レミリーの決意
後半のほう、改変いたしました。
改変前を読んでいた方は、その後俺達は明日出発…から読んでみてください。
とりあえずレミリーの部屋をノックしてみるが返事はなく、彼女はいないようだった。
「よっ。何してんの」
部屋に戻ろうかと思ったとき、不意に声をかけられ振り向くとジェームスがいた。
「ジェームスか。レミリーどこにいるか知らないか?」
「お嬢様ならさっき中庭にいたぜ。何か用でもあるのか?」
「ん、いや本を置いている場所を教えてもらおうかと」
「あーそれならこの廊下の突き当たりの部屋が書斎だぞ」
「そうなのか?助かるよ」
「何か探し物か?」
俺は首を横に振る。そして、暇だから読書でもしようとしていたことを話す。
「読書で暇つぶしになんかなるのか・・・。俺は本とか嫌いだからよくわかんないわ」
「とりあえず、書斎に行ってみるよ」
「おう」
そうしてそのままジェームスと分かれ、言われた通りに突き当たりの部屋の扉を開けると、たくさんの本が並んでいた。ほとんどが政治物だが、人間以外のことを書いている本もちらほらと見かけた。
その中のうちのひとつに、気になる本を見つけた。
「ん・・・これは?」
中を開いてみる。歴史物だろうか。かなり分厚いが、年代物なのか、古紙はかなり黄ばんでしまっており、ホコリも少し被っていた。
そして、俺は吟味しながら読んでいく・・・。
"この世界はかつて4つに分かれていた。魔王率いる魔族が統治する魔界、ゼウスと呼ばれる神が聖族を支配する天界、竜王率いるドラゴン達が住んでいる竜界、そして人族が住んでいるこの人間界だ。
互いに仲が良いとは言えなかったが、竜王であるライバーンがこの四つの種族を統治していたため、争いなどは起きなかった。
我々人間は魔族には力すら及ばず、聖族が持つ程の知恵も持っておらず竜族のような強靭的な肉体も持っていない。他の二界から馬鹿にされ、蔑まされてきた。
人間を馬鹿にしなかったのは竜族だけで、竜族とはかなり親交を深めていた。
竜族たちの陰ながらの護衛もあってか、聖族も魔族も人間たちには手を出そうとしなかった。
しかしある時、どういう原理か四つに分かれていた世界が一つに統合されてしまう。どうしてなのか、それは現在でもわかっていない。
今までならそれぞれの種族ごとに世界があったから問題が起きなかったものの、それが1つの世界に全て入るとなると話は別だった。
そして聖族と魔族のいざこざから戦争に発展し、我々人間もそれに巻き込まれた。
私達がこれらの種族に及ぶはずがない。巻き込まれながら、私達は殺されていった。
竜族たちは私達人間族をその強靭的な肉体で聖族や魔族達から守っていった。
竜族の王、ライバーン王はゼウスと魔王に無意味な戦争をやめるように促したが、二人は聞く耳を持たず、しまいには殺し合いが始まった。
二人のトップが殺し合いを始めたせいで、その影響は世界全体にまで響き渡り、私たちは戦争どころではなくなった。結果、聖族、魔族、竜族がそろって二人の王を止めにいくが、ことごとく殺されてしまう。 その様子を見ていられなくなったライバーン王はある行動に出た。
それは自らの命と引き換えに二人の王を封印すること。
結果、それぞれの王を失った魔族、聖族、竜族は再び戦争を始めた。
我々人族は今までお世話になったお礼にと竜族を支援したが、それが魔族と聖族の逆鱗に触れ、人族が集中的に狙われるようになる。
結局竜族は人間を守るためにどんどん死んでいき、戦争が終わる頃には竜族は全滅していた・・・。
やがて聖族と魔族達もこの無意味な戦争に気づき疲れ果てて、死んでいった。そして今度は世界が天界、魔界、そして人間界の3つに分かれてしまった。竜界はなぜか無くなってしまったのだ。
世界は荒れ果て、再興するのは困難かと思われたが、私達の先祖は知恵を働かせ、復興した。
こうして世界は私達人間たちが統治できるようになったわけだが、私達は共に戦ってくれた竜族には感謝しなければならない。
現在、魔族と聖族がどこにいるかはわからない。再びそれぞれの世界に帰ったのかもしれないし、人間界で身を潜めているのかもしれない。
しかし戦争の後、先祖達はこの2種族に対抗する手段を得て、簡単には倒されなくなった。結果、今までの恨みからか今度は人族が魔族と聖族を忌み嫌うようになった。この根強い概念は当初はすごかったものだが、今ではだいぶ薄れてきている。
最も、今や魔族と聖族など、全く見かけないのだが"
「・・・」
そうして俺は一時間程本を読んだあと、書斎をあとにする。
このまま部屋に戻ってもいいのだが、なんとなく気になった俺は中庭へと行ってみる。すると、そこにはレミリーがベンチに腰掛けていた。なんだか少し元気がない。
俺は何も言わずにレミリーの横へと腰掛けた。すぐに気づくかと思ったが、レミリーが気づいたのは少し経ってからだった。
「あ・・・ユウト」
「ずっとベンチに座って考え事か?」
「ええ・・・まあそんなところね」
そしてお互い無言になる。俺は元々口がそこまで達者ではないので別に気にはならないが、レミリーにとっては気まずい状況なのかもしれない。
しかし、レミリーは何かを決意したかと思うと立ち上がる。そしてこっちを見た。
「そうだ。逃げればいいのよ!」
「は?」
突然そんなことを言い出されて、俺は頭の上に?マークが浮かび上がる。
「婚約のことよ。向こうがいつになっても諦めないのならいっそのことこっちから逃げたらいいのよ。そしたら向こうも諦めざるを得ないわ」
「逃げるってどこにだ?」
「さあ。特に場所は決めてないわ。
でもユウトの探している人も一緒に探せるし、悪くない提案だと思うわ」
「ふむ・・・」
そんなに簡単に諦めてくれるのか?
まあでも逃げ出すぐらい嫌っていうのが相手に伝われば、向こうも諦めるかもしれないが。
でもどうやら元気がないって言うのは杞憂だったようだ。
俺が反対しないのを見てからか、レミリーは唐突に俺の手を掴んできた。
「そうと決まればすぐにソフィアに知らせましょう!ほら、ユウト早く!」
「お、おお・・・。わかったからそんなに引っ張るなよ・・・」
そうして俺達はソフィアさんの元へと向かった。途中でジェームスにも遭遇したため事情を説明すると、
「何それ。すげえおもしれえ話になってんじゃん!俺もついていくわ」
と言って強引についてきてしまった。まあレミリーがいいって言ってるから何も言わないけど。
ソフィアさんの元に着くとちょうど清掃を終えたところだった。
レミリーが事情を説明すると、少し悩むような素振りを見せていたが、
「お嬢様がそう仰るなら・・・。ただ私も同行させてもらいます」
そう言って了承してくれた。
その後俺達は明日出発することを話し合うと、各々の部屋へと戻っていった。
しかし、本当に突然だな。レミリーの中でどういう心境の変化があったのかは不明だが、推測するに恐らく、外へ出てみたいという欲求が強く出てしまったというのもあるのかもしれない。
ソフィアさんとジェームスは今、レミリーがしばらく所用で家を留守にすることを使用人たちに伝えている。なので、行方不明になったなどと騒がれる心配は早々ないだろう。しかし、父親とマルクスがこの事を知ったとき、どういう行動に出るのだろうか。予想としては十中八九連れ戻しにくるだろう。
さすがに、逃げてすぐこの事を知られた場合そんなに遠くはいけないので見つかって連れ戻される可能性は高い。2,3日は知られないでおきたいものだ。
父親は滅多に帰ってこないとレミリーが言っていたから恐らく大丈夫だとして、問題は婚約者の方だ。レミリーから来るのを待つって言ってるとは言えまたすぐに来るとも限らない。そうならないことを祈るしかないか。
そうして俺は部屋へと戻り、寝床につくと、ロウソクの火を消した。
部屋がしんと静まり返る。
魔界にいた頃は、俺が寝床に入っていても遠慮なく3人が入ってきてトランプをしたり、ゲームをしたり、どうでもいい話をしていたりと迷惑極まりないことをして俺がなかなか寝られなくなり、寝たら寝たでいたずらされて起こされたりして最後にはよく追い出していたが、今はそういうこともない。
それは本来ならとても嬉しいことのはずだが、
少し寂しく感じられた。
「・・・寝よ」
そうして俺は目を閉じると、間もなく意識は深層へと沈んでいった。




