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回想3

 道すがら、俺は魔王に呼び止められた。


「ユウト。ちょっといいか」

「ええ。いいですよ」


 いつもはへらへらして何を考えているかわからない魔王だが、やけに真剣な眼差しをしているのが気になった。

 そのまま魔王に離れの部屋まで連れていかれる。周囲には誰もいなく、遠くから声が聞こえてくるぐらいだった。

 魔王は少し考えるそぶりを見せた後、きっぱりとこう言った。


「ユウト。あのな・・・お前は人間界へ逃げるんだ」

「・・・え?人間界?」


 突然そんなことを言われ、戸惑ったが魔王は続ける。


「これはまだ誰にも言ってないんだが・・・、今回の聖族達の襲撃。恐らく、いやほぼ確実にこちらは負ける。なにせエリーゼが動きやがったからな・・・」


 誰にも言ってないというか・・・さっき聞いたような話なんだけど。


「そのエリーゼという方はそんなに危ない方なのですか?」


 俺がそう言うと、魔王は何故か一瞬くすっと笑った。


「危ないというレベルではないぞ。

 あれはもう化物ってレベルを逸脱した何かだ。戦闘力は未知数。まともに相対したらうちの幹部クラスでも数秒も持たないだろう。俺とイレア二人で共闘しても絶対に勝てない・・・」

「それは確かに危険な状況ですね・・・。でもそれなら何故そのエリーゼという方は今まで攻撃してこなったんです?」

「あいつは元々戦争なんか興味なかったんだ。だが・・・」


 そのまま魔王は俺を一瞥すると黙ってしまった。

 一体どうしたというのだろうか。


「とにかく、お前は今すぐ人間界へと逃げるんだ。いいな?これは命令だ。この際お前が保護しているあの3人を連れて行っても構わん。だから絶対に人間界へ行け」


 わざとらしく話題を転換したのが気になったが、俺は頷いた。その答えに満足したのか、魔王はそのまま部屋を後にした。

 しかし、なぜ俺にだけ人間界に逃げろといったのだろうか。それと他の幹部たちにもこのことは伝えているのだろうか。

 でもあの魔王が負けるなどという弱音を吐くなんてよっぽどのことだ。これはかなり深刻な状況だ。

 しかし、命令されてしまったら俺は従うしかない。例え仲間を見捨てることになったとしても魔王の命令は絶対だ。ただ・・・ユキとリリカとシズクを連れて行っていいと聞いたとき心の中で安心している俺がいた。

 とりあえず、今すぐと言われたからにはもう出る準備をしないとな。

そう思い俺が部屋から出ようとしたとき、とてつもなく大きな爆撃音が耳をつんざいた。思わず耳を抑える。

 一体何の音だ? 

 気になって窓を見ると、城の入口付近から黒煙が上がっていた。そして再び爆発が起きる。

 まさか、もうここまで来たのか?

 だとしたらいくらなんでも早すぎる。大群を引き連れての移動となるとかなり時間はかかるはずだ。

 待て、では大群ではなく少数精鋭で攻めてきたということか?じゃあまさか、あそこにいるのは・・・。

 こうしてはおられない。早く3人を連れて人間界へ非難しなければ!

 俺は走り出す。道中、たくさんの兵士達とすれ違った。その誰もが重装備で、切羽詰っているようだった。3人に念話を送り、とりあえず鍛錬していた場所に集まるように話す。強く言っておいたのですぐに来るはずだ。

 集合場所に到着すると、3人共揃っていた。


「せんせい。さっきすごい音がしたけどもしかして私みたいに魔法に失敗したの?」

「アホか。いいか、さっきの爆発は恐らく聖族の攻撃だ。もうこの城にまで攻めてきたと考えるのが筋だろう」

「え!もう攻めてきたの?流石にそれは早すぎじゃ・・・」


 リリカが不審そうにする中、反論したのは意外にもシズクだった。


「嘘じゃない。さっきサーチした際、魔族と聖族が戦ってるのを見た・・・。けど相手が強すぎて戦いになっていない」

「シズク、聖族側はどんな人物か見たか?」

「見た。女の子だった。あと2人いた。だけど見た次の瞬間サーチできなくなった。一瞬こっちと目があったのは気のせいと信じたい」


 流石に状況が状況なので素直に答えてくれるシズク。

 なるほどな。恐らくサーチできなくしたのはその女で間違いないだろう。しかし、シズクのサーチに気付くなんてな。

 魔王の言っていた化物を逸脱した存在ということは本当だったようだ。

 俺は3人に人間界へ逃げることを伝える。3人共、ここを捨てて逃げることにいささか不満はあったものの、魔王に命令されては仕方がないと折れてくれた。


「よし。それなら早速 光の(イグニッションゲート)のある場所へ行くぞ。確か地下の最下層にあったはずだ」


 そうして俺たちは急いで地下の最下層へと向かう。長い廊下を抜け、兵士たちを掻き分けて地下の入口までたどり着くと、ユキが解除(アンロック)の呪文を唱える。すると間もなく金属が擦れるような音を鳴らしながら扉がゆっくりと開いた。地下の内部は真っ暗だったが、俺達が入るとまもなく、壁に掛けてあるロウソクに一斉に火が灯った。


「長い間入っていなかったみたいだから何があるかわからない。3人共はぐれないように」


 全員頷いたのを確認して、足元に気をつけながら降りていく。4人の足音以外は何も聞こえず、不気味なほど静かだった。

 どれぐらい歩いただろうか、やがて一つ大きな空間が前方に見えた。

 ここが最下層だろうか?

 中心には巨大な扉があった。


「うわぉ、すごいねこの扉、こんな大きい扉見たことないよ!

 城の応接間の扉より数倍大きいんじゃない?」

「地下にこんな扉があったなんて・・・」

「私は本で見たことあるし」


 シズクとリリカは扉に興味深々のようだった。

 俺は、扉に触れてみる。扉は少し(ホコリ)っぽく、あまり手入れされていないのが見てとれた。

 これ以上地下はないようなので、俺たちはこれが光の(イグニッションゲート)であると判断した。


「でも全然光っぽくないねー。むしろ闇っぽい?くすんでるし」

「そりゃ扉が開いてないからでしょ・・・。どうせ発動条件満たしたら光る」

「でもこれ、どうやって開けるんだ?」


 確かに扉で間違いないのだが、真ん中に線がある以外は何処にも開きそうな要素はない。するとユキが前に出た。


「私、光の(イグニッションゲート)の開け方わかるかも」

「ユキ、わかるのか?」

「おお、さすがユッキーだね!」


 ユキはぶつぶつと何かを呟くと、扉に向けて指をさした。

 すると、一瞬だけ扉が光った。

 ユキはやっぱり、と頷いてこちらを向いた。


「あと数分もすれば開けられる」

「わかった。じゃあ俺たちはそれまで誰も来ないように見張っておくぞ」


 ユキが解除作業に取り掛かる。

 この分だとなんとか間に合いそうだな。

 と思っていると突然リリカがこう言った。 


「ねぇせんせい。誰かが地下に入ってきたよ」

「何?」


 リリカが上を見てそう呟いた。俺には何も感じられないが・・・。シズクを見ると何故か動揺していた。


「おい、シズク。どうしたんだ?」


 いつも表情をかえないシズクが動揺するなんて珍しい。

 まさか・・・。

 いやでももしそうなら魔王を倒さないと来れないはず。

 魔王がそうやすやすと倒されるはずがない。

 しかしシズクが言った言葉はそのまさかだった。


「さっきの聖族達がこっちに猛スピードで向かってる・・・」


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