二話、準備は大事。
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今朝見て驚いたわ。
かなり嬉しい。
男の住まいは世界の端の方にあり、ダンジョンには原チャリで一時間ちょいかけて到着する。
両脇にビル群を置き視界が狭かった道路はダンジョンに近づくにつれて視界が開け、人が増え、物々しくなる。
賑やかなのに物騒な雰囲気を持つのはこの場に集まる者たちが故だ。
ダンジョンに向かう者の殆どは銃や刀剣、盾や防具等で武装をしており、それらを今直ぐにでも扱えるよう自然に身構えている。
かと言って険悪な雰囲気がある訳でもなく陽気な者が多い為、明るく物騒な印象が生まれている。
ダンジョンの周囲五キロは危険区域に指定されている為、乗用物での進入は禁止されていて。
男は原チャリを駐輪場に停めるとダンジョンへ向かって軽快に走り出す。
「ああ、そう言えばそっか。今日誕生日じゃん。ありがとう、俺は今日で二八歳だ」
独り言を呟きながら。
◯◇◯◇◯
「あっ、確かに。もう使えねえや。新しいの買っとかないと」
二〇分程走った男はダンジョン侵入の直前に来た道を引き返し、馴染みの店へ向かう。
「あ、でも金ねえぞ。ヤッバイな・・・・・・いやでもあいつケチだしなあ・・・・・・まあ一応、頼んでみるか」
顔を顰めて小声でブツブツブツブツ。
「“ダンジョンには世界一、人が集まる”なんて常識だからなあ。煩いし暑苦しいし移動し辛いしでどうしても好きになれねえ。全員消えれば良いのに」
その瞬間、男の顔目掛けて拳が飛んでくる。
「オイテメェ! 今俺に消えろっつったかぁ!?」
振り向きざまに裏拳を放った巨漢が唾を飛ばしてがなる。
が、男は少し屈んで拳を躱し、既に走り去っていた。
◯◇◯◇◯
ダンジョンからは稀に何かが溢れ出してくる。
魔物だったり物品だったり、色々なものが。
昔、溢れ出した魔物に何棟ものビルが倒壊させられて二次被害を生んだ。
だからダンジョン周辺では大きな建築物は認められていない。
高さ二メートル程、奥行き六メートル程、間口四メートル程。
その小さな店に男は駆け込み。
「おっはよー、ユナちゃん元気?」
右手を上げて笑顔を浮かべ、カウンターに凭れ掛かる女━━ユナ━━に声をかけた。
ユナは薄いピンクの髪に黒い目を持っていて、背は一五〇程で表情は無。
淡い青色のワンピースを着て、カウンターの向こうで椅子に座り、両腕を組んで枕代わりに頭を置いている。
そのまま目だけを男に向けると平坦な声で言葉を返した。
「お金あるの?」
男は笑顔のままユナに近づき冗談めかして言う。
「おいおい〜、挨拶くらい返せよ〜。てことでもう一回な。おっはよう!」
「おはよう、お金あるの?」
「お金お金ってそればっかりかよお〜アッハッハ。そんなんじゃリンみたいに━━」
「無いなら帰って。お姉ちゃんに怒られる」
ユナは若干、剣呑な光を目に宿し言った。
男はそれを見て取ると。
笑顔を引っ込め顔を引き締め、真剣な雰囲気を纏い。
膝を曲げて腰を落とし、銃を装備した両足首に手を近づける。
ユナに見えるよう両手をゆっくり開閉し、深刻気な顔で。
「なあ、ユナちゃん。俺が善良で心優しくて、ちょっとした事で傷つく弱い人間だってことは知ってるだろう? もしもこんな事をしたら、俺もユナちゃんも一生モノの傷を負うかも知れないんだ。分かるよな? 別に只で寄越せって訳じゃ━━」
「帰って」
「・・・・・・」
「━━」
「・・・・・・」
「━━」
「・・・・・・」
男がより深く腰を落とし。
「帰って」
その声に固まる。
「[魔物寄せ]━━」
「帰って」
突如、男が動いた。
ユナと男の距離は一メートル程。
男は素早く屈むと両手を地面に付け両足を空中に後ろへ飛ぶ。
と同時、バネの役割を終えた両手を折り畳み、手の甲を額に当てて。
つま先が地面に着くと的確に衝撃を逃しつつ、膝を折り腰を折り、土下座をした。
あらん限りの大声で。
「おねがあああああああああい! ユナちゃんおねがああああああい! 俺とユナちゃんの仲じゃああああああああん! おぉ! ねぇ! がぁ! いいいいいいいイイイイィィィィィィィイっヒヒヒヒヒヒひひ! ヒィやっはああああああああ! うウェエエえええええええ! おねがあああああああああいいいい!」
男が土下座しているのは店の目の前、ダンジョン周辺の人が多い区域。
当然多くの通行人が居て、男に、店に、ユナに視線を向け。
男の奇行を見て顔を顰めたり嗤ったり、足早に去って行ったり。
ユナは身軽にカウンターを飛び越えると男へ駆け寄りその頭を蹴っ飛ばした。
揺れる大きな胸に周囲の男は沸いていた。
動き書くのが難しい。