0ー6 未定の関係
またもや前編後編方式。いつも以上に長くなりそうだったので、中途半端なところで切ってます。
続きは急いで出したい。
重い瞼を押し上げて、差し込む朝の反射光に目を細めた。
街道の真ん中に立つ僕は、闘技場とも牢獄とも取れる建物を特別感動を抱くこともなく、ただただ眺めていた。
久々に街に降り立ったあの日の記憶だろうことは、うっすらと理解していた。
まだ太陽が昇りはじめた頃で、ひんやりとした空気が浮かされた頭を醒ます。森の中ではなかった硬い感触を踏みしめる度に反響する音がはっきりと聞こえていた。
起き抜けの身体を引きずる人々が建屋から這い出してくる。「時間」の規則の中で動く彼らを見るのは久方ぶりだった。
とことん社会から逸脱しているなと自嘲していると、すぐ目の前を早々と歩く集団がいた。白に統一された街の中を行く黒い一団。朝から厳かとも陰鬱ともとれる異質な存在感が一般の人から遠巻きにされている。
国の印章が縫われた黒衣にためらうことなく、僕は足早に近寄った。
当初、裁定師団の師団長に取り次いでもらえればと思っていた。
最後尾の人物に近寄り話しかけようとしたが、立ちこめる剣呑な空気と、近寄る自分を気にも留めない彼らの動きに違和感を覚えて距離を取った。迷惑かと思いつつも他人の家の屋根に飛び乗り、上部から集団の様子を確認する。
そして彼らの中心で護送されていた人物の姿を認めて得心した。
その人物は、まだ十代であろう小柄な白い少女だった。腰に柄まで繊細な文様の刻まれた白銀の剣を携えている。加えて師団の警戒態勢から彼女は使用者だと推察できる。
自分の目的のため、使用者の協力は必須だった。
だから裁判に潜り込み、機をうかがっていた。
黒い集団の中央で、より鬱屈とした面持ちでいる彼女は、
僕の敵の家の出であり、又その家から破門にされていた経歴の持ち主だった。
同情という表現にはほど遠く、ただ僕は、彼女の持つ状況と剣とその理由に興味を抱いた。
家からも、味方になるはずのモノからも拒絶され、
裁判の最中に彼女が語った『繋がりのある人物』は、想像以上に少なかった。
選んで他人から自身を切り離し、一人で闘っていたのだろうか。
そう思い至り、言いようのない不快感と高揚感が綯い交ぜになった予感が、僕の背を押していて。気付けば手を差し出していた。
――あのとき。僕が抱いたこれが何なのかは今でも分からない。
繋いだ手に温かさを覚えて、先の記憶を辿るように目を閉じた。
***
中央にできた日だまりを避けるように、青年は床で小さくなり、うたた寝をしていた。
フード付きローブを毛布代わりに掛けて身じろぎもせず、ただ密やかに、夢に相槌をうつのみ。
穏やかに寝息を立てる青年がその表情を歪めたことを確認して、ステラは肩を揺すった。
大通りでの闘いから三日。城下町の魔物侵入の情報は広まり、複数の箇所で結界が破られていた報告があがった。師団による結界の修復、他にも魔物が紛れ込んだ可能性を鑑み警備の人員が増え、通りの無残な姿の建物らは職人通りの面々による復興が始まった。
ステラはといえば、この二日間体調不良により身体が動かず寝込んでいた。シオやマリアから戦闘で使った魔素の供給を受けたり治癒魔法をかけてもらったり、ジーナさんからは温かなスープやパンが届けられた。
結果、彼女の身体は自由が利く程度には復活したが、代わりにシオが魔素不足に陥った。状態を見るに、ステラより軽微なもので、疲労が蓄積した状態が続いている印象だ。
本人は眠れば回復するものだと言い、身体が要求する都度こうして寝ている。
まとまった休息を取るべきだと進言しても何故か口論になり「ステラさんこそ早く体調を戻しなさい」だの「今後のために勉強するなり努力をしないさい」だの言い負かされ続けた。
ステラと違い身動きの取れない状態ではないので、シオは自身の体調を顧みずジーナさんの手伝いも行い、元気の源たるお菓子を頬張っている姿も度々見受けられた。
そんな彼でも寝起きは棘もおどけた空気も感じない。揺り起こされた後は上体を起こして、目をこすり大きくあくびをした。
「んあ。ゆめでしたか」
いたずらっ子のように楽しげに笑う彼の姿は全く見えない。中空をぼんやりと見つめて、やがて部屋にできた日だまりに視線を落とす。何も言わずローブを横に置き、中に着ていた白いシャツの第一ボタンを外して襟元をぱたぱたと扇いだ。
「あづい」
「そうですか? 昨日おとといとそんなに変わりませんよ」
ステラが顔色を窺い見るとシオは確かにうっすらと汗をかいていた。おでこに手を当てて比べたが、発熱は微々たるもの。
ただ彼の黒髪は汗で無意味に艶めき、寝起きで瞳は潤んで光り、熱の症状に近いところがある。呼吸は安定しているが気に掛けた方がいいのかもしれない。
――それにしても。あまりローブを脱いだ姿を見てこなかったが……。
白いシャツにベストを着て更にジャケットを羽織り、その上からローブの重装備。一体何から自分の身を守っているのか。これは着込みすぎて暑いだけなのではなかろうかと思わずにはいられない。
輪郭をなぞるように滴る汗を手で拭ってあげると、シオが小さく声を漏らした。
色白の頬は火照ってほんのり赤い。扇がれてたち昇る匂いにつられて下を向くと、見え隠れする首元の肌、はっきりと形の分かる鎖骨
――これ以上見てはいけない気がして、ステラは慌てて手を離し距離を取った。呆けた状態のシオと目が合い、思わず逸らす。
「体調悪いならちゃんと寝て下さい」
「わるくなんてなってないです……」
シオは不服そうに頬を膨らませて、顔を膝に埋めそのまま丸くなる。
ジャケットとベストを脱いだらいいのではと思うのだが……さっきの映像その他もろもろの事が脳裏でちらついて発言を阻んだ。
逡巡している間にシオの瞼はゆるゆると落ちて、再び夢の世界へ旅立とうとしている。
ステラ自身も感じるはずのない暑気を覚えて、部屋に一つしかない窓を開けて風を入れ替える。空気が動き涼しさを得た。
街中は祭りの日が近い関係で、日を追う毎に活気を増している。路上で踊り子の演舞があったのか、アップテンポの音楽に続き歓声が上がった。
街に出て見てみたいが、ステラは三日前に路上で事件を起こした人物でもあり、あの時の目撃者がいると思うと一人では出るに出られなかった。
深呼吸を一つして、全く変化も盛り上がりもない部屋の一角にステラは座り込んだ。動くことのできない二人は、窓から差し込む光の中で埃が泳いでいるさまをぼんやりと見つめていた。
このままでは私も寝てしまいそうだ。
部屋をノックする音が部屋に木霊して、ステラは待ってましたといわんばかりに身を起こし、ドアを開けた。そこには栗色の髪の少女が甘い香りを放つ包みを持って立っていた。
「おはよー。ステラちゃん、もう起きても大丈夫なんだね」
「おかげさまで。ご迷惑をおかけしました」
いーんだよ。とマリアはステラの頭を軽く叩く。入室したマリアは窓から差し込むひだまりポイントに座った。
一人に割り当てられた小部屋に三人が入ると流石に狭く感じられる。
シオは糖分の気配を察知するとまどろむ全神経を覚醒させ、小鳥が樹から飛び立つよりも速く、マリアの手からクッキーをかすめ取った。
マリアは慣れたもので気にも留めない様子であり、突風で乱れた髪を整えてステラちゃんもどう? とこちらにクッキーを差し出す順応ぶりであった。
一口囓るとバターと砂糖の甘い香りに包まれる。幸せと同時に太る予感がした。
「昨日はね、久しぶりに魔物を狩りに出たんだよ」
マリアは日だまりの中で足を広げ、マッサージしはじめた。
口当たりがよいソフトクッキーに今回はメープルが練り込まれている。優しい風味が口内に留まらず部屋中に広まった。シオはマリアの話を聞いているのか分からないが、しっかりと起きてクッキーを咀嚼している。
「チームの人たちと合流出来たんだ」
ステラの返しにマリアはつい苦笑いを漏らした。
「ううん。まだ一人帰ってこない。そっちはどう?」
「私は見ての通り。三日目にしてやっと起きられる状態になって、『エルネラ』は寝たままだね」
「……僕は家賃代わりに手伝ったり、寝たり、寝たり、野暮用で外出したり、ですかね?」
「自分でも言ってて思ったけど、この部屋寝てる人多くない?」
部屋の中は依然まったりとした空気が漂っていることも、睡魔が絶対関係しているとみた。
しかも眠り候補の一人は目をこすり眠気と闘いながらお菓子を囓っていて、その内また眠りにつきそうである。
外の世界で働く人々の声が聞こえて、漠然と罪悪感が芽生えた。自分の部屋なんだけど、落ち着かない。
「しかも部屋の主が一番何もしていないという――」
「へーきだよ。これから動けば問題ないでしょ」
思わず出た卑屈にマリアは苦笑で返してくれた。愚痴を聞き流す性分なシオは何も言わずあくびをかみ殺した。
「これから動くといっても、うーん」
現状。自分が冒険者として以前に、剣士としてどれほど出来るのか分からない。加えて手伝いで街に駆り出そうにも自分は事件の一部。誰かと共に出ようにも片方は常時眠りとの境を彷徨い、片方はそもそもチームじゃない且つ被害者の内の一人。
何よりも、誘う度胸がない。
出かかったため息を必死にこらえて、代わりに咳払いを出した。
「取り敢えずギルドに行って依頼を片っ端から当たってみるか」
立ち上がって背筋を伸ばしたら、シオと目が合った。
「……休むのだって立派な仕事です。魔法を使う人は精神を安定させることも闘うことと同様に重要です」
「――くっ」
言いながらクッキーを貪る彼は、心なしか調子が戻ってきたように思われる。身を起こしてローブだけでなくジャケットまで脱いでバックに押し込んだ。
「余力があるのなら今からでも勉強の仕事をこなしてもらいます。ギルドではなく、外に出ましょう」
てきぱきと動く彼を眺め、
糖分で疲労は落ちるのかという命題が脳裏を過ぎっていった。
***
「困りましたね」
街から出てすぐのところ。街の周囲に広がる平原に三人はやって来ていた。
見渡す範囲に畑が点在している。街に近く、産業地域にも近いので警備の目が届き、魔物の影もない。畑に草原、のどかな空気が漂っているところは数日前と変わらない。
二人を部屋から連れ出したシオは口に手を当てて、考え込んでいた。
「どうしたんですか」
「それが……何をしようとしていたか忘れてしまいまして」
「そりゃないよー」
シオは呆けた顔で青く無限に広がる空に視線を彷徨わせた。ラムシーの毛並みを彷彿とさせる雲が気持ちよさそうに浮かんでいて、なんとなく三人でその雲の行き先を追った。他にやることも思い付かない。
「もう、あれですね」
シオが腰に手を当てて投げやりに言葉を放った。
「この前やっていた講義の続きからでいいですか」
「それでいいんじゃないかな」
何故かマリアが応答した。まあ、私もじっと雲観察するのも嫌だし、それでいいんじゃないかな、と思います。
「アーティファクトを制御するために、まず魔素を同調させる、でしたっけ。その後研究の話に飛んで、結局うやむやになって終わりましたね。
……でも同調どころか沈黙しちゃっています」
念の為に『エルネラ』を手にとって三人で見つめるけれど、ステラにいつもの声は聞こえない。時折光の粒子を吸収しているがそれ以外に何も起きない。
「貯蔵も含めて力を大幅に削りましたからね。魔素の再補充に時間がかかっているのかもしれません」
さしずめシオの重傷版といった感じだろうか……。しかし、それならば同じく『エルネラ』の魔素を相殺したと伝え聞いている彼も、同等のリスクを負っているのではなかろうか。
けれど彼は定期的に起きて、ご飯も食べて、ステラ以上に活動していた。
「同じく削られたはずのシオさんは私よりも仕事していますよね」
シオはあくびをして酸素を吸入し、悩む素振りを見せた。
「あぁ…………まぁ。鍛え方が違いますからね。体内循環用魔素はちゃんと残してあったんです。確か」
「曖昧だなあ」
彼は思い立ったように手を小槌の要領で叩き、クッキーをかじり、バックから水筒らしい木の筒で水分を補給する。重そうにかかっていた瞼が少しずつ上がっていった。
それにしてもアーティファクトより魔力保有量が高い人間ってどういうことよ。この人こそ兵器じゃないか。
「度を超した個性は世界のバランスを崩すと思います。先生」
「何の話でしょうか」
「なんでもないです、先生」
訝しがるシオと目が合って、ステラは視線を逸らした。
自然と付いてきたマリアは会話に割り込まず二人を眺めて、合間合間に適当に相槌を打っている。顔がにやけているのは気のせいだろうか。
「……そういえば。成り行き上ではありましたが。件の理論については、師団長の目の前でそれに基づいた魔法を実践したこともあって、許可が割とすんなりおりました。捕捉説明の方が時間がかかって大変でしたが」
「なんだ、私が実験台にならなくてもよかったんじゃないですか」
「いえ。理論が認められただけなので。実践利用の許可が下りたんです」
「…………つまり?」
「つまり。これから実践しましょうということです。そう。それが目的でした」
うんうんと自己完結したシオがステラを見る。
ステラは腕を組み、空を仰いだ。シオもマリアもつられて空を眺める。群青の背景に真っ白な雲が流れ、風が吹き抜け葉擦れの音がそれに続く。
――なるほど。この流れは、あれだな。とひとりごちる。
「私が実践するんですね」
「はい」
ステラは大仰なため息を吐いた。
「いやあの。今度は使用に流用できるかの実証が、本当に必要なんです。研究に使うのではなく、ステラさんがアーティファクトを……『エルネラ』さんと一緒に、安全に闘うために。今後の為に……だから」
ステラの言葉を否定と捉えたシオが目に見えて狼狽えて、ステラは悪いと思いつつ笑ってしまった。
実際問題。無茶を言っていると思っていた彼は、暴走を止められる実力があった訳だし。助けてもらったわけでもあるし、協力しない理由はない。
それに確かに彼は、私を蔑むこともない、私にとって初めてのチームメイトで、大切な仲間でもある。
「落ち着いて下さい。実践は協力します。
……でも『エルネラ』は今沈黙しています。この状態でやるんですか」
答えるとシオが安堵の息をもらした。
「そうですね。えっと『エルネラ』さんは、今回は使わないでおきます。
本番に比べて魔力量に大幅な違いがありますが。取り敢えず今は理論と流れだけ。
あとでマリアさんにも手伝っていただきたいのですが、どうでしょう?」
二人を交互に観察していたマリアは、何かに得心したように深々と頷き、二人の肩を優しく叩いた。
「おーともよー。この先輩マリアさんに任せなさい」
「「???」」
ステラとシオは互いの顔を見合わせて揃って首を傾げた。
***
「取り敢えず。実践に移る前に、これから使う体内魔素について少し復習しましょう」
シオは風上に立ちその頭上に、つい最近見た青い板を掲げた。風下にいる二人はなんとなく座ってシオ先生を見上げた。
本日の講義は題して「体内魔素と魔素理論」である。
今日の先生は自分の書いた議題を見つめて「何しようとしたんだっけ」とか「あ、そうだった」とか呟くのでどうにも心許ない。初めて受講するマリアは隣で「勉強なんて何年ぶりかな」と感傷に浸っていた。
「ええと。
まず、体内魔素は自分の体調や精神状態も含めた身体状態に深く関わってくるものです。
というのも。体内魔素はそもそも体外からの防御壁として備わっているものなんですね。
逆に、通常戦闘に使用するには体外のもの。威力・規模共に体内よりも優れていますし、枯渇しても自分の健康に直接関係しない。
一定の素質と手順は覚えることは必要になりますが、なによりリスクが低く高火力が約束されています」
いきなりの情報量に頭がさっそく悲鳴を上げた。マリアは小さく手を上げた。
「日常魔法は誰でもできるのに、戦闘魔法は魔法使いしか使えないのは、その使っている物の違い?」
「そうですね。体外は素質のある人でないと上手く扱えない、というよりリスクが高くて扱ってはいけない扱いになっていた、はずです」
こんなに曖昧で大丈夫だろうか。頭から蒸気を上げているのを自覚しながら、ステラは先生にそんな感想を抱いた。
「あたし、魔法使うときは体外とか体内とかあんまり意識してなかったよ」
「素質があり、且つ感覚さえ掴んでしまえば魔法は使えてしまいますからね」
「ほうほう」
シオ先生は頷くマリアとは対照的に眉根を寄せるステラの姿を認め、ゆっくりとペンを動かした。
・体内→身体の中を循環。自分の生命活動を助け、使いすぎると体調を崩す原因になる。
・体外→そこら辺にある。呪文や魔方陣で言うことを聞く。強いけど素質がなければ使えない。
――大分省かれている気がするけど、今はこれだけでいいと。
ステラが頷き、シオも頷いた。二人を見たマリアも何故か頷いた。
「話を戻しますね。
アーティファクトと同調したと仮定すると。仕組みの関係で体内魔素が共用になります。
なので、これからステラさんは、戦闘においても体内魔素型の魔法を使うことになります。――ここまではいいですか?」
二人は顔を見合わせて同時に頷いた。シオは新しく板を作り出して大量の文字を書き付けた。
「体内の魔素を使うにあたり、注意点は通常三点です。
一、自分の制御が利く範囲で使用すること。
二、自身の生命活動を脅かす量を使用しないこと。
三、自分の属性配合率、基礎容量を把握し、且つそれを守ること
使用者はそれに加えて、
四、アーティファクトに力の制御権を与えないこと。――暴走の引き金になりますからね」
ぐるぐるとペンで囲われる四番目。制御権の三文字から、ステラはあの日身体に巡ったたくさんの魔素の気配まで思い返した。
身体は自由が利かなくなり、自分の敵と判断すれば自動的に斬りかかっていたあの時。
下手すれば街に放っていたかもしれない可能性に思い当たり、背筋が凍った。首を振り思考を打ち切って膝に顔を埋めた。
「四番目に関しては、先日身をもって知りました」
――二人の動きが、静止した。
「あのときの事は、結構おぼろげな記憶になってしまっているのですが。あの、たいへん申し訳なく思っておりましてですね――」
「いや、あれ、家は壊れちゃったけど、死傷者とかいないしさ。よかったよねー」
「そうですよ。それにまた暴走しても相殺するだけですからあまり気負わずに」
「更に気を遣わせてしまい、本当にすみません」
ステラは顔を上げてその頬を思いっきりひっぱたいた。唖然とする二人に頑張って笑いかける。
「実はあの日のことを、ちゃんと償いにいきたいって思っているんです。怪我がないのは確かに良かったんですけど、私のせいで怖い思いとかした人もいるだろうし。家の破壊だって防ぎようがあったかもしれないから。あ、もちろん二人から何か要望があればすぐに――」
沈黙が下り、二人は各々に思案始めた。
「そうだねえ……」
「そうですね……」
と呟く二人の様子に、緊張で心臓が激しく鼓動を打つ。
「あ、授業止めてしまってすみません」
「え、ああ。大丈夫ですよ」
ぎこちない空気が漂う二人に、マリアが笑った。
「ステラちゃんって真面目だよねえ」
思わぬ言葉にステラは言葉を詰まらせた。いや寝込んでいる間真面目に考えて出した結論だけれども、なんかこう、違う。思っていた反応と違う。いやそういう話と違う。
「そうですね。研究を手伝ってもらいたいです」
今返答を挟まないでほしかった!
更に思考がこんがらがり、顔が熱を帯びる。病み上がりの脳から多分蒸気とか出てる。
パニックに陥るステラを眺めていたマリアは母親でも実際ほぼ見せない優しい微笑みをたたえた。
「ステラちゃんは、かわいいね」
「どこが?!」
叫んでむせた。一体何なの。マリアいつもそんなこと言わないじゃない。
苦言を呈するつもりでマリアを見ると、当のマリアはステラの様子に意味深にも頷いた後、シオに向き直った。とっても嫌な予感がした。
「ちょっと、マリア、待っ――」
「そうは思いませんか? 先生」
「え、まあ、そうですね。かわいいですよね」
「…………」
一瞬、頭が真っ白になった。視界にも白いもやがかかった。
「どうしました?」
「…………」
……落ち着きなさい。ステラ・エルネラ。彼は何も考えていないの。
褒められる機会がここ最近なかったから必要以上に動揺しちゃっただけなの。
顔の火照りが異様に気になって、手で風を仰ぐ。
ほらマリアがさっきから笑いこらえているじゃない。あなたは、からかわれただけなの。早く勉強に戻らないと。
ぐるぐると巡る思考は落ち着くどころかその回転速度を増して、頭の中で摩擦を起こしては火花を散らす。
二回目の講義。魔術の基礎と魔素理論。あれ、違う。
現時点から記憶をさかのぼり二人で日だまりスポットを見つめる部屋の辺りまで思い返す。そこに、
「ステラさん?」
心配するシオが現われ、
臨界点を突破した少女は、そのまま目眩を起こして倒れた。