恋せよ乙女<2>
冬の大空洞は酷く寒い。沢も凍る時があり、飲み食いすら難しくなる。そのような時期だからか、ケモノも冬眠するものが多い。狩るものをほとんど見かけなくなるため、大抵の狩人は冬場になると地上で内職をする。この時期はケモノも狩人も大人しくなる。
「そうなんですね」
古川から話を聞いた幸は、さてどうしようと頭を悩ませた。リリアンヌとイシャンの二人が新たに加わり、発足したばかりの団だったが、どうやらやれることは少ないどころかほとんどないらしい。
「大空洞に潜れねえこともないですが、ケモノも活動止めてますからね。あぶねえ橋を渡るよりかはアルバイトに精を出す方がナンボかマシってわけです」
「仕方ないですね」
「アリとキリギリスですよ。冬までに貯めこんでるやつはその間、好きなことやったりするんで。ちっと長い冬休みみたいなもんだと考えりゃあ気楽なもんで」
「何が気楽ですか」
浜路がため息をついていた。
「こっちは日々の糧に苦労しているというのに」
「そりゃあ、姐さんの無計画のせいってやつでさ」
「言えてる」と雪螢があくび混じりに言った。
「雪螢さんは大丈夫なんですか」
「私は何でもやれるから。バイトを首になったりもしない」
確かに。幸は雪螢の仕事ぶりを思い出して納得する。
またもや浜路がため息をつく。その様子を見かねたのか、古川が助け舟を出した。
「旦那方、《猟会》に顔を出しちゃあどうですかい。狩人のならいってやつでね。新規開業したもんは挨拶に行った方がいいんじゃねえかと。それに、あすこは困ってる狩人に仕事を回してくれたりもしますよ」
「おお、渡りに船ではないですか。行きましょう幸殿」
挨拶は大事だ。幸は大きく頷いた。
「あんまり大勢で押し掛けるのよくないですから……」
幸は浜路と雪螢を連れて店を出た。この二人はオリガが追い出したがったのだ。
《猟会》の本部は喫茶店からさほど離れていない場所にある、大きな日本家屋だった。狩人たちはその建物を《蘭屋敷》とも呼んでいると、幸はそう古川に聞かされていた。
なぜか古川は蘭屋敷の住所を教えるだけで案内はしなかった。幸と、彼についてきた浜路たちはやたら長く伸びる塀を目で追いながら歩いていた。
「なかなか途切れませんね」
「結構でかいんじゃない、ここ」
「お腹減りましたね」
「すごくいいとこの人では?」
「緊張してる?」
「少し」
「お腹が減りました」
話しながら歩いていると、どこまでも続くかと思われた白土の土塀にも一端の終わりが来た。門を構えた入り口が見えてくる。今は開け放たれているらしく、何か、奥から声が聞こえてもくる。古川の言った通り、《猟会》が集まっているのだろう。
「ごめんください」と幸が門をくぐった。
声をかけると、前庭で箒を携えていた、恰幅のいい女性が幸たちに気づいた。彼女は突然の来訪者にも怖じたりした様子を見せず、にっこりと微笑みを作った。
「あら、珍しい。お若い方がこんなところに」
「ええと、ここで《猟会》の人たちが集まってるって聞いたんですけど」
「あら」
女性の目が細められた。
「狩人の方だったのね。あぁら、若いのにまあ。ええ、ええ、そうそう」
「新しく団を作ったので、その、ご挨拶にと」
「あらー、どうもご丁寧に。若いのにしっかりなさって……ええ? なんで狩人なんかになったの?」
質問攻めにあう幸。彼の困った顔に気づいたのか、女性は破顔した。
「やだー、ごめんなさいね。そうそう、こっちこっち。別棟の方に皆さん集まってるから」
女性が幸たちを先導する。庭の石畳を辿るように進むと、離れた場所に道場のような建物が見えてきた。そこは戸が開け放たれており、幸たちのいる場所からでも中の様子が見て取れた。
「もうすっかり出来上がってるし、いつもならお開きの時間なのよ。ちょっと待ってね。旦那さまー、旦那さまー!」
女性はぱたぱたと駆け、道場めいた建物の中へ声を放り投げる。誰かが二言三言返事をして、それから女性が戻ってくる。
「入っちゃっていいから、ああ、一応ね、上座のクソハ……おじいちゃんがここの旦那様だから、そこだけは気をつけてね」
それじゃあねと告げて、女性は来た道を戻っていく。
幸たち三人は顔を見合わせた。
結果から言えば幸たちは歓迎された。特に浜路と雪螢の存在が大きかった。若い女とは縁遠い狩人たちにちやほやされて、二人も悪い気はしていないらしかった。
すっかり輪に溶け込んだ二人とは違い、幸はぽつねんと座っていた。勧められた飲み物に手を付けて、ぼうっと宴の様子を見ていると、隣に腰を下ろしてくるものがいた。
「ここじゃオレらくらいのはそうなるよな」
そう声をかけたのは幸と歳の変わらない少年だ。つんつんに立てた髪の毛が目を引いた。
「あ、こんにちは」
「よう、お前も狩人?」
「君も?」
「おう。オレは甲功刀ってんだ。お前、いくつだ? 何年?」
幸が十七歳の高校二年だと答えると、功刀という少年はかっかっかと笑った。
「オレのがセンパイだな。一個上だ。どこに通ってんだ? 蘇幌?」
「うん。甲さんは?」
「功刀でいいよ。オレぁデン学。じき卒業だけどな」
「じゃあ、功刀くん。ぼくは八街幸。八つの街に、真田幸村の幸で」
「やちまたさち。おう、覚えた。たぶんな!」
紙コップの中身を飲み干すと、功刀は、宴の中心にいるガタイのいい男を顎で示した。プロレスラーのような体型の男である。幸は釣られてそちらに目を向けた。
「あれ、オレの親父。オレの上司? っつーか、リーダーみたいなもんでもある」
「同じ団に入ってるの?」
「おう」と答える功刀はどこか誇らしそうにしていた。
家族で狩人をやっているのか。幸は何となく、むつみのことを思った。
「で、八街幸も狩人なん?」
「うん。やっと見習い卒業したばかりだけど」
「へえ、そんで団立ち上げて、挨拶に来たわけか。どっちが団長? あっちのキツそうな目つきの人? それとも和服の姉ちゃん?」
「あ、団長はぼくなんだ」
功刀は目を見開いた。
「お前がか!? へえー、マジか、すげえ」
「すごくないよ」
幸は、団を譲り受けた経緯を簡単に説明した。功刀はおお、とか、おおお、とか、大げさな反応でその話を聞いていた。
「全然すごくないんだ、ぼくは」
「じゃあこっからすごくなろうぜ」
「すごく?」
「おう、すごくでかくて、すごく強い……なんつーか、まあ、いい感じに!」
功刀は何がおかしいのかげらげらと笑い、幸もやっぱりつられて笑った。ひとしきり二人で笑ってから、功刀は上座に座る白髪の老人を指差した。和装の彼はもう冬だというのに扇を扇いで風を送っている。
「あれが《猟会》のボスみてえなもんだ。蘭屋敷の蘭さんといやあ有名だぜ」
「そうなんだ」
幸は立ち上がる。功刀は不思議そうに彼を見ていたが、幸がすたすたと蘭の方へ歩いていくのに気づき、止めようとした。
「やめとけやめとけ、獲って食われちまうぞ」
「でも」
「おう?」
二人であたふたしていると、件の老人、蘭が気づいた。彼は扇を閉じると、それで幸を手招きする。
「あーあ、知らねえぞ」
「怖い人なの?」
「いや怖くはねえんだが……」
幸は首を傾げながら蘭の傍に近づいた。そうして初めましてと挨拶をした。
「おう、おれのことは聞いてるか?」
「蘭さんですよね」
「おうよ。《猟会》の会長をやってる。わけえの、狩人はしんどいぞ」
「はい」
「いいか。ちょっとこっち来い。あのな、おれが若い時はな……」
始まった。幸と蘭のやり取りを盗み見ていた功刀は額に手を当てた。
蘭は新人の狩人に長話をするのが好きだった。しかも特に中身のない話をするのが大好きだった。彼の記憶はあやふやで、話が脱線してあっちへ行ったりこっちへ行ったりするものだから聞いているだけで死ぬほど疲れてしまう。酔っ払っているから何度も同じ話をするし、しかるべきタイミングで相槌を打たないと機嫌を損ねてしまうという難儀な性分を持っていた。
「それでな。…………何だったかな。まあ、どうでもいいっちゃどうでもいいんだけどよ」
「蘭さんが蔦森でケモノを見つけてから、そいでどうしたんです?」
「おお、それよ。見つけてな、仲間と追いかけて取っちめたのよ。野郎、めちゃめちゃ抵抗するもんだから……あれ、抵抗してたっけか? どうだったかな……」
「はい」
幸はにこにことしていた。
長話が終わった後、蘭は満足して幸を功刀のもとに返した。
「お前すげえな」
「話聞いてただけだった」
「あの話ワケ分かんなくなかったか?」
「面白かったよ?」
支離滅裂なものには慣れていたこともあり、幸はあっけらかんとしていた。
「はあー……そういや、なんで来たんだ?」
「なんでって、挨拶だよ。団を立ち上げたらここに来るのが決まりだって」
「はっは、そりゃあもう、そんなもん廃れっちまったよ。親父がもっと若い時はそうだったみたいだけどな」
見てみろよ。
功刀は言って、周りを見回した。
「年寄りばっかだろ? 《猟会》も若い狩人が減ってさ、最近じゃあそういう決まり事なんか気にしないやつばっかりだし、だいたいは《騎士団》とか、《画竜点睛》とかのさ、でっけえ猟団に入るだろ? ここに来るのはソロでやってるやつとかが多いから、大抵の狩人はここにゃあ用がなくなるんだ」
「功刀くんは?」
「オレぁ、まあ、親父の付き添いだよ。べろんべろんなって一人じゃ帰ってこられなくなっちまうからな。それに、オレだってここで世話になってたし。ああ、ほら、あの黒髪の爺さんいるだろ?」
「うん」
「我路さんってんだ。あの人は幹部。そう言ったら偉そうだけど、面倒ごとを押しつけられてるうちの一人だな」
我路という老人は、歳の割に毛の量が多く、艶のある黒髪を束ねていた。
「蘭さんはハゲてっから、我路さんは目の敵にされてんだ」
「そうなんだ」
「面倒見のいいひとなんだけどな。そんで」
今度は眼鏡をかけた老人を見やり、功刀は幸に耳打ちする。
「ありゃあ梅田さん。なんつーかピシっとしててよ、学校の先生みてーな人だ」
「髪型も服装もびしっとしてるね。あの人も幹部?」
「そう。幹部は蘭さん入れて四人」
静かに酒をたしなむ梅田という老人は、ここに似合わないような雰囲気を醸し出していた。
「ま、アレで似た者同士って感じなんだけどな。あの人、《騎士団》からの出向組」
「《騎士団》の?」
「そ。出向って言うのとはちょっと違うかもだけど、何だったっけか。……ええと、《猟会》も古臭くなったけど、それでもメフじゃあでけえ組織の一つでさ、他のでっかい組織が人をよこしてくるんだ。狩人同士仲良くやろうぜってことでお互いの情報を交換したり、助け合ったりするために……何となく言いたいこと分かってくれっか?」
「仲介役みたいなもの? 戦国時代とかの取次とか、外交官みたいな」
「それ! たぶんな!」
なるほどと幸は納得する。梅田は《騎士団》の狩人で、だからここでは浮いた存在に見えるのだろう。
「最後に……ああ、いた。あのでっけえ人」
「うん。うん?」
功刀が箸で指したのは大柄な男だ。先から得体の知れない動きを繰り返している。
「あれ。何」
「踊りだ。どっかの部族から習ったらしいぜ。あの人も幹部なんだ」
「そうなの? 踊ってるけど」
「竹屋さんっつって……その、よく分からねえ人なんだ。声がでかくて鬱陶しいってことしか、オレは知らねえ」
「そうなんだ……」
幸はふと、竹屋の額に注視した。何かこぶのような出っ張りがあった。功刀はああと嘆息した。
「あの人、亜人なんだよ。人鬼って種族なんだけど、角があって力がつええ連中」
「角?」
「邪魔だからって自分で折ったらしいぜ。『どうやって寝返り打つんだ』ってよく言ってた。その痕がアレ」
「変わってるんだね」
「それだけじゃなくってさ、色々あんだよ。メフに来る前、世界中の色んなとこを旅してたとか、やべえケモノと戦ったとか……そんであの人は捕まってメフに連れてこられたんじゃないらしい」
「どういうこと」
「いや、なんか知らんうちにここに居ついてたんだって、みんな言ってる」
世界は広い。幸はそう思った。
宴もたけなわというところで、幸はもう一度蘭に呼びつけられた。
「よう、わけえの。最後にいいこと教えてやっから、ようく覚えて帰るんだぞ」
「はい。なんですか」
蘭は扇を閉じて、指を一本立てた。
「長くやっていける狩人の条件はな、三つある。……三つだっけか? ああ、そう、三つだ。おう。強い。賢い。逃げ足が速い。この三つだ。いい狩人ってのはこのうちのどれかを持ってる。一つはな。だがな、先に死ぬのは強いやつからだ。次に死ぬのは賢いやつ。三番目に死ぬのは逃げ足が速いやつ。俺ぁ三つとも持ってるからよ、ここにいる中じゃあ最後の最後に死ぬんだ」
幸は小さく頷く。
「八街だっけか? お前もそうなれ。おれみたいに、おれらみたいにな。どこのどいつがくたばっちまっても、自分が最後の最後に死ぬように頑張れよ。最後の一人になっても、なるべく生きろ。そういうのがいい狩人だ」
幸は頷いてから、もう一度、ここにいるものを見回した。蘭も我路も梅田も竹屋も、他の狩人も年寄りだ。功刀が言うように古臭くて廃れた集まりなのかもしれなかったが、それでも老いぼれになるまで狩人をやってきている。皆、いい狩人だからだ。
「ぼくも古臭くなるまで頑張ります」
「おう。……えっ。それどういう意味なんだ?」
後日、幸はメフの端っこにいた。
メフに連れてこられた扶桑熱罹患者が最初に立ち寄ることになる、駅前のロータリーじみた場所である。
『俺ぁよ。ばかでかいケモノを仕留めたことがあるんだ。しかも一人でな』
《猟会》で紹介された、我路菊水という老年の狩人に教えを乞うためである。
我路は最初、幸の頼みを固辞した。しかし熱心に頼み込む彼の熱意に負けたのか、だったら狩人の何たるかを教えてやると引き受けたのである。
教えてもらった住所へどうにかこうにか辿り着くと、小汚い雑居ビルが鎮座していた。不審に思ったが幸は足を踏み入れた。目的地は三階にある。階段を上るとドアが一つしかなかった。チャイムを鳴らすも壊れているのか音がしない。ふと、ドアに張り紙がしてあるのが見えた。『ノックで』という走り書きがあった。その通りにすると、ややあってからドアが開き、スーツ姿の我路が切れ長の目を幸に向けた。
「おう、坊主か。入んな」
「あ、お邪魔します」
三和土には靴が散乱している。どれも革靴だった。
廊下を抜けると事務所然とした部屋に突き当たった。幸は不思議に思った。数人の若者がデスク上のパソコンと向かい合って、何かしらの作業をしている。突っ立っていると、我路が適当な椅子を持ってきてそれを勧めた。
「よく分かったな。道に迷ったろ」
「少し」と、幸は温かいお茶に受け取った。我路は彼の傍に立って、腕を組んだ。
「あの。ここって」
「オフィスだ。俺のな」
狩人には似つかわしくない場所だ。幸はそう感じた。我路も察したのだろう。口の端を歪めてみせた。
「狩人のイロハを教えてもらえるって思ってただろ」
「はい。違うんですか」
「違うこたあないが、坊主が思ってるのとは違うだろうな。ここで何をやってるか分かるか」
「なんか、普通の会社みたいなことしてる……?」
おう。我路は頷いた。
「会社だよ。ただの、普通の。俺たち社員が狩人もやってるってだけで、やってることは普通だ。坊主。アレだ。ケータイでゲームやるだろ」
「アプリですか」
「そういうの作ってんだよ、ここで」
「えっ、そうなんですか」
「びっくりするだろ。聞いたやつはだいたいそうなるんだよ」
我路を少しばかり楽しそうにして姿勢を崩す。
「いいかアプリってのはな」
「あのっ。それじゃあその、狩人としてケモノを狩るとか、大きいケモノを一人で仕留めたとか、そういう話は」
「あぁん? 狩りなんて儲からねえことはな、血相変えてやることじゃねえよ。いいぞ、こういうのは。メフにいたって世界中に商品を届けられんだ。いい時代になったよな。時代が変わって世界が変わるだろ? 金儲けの手段も変わるんだ。狩りがどうこうってお前よ、原始時代じゃねえんだぞ、今は」
「ええー……」
「狩人としてやってくにはな、ハクをつけんのも大事なのよ。俺がもっと若い時はその話が看板になったんでな。色々と得したぜ。それによ、こんな爺になってもいまだにそのことが話のネタになるんだから、まあ言ってみるもんだわな」
と、我路は調子はずれの鼻歌を歌った。
「さーて、坊主。うちのアプリ、インストールしてくれよな。お友達にも宣伝しといてくれ。な?」
ひひひと蘭が笑った。
すっかり馴染みとなった蘭屋敷での宴会で、幸はからかわれていた。
「おいおい、そんなケチンボの戯言を真に受けたのかよう。ケチなくせに話は盛るんだから救えねえよ」
「超でけえケモノを狩ったとかさー、もう歳だし」
「どうせフカシだろ」
「耄碌しやがって」
突っ込まれた我路は酒瓶を片手に立ち上がった。
「フカシじゃねえしボケてねえよ!」
幸は我路について何も言わなかった。彼と約束したからだ。
『恥ずかしいから他のジジイどもには言うなよ』
幸が我路のオフィスを訪ねた日、彼は他の社員が帰ってから、念押しして話を切り出した。
『人間の目的は色々あると思うんだけどよ、やっぱり生きてくことが目的だよな。そのためには食わなきゃならねえ。食うためには金が要るわけだ。狩人の目的はケモノを狩ることじゃなく、それで金を得ることだ。金を稼ぐことが狩人の目的だ。逆に言えば、金さえ稼げれば狩人じゃなくともやっていけるよな。そのためにゃあ色んなやり方がある。だからよ、そういう色んな道とか、方法をよ、知りもしねえで全部投げ捨てて狩人になるのはただの逃げだ。やることやってそれでも狩人になりたいやつがなればいい』
我路のオフィスにいたのは彼が率いる猟団のメンバーだった。狩人としては大して腕の立たない、一人前とは呼べないような連中だった。
『俺には家族がいる。孫だっているんだぜ。でもよ、うちの団の若い連中も家族みてえなもんよ。分かるか。大家族なんだ。《騎士団》だって他の猟団だってよ、ケモノ一匹狩るだけじゃあ全員食わせていくことなんかできねえぞ』
夢だなんだと謳ったところで飯は食えない。我路の言うことはもっともだ。
「フカシじゃねえぞ! いいか、俺ぁあの日な、逆さ城のド真ん中であのばかでけえ猪みたいな」
「こないだは旧市街だったろ」
「前はでっけえヒキガエルを殺したとか言ってなかったっけ?」
「やっぱりボケてんじゃん」
いい話だ。我路はいい人だ。でもやっぱりフカシだと思う幸だった。