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0ー1 初めて二人で

今回は長めです。

 シオ・アルフレッドは、気儘勝手に振る舞う、まるで道化師のよう。

 その言は悩める乙女の思考を引っかき回し、喜び勇んで無駄足を踏めば、あれよあれよという間に狼の魔物の群れに突っ込んで、

 命を落とすどころか追ってきた彼らを混乱の谷底へ突き落とす。


 その実。すべからく平和を望む、悪意無き無意識の所行であり、その者を咎めることは叶わない。

 ――全ては、純粋な知恵の泉に紛れ込む、微量の好奇心という名の媚薬の所行。


 とかなんとか。

 言いたいだけ言ったが、詰まるところ彼は悪気のない天然さんなのだと思う。そう結論付けて、ステラは実に重々しい一息をついた。その華奢な容姿に似合わず、年輪を重ねた樹木のごとき重厚な雰囲気を醸し出している。


 裁判所で裁きを受けていた少女の姿は、黒の集団から森の緑集団の中に移動していた。

 白いワンピースの上に革鎧、革製のジャケットを羽織り、ひとまとめにした長い銀髪は太陽の光を反射し、幻想的なきらめきを放つ。


 時刻は昼にさしかかった。勤勉な者たちは捕食者の眼で料理屋を徘徊し、冒険者たちは本職の眼で獲物を捕捉している、その頃。

 ステラとシオの二人は冒険者として、低級任務に就いていた。

 今は木陰に身を潜め、ターゲットがのこのことやってくるのを待っている。


 何故こうなっているかといえば、

 それは、異例の「管理」者となったシオのある発言から始まった。



「ステラさんは今まで魔物狩りを専門にしていたんだよね。なら特訓も魔物の中がいいよね」


 任務に赴くその一時間ほど前。黒服たち「裁定師団」から解放された二人は、シオから提案があるというのでその足で、ギルドに向かっていた。中に入り、ステラが通い慣れた光景への安堵と開放感に浸っていた矢先、他ならぬ彼から依頼をこなしてみてほしいと無茶ぶりされたのである。


 資格喪失の判決をくらったアーティファクト使用者たちがどんな危険性をはらんでいるのか。それを視る立場とはどんなものなのか。この人は未だに状況が分かっていないらしい。


 ――まあ私も伝え聞いただけだけどさ。

 なんてことは言わず、器用に不満だけを顔面に出す。


「それにステラさんがどこまで『それ』を使えるのか知っておかないといけないし」

 ほらほらと、彼は楽しそうに手招きの動きを取りステラに同意を促す。


 彼があまりにも簡単に魔物を退治しようと言うので、ステラは経験者かと期待を寄せたが、彼は一言。

「冒険者、ではないかな」とのこと。


 きっと彼は研究者かなにかだろう。よもやフィールドワークの一環だと思われているのかもしれない。答えを聞いたステラは肩書きを書き換え、不満顔のままうなだれた。


 ――ええ。神様仏様。正直に言いましょう、私は、そもそも魔物に勝てる技量が無いのです。

 ……冒険者ギルドで言う度胸も持ち合わせていないけどね。


「……せめて、パーティ組んで闘った経験とかは」


 すがるように彼を見つめてみても彼はまたも一言「それもないねえ」と。即答であった。

 ステラは顔を覆い泣き真似を装う。彼はフードを外しておりその整ったきれいな横顔からは、彼女の反応を楽しんでいる表情がうかがえた。


「ステラさんは?」


 何が楽しいのか。彼は笑顔のまま問い返してくる。ステラはギルドに身を置く冒険者たちとシオを見比べて、闘いに身を置く人たちと明らかに毛色が違うよな。などと失礼極まりないことを考えながら、首を横に振った。


「うーん。実は私もパーティーの経験はないです。まあその、自分から断っていたので」


 しかもあまり聞こえのいい理由でもないので、彼女はわざとらしく苦笑する。


「アーティファクトが暴走したらあぶない、とか?」


「…………まあ、そんなところです」


 とはいえ。いかに任務への難癖を付けたところで立場上、ステラに拒否権はない。

 不安を抱えたまま、一行は任務に向かう流れになった。



 森の浅いところで陣取り木陰に身を潜める。昼食を摂ってないので携帯食をかじり、粛々と標的の影を探していた。


 今回の任務は群れからはぐれ魔物ラムシーの討伐。膝丈程度の小柄な魔物の一種で、外見はそこら辺でのんきに草を食んでいる羊型の獣に近いが、草ではなく動物の肉を好んで喰うためその爪や牙は肉食動物に近い。

 魔物ヒエラルキーの中でも底辺に近く、群れで襲われれば危険だが、気弱な性格のため一体なら逃げる一方という、初心者でも気軽に手を出せる相手である。

 今回は、近隣で冒険者が狩り損ねた一匹が付近の畑を荒らしているのだそうな。


 ステラは頭上のシオを確認しまた森の中に目を配る。


 彼は、この任務では「管理」を徹底して行うつもりらしく、ステラが潜んでいる樹の太い枝にゆったりと腰掛け、まるで動く気が無かった。


「助力はあまり期待しないほうがいいか」


 ステラは力なく呟く。


 ――さて、一回頭の中を整理しよう。彼女は自分の頬を両手で叩いた。


 現在。お昼時。魔物に関しては、折角見つけたえさ場を手放して探しに行くとは考えづらく、そのため畑を中心に張っている。だが、こちらの状況は動く気配がない。


 一方。畑を管理している今回の依頼人、農家の夫婦は現在ご飯を摂って休憩しているらしく、不在。


 残された畑には小さなちょうちょが舞い害のない方の羊型が草を食み、のどかな陽気も差し込み

 ……うん。穏やかな時間を垂れ流し状態である。


 シオのあくびが聞こえてステラは肩を落とした。


 緊張感がそがれ、ステラは樹にもたれかかって――頭上の青年も暇そうだし――ステラは彼に話しかけることにした。世間話でもいいが、ふと思い至り、今後のためにも疑問を投げかけることにする。


「聞きそびれていたんですけど。どうしてあの判決に口を出したんですか」


 彼女の中の普通として、一人で旅する冒険者は自分で自分の身を守るのが道理。更に言えば危険を危険と見なし排除する傾向にある。どれほどの力を持っていようと、利用価値があろうと、リスクの高いステラは、『庇う義理などない相手』と見なすのが普通ではないだろうか。という割と真面目な疑問だった。

一人で二人分カバーできるほどの実力者か。

はたまた、単なるお人好しか。


「興味本位です。いけませんか?」


 ……どっちも違ったわ。


「ええと。そういう訳ではないです。とても、助かりましたし――うん」


 シオは訝しげなステラを一瞥し、畑、続いて森の影に視線を向けた。ステラも森を見て何も魔物の姿がないことを確認する。森林地帯の端っこに陣取っていることもあり、森の薄暗さは感じない。どこか安心感のある場所だなと感じつつ、剣の柄を握ったり放したりしていた。


「……えっと。今の状況。危険だと思いませんか」


 のどかさにあくびが出そうになって、慌てて質問を投げかける。


「え。……ああ依頼のことですか? 心配はないと思いますが」


「そうではなく。暴走、したらって思いませんか」


 アーティファクトと使用者が「暴走」を起こした結果、周囲の何千の人がその力の犠牲になったと聞く。炎の魔法が一瞬で辺りを火の海にした、とか。局地的大洪水を起こした、とか。使用者が力を制御できなくて起こしてしまうのだという。


 あまり場にそぐわない話題だと感じながら問い直す。

 もちろんさせるつもりはないが、どうにも不安が勝るから。いつそんな事態を引き起こすのか分かったものでもない。

 自分が明示できるのは依頼を達成できない実力、その無力さだけという事実もあったから。


 「裁定師団」が許可を出した彼なら、何か策があるのかもしれないけれど。


 無意識の内に呼吸が乱れていたことに気付き、胸を押さえて落ち着かせた。

 ――緊張し始めたな。さっきまで大丈夫だったんだけど。

 ステラはつばを飲み込んだ。


 シオは一瞬考え込む素振りを見せたが、いつもの飄々とした雰囲気に戻した。


「暴走の方が気になるんでしたら、今普通の剣を持っています。換えますか?」


「あ、いえ、それは結構です」


 ステラはどもりながらも短く、はっきりと口にした。

 わがままは承知の上、それでもこの剣でなければ駄目なのだという意味を含めて。


 ――ステラには「力」がない。総合的な力の意味でも、もちろん筋力の意味でも。冒険者ギルドにいる面々に非力は存在し得ない。使えない力に左右されて決していいとは言えないけれど、彼女に目に見える「力」を手放す選択肢はなかった。


 シオはステラの拒否を受けて穏やかに笑む。ステラは何故か彼を直視できなかった。


 彼の思考は読めない部分が多い。ステラにとって純粋な味方である、というわけでもないが、ただ警戒するというのも彼女は無駄な気がしていた。

確かなことは、まだ出会って一時間だが、彼の死因が暴走だけはやめてほしいと願う自分があることだった。


 果たしてそれは保身なのか、味方と見ていることの証左なのか。


 そこまで考えていたら、言いようのない不安がせり上がってきて、焦りが口からこぼれ落ちていた。


「あの、暴走したら本当に止めて下さいね。本当に止めて下さいよ」

 

 シオは相変わらず読めない笑顔を貼り付けたまま答えるようにうんうんと頷く。


「大丈夫大丈夫。ほら、深呼吸しよう。任務に集中して」


「……うぅ」


 ステラは言われたとおり深呼吸をして、のどかな風景を見渡した。

 一時間前は暗くて湿った世界で立たされていたのに、今は温かく落ち着いた時間が流れている。魔物に遭遇すれば、状況はまた変わってしまうのだろうが。


「……変なの」


 ステラは剣の柄を握っては放すことを繰り返す。落ち着きを取り戻そうとしても、一時間前の出来事が、判決が頭にちらついた。自分が何故無力なのか、どうしてそんな判定を受けたのか、何故全てを諦めようと思っていたのか。


 ――あなたが何を思っているのかは知らないけれど。


 ――故郷で、家族から皆から“才能なし”と言われてからきっとずっと。


「シオさん。私は、駄目な子なんです」


 自分自身を嘲笑して、青年からも“才能なし”と呼ばれる未来を想像して、あの時と同様の、諦めた、光を拒絶した瞳はゆっくりと伏せられた。


***


 定められたから運命なのか。抗えないから宿命なのか。

 どのくらい時間が経ったのかすら分からない。確認する余裕もない。

 茂みが揺れる、音が近づく。それだけで彼女の心臓は早鐘を打った。


 剣が闘いの予兆に呼応する。ステラの胸騒ぎが別物に変化し、パニックは硬直として外側に現れていたが、誰も気付かない。


 森の草花を踏み分け、魔物はその傷ついた小さな姿を晒した。ラムシーである。警戒心を表しぶるぶると楕円の身体を震わせる。その両目が身動きのとれないステラを捉えた。


「あ、うあ……」


「ステラさん?」


 ステラの変化にシオが気付き声を掛けるが、ステラには反応を返す余裕もなかった。ラムシーは一体。対峙する者が凶器を持った敵だと感知すれば逃げるはずだが、相手は一向に引き返す予兆を見せない。


 その様子に流石のシオも魔物が何を思ったのかは察しがついた。彼は音を立てないようゆっくりと腰を上げ、枝に足をかけていつでも飛び出せる体勢に移行した。


 ラムシーはステラをじっと観察している。静かな見つめ合いを経て、

 やがて、にたりと笑うように表情をゆがませた。


 ――何故、笑うの。

 魔物に遭遇してから、ずっと彼女は声を聞いていた。目の前に魔物がいることは認知している。剣を振るわなければいけないのも分かっている。だってそういう仕事だから。


 心の中での問うと同時に、まるで応えるようなタイミングで、目の前の魔物の表情が変化したことも理解していた。迫り来る危険に身体が対応するが、頭は別の『敵』の対処に追われていた。


 振るった剣は当たらない。

 意志に反して軌道は魔物の身体をわずかに逸れ、相手の反撃を許してしまう。ラムシーは瞬時に獰猛な本性を顕わし、外見に不釣り合いなほど鋭利な刃をむき出しにしてステラの手に噛みつこうとするが、彼女は身をよじりとっさに躱す。


「ステラさん!」


「大丈夫です!」


 目の前のこいつが危険なんじゃない。だから、まだやれるはずだ。

 安易な判断に酔って、身体を浮かせたままの彼を制する。


 鼓動を揺さぶる笑い声は、目の前の魔物ではなく、それは彼女の手元を伝って這い上がってくる。胸を掴んで握りつぶそうとしてくる。呼吸がうまくできなくて、脳の判断を鈍らせていく。


 正体は理解していた。

 笑い声はいつだって剣を振る時に響いてくる。剣を、アーティファクトの使用者となったその日から毎回響いてくるから。でも、何故なのか、それがいつも分からないままだった。


 剣が、使用者わたしを嘲笑っている。


 ――何故、嗤うの。


 音にならない声が心臓を締め付ける。意味などないと理解はしていても、反射的に耳をふさぎたくなる。だが状況は止まることを許さない。魔物の動きを躱しながら、置き場のない感情を瞳からあふれ出させる。


 彼女は響く声を振り切り、目の前の敵に向かって剣を振るが、


 ――もう一つの『敵』が嘲笑うように自らその機動を湾曲させる。


 そうしていつも、剣は相手にかすりもしない。


 ――このままじゃ。また、私は失敗する。


 焦れば焦るほど剣の振り幅は大きくなり、遠目からでも空振りがよく分かる。魔物の接近を許し、ついには、致命的な隙を生んだ。


 振り切った剣先と真逆に跳んだラムシーは先に接地した前足を軸に半回転。

 剣の重みに重心を持って行かれ、上半身のバランスが崩れたステラへと向き直り、傾き接近したその首筋を目がけて跳躍する。


 瞬きを許さない世界で、ステラの聴覚は麻痺し、思考は停止し、

 唯一視覚はそのぎらつく刃を捉えていた。


 自身を庇うことも諦め、白濁する彼女の視界に、銀が落ちた。


 コンマ一秒。追従するように黒い影が落ちた。


 そして無残に飛び散る赤を見た。


 ――呼吸が、できた。


 視界が戻り、この一時間で見慣れた青年の姿と、真上からの刺突に脳を砕かれた、獣の姿を確認した。見ためにそぐわない力で彼は獣から剣を抜き取る。

 のどかな世界に似合わない赤色が彼と周囲の木々に遠慮無くぶちまけられる。


 かき乱された心が息を吹き返し、ステラは青年に声をかけようとして、こちらを睨む紫の瞳を認識した。

 身体に震えが戻る。


 覚悟はしていたはずなのに、予想以上の剣幕に何故何故何故と。頭が混乱した。

 理由を探して自ら自分の行いに非難の目を向けた。


 ――私は、やだ、まだ、できる、だから。


 焦り、弁明の言葉を考えると同時に、背後に別の気配を感じた。


 ――もう一体いる!


 全身が痺れた状態のまま、辛うじて働いた本能が身体を強引に横転させた。

迫ってきたそれは、中空で空気を食らう。

 そしてステラがその姿を認識する前に、両者の間に滑り込んだ影に討たれた。


 力なく地面に横たわる少女の聴力が声を捉えた。剣が、また嗤っている。今ははっきりとその奥底まで聞こえていた。


『お前は闘いに、ナニを見ている?』


 耳をふさぐこともやめた。手から剣が滑り落ちた。助けてくれた影が、自身の安否を問う声が、やけに遠くに聞こえていた。


『だから狩り一つできない愚か者なのだ』


 鼓膜に響く声、そこに感情はなかった。




 …………。


 自分には使用者としての力がある。

 その姿を見てほしくて、

 矮小な魔物一匹斃せない、情けない姿を誰にも見られたくなくて、

 ずっと一人でいた。


 ………………。


 けれど今、側にいる彼は、

 自分の使用者としての力がないことを知っていて、

 一人で戦える技量もあって。


 ……………………。


 その人の目の前で、私は情けない姿をさらしている、



「なんでかなあ」


 ステラは虚空に向けて呟いた。その腕は再び剣を取ることもなく、座り込んだ少女の肩にだらりとぶら下がっている。


「なんでこんな小さな魔物も狩れないのかなあ」


 ……半分言い訳だと自覚していた。けれど、何か言わないと落ちつかない。

 ステラはせわしなく視線を彷徨わせ服の裾を握ったり開いたりした。


 一方、シオからの反応は一切無い。


 彼は怪我の有無を確認したあとは解体作業に没頭していた。少女は眺めながらなんとなく今度は体育座りの体勢になる。


 彼は腹部を切り裂き、血を抜き、ローブの中から取り出した水筒でざっと洗い流して、熟練の狩人のように手早く作業を進め、ローブから更に袋も取り出しては、遠慮無く放り込んでく。

 ふくれた袋を満足そうに見つめ、溜まった息を吐くと一連の動作を眺めていたステラと視線が合った。

 そしてステラの方が視線を逸らした。


「……何でもできるんですね」


 結局、この依頼は全て彼がやった。彼に巻き込まれたようなものだけど、それでも何もできなかったという事実が彼女を蝕んでいた。どこかひねくれた感情を持って言っているなと自覚はしていた。


「何も言わないんですね」


 応答しないことを指摘してみる。やはり答えは返ってこない。気分が更に落ち込みそうになって振り払うように首を横に振った。


「……わざわざ付き合ってもらいましたが、興が冷めました?」


 失望を明言するなら自分から言ってやる。早く見切りを付けてどこへでも行ってしまえ。投げやりな気持ちで言い放って、ステラは顔を埋めた。


 彼女の意志に反して、シオはステラの隣に腰を下ろした。


「取り敢えず今日はラムシーの肉でパーティーにしましょう」


「あの、聞いてました?」


「聞いています。加えて利のない愚痴は聞き流す性分です」


 ステラは口を固く閉じる。黒い感情が喉までせり上がってくる気配がして必死に飲み込み、荒い呼吸を繰り返した。この感情も全部彼に筒抜けなのだろうか。


 シオが大きく息を吐く音に、ステラの身体はこわばった。

 怯え憔悴した心の中で、いつの間にか彼を魔物と同等に位置づけていることに、彼女は自分に辟易する。自分の身体はどこまで自分が大切なのだろう。


 ――そんな盾、まるごと全部壊れてしまえばいいのに。


 彼がまた口を開く気配を感じて、ステラは目をつむった。


「あなたは今、懸命に闘っているのでしょう?」

 


 ……それがどういう意図を持っているのか、ステラには分からなかった。


 思考が意味を認識しようと働きかけるが、感情は動くことを拒否する。何が起きるか分からない。まだ自分を守っていたいと。


「暴走を前もって提言しておきながら、武器を変えずに……おそらく分かっていながら『それ』を使うことを選んだ」


「……一体、何が言いたいんですか」


 せき止めていた声が出た。幾分かの涙を呑んだ声に、言った自分が驚いた。


「そうですね。――つまり、あなたは大丈夫だってことです」


 ステラはゆっくりと顔を上げて、シオの顔を見た。今、自分が口を開いたら答えが変わってしまうような気がして、目を逸らさずにじっと次の言葉を待っている。


 不思議な静けさの中、木漏れ日の下で並んで座る彼は、穏やかな表情から一転いたずらを思いついた子供のように無邪気に笑った。


「扱えない力を与えられるはずなんてないんです」


 寄り添って、観察して、猫みたいに気まぐれな彼は、今少女へ手をさしのべている。


「あなたは、ちゃんと変わることができるんです。その術を僕は知っている」


 ――本当。この人は、分からない。と、


 隠しきれない感情は涙になって、声にならない音と共にぼろぼろとこぼれ落ちた。


書き損じがあったため序盤の会話部分に追加しました。

確認してから投稿しているつもりだったのですが、駄目ですね。

申し訳ありません。(8/6)

加筆、修正(10/29)

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