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お前のいたこの場所は  作者: まっくろうさぎ
第1章
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1話 日常

_______長い夢を見ていた気がする。あの人...何処かで見たことあるような...

でも、夢とは儚いもので、どんなにどんな顔だったか思い出そうとしてもその夢の記憶は薄れていく。何度も手繰り寄せようとしても小さな隙間からするりと抜け、どんどん思い出せなくなり、やがて消えてしまった。


「んぅ...」


まだ残っている眠気と戦いながら、負けまいと体を起こす。外から入ってくる早朝の冷たい風と日差しに少しずつ目が覚め、ゆっくりと辺りを見渡すと、周りにはたくさんの本が積み重なっていた。しかし、自分の部屋は普通の何処にでもありそうなベッドと、シンプルな机があるだけの、何もない部屋である。本なんてものはない。


ここは何処だろうともう少しよく見て見ると、此処は自分の家の書庫だという事が分かった。

おそらく、昨日本を読んでいる途中で寝落ちしてしまったのだろう。


自分の状況が把握できて来た所で、書庫を出て顔を洗い、早速庭に出る。


俺の家は此処らへんの街を治めている貴族なので、庭はとてつもなく広い。

此処で何をするのかっていうと、体作りの為に腕立てやら走り込みやらいろいろするのだ。


もうこれは日課になっており、かれこれ6年はやっている。

だけど、他にも6年やっていることはある。それは_______


「おい!またそんなことしているのか!!」

「!?」


しまった、ジジイにバレてしまった。めんどくさい事になりそうだ。


「いいか、そんな事やっていてもお前は出来損ないだ!魔法ができなければ意味ないんだよ!!そんなことをやっている暇があったら家事でもやってろ!」

「はい...お父様。」


そういうと、クソジジイはドスドス足音をたてながら去っていった。その後ろ姿をにらみ、俺はべーっと舌を出す。


家事といっても、昨日の夜全て済ませたからしばらくは何もする事がない。しかし、此処だとまたバレてしまう可能性がある。

なので俺は仕方なく、街の近くにある山へ向かった。山はそれなりに大きいので、簡単にバレることはない。


歩いている途中、大人の人は俺を睨み陰口を言い、子供は俺に冷やかしの言葉を投げる。

いつもの事なので構う必要は無い。しかしずっとその状況でいるのは辛いので、走って山へ向かった。


「ついたぁ〜、よし!やるか!」


山に着くと早速俺は腕立て三千回、腹筋三千回、逆立ちの状態で山を5周するなど、いつものセットをやり、早速本題に入る。


「よし、まずは他の人には見えないようにして...シールドを作るっと。」


そんなことを言い、手のひらを前に出すと、そこに拳サイズの立方体の透明な箱が出てきた。


「そのまま大きくする...」


その箱に魔力を送ると、箱は急激に大きくなり、やがて街一つを飲み込んだ。

この街はそこそこ大きい場所で、この国では五本の指に入る面積だ。それを考えると、この箱はとてつもなく大きい事が分かる。


「よしっ!前より大きくできたっ!」


そう、俺が6年間やっているもう一つのことは、この魔法の特訓だ。

この魔法はシールドと言い、主に守る役割を持つ魔法だ。

しかし、シールドは一般的に子供のパンチで破れてしまう、とても脆い魔法として、人々には使われてこなかった魔法だ。なぜそんな魔法に力を入れているのかというと、俺はこの魔法しか使えないのだ。

俺が3歳の頃...その事実が分かった。それを知った両親の顔は今でも忘れられない。


そりゃそうだ。魔法の威力で人間の価値観を決める世界だ。俺の両親もとても絶望したことだろう。


だけど、もう少し...もう少しだ。このシールドでもっとすごい事ができたらきっと許してくれる。


俺はそのまま寝転がり、どのくらいシールドを保てるかやってみる。


本来ならばシールドは、ただ張るだけで、他は何もできない。しかし、俺のシールドは6年間特訓をし続けた成果なのか他にも色々できるようになった。もはやシールドではないと言えるほどに。


あとどのくらいで強いと言えるのだろう。だけど、多分まだ俺は弱い。これじゃあ振り向いてくれる人はいない。


そんな感じのことを延々と考えていると、急に頭に激痛が走った。


「っ!?」


咄嗟に俺はシールドを解除する。しばらく経てば頭の激痛は徐々に収まっていった。


「あ、あぶねぇ...」


空を見上げると、もう空は紅く染まっていた。いろんなことを考えていたら、かなりの時間が経っていたらしい。

そりゃあ頭が痛くなるわけだ。


「あ!やばい!早く帰んないと!!」


昼を過ぎているってことは、昼食の時の皿があるって事だ。夕食の時間までに洗わなければ怒られてしまう。


「仕方ない、急ぐ為だ。人が見ない所を通っていけばいい。」


俺はシールドを地面と平行に一枚作り、それに乗る。後はシールドを動かすだけであっという間に家に着く。


「......。」


急いでいたからか、家へ向かう俺の後ろ姿を見ている人物に俺は気づく事ができなかった。

しかし、これは結果的に良かったと言える事なので、あまり気にしないでおこう。







「ふぃ〜、なんとか間に合った...」


あの後急いで帰宅し、皿を洗った数分後に料理人が入ってきた。

料理人はやり終えたばかりの俺を不審そうに見た後、夕食の準備に取り掛かった。


やる事もやったし、さぁ、部屋に戻るか〜と思い戻ろうとした時、急に後ろから声を掛けられた。


「あの...ちょっと良いですか?」

「は、はい!?」


声を掛けてきた人物の方向を反射的に見ると、そこには俺より年下と思われる、とても可愛い女の子がいた。胸辺りまであるだろう黒い髪はポニーテールに結ばれ、とても綺麗な青い瞳。青色のドレスに身を包まれた彼女は、穏やかそうで、だけどしっかりと自分を持っているようなそんな印象が強かった。


「ここの家の人ですか?家主の所に連れていってもらってもよろしいでしょうか?」

「あ、はい。分かりました。」


おそらくあいつは自室にいるだろう。

それよりも、こんな小さい子が、あのジジイに何の用だろう。

俺は目的の場所に向かいながら、声をかける。


「えっと...何かの御用でいらっしゃったんですか?」

「そうなんです。ですが途中で迷ってしまって_______」

「お!こんな所にいたか。急にいなくなったものだから探したぞ?」


これは予想外だった。てっきり自室で何かをしているものだと思っていたが、まさか途中で会うなんて。

しばらくたち、今の今まで全然気づいていなかったようにジジイは話しかけてきた。勿論、蔑んだ目で...だ。


「ん?なんだ、お前もいたのか。それにしても、なぜマリーと一緒にいるんだ?こうして並ぶとやはり何もかもが違うな。」


ふーん、彼女はマリーというのか。


「____まぁいい。丁度いいから説明しとくか。今日からこいつは私達の家族になるマリーだ。年はお前の一つ下だな。」

「ま、マリーです。あの...貴方は何ていうんですか?」

「あ、俺は____」

「こいつはシン。お前の所でも有名だったんじゃあないか?出来損ないのシンさ。」


こんにゃろ、俺のセリフ遮りやがった。


「え!?デスレイド家の次男のシン様でしたか。これは挨拶もなしにすみませんでした。」

「いやいや、こいつなんぞに頭を下げなくても良いんだよ。」


...。なぜお前が言う。にしても、マリーは俺のことを其処まで邪険にしないのか。いや、顔に出さないだけか?


「ほれ、もうお前の出番は終わった。さっさと自分の部屋へ戻れ。」

「...はい。失礼しました。」


俺はその場から去り、自室のベッドに仰向けに寝転がる。


マリーか...。急に何故この家に来たのだろう。まぁ、もうあまり関わることは無いだろうし、目の保養として見ることにしておこう。


その日はそんなことを考え、そのまま俺の意識は闇へ沈んだ。







「うーむ...声かけるか??」


俺は今、特訓をしに山に行こうと街を歩いている途中だ。しかし、後ろからマリーがつけて来ている。

声をかけたいのか??いや、でもなぁ...


そんなことを考えている今も街の人からはいつも通り刺さるような視線が浴びせられている。だが、向こうが何を思ってつけて来ているのかわからない以上走って山に向かって、俺を見失い悲しまれると困る。


「おい!なんでお前らみたいなやつがこの街にいるんだ!!」

「そーだぞ!早く出てけ!!」


「ん?」


どうやら向こうで揉め事が起こっているらしい。声のする方へ向かって見ると、其処には俺少し年上の人達が数人誰かを囲んで虐めていた。

俺だけを標的にして一致団結しているこの街でこんな事が起こるのは意外だったが、虐められているやつを見て納得する。


子供達の真ん中には白い猫耳と尻尾を生やした女の子が、ただひたすら耐えていたのだ。

人々は彼女たちを獣人と呼び、嫌っている。


しかし、あのままではあの子が可哀想だ。助けよう。

しかし...どうやって助けようか??シールドはまだ内緒にしておきたいので却下。間に割り込む??いや、そうすると喧嘩になって(向こうが)怪我して終わりだ。


...よし!普通に声をかけよう!!


「おい、何をしてるんだ。」


「ん?なんだお前か。」

「出来損ないの貴族サマが何か用か〜?」


「いや、女ひとり虐めて何してるのかと思ってな。」


「女ぁー?獣人に女も何もねぇよ!」


よし、此方に気が向いているうちに獣人の子は逃げていったみたいだ。よく頭が回る子だな。逃げなければ逃げろと合図しなければならなかった。そうするとこいつらにバレてしまう可能性が高い。

よし、逃げた事だしもうここにいる必要はないな。


「そうか、んじゃ、好きにしな。」


「はっ!それでいいんだ...」

「おい!獣人がいない!」

「お前、それが元々の狙いか!!」


「やべっ」


こりゃあ走って逃げるしかない。マリーすまん!行かせてもらうぞ!!



その後走っていると、あっという間に山についた。

よし、早速特訓を始めるか...


「シン様...でしたよね?」

「!?」


び、びっくりした...というか、なんでここにいるんだ?走って来たはずなのに...


「あ、あの、昨日もここで特訓見たいなものをやっていましたけど、毎日するんですか?」

「へ?あ、見てたの?」

「は、はい...」


それは気づかなかった。


「うん、毎日ここで特訓してるんだ。」

「へぇ、凄いですね!」


「それにしても、さっきから俺の後つけてたけど、どうしたの?」

「あ、気づいていたんですか...すみません。あなたの事で色々かになるところがあったので直接聞くのは失礼かと思い自分で確かめようと...」


なんだ、聞きたい事があっただけか。なら、今聞いて答えてやるか。


「どうしたんだ?俺に直接聞いても大丈夫だぞ。」


「あ、あの...沢山あるんですけど、まず、貴方はいろんな人から嫌われてますけど、貴族ですよね?街の人にあんな扱いや家事をするなど、いくら嫌われていてもしないですよね...?」

「あー、それは俺の家族が許可してるんだよ。何故か俺のお父様は王様と仲良いし、王様も特に何も言わない。」


「そうなんですか!?そんなことが認められているんですね...。あ、えと、次に、、すごい体力ですね!昨日あんなに腕立てとかやっていらっしゃったのに、全然平気そうでした!」

「うぇ!?あ、ありがとう...」


まだ俺は全然だろうけど、褒められたの初めてだからなんだか恥ずかしいな。


そんなことを思っていると。マリーが急にもじもじし始め、顔を赤くし言った。


「あの、突然なんですけど...お兄ちゃんって、呼ばせてもらってもいいですか!!」


おぉ、とても新鮮だ。この人は俺のことを遠ざけないんだな。と心の中で呟きながら俺は、もちろん。と答えた。

これでいつか、俺にも本当の自分を見せてくれるといいな...


そんなことを思いながら。







私は、昨日から気になっていた人物をつけていた。

シン・デスレイド____噂では、シールドしか使えない上、性格の悪い最悪の貴族と聞いていた。しかし、一目惚れをしてしまった。

あの真っ赤な瞳に真っ黒な髪...年相応では無い性格...。それでもこいつは性格の悪い奴なんだとキツめに見ていたけれど、山の中での事と道に迷った私への対応を見ると、人一倍頑張り屋で優しい人だった。むしろ、他の人の方が汚れている。


実際、デスレイド家の人達と話して見るとすぐわかった。


あぁ、この人達が悪い噂を流してるんだ...と。


おそらくこの人達はあの人のシールドの凄さを知らないだろう。何故隠しているのか分からなかったけど、話さないでおいた。

それと同時に、気づいてしまった。彼はまだ愛されたことがないのだと。愛されたい一心で毎日一人で頑張っているのだと。



次の日も山に向かっていったので、私もつけて見ると、途中虐められている獣人の子がいた。


可哀想だ...だけど、人が獣人を見つけた時は、毎回こんな感じだ。今更止めても何にもならない。


そんなことを思っていると、彼は虐めている人たちに声をかけていた。

そちらに気が向いた隙に獣人が逃げると、彼は走って山へと向かった。

とてもかっこよかった。人はみんな疚しいと考え、自分を偽らなければいけないと思っていた上、いきなり来たこともない街に住むことになった私は、こんな人もいるんだと少し安心した。それと同時に、私は最低だ...と思った。これが普通だ。それだけで諦めていたのに、彼はさも当然のように助けていた。


後悔していると、彼はいなくなってしまった。

仕方がないと私は魔法で先に山へ向かい、待っていると彼が来た。ここまで止まらず走っていたはずなのに、息切れもしていない上、とても早かった。


もっとあの人に近づいて見たいと思った。たくさん質問をした。少し話すと、私はずっと考えていたことを伝えようと息を吸う。


「あの、突然なんですけど...お兄ちゃんって、呼ばせてもらってもいいですか!!」


...言ってしまった!!どしよう、引かれてないよね!?

そんなことを考え、焦っていると彼は嬉しそうに返した。


「もちろん。」


____!!

嬉しい気持ちでいっぱいだ。まだ完璧に自分を出すようなことはできないけれど、近づきたいと思ったから____"お兄ちゃん"を近くで支えたいと思ったから。


もっと知りたい。


そんなことを思い、私は口を開く。ずっと気になっていた事を聞くために____















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