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四話、始まり。

 声をかけたり、暴れたり、様々な場所に侵入したり、眠ったり、全裸になったり、と。


 ニイナは三日間かけて思いつく限りのアクションを起こしたが、何一つとしてこの世界に影響を与えなかった。


 人にも物にも触る事さえ出来ず、ニイナがさわれるのは地面だけ。


 変化なく三日が経過した今、ニイナは車道に寝転がって夜空を見上げていた。


「あ、流れ星だ」


◯◇◯◇◯


 ニイナが目を覚ますと雲一つない青空が見えた。


 その青さに魅入ったまま数分が経過し、気づく。


「声がない・・・・・・」


 慌てて上体を起こし辺りを見回すと。


「誰もいない・・・・・・」


 ニイナの視線の先には人っ子一人なく、エンジンが掛かったままの車やバイクが放置されていた。


 バイクは横倒しになっているが争ったような形跡はなく、人だけが突如消えたかのよう。


「ああ、そうか」


 ふと、ニイナの頬が持ち上がっていき。


「始まったってことなのか。何が条件だったんだろうな」


 言いながら立ち上がり、歩き出す。


「珍しいよな、ダンジョン内の世界でこんな無駄を作るなんて。消すくらいなら最初から用意しないだろ、他なら。それか黄色人きいろじんにヒントでもあったか。でも黄色人なんて覚えてねえよな? ヒントならヒントって分かるようにしとけっての」


◯◇◯◇◯


 ニイナが目覚めてから一二時間後。日は沈み、夜闇の中、人工の光は一つもない。


「やっぱおかしい。無駄が多いし何も起きないし広すぎる」


 雑居ビルの屋上で世界を見渡しニイナが言う。


 ニイナの右手にはこの世界の小石が握られていて。


「一応、もう一回」


 言いながら右手を大きく振りかぶり、小石を全力で投擲すると。


 小石は七キロ程飛び落下音を響かせた。


「ヤバイな、この世界・・・・・・」


 ニイナは直ぐ、恐怖を表情に隠れる場所を探し出した。


 タイムリミットを待って、この世界から脱出する為に。


◯◇◯◇◯


 あれから四日間、ニイナは路上放置された車の中から出なかった。


 極力身動きもせず、ひたすらにその時を待つ。


 人を見かけることもあったし、拡声器越しの大声を聞くこともあった。


 既に世界は動き始め、全ては役目に従ってニイナの行動を待っているのだから。


 けれどニイナは動かなかった。既にこの世界を踏破する気持ちは失せていて、人を観察することも、大声を聴き取ることもしなかった。


 明日で、ニイナがこの世界に来てから一〇日目になる。


 在り来たりなダンジョン内世界ならそろそろ追い出される頃。


 ニイナは少しの期待を抱き目を閉じる。


「分かんねえけどな。この世界普通じゃねえし」


◯◇◯◇◯


 未明。


「あの」


 少女。


「すいませーん」


 淡い金色の髪に真っ赤な目を持つ、真っ白な肌の少女。


「お〜き〜て〜く〜だ〜さ〜い〜」


 その少女が声を掛けながら揺するのは、黒髪黒目の少年。


 少年は身長一三〇センチ程で、路上放置された車の中、毛布にくるまり体を丸めている。


「起きないと殴りますよ〜」


 少女は右手を握ると直立したまま脇を開き、右手をゆっくり引き肩の横に、胸を張る形で構える。


「今起きないと本当に殴っちゃいますよ〜」


 言って、五秒後。


 少女の肘が少し動き、直後少年が血を吐きながら吹っ飛んだ。


 車のドアと一緒に四メートル程滑空し、地面に叩きつけられ転がる。


 顔を血まみれにした少年は少女を見やり。


「な、んで、この、世界にっ、こんなバケモン・・・・・・」


 呟き、気を失った。


 一方少女は拳を放った格好で固まり、不思議そうな顔で。


「マゾなんですか? キモいですね」


◯◇◯◇◯


 大型商業施設の一室。


 所狭しと保存食や飲料水が積まれているそこに、少年と少女は居た。


 血に汚れたボロボロの毛布は少女の手によって取り替えられ、血を拭われた少年の顔には多くの絆創膏ばんそうこうが貼られている。


 ハッキリとした口調で、ゆったりした雰囲気で、少女が言う。


「その武装どうしたんですか?」


 少年は目を閉じたまま規則正しい呼吸を続けている。


「面倒なんでまた殴りますよ?」


 その言葉を聞き、少年はゆっくりと目を開けて。


「何で意識があると分かるんだ?」


「勘です。で、その武装は?」


 少年は疲れたように溜め息を吐き。


「天才系か・・・・・・嫌な・・・・・・」


 右手で頭を抱えようとし、固まった。


「無視ですか?」


 少女の険のある問いに、少年は焦りを滲ませ。


「ちょっと待て。教えるけどちょっと待て。鏡はあるか? 鏡じゃなくても姿を確認できれば━━」


 言葉の途中で少女が指を差し、その先には大きな壁掛け鏡。


 少年は駆け寄るが、身長が足らずに目元から上しか鏡に映らない。


 鏡を見たまま固まる少年の横に少女が椅子を置く。


 少年はゆっくりと椅子を見て、ゆっくりと椅子の上に立つ。


 鏡に映ったのは黒髪黒目の垢抜けない少年と金髪赤目の少女だった。


「マジか・・・・・・」


 その声には深い絶望が含まれ、少年ことニイナの心情を如実に表していた。

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