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六の獣と神の祝福  作者: 最上和雪
孤高の王篇
3/9

二話『おかしなこと』

 思わず目を逸らした門番は、門を指さす。


「通れ」

「ありがとうございます」


 すんなり通して貰った上に、入税(町・国に入るための税金)を免除してくれた門番に感謝する。


「アーラ、そんなに怒らないで」


 モルスの手が、小さな鳥の頭に向かう。


「仕方ない。アイツが、フードを取ったから」

「気にしてないから」

「嘘ばっか......」


 自分の真意を見抜く辺り、自分を良く見ているのだろうと、嬉しくなってしまう。


「確かに、少しだけ気にしてる」

「やっぱり。焼肉にする?」

「焼き鳥にされてもいいなら」


 モルスの笑わない目から目を逸らす。若干、震えているのもその所為だ。


「約束したじゃん。『害がないなら構わない』って」

「害はあった」

「あの程度、害にはならないから」


 見た目は最高に美しい鳥なのだが、モルスのこととなると、モルス以外に制御が効かなくなる。それが、玉に瑕。


「さて、宿を探そう。その後は、ギルドに行こうか」

「分かった」


 モルスの足は、迷うことなく道を進む。それから数分して、一つの建物に到着した。


「モルスは、ここに来たことある?」

「ん? ないけど、どうして?」

「迷わなかった。知ってるみたいに歩いていた」


 アーラの指摘で、初めて気付く。何故、この宿屋に向かったのか。まるで、地図でも見ていたかのように。


「不思議だけど、気にしても仕方ない。ほら、入ろう」


 扉を開け、手入れの行き届いた建物に足を踏み入れる。


「いらっしゃいませー! お泊まりですか?」


 元気の良い声の、見るからに元気の良さそうな少女が出迎える。しかし、モルスはその娘を素通りし、カウンターに立つ、ふくよかな女に話し掛ける。


「一週間の泊まりでお願い出来ますか?」

「はいよ。九百三十六ギルね」


 出迎えた少女とは対照的に元気のない女は、そう告げる。


「えーっと、お金お金......」

「腰のポーチ」

「......これでいいですか?」


 腰のポーチに入った袋から、銀の丸い硬貨を九枚と茶色の丸い硬貨を三枚。そして、茶色の四角い効果を六枚、取り出して渡す。


「二階の五号室だ。他に何か入り用なものは?」

「そうですね......髪を切るハサミと、タオルをお願いします」


 この宿屋は、客の要望は、大抵のことなら予想済みらしい。髪切り専用のハサミと、タオルをその場で手渡してしくれた。

 それらを受け取り、モルスは二階へと続く階段を登る。

 道中、アーラが声を掛けた。


「不思議。この街、結界・・があるのにゴースト(・・・・)が出る」

「さっきの子?」

「......見えたの?」


 アーラには見えた少女の姿。だが、見えるはずのない(・・・・・・・・)モルスまで、その姿を目に映したのだから、驚かずにはいられない。


「おかしいよね〜。五年も気を失ってたんだから、そんなこともあるのか?」


 モルスは、物事をあまり深く考えない性格なのか。考えを放棄する志向がある。楽観的とも言うのか。


「呑気。何かあったらどうするつもり?」

「他力本願ではあるけど、アーラが守ってくれるでしょ?」

「当たり前」


 守らない(・・・・)とは、決して言わない。アーラにとって、モルスの存在は、自らの心臓以上に大事なのだから。


「じゃ、僕は髪切ってくるね」


 話の間に、気付けば辿り着いていた二階の五号室。一つのベッドと風呂。備え付けの机と椅子が置かれた質素な部屋。

 モルスは風呂場へ赴き、衣類を全て脱ぐ。

 傷。左側の胸部から上を、火傷が覆っている。

 そして幾何学的な模様が、全身に刻まれていた。


「相変わらずこの怪我は治らない......か」


 それはさておき。といったように、髪をバッサリ切り裂く。一メートル以上の髪の束が、地面に落ちる。


「さて、五年ぶりの風呂を堪能しましょっと!」


 何もない場所から出るお湯は、体の汚れを落として行く。




>>>>>>>>>>




 ベッドの上で、アーラが物思いにふける。


(目覚めてからのモルスは、明らかにおかしい。記憶が混濁してるのは分かる。でも、王の紋章(・・・・)が増えてた。いや、あれは王の紋章なの? それに、五年も寝たきりだったのに動けていた......。あの声は一体......)


 考えていても何も始まらないし、終わらない。それは分かっているが、どうしても考えてしまう。

 そんな中、原因の人物であるモルスが、何も知らない無垢な少年のような笑顔で、風呂から出て来た。


「ふぅ〜、気持ち良かった〜!」

「さっぱりした?」

「もう、し過ぎたくらいに!」

「そう」


 文字通り羽を伸ばしているアーラは、半裸のモルスの肩に乗る。


「服、行く?」

「う〜ん......。今日は寝よっかな。疲れちゃったからさ」

「そう」


 まだ陽は高いうちに、ベッドへとダイブするモルス。空中で浮くアーラは、モルスへ問い掛けた。


「前みたいにして寝ていい?」

「構わないよ。冬だから、その方が暖かいし」

「ありがと」


 その刹那、アーラの体が淡く光り出す。その光は、みるみる形を変えて行き──気が付けば、年端も行かない少女に変わっていた。

 その体や顔には、モルスと同じような紋章が刻まれている。


「《進化の系譜》か。便利だね、それ」

私達・・は、誰でも使える」


 鳥のように無表情なアーラは、毛布の中に潜り込む。

 二人は、これまでの疲れを取り、互いに暖め合うように眠りに就いた。


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