記憶解除
夢を見ていた。
それはとてもとても楽しい夢。
俺が、敵であるはずの聖族と一緒になって遊んでいる。
皆はとても笑顔だ。誰もが俺と聖族が遊んでいるのを微笑ましく見ている。
どうして俺は遊んでいる?
どうして俺は笑っていられる?
更にもっと前へ。まだ幼き俺がいる。その隣には同じくまだ幼いエリーゼがいた。
2人は仲良さそうに話をしている。それを遠巻きに見ているのは、あの屈強そうな男と、フードを被った女だった。
あの人、フードを取るとこんな綺麗な顔をしていたのか。
いや、今はそんなことはいい。
しばらく眺めていてわかったことは、俺はどうやらエリーゼの部屋で遊んでいる・・・つまり聖族サイドにいるということだった。
何故だ???
俺は魔界にいるのではないのか?
時間を少しすすめてみる。
『今日はエリーゼの誕生日!!
いつもお世話になってるお礼にプレゼントを買いに行こう!』
そうして幼い俺は一人でエリーゼの誕生日プレゼントを探しに行く。
何件か回ったところで、プレゼントが決まったのか俺は帰路についていた。
するとそこへ、一人の魔族がやってきた。
『ずっと気配を隠していたがやはり一人のようだな。これはチャンスだ』
『あ、あの貴方は・・・』
『おっと、見られてしまったか、まあいい。どちらにせよ記憶を消すのだからな。
喜べ、ユウト=ヴィルヘルム。
お前は今からをもって・・・魔族だ』
そう言うとそのまま魔族に拉致される俺。エリーゼに買ったプレゼントが道端に転がる。
そのまま魔界へと連れられ、魔王に記憶を消された俺は、消された空白の記憶を操作され完全に俺を魔族として扱った。
そして後は今までの俺の記憶だった。魔王に幹部として認められ、ユキ、リリカ、シズクと出会いそして聖族の奇襲・・・。
「・・・・」
俺はその映像を見て、まるで鍵が外れるかのようにその時の記憶の情景が思い浮かんでくる。
そうだ。
俺は魔族じゃない。
元々はエリーゼたち聖族のいるもとで生活していたのが、魔族により拉致され記憶を消され改ざん。そして魔界で幹部として働かされていたのだ。
だが、それでも腑に落ちないことがある。
俺がどういう経緯でエリーゼ・・・つまり聖族トップのお姫様と知り合ったのかだ。
ザーー・・・。
その時、映像が一旦途切れ、再び映される。
今度は大きいホールのようなものが映っていた。弾幕に『エリーゼ様お誕生日おめでとう!!』と書かれていることから、誕生会の会場なのだろう。
会場の中心にて、エリーゼが豪華な服をまとった人達と挨拶をしている。だが、どこは上の空だった。
話しながらも、必死に誰かを探すように視線を泳がせる。
しばらくして、挨拶を終えたエリーゼは、屈強な男に耳打ちした。
『ねえねえ、ユウくんはどこ?』
『エリーゼ様のプレゼントを買いに行く!!って言ってどこかへ行きましたが・・・
もしかして、まだいないんですかい?』
エリーゼが頷く。
そこへ息を切らしらフードの女の人がやってきた。その表情はどこか険しい。
『大変です!!ユウト様が___』
『え・・・』
その知らせを聞き、会場は騒然となる。
エリーゼは会場を飛び出すと、現場へと向かった。
そして報告があった場所へとおもむくが、そこは既にもぬけの殻。誰もいなかった。
『嘘・・・でしょ・・・』
あとを追って二人がやって来る。
エリーゼはその場に崩れ落ちた。女性が慌てて抱きかかえる。
『申し訳ありません・・・。私達が一人で行かせたばかりに』
その言葉にエリーゼはこたえない。
『まさか、あの一瞬で誘拐されるなんてな・・・くそっ!!一体誰が・・・』
悪態をつくが、それに答えてくれるものは誰もいない。
しくしくと泣き喚くエリーゼの声が闇に轟いた。
「・・・」
これは俺の記憶ではない。
じゃあまさかエリーゼの記憶・・・?
時はさらに進む。
『エリーゼ様・・・どうか少しでもお口に入れてください。
そうでなければ本当にお体を壊してしまいます』
『ごめんなさい食欲がないの・・・放っておいて』
俺が拉致されてからおよそ1ヶ月。
エリーゼはみるみるうちにやつれていった。食事もほとんど食べず、ひたすら部屋にひきこもる生活・・・。
聖族の民も、エリーゼが表に出ないことを心配していた。
『今日も何も召し上がらなかったわ・・・』
『ああ・・・早くなんとかしてユウトを連れ戻さねえと、エリーゼ様が壊れちまう。
いや、もう壊れてるのか・・・?』
『恐ろしいことをいうのはやめなさい。
けれど、このままでは良くないのは確かだわ。
私達は、エリーゼ様がどれだけユウト様の事を好いていたのか軽視していたのかもしれません。
ユウト様がいなくなるだけで、エリーゼ様の心の均衡が崩れてしまった。
1ヶ月経ってもこの状態・・・。ならば、やはりエリーゼ様の心の均衡を戻すにはユウト様を取り戻すしかありません』
『ああ。ユウトを誘拐した野郎をとっちめて、さっさと連れ戻さねえとな』
ザー・・ザー・・・。
そこで、再び時が進む。
時が進むにつれて、エリーゼは徐々に食事をしてくれるようにはなったものの、相変わらず元気は全くなく、ユウトと遊んでいた頃のお転婆なエリーゼはなりを潜めていた。
そんな様子を、エリーゼの家臣達は歯がゆい思いで見ていた。
そして、俺を誘拐した犯人を全力を上げて捜査するも、結果は得られず、2年の月日が経っていた。
この頃、エリーゼはずっと鍛錬ばかりに集中していた。食事、風呂、睡眠以外は常に鍛錬鍛錬・・・。それは周りが見ていてもオーバーワークだと思う量だった。
『エリーゼ様。鍛錬をなされるのはおおいに結構なのですが、あまり根を詰めすぎない方が・・・』
『ユウくんを連れ出した奴らを抹殺するために鍛えているのよ。何か文句でもあるの?』
そういうエリーゼの言葉は鋭い。
フードの女性は何も言わず、部屋を出ていった。
そして再び少し時が過ぎたある日、ついにその時がやってきた。
それはエリーゼが鍛錬をしていた時だった。
『エリーゼ様!!』
『何かしら。私今忙しいのだけれど』
『それどころではありません!!ユウト様の所在が判明いたしました!!』
『っ!!!』
エリーゼは目を見開く。そして女性の肩を揺らしながらこう言った。
『ユウくんは何処にいるの!?』
『エ、エリーゼ様落ち着いてお聞きください。
ユウト様をさらったのは・・・魔族です』




