感謝
夕食を終え、入浴を済ませたあと俺は手持ち無沙汰になったので屋敷を探索してみることにした。
とりあえず早く3人を探しに行きたいところだが、ただ闇雲に探しても見つかる保証はどこにもない。念話が使えたらいいのだが、魔法が使えない俺にとっては意味がない。
しばらく探索していると、ソフィアさんに遭遇した。レミリーと一緒じゃないなんて珍しい。
こちらに気づくと軽く会釈される。俺も会釈してそのまま通り過ぎようとすると、呼び止められた。
「少しいいですか」
「はい?」
人気のない廊下で呼び止めるなんて、もしかしてまた何か警告されるのだろうか・・・。
しかしソフィアさんの口から出てきたのは、感謝の言葉だった。
「ありがとうございました」
「・・・え?」
まさか突然お礼の言葉を言われるとは思っていなかったので、返答につまってしまった。
「お嬢様を助けていただいたことです。あのままだとお嬢様は我を忘れて誰彼構わず襲いに行っていたでしょう。それを貴方が死を覚悟してまで止めてくださいました」
「まあ、解決するにはあれぐらいしか方法がありませんでしたから」
「それでも、あの場であのように出れる行動力は目を見張るものがあります」
嫌われたと思っていた人からの感謝の言葉に、俺は思わず嬉しくなる。
「それに、お嬢様の病気まで完治してしまいました。私はそのことに何よりも驚きました。
・・・不本意ですが、貴方はお嬢様にとって救世主となったのです。それもあったその日に。
本当に何者なのですか??」
朝の時とは違い、敵意のようなものは感じられず純粋に不思議に思っているようだった。しかし、俺自身自分が人間でないということ以外は不明なので答えようがない。
俺が返答に困っていると、ソフィアさんは続けてこういった。
「まあいいです。まだ完全に貴方を信頼したということではありませんが、
お嬢様を助けてくださったことは本当に感謝しています」
そうして深く礼をされる。
「レミリーが完治して本当に良かったですね。
ですが、また新たな問題も発生したような気もしますが」
「婚約のことですか。
・・・確かにそうですね。ですが残念ながら私では牽制するぐらいが限界でどうすることもできません。これはお嬢様とマルクス様の問題ですから」
「ソフィアさんは婚約には反対なんですか?」
「お嬢様が本当に好きな人で、自分から婚約したいと言うまでは賛成しかねます。ですので今回の婚約に限って言えば、反対という立場です。それにあのマルクスという方は、何か裏があると私は踏んでいます。ですので尚更賛成できません」
ソフィアさんもか・・・。ジェームスも似たようなことを言っていたし、これはマルクスの粗を探せば本当に何かあるかもしれない。
こういう時、シズクがいればな。あいつは自身をステルス状態にして足音も呼吸音も消せる魔法を覚えているから情報収集にはうってつけなんだが。まあ最初はその魔法を使われて寝首をかかれそうになったけどな。
「本当にレミリーが好きなんですね」
「勿論です。たった1人の主人ですから」
大した忠誠心だ。
素直に尊敬できる。
「でもそういえばソフィアさんとジェームス以外にレミリーの護衛っていないんですか?」
「ええ。むしろジェームスがいなくとも私一人で十分なのですが、稀に急用でどうしてもお嬢様の元へ離れないといけない時が出来た時にジェームスに護衛を頼んでいます」
「でも流石に2人じゃ危ないんじゃ。ソフィアさんがどのぐらい強いか知らないですが、貴方も1人の女性だ。男相手では分が悪いこともあるでしょう。綺麗な顔に傷でもついたら大変ですよ」
「綺麗な・・・」
「ん?」
「いえ、なんでもないです。
その忠告は有り難いですが、私が怪我をすることなどありえません。例え集団で襲ってきたとしても、お嬢様を守れる自信はあります」
すごい自信だな。一体それはどこから湧いてくるのだろうか。
そういえばジェームスが騎士には強さのランクがあるって言ってたな・・・。聞いてみよう。
「ソフィアさんは騎士のランクで言うとどれなんですか?」
するとソフィアさんから出てきた言葉は信じられないものだった。
「ああ、あれなら一応全ての紋章を持っていますが」
「・・・ん?」
そうしてソフィアさんがポケットから出したのは十字に刻まれた紋章だった。下の方に、特級騎士と彫られている。
「この紋章を貰ったとき、国王から直々に護衛をして欲しいと頼まれましたがお嬢様の護衛をしたいと言ってお断りしました。
あと、これはあまり関係がないのですが勇者を世襲したとされる人とも交戦したことがありますが引き分けに終わりました」
うん。聞いた俺が馬鹿だった。そりゃ確かにソフィアさん一人で十分だろうな。後でジェームスにも教えておこう・・・。
ソフィアさんだけは絶対敵に回したくはない。
「マルクスって人はそのことを知っているんですか?」
するとソフィアさんは首を横に振った。
「いいえ、彼の前では上級騎士の紋章をつけています」
「隠す必要あるんですか」
「念のためです」
隠す必要ないと思うんだけどな。まあいい。
「ところで」
ソフィアさんが話題を変える。話の内容は俺についてだった。
「探し人がいるということでしたが」
「ええ。どこに行ったか全然見当もつかなくて。とりあえず探さないといけないんですがどうしようかと」
「・・・」
ソフィアさんは何か考え込むようにして黙った。暫くして何か思いついたのか、俺に提案を持ちかけてきた。
「お嬢様を助けていただいたお礼として私も貴方の友人を探すお手伝いを致しましょう」
「本当ですか!!それは助かります」
魔法が使えない今、一人では本当にどうしようもないので、その申し出は非常にありがたかった。
「ですが、出発するのはもう少し待ってもらえませんか。少し、調べたいことがあるのです」
「構いませんよ。探しには行きますが、事を急いていても状況がよくなるとは限りませんから」
その後、俺はソフィアさんから3人の特徴を聞かれ、丁寧に答えていくとソフィアさんはそれを全てメモしていく。
「こんなに特徴的な上に、3人とも人間でないのなら見つけることはさほど難しくはないでしょう。私は人間以外なら半径1km以内まで探知することができますから。もし見つけたらお伝え致します」
「ありがとうございます。お願いします」
そうして俺はソフィアさんと別れる。
しかし、半径1km以内まで探知って・・・俺はソフィアさんの方が何者ですかって聞きたいぐらいだ。
とりあえず、出発するまでは少し時間はある。その間何しようか。何か本でもあればいいんだが・・・。
というわけで、俺はレミリーにどこに本があるか聞くために彼女を探すことにした。