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回想2

 会議を終え、部屋に戻る途中俺は内容を思い返していた。

 魔王の口から出てきた言葉は信じられないことばかりだった。

 俺達魔族と対をなす存在・・・聖族。昔から非常に仲が悪かった二つの種族はお互いいつ戦争が起きてもおかしくない状況だった。だがその状況下でもここ数十年はお互い不干渉で争いは起きなかったのだが、数日前から突如聖族達がここ魔王城に向かって進行を始めているという。既に何千もの兵士が犠牲となっており、これはもう戦争ではないかと幹部達は騒いでいた。


「戦争か」


 今まで不干渉だった聖族がなぜ今になって襲い始めたのか定かではないが、とにかく今は進行を防ぐことを最優先にし聖族を魔王城に入れないようにしないといけない。

 だが、こうも簡単に進行されるものだろうか。それに何故数千の兵士の犠牲が出てから会議が行われたのか。もっと早い段階で気づいていればよかったのに。

 そうして考え事をしながら歩いていると、ふと興味深い話が聞こえてきた。俺は咄嗟(トッサ)にその話に耳を傾ける。


「今回の聖族達って何やらすごい剣を持ってるらしいぞ」

「すごい剣?」

「なんでも、その剣に魔族が触れると灰になるらしい。真偽はどうかわからないが恐らく真だ。既にたくさんの犠牲者が出てる。だから1回攻撃をもらうと終わりってことだな」

「ひえ~・・・それは恐ろしいな」


 まさか聖剣か?と思ったが聖剣を量産できるわけがない。

 そんな恐ろしい武器を持っているのか・・・。これは用心しないと。


「それと今回はあのエリーゼ=フォンシュタインも先頭にいるらしい」


 そう言うと周囲にいた誰もが、足を止めた。発言主に問い詰めると、兵士たちはあからさまにため息をついた。


「こりゃダメだな・・・。魔族もついに終わりかもしれない」

「ああ・・・まさかエリーゼが動くなんて・・・」

「顔はすんごい可愛いんだけど強すぎるんだもんな・・・」

「うっわお前ロリコンかよ。まあ確かに可愛いけどさ」

「けどエリーゼは確か宮殿に引き篭ってるって言ってなかったか」


 エリーゼ・・・?何処かで聞き覚えのある名前だと思ったが、思い出せない。

 思い出そうとすると何故か、頭の中で鍵がかかったかのように、思考を阻止される。

 もやもやしてよくわからないまま、俺は歩いていく。


「あ、ユキはもう起きてるかな・・・一応見に行っておくか」


 シズクとリリカも気になったがその前にユキの様子を見に行くことにする。

 ユキの部屋の前に着くと、俺は扉をノックする。


「ユキ、起きてるか?」


 何度かノックするが、返事がない。まあ、シズクとリリカが起こしてくれたのだろう。そう思い、去ろうとしたとき、部屋の中から物音のようなものが聞こえた。


「まさかな」


 俺は念の為、部屋の中を確認する。

 お菓子の袋が散らかっており、ゲームもテレビも点けっぱなし。とても女の子の部屋とは思えないような状況下の中、ベッドの上でユキは寝ていた。

 俺は思わず頭を抱える。


「ユキ、こら早く起きろ」

「うぅ・・・」


 体を揺するが反応がない。ったくこの寝ぼすけは・・・

もう一度大きな声を出すとやっと目を開けた。


「あれ・・・なんでユウトが」

「おはようユキ。早く起きろ、もうとっくに鍛錬が始まってるぞ」

「んーやだ・・・」

やだじゃない。早く起きろって」


 駄々をこねるユキに俺は無理やり立たせる。・・・がユキはそのまま俺に抱きついて再び寝始める。


「だから寝るんじゃない」

「じゃあおんぶ」

「あのなぁ・・・。ちっ今回だけだぞ」


 寝たままのユキを抱き上げると、そのままおんぶして部屋から出た。

 なんだかんだで俺もユキには甘いのかもしれない。直さないといけないとは思ってもつい我が儘を聞いてしまう・・・。こいつはマイナスイオンでも出てるのか?


「ぐー・・・・」


 幸せそうな顔で寝てるユキ。寝顔はとても愛らしいのだが、こんな状況の中で緊張感がなさすぎる。俺はほっぺをつまむとそのまま引っ張ってやる。


「って何してるんだ俺は」


 俺は鍛錬してるであろう二人のもとへと向かう。途中、ユキを背負った俺を不審そうに兵士たちが見ていたのは言うまでもない。

 シズク達の元へ着くと、丁度二人は打ち合いをしているところだった。


「じゃあ新作いっくよー!」


 リリカがそう言うと拳に炎がまとい始める。シズクは焦るわけでもなく静かにこう告げた。


「相殺するまで」


 今度はシズクの拳に冷たい冷気が漂う。二人の拳はぶつかり合い、相殺して水蒸気が立ち上った。


「ん~やっぱ出力が足りなかったか。すぐ炎消えちゃうよ」

「当たり前。消えなかったら私、燃えて消し炭」

「確かにそうだね~。ん?あ、せんせい!もう会議終わったんだ」

「まあな。それと、ユキも連れてきた」


 背中のユキを目で促す。

 二人の説明によると何をしても起きなかったので放置、ということらしい。まあユキは、二人と違って武術や剣術に関しては壊滅的にダメなので、本来ならここにいるべきではないのだが、これには理由があった。


「おい、ユキ。そろそろまじで起きろ」

「ん、ん~・・・?」


 再度ゆすって声をかけるとやっと目を覚ました。暫く虚ろな状態で周囲を見渡してから、目をこする。そこでやっと状況を把握したようだった。


「なんでユウトがおんぶしてるの?」

「なんでって、ユキが言ったんだろうが」

「寝ぼけてて覚えてない・・・。とりあえず降ろして」


 そうしてユキを降ろしてやる。

 ユキは背伸びをすると、お腹を抑える。


「お腹すいた・・・」

「その前にユキ。お前また夜更かししたな?夜更かしはデメリットしかないからやめろって何回も言っただろう?そんなんじゃいつまで経っても成長しないぞ。身長とか、胸とかもな」

「うわ、今ナチュラルにセクハラ発言したよこの人・・・。最低」

「せんせい・・・。いくらユキが小さいからってそんなこと言っちゃ可哀想だよ」

「ユウト変態だ」


 シズクからはゴミを見るような目で見られ、リリカからも注意される。

変だな。別にセクハラ発言なんかしたつもりはなかったんだけど。

 ユキは椅子に腰掛けた。

 そのまま何かを話すこともなく、しばらくシズクとリリカが戦うのを眠そうに眺めていた。しかし、ただ眺めているのではない。ユキは戦いを見ることにより、お互いに何が欠けていて、どこを補えばいいのか、何を強化すればいいのか、正確にアドバイスできる。俺よりも正確なので、二人のアドバイザーはいつもユキに頼んでいる。だから俺は鍛錬のメニューを作り、3人を監視するだけだ。実質なにもしていない。そのことをよくシズクにからかわれる。最近、実は本気でシズクに嫌われているんじゃないだろうかって少し不安に思うこともある。

 鍛錬が終わったあと、俺たちは4人で昼食をとる。そこで、俺はさっきの会議の内容をかいつまんで説明した。3人とも驚いたが、そこまで動揺していないみたいで安堵する。


「ねえ聖族ってどのぐらい強いのかな。戦ってみたいなぁ」

「やめておけ。なんでもあいつらが持ってる武器に触れると魔族は皆灰になるらしいぞ」


 さっき兵士が言っていた言葉だ。真偽は定かではないが・・・。


「何それ怖い」

「わ、私は戦闘員じゃないから!頭専門だから!うん」

「心配するな。誰もユキを戦場に送ろうと思うやつなんかいないさ」


 3秒で消されるからな、恐らく。

 怖がるユキをなだめ、話を戻す。

 俺は3人に暫くは部屋に待機するように命令し、鍛錬も禁止することにした。ユキとシズクは喜んだが、リリカは不満げな感じだった。でも少し我慢してもらう他方法はない。

 そうして昼食を終えると、3人はそれぞれの部屋へと戻っていった。

・・・かと思うと、ユキだけ戻ってくる。


「ねぇ、ユウトは戦場に行くの?」


 不安そうに聞いてくるユキ。


「・・・ふむ」


 俺はユキの長いさらさらな髪を撫でながら、できるだけ優しい声でこう言った。


「ああ、魔王からの命令があればいつでも出る予定だ。だが心配するな。俺もユキと同じであまり戦闘員向きではない。恐らく現在の進行がどこまで進んでいるか把握したらすぐ戻ってくるさ」

「そ、そう・・・。ならいい。って、別にユウトの事が心配になったわけじゃないんだからな!」

「はいはい、ユキは可愛いなー」

「うー子供扱いするなぁ!!私は天才なんだぞ!」


 その後もユキをひたすらからかいつづけ、癒された後に俺は仕事に戻っていった。


 









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