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間話 カシム・K・ユークリット

0ー5と0ー6の間位。

「魔素理論」って単語が普通に出ているので0-7後に入れました。

シオと師団サイドのちょっとしたお話。

 虚空より竜巻を生み出し、無数の雷で地を穿つ、立ち昇る業炎は全てを焼き尽くし、

 ときには治癒の理を持って数多の人々の傷を癒す。

 そんな、「魔法」を管理する団体の長にして、数多の魔法使いたちの頂点に立つ者。


 裁定師団師団長。名を、カシム・K・ユークリット。


 威厳を守る為、皺の少ない顔をフードで隠し、黒いベルベット地のローブの下に赤い騎士団服を纏う。度々覗く鋭い眼光はまさに熟練の眼差しであり、重厚感たっぷりに歩く姿は、他の重鎮に引けを取らない貫禄がある。


 前師団長を父に持ち、若くしてその才を認められた彼は、実は今年で30歳。

 賢者の中では若造に分類される年齢だった。


 本人は隠しているつもりだが、その事実を知る者は多い。――神童と称される所以となった――皺の多い脳みそをフル回転させてオークのごとき唸り声を漏らす姿も、度々目撃されては、孫の成長を見るような温かい眼差しが向けられていた。


 彼が勤める場所があるのは都市の中枢に鎮座する白一色の建造物。

 城であり闘技場とも称されるその建物の中には、宝石や彫像の代わりに輝くばかりの武器や大型魔物の剥製が並ぶ。高名な絵画のように壁一面に並べられている物も、闘技大会や冒険者としての名声を上げた者の肖像画ばかり。


 百年の歴史を鑑みる者は少なく、常に改革と戦果を求めるその志向が、よく表われていた。

それにより国外からの来訪者から「これは城ではない」と囁かれているのも事実。


 正面から入れば闘技場のエントランス、左右の廊下は、円形闘技場を取り囲む観覧席に通じている。

闘技場を挟んだエントランスの向かい側にやっと王座が見える。もちろん王座とは名ばかりで謁見などほとんどない。主に会場を広く見渡せる特等席として機能している。


 それ故案の定とも言うべきか。「闘技場」を中心に据えれば、真新しい研究書を詰め込んだ図書館などは隅に追いやられてしまう。

 外では威風堂々歩く彼も、城の中ではとってつけたような職務室――何故か調度品の質は良い――に篭もって日々嵩むばかりの仕事に没頭していた。


***


 その日もカシムは専用の椅子に深く腰掛け、新たな問題に頭を抱えていた。


 差し込む陽光を反射する小さなシャンデリアは、カシムの姿と彼を悩ます来訪者の姿を映し照らしだす。

 

 ネコフードの小さな来訪者は一方的な報告を済ませてからというもの、すぐ傍で悩む人物を慮ることもなく、来客用のソファーで悠々と寝転んでいる。自宅のようなくつろぎっぷりにカシムの眉の角度が二度ほど上がった。


「あーつーいー。おーかーしー」


「空調は設定温度厳守。菓子類はさっき私の分も食べたではないですか」


 軽口に返しながら生え始めた金色の髭を撫でつけ、痛み出したこめかみを揉み、冷めやらぬ不満を必死に堪える。


 裁定師団は「魔法」の統括をすることから、日々冒険者たちの手で発掘された魔法機器アーティファクトの管理も任されている。


 使用者たちの内、ギルド所属の者たちは彼らの管轄下に置かれている訳だが、

先日はその使用者による暴走事件。数日前に遡れば、事件の背景に異例の管理者が絡んでいることが分かった。


 しかも処理に追われている最中に訪問してきたのは件の管理者『シオ』。彼の証言を元に作られた「魔素理論」の報告書に目を通したカシムは先ほどから悩みあぐね、嘆息が止まらない。


「……アーティファクト暴走の一件で、彼が行ったのは対消滅の技法だとは検討がついていたが」


 思わず出た呟きに自分で驚き慌てて口をつぐむ。


 本来、魔法対魔法で行われるそれは、魔法の力が完全に消えることはなく、何割かは余波として周囲に衝撃波なりの影響をもたらす。

 無傷で結界から出てきたのだから、この余波を消す手段を知っていると踏んで、この度『シオ』を呼び出し問うたのだが、甘かった。


 ――彼が問いに答える代わりに提出してきた報告書。その内の魔素の使い方に関する記述。恐らく前々から提唱されたものと同様のものだろう。それはいい、だが内容の根底にあるものはアーティファクトに関わることだけじゃない、全ての魔法、その根幹に関わるものだ。

 

 ――そこも精査しておくべきだったのか。いや結論を出したのは私より前の代だけども。


 自分が目撃していた事実もあり理論を大々的に肯定することは容易い、だがそれを知り、更に推進する『シオ』を野放しにしてはいけないとカシムは直感した。


 監視とまではいかないにしても、彼の動きを常時知るための伝手が欲しいところだ。

 例えば、そう。ギルドに籍を置かせるとか、現在彼の近くにいる少女とか……。


 休むことなく働く脳にノックの音が割り込み、カシムは居住まいを正した。


「入れ」


「失礼します」


 凜々しい声の後、一礼して入ってきたのは黒いローブの女性だった。


 彼女は「先日の事件に使用されていたアーティファクトの件なのですが」とそこまで言い、続いてソファーに転がる少年の存在に気付き瞠目した。

 何故城の中にいる? といったところだろう。闘技場はともかく職務室は一般人立ち入り禁止なのだから。

 『シオ』はと言えば女性を一瞥するだけで特別気にした風でもなく、つまらなそうに欠伸を返した。


「大通りの件で私が呼んだ。気にするな」


 カシムの言葉に女性は我に返り、静止していた状態を解いた。


「……分かりました。報告を続けます。アーティファクトのほとんどはダンジョンから探し当てられます。けれど彼女の剣はまた違ったルートだったようです」


 彼女とは、ステラ・エルネラのことである。勘が働いたのか、明言していないにも関わらず『シオ』は女性をのぞき見て報告にも耳を傾けている。


「詳細は?」


「いえ、エルネラ家が黙秘しておりまして……」


「エルネラ、また……」


 団員は呟いた少年の反応を窺い見、カシムへと向き直った。


 『シオ』にエルネラ家の話題は鬼門、というのは師団内の常識だ。団員から度々上がってくる『シオ』との接触報告にも、そのキーワードだけで態度が一変するとの内容があった。


 彼のいる場で話し辛い内容を持ってきてしまったようで、女性は話を続けるべきか退出しようかで迷っている。『シオ』は自身が放つ剣呑な空気を押しとどめるようにソファーに顔を埋めた。


 ……彼女には悪いが、悩み脱却の為にも、今のこの状況を利用させてもらおう。


 カシムは髭を撫で、気付かれないように口角を上げる。そして二人に聞こえるよう、室内に響くよう口を大きく開いた。


「とにかく、ステラ・エルネラが所有していることを知っていたこと。不安定な彼女に精神魔法を掛けたこと。いずれも看過できないレベルです」


 大きく、はっきりと。ただ状況だけ羅列して、口を閉じる。

 女性は突然のことにだんまりを決め、反対に続く言葉がないことにしびれを切らした『シオ』は身を起こして口を挟んできた。


「召喚しないの?」


「こちらもそうしたいのは山々なのですが、今に限っては、彼らと衝突するのは避けたい。

あなたも、召喚と分かれば彼らに襲いかかるでしょう?」


「……」

 

 ふむ。少年は質問に肯定も否定もしない。無言の肯定と言うべきか。

 だがトップとしては、この点においても言質は取っておきたいところ。


 ――先にこの懸念事項から処理していこう。


 語気を強めてカシムはその少年の名を呼んだ。


「シオ・アルフレッド殿」


「……僕は常に自分の目的のためにしか動いていない。終着点に彼らがいるだけです」


 相手を射すくめんとする意志が交錯する。睨み合いの中カシムの額から汗が伝って落ちた。


 魔法使いの実年齢は外見年齢とほど遠い。とは、いつかの誰かが言ったこと。

 けれど、目の前の『シオ』は破格である。


 アーティファクトの魔力を相殺したこともそうだが、彼には段違いの魔力が備わっており、加えて自らの意志で操ることも軽々とやってのける。


 更には、古き「友人」の思想に傾倒し、過去アーティファクトやその使用者らの扱いに関しての諍いは止む無き事としていた。

 それによりエルネラ家ら魔法の名家と敵対をし、出会う度に上級魔法の応酬で多大な負傷者や損害を出したという。


 そして。

「友人」の研究を認めないエルネラ家とは今も冷戦状態が続いていると聞いている。本人の様子を見れば、それは確かなことだと推測はついた。



 ……だから今回はそこを利用させてもらう。


 彼は昔から意見が一貫している。であれば、やや強引ではあるが要求と弱点となるそれを結びつけてしまえばいい。

 カシムは小さく深呼吸をして、脳内でイメージした通りに言葉を紡いだ。


「彼らと和解とまでは言いません。ただ理に生きる魔法使いとして、その中心の団体として、私どもはあらゆる者たちの中立にいなければなりません。

故に「魔素理論」を否定する側のエルネラ家と衝突のリスクは避けたい。

……双方に歩み寄りの意志が見えないのであれば、承認は後回しになります」


「――――!」


 ……これで、どうだ。


 団員から奇異の目で見られながらも、睨み合いを続ける両者。


 やがてカシムの推理を裏付けるように『シオ』が先に視線を逸らし、条件を提示した。


「……努力はします。でもその前に許可をいただきたいです」


 カシムは鷹揚に頷いて見せた。


 研究の許可。それはつまり、

 彼がずっと守り続けてきた、「”友人のシオ・アルフレッド”が研究していた魔素理論」

 それを、国単位で認めること。


 もっと言えば、エルネラ家などの否定派との対立も意味する。それはこちらも覚悟しなければならない。


「始祖エルネラの愛弟子“シオ・アルフレッド”の研究の続行と、その承認でしたね」


 カシムは現在『シオ』を名乗る少年の反応を窺いながら、慎重に言葉を重ねる。


「……アーティファクトの力は、今この国に必要なもの。国の機関として、使用者たちの安全が確保されるなら、それに超したことはありません」


「それって」


 カシムは言葉を返す代わりに、机の引き出しから一枚の契約書を取り出してペンを走らせる。署名欄を残して書き終えると『シオ』に見えるように掲げた。


「我ら師団はこれより『シオ・アルフレッド』によるアーティファクトの研究を許可します。この者は随時報告書を作成し師団に提出する義務を負います。研究に際して、かかる事象は全て我が国の法律の下行われるものとします。ここまでは、いいですね」


 少年がゆっくりと頷き「はい」と口にした。

 彼が注視する紙面の裏側で緩みそうになる顔を引き締め直す。今回やるべきは彼を監視ないし彼に確実に繋がる伝手を作ること。カシムは一端唾を飲み込み更に読み進めた。


「次に。こちらの提示する追加条件としては二つ。エルネラ家との接触の際は師団の者を間に入れること。そしてステラ・エルネラの管理権は師団の方に付与します」


「管理権?」


「彼女はギルド所属の身。そして使用者は私達の管轄です。その活動実績、活動範囲は私達の判断の下行われます」


 その時。少年の周囲の風が渦を巻きばちばちと音を立てた。


「――エルネラだけでなく、あなたたちも彼女を縛るつもりですか」


 ほとほと『シオ』は分かりやすいな、とつい笑いかけてしまう。

 

 騒動の時に『シオ』はステラ嬢に肩入れしている気があるとは思っていたけれど。

 この反応を見る限りその推測も間違いではなさそうだ。


「ならば。彼女に冒険者本来の権利を与える代わりに、あなたにギルド登録をしてもらいます」


「代わり、ですか」


「そうです」


 『シオ』が提示された条件を理解する間に周囲が次第に落ち着き、その小さな首はしぶしぶ肯定を示した。その姿を認めてようやく肩の荷が下りた心地になる。


「……分かりました」とふくれっ面で了承の言葉を吐いた少年を認めて、カシムは堂々と机に突っ伏した。


「恨めしげに見ても変わりませんよ。魔法使いは一度吐いた祝詞には責任を持たなければなりません。さあこれに署名をお願いします。さあさあ」


 書き換えた契約書をやや強引に『シオ』に押しつけて署名を促す。

 悪徳業者のような手口だというツッコミは頭の片隅に追いやって、作り笑いのまま契約書とペンをその手に持たせた。


『シオ』はカシムの変わりように困惑しながらも、契約書は読む物との意見を押し通し、耳を塞いででも時間を掛けて内容を一通り確認してから署名する。


 カシムと傍に立ったままの女性は共にその姿を見届けて、右下に廃棄不可能の保護印を施した。次に同様の内容を目の前で記した控えを少年に手渡して、ギルド宛の証書を更にその上に置いた。


「これは?」


「手続きに必要な書類です。暇のあるときにでも、ギルドへ持って行って提出して下さい。これからは冒険者の国民らしく、ギルドの規則にも則って行動してもらいますよ」


 『シオ』が念入りに内容を確認する姿を眺めながら、カシムも伝えそびれていることがないか再度思いを巡らせ、

 一点だけ付け加えることにした。


「ああ。ちなみにあなたの冒険者ランクはシークレット。



――――通称、Sランクです」


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