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六話、終わり。

 扉が開かれ、暗闇に一つの足音が響く。


 背筋の伸びた六〇歳程の男。顔には深いシワが刻まれ、髪は白髪でオールバック。


 身長は一七〇センチ程で体は細いが筋肉質。目は黒く、無表情の中に強い意志を見せる。


 その男は扉から出てくるなり言った。


「どうして抗うんだね? 己が紛い物であることは理解できていよう。我らに存在価値など無いのだよ?」


 シオンが座ったまま微動だにせず、鋭く息を吐いた。


 それを聞き、ニイナが確信有り気に問う。


「動けないのか?」


「はい、指一本動きませんね」


「ははは、俺もだ。なんで動けないんだあ? 爺さん」


「今の己らに動くという概念がないためだ」


「はあ? 俺たちは言葉を発せてるんだぜ? 動いてるじゃねえかよ」


 男は溜め息を一つ。


「下らないな。では訂正しよう、特定の行動以外を私が禁じたからだ。その様なことを知った所で━━」


「禁じたあ? 爺さん神様気取りかよ? できるわけねえだろうが。証拠を見せろ証拠をぉ」


「できるのだよ。地球人にとって、私は神にも等しいのだから。証拠なら己らの現状で十分であろう」


「爺さん金縛りも知らねえのかよ。こんなん幽霊でもできんだよ。神様だってんなら心を読むとか、何もない所になんか創るとかしてみろや」


 男は再び溜め息を吐き。


「実に下らないな。情報が欲しくばくれてやる。態々馬鹿を演じる必要はない。心は読めぬし、何かを生み出すこともできぬ。が、それでも己らには何もできぬのだから、早々に諦めよ」


 それに対しシオンが問う。


「大勢の人が消えた日の翌日、大型ビジョンやその辺のスマホにまで映像を流して、“固定電話で一一〇番するように”とジジイさんは言っていましたね? 私はその言葉に従い、固定電話を使用しました。その上で、ジジイさんの目的が分からないのですが」


「おいおい、お前爺さんの目的分かってなかったのかよ。ヤバすぎだろ」


「他人の考えなんて聞くまで分からないものでしょう? ごく普通ですよ」


「やっぱヤベエな。そこじゃねえから。目的が分かんねえんなら消えた奴らの末路だって分かんねえだろうが。家族なり友人なりをガン無視ってのがヤベエんだよ」


「ああ、そういう話ですか。でも末路は分かってますよ。固定電話で御迎えを見ましたから。ただ単に、何故ジジイさんがそれを望むのかが分からないだけで」


「そんなんどうでも良くね?」


「ええ、まあ。一応聞いておきたいってだけです」


「つっても爺さん全然答えてくれねえぞ? 恥ずかしいんじゃねえか?」


「それはないでしょう。一体何を恥ずかしがることがあるんですか? もっと別の、何らかの理由で答えたくないのでは?」


「いや、例えばだけど“全裸で徘徊したかった。でも人に見られたくなかった”みたいな動機かもしれないだろ?」


「そんな発想が出てくる時点で━━」


「良いかね?」


 男が有無を言わさぬ力強さで言い、続ける。


「私は紛い物を認め━━」


「いやいや、そんなんどうでもいいから。それより爺さん、神ってことは不老不死なのか?」


 が、ニイナが男の言葉を遮り問う。


「・・・・・・いや、私は神ではないし不死身でもない。ある種不老ではあるがな」


 と、眉を潜めて答えた男に。


「じゃあ死ね」


 風穴が、連続する銃声と共に増えていき。


 ニイナの両手には無骨な銃が一ちょうずつ。


 それを背中側、腰の辺りに仕舞い。


 腰のポーチから[魔物寄せ]を取り出し倒れ伏した男へ放る。


 [魔物寄せ]は地面に落ちると同時、赤い煙に変わり。


 直後、煙の中で黒が蠢き、黒は数々の魔物となり、最も近いエネルギーに襲い掛かる。


 互いを喰らい、男を喰らい、最後に残った一つの魔物を。


◯◇◯◇◯


「あんな強そうな化け物を簡単に殺せるなんて凄いですねー」


「そういうの要らねえから。それよりお前、これからの手掛かりある?」


 言いながら左腰の刀に手を掛けたニイナは。


「ん? ダンジョンは踏破できたのでは?」


 不思議そうに返したシオンを見て。


「そんな訳ねえだろ。踏破できたんならこんな会話できねえよ」


 面倒そうに腰を落とし。


「でも今のジジイさん。言動を鑑みるに貴方が言ってたダンジョンマスターですよ?」


 ニイナは柄を握り、前傾姿勢で、辺りを警戒しつつ。


「だからさっきのは偽物で、本物はまだどっかに居るってことだ。油断すんな」


「いや、それは━━」


「それに万一、何らかの条件を満たしちまったら俺たちだって消されるんだぞ? 早いとこ歪みから出て姿を隠す。話はそれからだ」


 と、真剣なニイナに対し。


 シオンが間の抜けた声で驚きを表情に言う。


「条件?・・・・・・貴方、消えた人たちがどんな理由で消えたのか、理解してなかったんですか?」


「そんなんどうでもいいだろ。さっさと後ろに来てしゃがめ。本物のダンジョンマスターを相手にしたら確実に死ぬぞ? 死にたくなきゃ急げ」


 辺りを警戒し、シオンに視線を向けないながらも気迫のあるニイナに。


 呆れた様子でシオンが言う。


「ジジイさんはもう居ませんよ。貴方馬鹿ですねえ。まあ三割っていうのが本当なら仕方ないのかも知れませんけど」


「ありえねえよ。ダンジョンマスターが倒れたんなら俺はもうここに居ない。絶対にな。だいたい━━」


 シオンが腕を一閃し。


 空間が裂け、その向こうには地球が。


「分かりますよ。私天才ですから。てことで話を聴いて下さい」


 ニイナは驚きを満面に。


「・・・・・・バケモンが」


◯◇◯◇◯


 暗闇の中、ニイナは武器から手を離してはいるものの、いつでも動けるよう身構え警戒を続けている。


 対してシオンは自然体で、危機感も警戒もなく地面に座っている。


 シオンはニイナを見上げて問う。


「じゃ、正確に答えてくださいね。貴方は、地球に来てから一〇日目に姿が変わってしまった」


 少し楽しげに、何かへの期待を見せるシオンに対し、ニイナは仏頂面で苛立たしげに答える。


「そうだ」


「一〇日というのは、ダンジョン内世界から追い出される大凡おおよその基準ですね」


「そうだ。俺がお前に教えたことだろうが。今更━━」


「今は私の時間でしょう。黙ってて下さい」


 その言葉には強い意志が含まれていて。


 「お前の時間ってなんだよ」ニイナはそう口を開きかけたが、何も言わなかった。


「では、次です。その二点を踏まえた上で、いくつかお教えしましょう」


 シオンは再び楽しげに。


「先ず、ダンジョン内世界はかつて実在した世界を元に作られています。ああ、いえ、違いますね。少なくとも地球は。です。地球は、昔実在していました。今はもう幻ですけど、根拠の無い世界じゃありません。私達は昔実在し、生きていました。分かりますか?」


「あぁ、まあ分かるけど」


「では次、人々が消えた理由です。私たちは最初、自身が既に滅んでいることを忘れていました。ジジイさんは、何らかの方法で人々にそれを思い出させたんだと思います。当時、貴方も私も眠っていたので予想でしかありませんけど、大型ビジョンやスマホ、テレビ辺りを使ったんじゃないでしょうか。そして、自身が幻であることを自覚した人々は、それを受けれて消えていった。消えた理由は確かです。私も私が幻であることを自覚した際、消えかけましたから。ここまで分かりましたか?」


「ああ」


 と、面倒そうに答えるニイナを。


 シオンは気にする素振りもなく続ける。


「つまり、私たち地球人は既に滅んでいて、それを思い出し受け入れると消えるんです。そして逆に言えば、思い出さない限りは消えない」


「まあ、そうかもな」


 それっきり、無音の時が流れ。


 シオンの楽しげな様子が、期待が、次第に薄れていき。


 訝しげに、シオンが。


「・・・・・・あの? 何かありませんか?」


 ニイナは無理解を示し。


「はあ? 何かってなんだよ?」


「・・・・・・話聴いてましたか?」


「聴いてただろうが。なんでお前は消えてないんだ。とか聞けってのか? 言いたいなら言えよ。お前が何を期待してるのかは知らねえけ━━」


 突如、怒ったような、裏切りを受けたような、そんな顔でシオンが叫ぶ。


「そんなんじゃない!」


 ニイナは少し驚き、シオンを眺めて。


「まあまあ、いった━━」


「ちゃんと考えて。・・・・・・下さい」


 力強くも孤独な涙声で。


◯◇◯◇◯


 あれから四日間、ニイナもシオンも全く喋らず、睡眠すら取らず、暗闇の中。


 シオンは膝を抱えて座り、ニイナをぼんやりと眺めている。


 ニイナはシオンから一〇メートル程離れて、座禅を組んで微動だにしない。


 四日ぶりの声はシオンの溜め息で。


「なんで動けたのか分かりますか? ジジイさんの時です」


 それに続いたのは問い。


 ニイナはゆっくり目を開けると。


「体質でな。状態異常は付かないんだよ」


 再び、シオンの溜め息。


「そうかもしれませんね。じゃあ、なんでジジイさんは無防備にここへ来たのか分かりますか?」


「動けなくしてたんだから無防備じゃないだろう」


 三度目の溜め息。


「そうですよ? 地球人にとって神に等しいジジイさんは、安全だと判断してここへ来たんです。けどまあ、もういいですよ。諦めます」


 シオンは吹っ切れた様子で。


「諦めるか。俺なりに必死で考えたん━━」


「分かってますよ。見てましたから。だからこそ、どうしようもないかなって」


 笑顔を浮かべてニイナに歩み寄り。


「さて、どうでしょうね。消えないでくれると嬉しいんですが。もし意識を繋いでいられたら、たくさんお話ししましょうね。言いたいことが山ほどありますから」


 楽しそうに、寂しそうに、ニイナに抱き着くと。


 その耳元で、涙を流して囁いた。


「私の名前は紫苑シオンですよ。もう忘れないで下さいね。お父さん」


◯◇◯◇◯


 思い出したその直後、俺はダンジョンの入り口に立っていた。

初ダンジョン、駆け足だったせいで色々足りてないよね。

読み返して次から改善できるように頑張ります。

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