体目だ。しかもなんでまた屋上に出てるんだあいつは……」


 風で髪がなびいた。真中は、それがそこから見える景色の一部であるかのように、目の前の巨体の骸骨を見た。

「……」

 興味がなさそうに目を伏せた。

 白魔はその腕を掴んだ。

 ぶんと振り回し、空に放った。

 真中は道路上空に舞い上がり、人形のように落ちていった。

 白魔はさらに追い打ちをかけようとフェンスに飛び乗り――その頭部が木っ端微塵に吹き飛んだ。

 二百メートル先の空で、芽宜未がライフルをおろしてつぶやいた。

「されるがままかよ……。おい、大丈夫か真中!」

 真中は道路で車に撥ねられて歩道に転がっていたが、何でもない顔をしていた。

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