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2話 俺と異世界

 新たな世界に転生した。

 とは言え、周りはどこもかしこも緑だらけ。


 どうやら森であろうことは察する事が出来る。

 しかし、いきなりこんなサバイバルな環境に身を置く事になるなんて思いもしなかった。


 しかし、異世界への転生とはそれ即ちファンタジー、と言う先入観が現状をすんなりと受け入れさせた。


 どうせ一度失くした命なのだ。

 狼狽える前に色々とこの世界の事を知ってみよう、と前向きに考えた。


 とは言え、まさか全くの別人、しかも普通の人間とはかけ離れた姿である事に気がつくと、ついつい愚痴をこぼしてしまう。


「お、上手い事転生出来た様だな」

「そりゃいいけどよ。転生って赤ちゃんからとか、元の姿のままとかじゃないのな」

「そりゃそうだろ。俺の主人をお前の魂を使って生き返らせたんだからな。だから姿形は俺の主人と同じに決まってるだろ?」

「そ、そうなのかよ」


 男は少しだけ後悔する。

 もっと詳しい話を聞いておくべきだったと。

 まさかこんな『猫耳を生やした子供の獣人』として転生するとは。


 そして、元の記憶まで引き継いでいる。

 この猫獣人の子が、どう思いどう生き、何を思い残して死んでしまったか。

 まだ十一歳と言う短い人生だとしても、それなりの想いが残されていた。


「って言ってもな~中身オッサンなんだけど?」

「関係ねえよ。お前は俺に美味い飯を喰わせてくれりゃ問題ねえんだからよ。あ、それとお前の名前はミケで俺の名はゴロだ。よろしく頼むぜ相棒」


 男、改め、ミケは手探りで自分の体をまさぐっては幾度となく確認する。

 しかし、その結果、どう推測したって子供の体型にしか思えなかった。


 しかも、前世における十一歳と比べたら随分と小さい。

 短い手足に、ずんぐりとした胴体。

 まるで着ぐるみでも着ているかのように大きい頭。


 サラサラな銀髪はまるで汚れを知らない無垢な印象を与える。


 記憶を辿るにつけ、どうやら元のミケはこの愛くるしい容姿を利用して、女性の人気を集めていたらしい。

 歳の割にこいつエロい。と言うのが感想だった。 


 十一歳とは思えないあれやこれやの行為は当たり前だったようだ。

 前世で三十年生きた今のミケではありえない体験を、十一歳のミケは済ませていたのだ。


「くっそ……なんだよこの愛くるしいモフモフした感じは……すっげえ恥ずかしいんだが? しかもこいつすっげえプレイボーイじゃんか」

「そうか? けっこう女共に人気あっからそれはそれでいいもんなんじゃねえの? 元のミケも鼻の下のばしてたぞ?」


 なるほど。

 それはそれでいいものなのかもしれない。

 ミケは少しだけ今後の展望にプラスの要因を見つけた。


 考えようによっては、前世では向けられなかった熱い視線を浴びる事になるのだから。


「そういや、ここらは魔物が多いから気を付けろよ? まあ俺がついてりゃ怖いもんなんてねえけどな」


 おいおい。

 とミケは胸中でツッコミを入れる。

 色ボケしてる間に死んでしまったら元も子もない。


 記憶を覗けばゴロの強さは思い出せるのだが、それだけでは心配になった。

 これだけは本人の口から聞かないと安心できない。


「ちょっと待てよ、ゴロって強いのか?」

「強いってか、契約してる精霊獣の中じゃ最強じゃねえか?」

「精霊獣の中では、だろ? この世界のあらゆる生き物と比較してどうなんだよ?」

「ん~、全ての生き物と戦った事はねえからよ。腹が減ってなきゃ、そこいらの魔物には負けねえよ。それに勇者とか言う人間にもな」

「腹が減ってたら?」

「戦いたくねえよ。なんで腹が減ってるのに運動しねえといけねんだ?」

「いやだって、戦わないと死ぬんだぞ?」

「あ、俺死なねえから」

「お前さえ死ななきゃいいのかよ!」

「ああ、大丈夫だって。お前だけは死なねえように守ってやるからよ。さすがにお前が死んじまったら俺も消えちまうし」


 それを聞いて安心した。

 とにかくこの黒猫だけはきちんと飯を喰わせないといけないようだ。


「まあだからよ。俺はちゃんと神様に頼んどいたんだぜ?」

「何を?」

「前みたいな料理が出来るように、あの店にあった機械の役割を魔法で代用できるようにしといてくれってよ」

「おおぉっ、魔法があるのか? って、元の記憶にもそうあるな」

「ちょっと待ってろ!」


 ゴロはそう言うや否や、茂みの中へと駆け出していった。

 まさか急にひとりぼっちにされるとは。

 これはしかし、意外と心細い。

 今、魔物に襲われたら死んでしまうのでは、と言う恐怖に駆られる。


 その間、ミケは魔法に関しての記憶を引きずりだす。

 魔法とひと口に言っても様々なようだ。


 イメージを固定させて炎を出したりするのが【魔法】。

 呪文や術式に魔力を込めて炎をだしたりするのが【魔術】。


 大きく分けてこの二つに分類されるのだが、細分化された種類は多岐にわたる。

 どちらも魔力を消費すると言う点では同じだ。


 ミケが元々使えるのは、精霊魔法と言うとても珍しいもの。

 魔術に置いてはかなり知識が豊富なようだった。


 と、ここで思う。

 もしかしてこの猫耳獣人の子ってエリートだったんじゃないのかと。


 精霊獣との契約なんてものもこの世に数人しかいないようだし。

 これはとんでもない体に転生してしまったのかもしれない。


 しかし同時に、こんな凄い子でも病には勝てなかったのだ。

 魔法や魔術と言えども万能ではないと言う事だ。


 だがどう言う事だか、元の記憶にはポッカリと穴が開いたように喪失してる部分がある。

 記憶喪失の一種だろうか。

 ある一定の過去まで遡ると、そこから以前についての情報はおぼろげにしか残っていなかった。


 特に自分の事に関してはそれが顕著だった。


 ひとまず今は困らないので、ミケは気にしない事にする。



 ところでゴロの奴はまだなのかと、ミケは待ちくたびれてしまった。

 暇と寂しさを埋めるために何か魔法でも使ってみようかと思いつく。


「ん~、手始めに周囲に危険が無いか探ってみるか」


 【探索魔法】と言う記憶に目を付け、元あったイメージ通りに放って見る。


「お、おおっ!」


 すると、右手がほんのりと光を帯びて、しばらくするとそれが森の四方八方へと拡散されていった。


「す、すげえ」


 どうやら、周囲にいる精霊に魔力を与えて探索してもらうと言う魔法のようだ。

 それから程なくして、いくつかの光――精霊が戻ってきて、探索結果を教えてくれた。


『あっちに人がいるよ。ずっとミケの事見てるけど、でも敵意はないから放っておいていいよ』

『ゴロがでっかい猪と戦ってるよ。でももうすぐ仕留めるよ』

『周りには数匹魔物がいけるけど、ミケとゴロの魔力に怯えて逃げていったよ』


 それを報告してくれた精霊は、パッと消えて見えなくなってしまった。


「おおっ! 精霊魔法すげえ……魔法ってすごいのな……つーか、見張られてるのか?」


 どこだろう、と思いながらあたりへと視線を巡らせる。

 敵意が無いとはいえ、一方的に見られているのは気持ちが悪い。


 だからミケは「どこだ、どこだ」と念じながら凝視する。


 すると、ミケの視界に異変が起きた。


「あ、これってもしかして【看破魔法】じゃね?」


 これも精霊魔法の一種。

 凝視した時に対象への執着を念じていると、目に精霊が宿り様々な情報が見えて来ると言うもの。


 その目を向けた途端、樹の陰に隠れている一人の女と目が合った。


「あっ、いた」


 看破魔法を介した目からは、たしかに彼女からの敵意は感じない。

 だからつい癖で、ペコリとお辞儀をしてしまった。


 向こうもミケに気付いた様で、何故か顔を真っ赤にしながら呆けている。


「あの人も猫獣人なのかな? それにあの目だけを隠す仮面……仮面舞踏会かなにかか?」


 今のミケにはその容姿が鮮明に映し出されている。

 猫耳を頭に生やした女剣士。

 腰に剣を差し、金属で出来たような軽い鎧を着ている。

 その下には濃紺の肌着と、腕に金属のガントレットを嵌めている。

 しかも可愛くてスタイルも抜群。

 目は隠れているが、絶対に美形だとミケは自信を持って妄想する。


 下半身は、太ももの半分が露わになるくらいの短いフレアスカート。

 ただし、膝上までの長い革ブーツを履いている。

 それでもこんな森を探索するには、肌を露出させ過ぎではないかと。


 しかしミケは、それよりももっと別の部分に視線が留まる。

 何より特徴的だったのは、まっさらで長い翡翠色の髪だったのだ。


 しかし、猫耳仮面の女剣士はミケがもう一度お辞儀した所で、咄嗟にどこかへと消えていってしまった。


「ん? どうしたんだミケ?」


 気が付くと、目の前には大きな猪を背に乗せたゴロが帰ってきていた。


「あ、いや。あっちに女の人がいてよ」

「ああ、あれだ。猫耳の女剣士だろ?」

「知ってたのか?」

「知ってたって言うか、お前のファンだわ。ずっと遠くから見てるだけだけどな」


 だからあの人はあんなに真っ赤になってたのか。

 まあいいや。

 あんな美人に好かれてると思えば、この先の人生も明るいだろう。

 そう思った次には、ゴロの背中にある猪へ気が向いていた。


 黒豹の姿になったゴロよりも二倍はでかい図体が圧巻だった。


「なあ、これどうすんだよ?」

「どうするも何も、お前がこれでうまい飯を作るんだが?」

「ああ、そう言えばなんか神様から魔法がどうとか言ってたな」

「神様はその魔法を【料理魔法】とか適当に名付けてたけどな。これ説明書だわ」

「なんか思ったよりも神聖な感じじゃねえんだな。神官とかに授けてもらうイメージだったんだけど」

「いいから早くなんか作ってくれよ。戦ったから腹減ったわ」


 腹が減った。

 ミケはこの言葉に弱い。

 職業病とも言えるのだが、それを聞くと満たしてやりたくなる性質なのだ。


「分かった。ちょっと待ってろよ」


 ミケはそう言うと、神様からの説明書を受け取った。

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