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地球よいとこ、たまにはおいで  作者: 相田 彩太
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アンドロイドは女子会の夢を見るか(後編)

 「あー順調に人質だ……」

 ビクターとメイは縛られコントロールルームの片隅に座らされていた。

 一人のグリリン星人はコンソールを操作し、もう一人が常に銃口をビクター達に向けている。

 「マスター、私たちどうなるのでしょう」

 「運が良ければこのまま放置されて、定期報告が途絶えたセントラルセンターが救助を出してくれるかな。僕は順調に飢え死にするかもしれないが……」

 「さよならマスター、短い付き合いでした」

 よよよとメイがしなを作る。

 「メイも無事か分からないぞ。銀河市民である僕を殺すと大罪だけど、メイは備品に過ぎないから単なる器物破損で済むからな」

 「マスター! 死ぬ時は一緒ですよ!」

 縛られたままメイはビクターに肩を預ける。

 「おい、三文芝居はその程度にして、宝物庫の解除コードを教えろ」

 コンソールを操作している方が言う。

 「あれ? マスター、緑の星解放同盟って営利団体でしたっけ?」

 「ああ、解放同盟とはいっても経済活動は必要だからな。金も必要なんだろう」

 「そんな事はない! 我ら緑の星解放同盟は汝らがこの緑の星から搾取した資産を解放し、それを還元するのだ。これは解放活動である!」

 少し大仰に、怒気を込め、グリリン星人は言う。

 「だってさ」

 ビクターはやる気のない顔でメイの方を見る。

 「我らを愚弄する気かな?」

 見張りのグリリン星人が光線銃をぴたぴたとビクターの顔に当てる。

 「め、めっそうもございません。解除コードですよね。コンソールの下の扉のマニュアルに記載されていますよ」

 「よしよし、物分かりがいいじゃねえか」

 コンソール下の扉を開け、中から紙の束を取り出す。

 「解除コードのページは目次に書いてありますから。僕の命だけは助けて下さい」

 ビクターが涙を流し懇願する。

 「殊勝じゃねえか。俺達も鬼じゃねぇ、考えておいてやるよ」

 そう言ってグリリン星人はページをめくる。

 「なんじゃこりゃ!?」

 驚くのも無理はない、解除コードは地球の言語で記載されているのだ。

 「こりゃどういう了見だ!」

 「知らないのですか? 緊急の解除コードは現地人の言語で書かれてあるのですよ。コンソールの入力モードをLocalに設定して入力して下さい。拘束を解いてくれれば僕が入力しますよ」

 「そうはいかねぇ。俺が入力するぜ」

 ニヤリと笑いながらグリリン星人はコンソールに向き合う。

 もちろんもう一方のグリリン星人はずっと銃口をビクター達に向けている。

 これで時間は稼げるがどうしたものか、ビクターはそう思いながら次にグリリン星人が出すであろう問いへの返答を考える。

 一文字一文字、紙の束とコンソールをにらめっこしながら入力しているグリリン星人の手が止まった。

 「おい、この次のページと入力モードの文字が合わないぞ」

 最初のページには丸まった文字が書かれておりコンソールの文字と一致しているが、次のページには丸ばった文字と、角ばった文字が書かれている。

 地球の言語を学んだ者ならば分かるであろう。

 最初のページはアルファベットの英語で、次のページは漢字と平仮名混じりの日本語で書かれているのだ。

 「それは地球の言語でいう所の日本語ですよ。文字に小さい文字でアルファベットのフリガナが記入されているでしょ、それを打ち込んで下の長いバーを打つと文字候補が出ますので、そこから一致する文字を選んでいくのですよ」

 「ふざけんな! そんな非効率な言語があるか!」

 「しかたないでしょ! 現地未開人の言語なんですから!」

 そう、ビクターも苦労した。この星の知的生命体は何十もの言語が存在し、それが各言語で一定以上のシェアを保持している。

 それだけでない、それを統一する動きすらないのだ。

 いや、あったが歴史の影に埋もれている。

 「くそっ、これだから未開人は……」

 グリリン星人が再びコンソールに向き直り、入力を始めて現地時間で数時間が経過しただろうか、銃口を向けている方も退屈気味になって来た時、コントロールルームに警報が鳴った。

 赤い光が明々し、ヴィーヴィーという音が反響する。

 「なんだ! 警備隊か!」

 「いや、こんなに早く来るはずがない。それにレーダーにも通信にも反応はない」

 「おいメイ、これってまさか」ビクターは小声で語りかける。

 「はい、マスターの想像通りです」メイも小声で返す。

 その想像の通りのモノ・・が通路よりコントロールルームに入って来た。

 「うーん、ここどこ? 看護師さんいます?」

 そう、意識を取り戻した飛鳥がやって来たのだ。

  

 『うわぁ! 野生の現地土人が檻から脱走してしまったぁ!』(銀河標準語)

 ビクターのわざとらしい声がコントロールルームに響いた。

 「ぎゃー! 緑色のお化け」(日本語)

 『現地土人の脱走だって!』(銀河標準語)

 「お願い飛鳥さん。化け物の襲われているの。助けて!」(日本語)

 最後の声の主はメイだ。コイツ役者だな、とビクターは思った。

 「メイちゃん! 化け物に襲われているのね。わかったわ!」(日本語)

 『おい、こいつ何を言ってんだ!?』(銀河標準語)

 「ええと”我の眠りを脅かす者たちに死を!”って言ってます。うわー殺される』(銀河標準語)

 「飛鳥さん、その銃に気をつけて!」(日本語)

 「あたしの夢の友達に何してんのよ!」(日本語)

 飛鳥がグリリン星人に突進する。

 『死ね! 野人!』(銀河標準語)

 グリリン星人の銃口が飛鳥に向かい、そこから光線が発射される。

 その光線は飛鳥の左腕を貫通するが、飛鳥の突進は止まらない。

 「ぶっっ飛べ! 化け物!」(日本語)

 飛鳥の右拳がグリリン星人の顔面に炸裂し、言葉通り、ど派手にぶっ飛ぶ。

 『うわぁ、野生動物を傷つけた。けだものは手負いが一番恐ろしいんだ!』(銀河標準語)

 ビクターの演技っぽい叫びが上がる。

 『くるな! くるなぁ!』(銀河標準語)

 コンソール側のグリリン星人も銃を抜くが時すでに遅い。

 「あたしの友達を傷つけるなぁ!」(日本語)

 飛鳥の突進が、体当たりがグリリン星人の胴体に炸裂し、哀れなグリリン星人は壁と飛鳥に挟まれ、口から出てはいけない色の液体をまき散らし崩れ落ちた。

 「大丈夫? メイちゃん」(日本語)

 地面に倒れ伏す二人のグリリン星人を後目に、飛鳥はビクターとメイに駆け寄る。

 「うーんこの縄、どうやって切ればいいのかしら」(日本語)

 「飛鳥さん! 後ろ、後ろ!」(日本語)

 メイのセンサーは捉えていた。一人目のグリリン星人が立ち上がり、震える腕で銃を構えようとする所を。

 「大丈夫よメイちゃん。あたし、残心は忘れてないから」(日本語)

 膝を落とした体制から、そのままの高さで飛鳥は後ろに、地面すれすれを滑るように跳ぶ。

 そのままグリリンの星人の脚に衝突すると、足を掴んで立ち上がった。

 必然的に支える脚を失ったグリリン星人は床と熱烈なキスをする。

 「こいつの身体、結構硬かったのよね。拳をちょっと痛めちゃったわ」(日本語)

 手に息を吹きかけ飛鳥が言う。

 グリリン星人の身体が硬い訳ではない、そのボディスーツが硬く、拳の威力も激減させたのだ。

 「でもね。こいつらが二人いて助かったわ」(日本語)

 グリリン星人の脚を抱えたまま、飛鳥はコンソールに寄りかかっているもう一方へ近づく。

 引きずられているグリリン星人は抵抗するが、それも虚しい抵抗だ。筋力が違い過ぎるのだ。

 「目には目を、歯には歯にを、ダイヤモンドにはダイヤモンドじゃーい」(日本語)

 飛鳥は抱えたまま体を回転させると、ジャイアントスイングの要領で回転するグリリン星人とコンソール側のもう一人を激突させる。

 ボグッっと鈍い音を響かせて、哀れな二人のグリリン星人は気絶した。

 「スゴイですね。武装した二人を相手に」(日本語)

 メイが感心したように呟く。

 「そりゃそうさ。いいかメイ、銀河市民と地球人では戦闘において大きな違いがある」(日本語)

 「何ですか?」(日本語)

 「まず、単純に筋力。銀河市民は生活の大半が自動化されている上に、メイのようなサポートアンドロイドを大半が使っている。一部の種族を除き筋力は大幅に劣っている。まあ、地球の例で例えると、筋力だと人間の握力が五十kg程度なのに対し、体格で明らかに劣るチンパンジーは二百kgもある。体格が同じだとすると、その差はもっと顕著になるだろう。それと同じで銀河市民と地球人との筋力差は大きな開きがある」(日本語)

 「なるほど、筋力は速さと攻撃力に大きく影響しますからね」(日本語)

 「それだけではない、最大の違いは闘争心だ」(日本語)

 「闘争心?」(日本語)

 メイが怪訝そうに言う。無理もない、アンドロイドには無い心だ。

 「そう、銀河市民は戦闘から離れて久しい。闘争心など歴史の彼方に置き去りにしていった。戦争はあってもそれは文明化された兵器と兵器の対決だ。肉体を使った殴り合いなど無いし、警察は十分に組織化され、必ず勝てる布陣で犯罪者と対面する。理性と知性で対処するんだ。だから、あんな風に一気呵成に殴りかかったり、アーマーとアーマーを激突させるような野生ともいうべき戦法なんて咄嗟には思いつかないさ」(日本語)

 「ああ、最初の時点でグリリン星人が少し委縮していたのもそのせいなのですね。でも飛鳥さんは、そんなに闘争心が高そうに見えませんよ」(日本語)

 「普段は穏やかでも、危機的状況では未だ地球人の闘争心は顕在する。地球の例で例えるならば、今回のケースは穏やかなゴリラの怒りに触れた文明人がやられた、って事かな」(日本語)

 「だれがゴリラだ! だれが!」

 まずい、つい日本語で話してしまった、ビクターはそう思った。

 

 

 「ふぅ、やっと順調に暇になった」

 先日のグリリン星人襲撃のトラブルの始末を付け、ビクターは久方ぶりに安楽椅子に腰を下ろし、地球産のコーヒーを嗜む。

 「ええ、犯罪者の引き渡しに、飛鳥さんの治療と送還がやっと終わりましたね」

 「メイ、飛鳥の治療に抜かりはないだろうな。特に光線銃の痕とか」

 「ええ、傷跡なんて全く残ってませんわ」

 「そうか、じゃあ彼女は奇跡的に白血病が治り、治療中に宇宙で緑の化け物と戦った夢を見たというシナリオで決着だな」

 「そうですね」

 アンドロイドに感情があるとは思えないが、それでも友達と呼んでくれた最初の存在から離れ、メイは少し悲しそうなそぶりを見せる。

 その時、床からコンコンコンと三回音が鳴った。

 ビクターはコーヒーを吹き出し、メイは嬉しそうなそぶりで「霊体種用ゴーグルを取ってきますね」と倉庫に駆けて行った。

 

 「で、どうして気づいた?」

 ビクターは虚空に声を掛ける。

 「簡単よ、腕の穴は無くなっていたけど、拳がちょっと赤くなってたの」

 そこか、メイには後できつく言っておかなければなとビクターは思った。

 「で、この事を言いふらすのかい? 誰も信じてくれないと思うよ」

 「そんな事はしないわ。あたしは友達に会いに来るだけよ。たまにね」

 「わかった。だけど、お茶菓子代くらいは働いてもらうぞ」

 ちょうど現地でのガイド役が欲しかった事を思い出し、ビクターは妥協する。

 「いいわ、たまにはバイトで協力してあげる。ねっ」

 そう言って、飛鳥はビクターへ向けてウィンクした。

 

 この話では言語の部分がめんどくさかったです。

 ここから地球人のレギュラー、飛鳥の登場回です。話のテーマは自然界では体重が大きい方が強いはずなのに、人間では10kg以上も体重の軽い中型犬やチンパンジーに勝てないという話から膨らませました。

 グリリン星人は、パニック映画で、野生動物に序盤で犠牲になる登場人物をイメージしています。

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